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いすゞ、日野、トヨタ、3社社長の共同会見 豊田社長「いすゞと日野に協調というフレンドシップが生まれた」

カーボンニュートラル実現に向けて豊田社長「商用車の世界に誰かが入り込まないと解決できない」

2021年3月24日 発表

トヨタ自動車株式会社 代表取締役社長 豊田章男氏

 いすゞ自動車、日野自動車、トヨタ自動車の3社は3月24日、3社共同で新会社を設立するなど、商用事業において新たな協業に取り組むことに合意したと発表した。

 同日、3社共同の記者会見が実施され、いすゞ自動車 代表取締役社長 片山正則氏、日野自動車 代表取締役社長 下義生氏、トヨタ自動車 代表取締役社長 豊田章男氏が出席して、協業の狙いについて話した。

共同記者会見 Joint Press Conference

いすゞ、日野、トヨタの3社で新会社「Commercial Japan Partnership Technologies株式会社」設立

 今回、いすゞ、日野、トヨタの3社は商用車におけるCASE技術・サービスの企画を事業内容とする新会社「Commercial Japan Partnership Technologies株式会社」(所在地:東京都文京区後楽1丁目4-18)を設立する。同社 代表取締役社長にトヨタ自動車 CV Company Presidentの中嶋裕樹氏が就任することが明らかにされた。

 資本金は1000万円で資本構成はトヨタ80%、いすゞ10%、日野10%。事業開始期は2021年4月1日を予定している。

Commercial Japan Partnership Technologies株式会社 代表取締役社長に就任するトヨタ自動車 CV Company Presidentの中嶋裕樹氏

 また、同協業の円滑な構築・推進を目指すため、いすゞとトヨタは資本提携に関する合意書を締結。トヨタは、いすゞが実施する第三者割当による自己株式の処分により、いすゞの普通株式3900万株(2020年9月末日現在発行済株式総数に対する所有割合4.60%、割当後の議決権割合5.02%)総額428億円を取得予定。また、いすゞも市場買付により同額規模のトヨタ株式を取得予定としている。

2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて3社が協力

 3社による協業に取り組む背景としては、2020年に日本政府が示した「2050年カーボンニュートラル社会」があり、その目標に向けてCO2の削減を進めていくためには、乗用・商用ともに、地域ごとのエネルギー事情に対応する形での車両の電動化と省エネ技術が、今まで以上に重要な意味を持つようになるとの認識で一致。

 いすゞと日野は、両社で協調して商用車のCASE対応を進めること、トヨタは両社の商用事業を通じて、CASE技術の社会実装を加速させることが必要だと考え、こうした認識のもと3社が商用事業での新たな協業に取り組むことを決定したという。

 共同会見で、豊田氏は「日野といすゞが一緒にやれば日本の商用車の8割のお客さまと向き合い、その現実を知ることができる。そこに、トヨタのCASE技術を使えば、多くのお客さまの困りごとを解決できるかもしれない。そう考えて、いすゞの片山社長にご相談をすることにいたしました」とコメント。

 さらに、豊田氏は日本の物流の約9割を担っているのがトラック物流であり、270万人がそこに関わっていることを強調し、豊田氏は「日本の商用車のCO2は年約7700万tで、台数規模では20%ですが、(走行距離で見た自働車全体での)CO2の排出では全体の約半分になります。カーボンニュートラルで自動車業界全体で取り組んでいこうといった時に、やはりこの商用車の世界に誰かが入り込まない限りは、解決にはいかないだろうと。しかも、物流業界が抱える課題というのは、多頻度の物流で、厳しい労働環境、人手不足、負担増という負のスパイラルがまわっているのが現実だと思います。今回の共同企画提案によって、このスパイラルをこの3社がまずは中心となり、そしてこの3社が中心となって作る新会社が改善できれば、これほど嬉しいことはない」との考えを示した。

いすゞと日野の2社に協調というフレンドシップが生まれた

 今後、3社の具体的な取り組みとしては、小型トラック領域を中心に、EV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)、自動運転技術、電子プラットフォームの開発に共同で取り組むという。EV・FCVについては、3社が共同で取り組むことで車両コストの低減をはかるとともに、福島県における水素社会実証へのFCトラックの導入をはじめ、インフラと連携した社会実装を進め、普及に向けた取り組みを加速させていく考え。

 また、3社のコネクティッド基盤をつなぎ、顧客の課題解決につながる商用版コネクティッド基盤を構築するとともに、さまざまな物流ソリューションの提供にも取り組み、商用車の輸送効率を向上させることで、CO2排出量の低減にも貢献していくとしている。

 いすゞと日野というライバル関係にある2社を含めた3社の取り組みについて、豊田氏は「私の部下に大手物流関係のご家族出身の方がおられまして、そこではちょうどこの2社のトラックを使っておられまして、(部下とのやり取りで)その時にまさしく私の目の前で競争関係が非常に分かりやすく見れました。そしてこの2社にしておくと競争だけで終わったものが、私がちょっと入ったことによって、そこに協調というなんとも清々しいフレンドシップが生まれたわけでありますので、是非ともそんな関係もこのリアルビジネスでもやっていきたいなというふうに思っております」と語った。

なぜ今なのか?

 そして、共同会見の終わりに近づいたタイミングで出た「なぜ今なのか?」という質問に対して、豊田氏は新型コロナウイルスの影響で活力を失っている日本の復興の原動力になりたいとの考えを示し、豊田氏は「この国どうにかしようよ、550万人の自動車業界に関わってる人達の幸せを考えようよと、青臭いようですけれども、そういうことを素直に考えられた自工会があったと思います」との思いを述べ、加えて「今後のグリーンエネルギー政策においても自動車業界を真ん中に入れてくださいと申し上げておりますのは、自動車という牽引役になる自動車業界をベースに産業政策なりグリーンエネルギーの活用も考えていく上で、われわれがモビリティとして、どんどん提言もしていきたいということであります」との考えを示した。

 豊田氏は「そういう意味合いがあり、今ですね、今ここでコンペチターとかね(言うのでなく)、競争はすればいい、だまっていても競争しますから、あの競争はすればいい。ただ協調しながら、その協調もどこかの都合によるものじゃなく、お互いユーザーというもの(を考え)、そして物流の負のスパイラルをなんとか元気なスパイラルになるようにしていきたい。ソリューションは今はございません。ございませんが何かテクノロジーやイノベーション、そしてみんなが得意分野を出すことで、なにかできるんじゃないかというふうに思っておりますので、是非とも応援いただきたいと思っております」との意気込みを述べた。

トヨタ、日野、いすゞ、3社社長のスピーチ原文

 なお、記者会見冒頭に語られたトヨタ、日野、いすゞ、3社社長のスピーチ原文がWebサイトに公開されている。以下はその全文となる。

トヨタ自動車 豊田社長スピーチ

豊田でございます。

私からは、この3社が手を組む意義についてお話させていただきます。

これまでずっと、日野の下社長とは、トヨタグループにおける連携強化ついて議論をしてまいりました。

同じグループ企業でも、ダイハツとは、「乗用車」という共通点がありますので、クルマづくりにおいて、相乗効果を生み出しやすい面があったと思います。

これに対して、「商用車」は日野独自の事業であり、乗用車を基本とするトヨタのクルマづくりとの関連性を見出すことがなかなかできませんでした。

しかし、CASE革命によって、状況は一気に変わってまいりました。

特に電動車は、インフラとセットでなければ普及が難しいということを燃料電池車「MIRAI」の導入で実感いたしました。

まさに、「やってみたからわかった」ということだと思います。

「こういうクルマをつくれば良い」というメーカーの目線ではなく、「CASE技術を使っていただくにはどうすればよいか」というユーザー目線でモノを考えるようになり、日野との協業の方向性が見えてまいりました。

今、求められていることは、CASE技術を磨き、普及させることだと思っております。

そのためには、インフラとセットで商用車に実装することが最も大切ではないかという考えに至りました。

そして、もうひとつ。「ユーザー目線」で見ると、荷主(にぬし)の方々は、日野といすゞ両方のトラックを使われております。

日野といすゞが一緒にやれば日本の商用車の「8割」のお客さまと向き合い、その現実を知ることができる。

そこに、トヨタのCASE技術を使えば、多くのお客さまの困りごとを解決できるかもしれない。

そう考えて、いすゞの片山社長にご相談をすることにいたしました。

「もっといいモビリティ社会」をつくるためには、「競争」だけではなく、「協調」していくことがますます大切になってまいります。

今回の協業は、3社のうち、どこか1つが欠けても実現することはできません。

この3社の強みを活かすことにより、輸送の現場で、困っている多くの仲間を助けることができるのではないかと思っております。

この想いは、東北復興への願いともつながってまいります。

東日本大震災以降、私は毎年3月に、東北の地を訪問してまいりました。

私にできることは、「震災を忘れないでいること」ではないか。そう考えてきたからです。

今年は、震災から10年という節目の年になりますので、どの現場を訪問させていただくのが良いか悩んでおりましたところ、未来に向けた取り組みを進めている、福島県浪江町を訪問する機会をいただきました。

現場では、福島県の内堀知事や浪江町の吉田町長からも復興への想いを伺いました。

そこから動き出したプロジェクトがございます。

浪江マチで製造されるグリーン水素を使って、いすゞと日野のFCトラックがモノを運びます。

そして、コネクティッド技術で、「つくる」「運ぶ」「使う」をつなげ、ムダとムラのない配送の実現に貢献してまいります。

福島の皆様とともに、運ぶ」人の仕事を楽にし、「使う」人に新しい暮らしを提案してまいります。

私たちは今、「何が正解かわからない」時代を生きております。

その中で、まずやってみること。そこから次が見えてきて、またやってみる。

その繰り返しで、トヨタは、ここまで生き抜いてまいりました。

今回は、輸送の現場に入り、3社で力を合わせて、まずやってみる。

今まさに、そのスタートポイントに立ったと思っております。

「ユーザー目線」で、「現場」を中心に動き出そうとしている3社の取り組みにぜひともご期待いただきたいと思います。

日野自動車 下社長のスピーチ

日野自動車株式会社 代表取締役社長 下義生氏

日野の下でございます。

まず初めに、お客さまや社会の課題解決に向けて、今回の枠組みは確かな一歩を踏み出した、と感じております。

私自身、普段から輸送の現場の方々と接していて、皆さんの課題をもっと解決したいという思いを強く持っていました。

このような観点から豊田社長とは常にトヨタと日野の連携について議論をしてまいりました。

また、片山社長とはライバル会社の立場を超えて、物流事業者の方々やドライバーの皆様の課題解決をするために共に協調できることがないかと話し合ってまいりました。

このような背景を踏まえ、今回3社の取り組みがスタートできますことを大変嬉しく思っています。

ここで少し、輸送の現場についてお話しさせていただきます。

現在、日本には6万社を超える物流事業者の方々がいらっしゃいます。

日々、荷物を積み込み、運び、そして届ける。

大変な重労働の中でも、輸送に関わる方々は一つひとつの大切な荷物を、待っている人々に確実に届けるため、必死に取り組んでいらっしゃいます。

私たち日野自動車は輸送というライフラインの中心で働かれるお客さまと同じ目線に立ち、多くの課題解決に取り組んでまいりました。

しかし、物流を取り巻く環境は厳しく、このままでは荷物が届かなくなる日が来るかもしれません。

課題の一つ目は「ドライバー不足」です。ドライバーのなり手がいない、ということです。

ドライバーは、交通事故のリスク、長時間労働や、運転以外の仕事の多さなどの環境面で、非常にハードな仕事です。

長距離輸送におけるドライバーの仕事は、運転以外の仕事の時間が、運転時間と同じかそれ以上にあります。

例えば、荷姿がバラバラのモノを2時間かけて手積みし、5時間走行、到着地では荷受け時間まで1時間待機、その後検品、荷下ろしにまた2時間という事例もあります。

市内配送においては、eコマースの進展による多品種少量、時間指定の宅配によりドライバーの負担は増え続けています。

課題の2つ目は「輸送の効率」です。

輸送において最優先されるのは納入時間と場所指定です。

また、荷量は季節や時間帯でも変わります。そのため、効率的な輸送が行いにくく、帰りは荷物がないということもあります。積載効率は50%を下回っているのが現状です。

課題の3つ目は「カーボンニュートラル」です。

日本の輸送におけるCO2を低減することは、カーボンニュートラル達成に向けても必要なことです。

仕事の道具であるトラックは電動化するだけでは不十分です。

コストを抑えつつ輸送に使い勝手の良い電動車を広く普及することができなければ、CO2削減を達成できません。

そして、先ほどお話しした輸送効率の向上もカーボンニュートラル達成に向けて、輸送におけるCO2を削減するための非常に重要なファクターです。

以上のような課題は、輸送に対する世の中の期待が高まった結果ですが、それに対する解決策を私たちが提示し切れていないことも事実です。

これらの輸送の課題を解決するには、個社を超えて協調する領域が大変多いと思っています。

個社を超えたコネクティッドの連携により、待ち時間を減らすことや積載効率を上げることが可能になります。

また、今回の取組みによりより多くの事業者の方々に電動車を使っていただけるようになります。

そして、何よりこれらの課題解決が進めば、輸送の仕事に魅力を感じ、ドライバーをはじめ物流の担い手が増えることも期待できます。

欲しい時に荷物が届き、人々の生活が笑顔に包まれるよう、私たちは物流事業者の皆様、そして輸送に関わる全ての方々と物流改革に向けてオープンに取り組んでまいります。

いすゞ自動車 片山社長のスピーチ

いすゞ自動車株式会社 代表取締役社長 片山正則氏

 いすゞの片山でございます。

私が社長に就任して、今年が6年目です。

日々いろいろな出来事が起こる中で、この間ずっと「会社とは何か」を考えて参りました。

至った結論は、「社会のためにイノベーションを起こす力と、その姿勢」です。

CASEという巨大な波に直面する自動車業界にはまさにこのイノベーションが不可欠で、残された時間は少なく、待ったなしの状態です。

また、国をあげてのグリーン成長戦略の達成は、エネルギー産業や製造業など、全産業のイノベーションが実現して、初めて達成できるという、壮大なチャレンジです。

一つの産業の変革の遅れが、全体の調和を乱すという、繊細な構造でもあります。

商用車メーカーとして、何としてでも、その責任を果たさなければならないと感じ、あらゆる機会を活用してイノベーションを起こすことを考え続けて参りました。

カミンズさん、ボルボグループさんとの提携もまさにこの想いで進めて来た案件です。

日々、このような想いで、経営の指揮を執るなかで、豊田社長、下社長と「お客さま」「社会」そして「モノづくり」に対するお互いの熱い想いをお話する機会がありました。

これが、今回の提携のキッカケとなったと感じています。

もちろん、日野は最大のライバルで、日々、世界中で戦っています。

それは、これからも変わりません。

しかし、その戦いの根底には「もっと物流を良くしたい」、「社会を良くしたい」という両社共通の想いが流れています。

また、トヨタは乗用車メーカーですが、トヨタの「社会をもっと良くしたい、日本をもっと良くしたい」という想いに、乗用車・商用車の違いはありません。

トヨタは創業以来、数々のイノベーションを起こしてこられました。

モノづくりで言えば「TPS」、電動化で言えば「ハイブリッド」、「FCV」と、数え上げればキリがないほどの会社です。

商用車を最も理解する日野と、小型商用車にも活用出来る可能性が高い、「膨大な技術」、「強大な実行力」をもつトヨタ、この3社で力を合わせれば、CASEの荒波を乗り越えるイノベーションを起こし、お客さまに、もっとお役に立てる小型トラックを、ソリューションを、ご提供できるのでは、と思うに至りました。

次に、3社で合意した技術協業について、ご説明いたします。

はじめに、商用車の電動化についてです。

カーボンニュートラルは、自動車業界のみならず、日本の産業全体で取り組まなくてはならない課題であり、物流事業者様を含め、CO2削減に取り組む多くのお客さまから電動化車両のご相談をいただいております。

EVやFCVの普及には、コスト削減やインフラ整備等、多くの課題がありますが、今回3社は小型トラックのEV化、FCV化に共同で取り組み、車両コストを下げるとともに、福島県での社会実装を含め、社会、お客さまと一体となってEV、FCVの本格的な普及に取り組んでまいります。

もう一つは、コネクテッドです。

物流量増加に伴う人手不足、再配達や多忙な荷役によるドライバーの負担増、デジタル化の進展による、新たな輸送ニーズの高まりなどに対応するためには、デジタル化時代の面「産業の大変革」に応えていかなくてはいけません。

トラックが無駄なく、効率的に動くことは、カーボンニュートラルにも寄与します。

コネクテッド技術は、その大きなキーになると思います。

日野、トヨタのプラットフォームと結び、他のパートナー様の参加も仰ぎながら、お客さまの課題解決につながる、商用版コネクテッド基盤を構築するとともに、さまざまな物流ソリューションの提供を考えていきたいと思っています。

われわれの他にも、この協業に志を同じくする方がいれば、常にオープンな姿勢で臨んで参ります。

最後に、トヨタといすゞは、株式持合いの資本提携合意書を締結しました。

これは、トヨタが、既に行なわれている「仲間作り」であり、この資本関係が、共同技術開発の加速と成功の、支えとなることを期待しています。