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NVIDIA、自動車開発に“メタバース”を活用する「Omniverse Replicator for DRIVE Sim」を発表
2021年11月9日 18:30
- 2021年11月9日 発表
半導体メーカーのNVIDIAは、11月9日に同社のプライベートイベント「GTC 21」を開催し、同社CEOのジェンスン・フアン氏による基調講演などが行なわれた。この中で同社のメタバース(仮想環境)を実現するプラットホームとなる「Omniverse」の新しい製品として「Omniverse Replicator for DRIVE Sim」を発表した。
また、NVIDIAは6月に発表した同社の自動運転向けのリファレンスボード「DRIVE Hyperion 8」の出荷を開始したことを明らかにした。DRIVE Hyperion 8はSoC「Orin」を2つ搭載しており、レベル3の自動運転およびレベル4の自動駐車機能などの実現を可能にする。NVIDIAによれば、DRIVE Hyperion 8の出荷が開始されたことで、自動車メーカーは2024年に同製品を搭載した自動車を出荷することが可能になるとのこと。
メタバースを実現するOmniverseを利用して自動運転ソフトの学習を加速するOmniverse Replicator for DRIVE Sim
NVIDIAが発表したOmniverse Replicator for DRIVE Simは、NVIDIAが以前より提供しているメタバースを実現する基盤となる「Omniverse」の新しい機能として提供され、以前から提供されてきた自動運転シミュレーター「DRIVE Sim」に追加機能として追加される。
今回NVIDIAは、企業向けのOmniverseとなる「Omniverse Enterprise」の一般提供開始(GA:Generally Available)したことを明らかにした。Omniverseは、NVIDIAのGPUを利用して、仮想空間に実際の環境を再現したような環境を構築し、さまざまなシミュレーションやコラボレーションなどを行なうことを可能にするもの。このOmniverseは、現在「メタバース」というキーワードで注目されている仮想環境の構築を実現するソフトウエアで、さまざまなメタバースのアプリケーションを実現するための基盤になるのがOmniverseとなる。
例えば、自動車メーカーがこのOmniverseを利用すると、開発者がアメリカにいて、重役などが東京にいる場合でも、Omniverseが実現する仮想空間に全員が集合し、3D CADなどのデータを元に仮想空間に再現された開発向けの車両を見ながら、そのデザインを確認するなどの使い方が可能になる。COVID-19のパンデミックにより、リモートワークと呼ばれるデジタルを活用して場所に関係なく仕事をする働き方は一般的になりつつあるが、メタバースを活用することでそれをさらに先に進められ、その基盤となるのがOmniverseとなる。
今回のGTC 21ではそのOmniverseの具体的な応用事例(アプリケーション)として「Omniverse Avatar」という新機能が発表されている。このOmniverse Avatarは、NVIDIAのAI(音声認識や画像認識)などの機能を活用した仮想空間での化身を実現するもので、前出の自動車メーカーの例を応用するなら、日本にいる重役とアメリカにいる開発者が一緒に会議に出るときに、自分の化身となるアバターを作成し、それを実際の人間の動きに連動して動かす(例えば、しゃべりに合わせて口を動かす=いわゆるリップシンクの実現。お辞儀をしたらお辞儀をするなどを画像認識などのAIを利用しながら実現する)ことなどが実現される。
そして、自動車産業専用の応用事例となるのが、Omniverse Replicator for DRIVE Simだ。Omniverse Replicator for DRIVE Simは、簡単に言ってしまえば、実際のデータではない、人工データからさまざまな物理シミュレーションが行なえるツールで、自動車メーカーがNVIDIAの半導体を利用した自動運転システムに採用されるAIの開発に利用できるシミュレーターになる。実車から作成されたデータでは実際にテスト走行したデータの環境でしかAIの訓練(トレーニング)を行なうことしかできない。しかし、そうした実際には起きていないが、起きる可能性があるという状況のデータを人工的に作成することで、想定されるさまざまな環境に向けてAIの訓練を効率よく行なうことが可能になる。
また、実際に実車で走らせなくても、リアルな世界に近い状況を仮想空間に作り出すことが可能になるので、実車で走る距離などを減らすことができ、それにかかる人件費などを削減することが可能となり、自動車メーカーにとっては開発費が抑えられることとなる。
NVIDIAによれば、Omniverseの個人ユーザー版はすでに「NVIDIAのWebサイト」から無償でダウンロードが可能になっており、個人ユーザーであれば無償で利用することができる。企業向け版となるOmniverse Enterpriseは、Dell、HP、LenovoなどのサーバーベンダやELSAなどのNVIDIAの代理店からサブスクリプション(月額ないしは年額などの契約制)として購入することが可能になっている。なお、これから評価を始める企業向けには30日間無償での試用もできる。
Orin×2の構成となっている「DRIVE Hyperion 8」の出荷を開始。2024年に生産、出荷される自動車に採用予定
NVIDIAは6月に自動運転向けのリファレンスボード「DRIVE Hyperion 8」を発表し、今年の後半に出荷を開始するとアナウンスしていたが、今回のGTC 21ではそのDRIVE Hyperion 8の正式出荷が明らかになった。
DRIVE Hyperion 8は、NVIDIAのArmアーキテクチャのSoC「Orin」を2チップ搭載しており、最大で12のカメラ、9つのレーダー、1つのライダー、12個の超音波といったセンサーを1つのボードで実現することができ、レベル3やレベル4の自動運転機能を実現することができる。
また、4月のGTC 21で発表された1000TOPSの性能を実現する「DRIVE Atlan」との下位互換性、あるいはOrinが1チップ構成になっている「DRIVE Orin」と上位互換性があり、DRIVE Hyperion 8向けに開発したコードを、DRIVE Atlanに応用可能などのスケーラブル(伸長・縮小が可能なこと)な設計になっていることが大きな特徴と言える。また、従来のDRIVEシリーズと同じようにソフトウエア開発キットがNVIDIAから提供され、それを利用して自動車メーカーや部品メーカーがソフトウエアの開発を行なうことが可能だ。
NVIDIAによれば、DRIVE Hyperion 8の出荷はすでに開始されており、自動車メーカーが2024年に出荷する予定の自動車向けなどに採用される予定だという。
コンシェルジュ機能を実現するDRIVE Concierge、バーチャルドライバーの機能を実現するDRIVE Chauffeurを発表
このほかにもNVIDIAは「DRIVE Concierge」「DRIVE Chauffeur」という2つの自動車向けのソフトウエア開発キットを発表した。Conciergeは日本語ではコンシェルジュで、ホテルなどにいる顧客の要望に応えるサービス係のこと。Chauffeurというのは、顧客のために自動車を運転するお抱え運転手という意味になるため、DRIVE Conciergeは自動運転車に乗っている乗客の接待係、DRIVE Chauffeurは乗客のためのお抱え運転手という意味になる。
DRIVE Conciergeは、NVIDIAの得意分野であるAIを利用した機能で、自然言語を利用したAIアシスタント機能などの各種サービスを自動運転車の乗客向けに提供可能にする。自然言語を利用したAIアシスタント機能の実現には、NVIDIAが提供する「NVIDIA Maxine SDK」という開発キットを利用し、乗客ひとり1人にパーソナライズされたサービスなどを提供することができる。例えば、行き先を検索する、かけてほしい曲を言う、車内のライトをつけるなどのやりとりがより自然な形で自動車と行なうことが可能になる。また、自動駐車といった機能など自動運転の機能も取り入れられている。
DRIVE Chauffeurはその名の通りAI運転手を実現するための機能で、高速道路や都市部どちらでも自動運転を実現するためのバーチャルドライバーとなる。NVIDIAのDRIVEシリーズの自動運転コンピューターなどと連動して動作し、より効率のよい自動運転を実現することができるとNVIDIAは説明している。