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NVIDIA、1000TOPSのAI能力を持つ次世代車載半導体「DRIVE Atlan」 「車載データセンター」の登場

ワンチップで1000TOPS、NVIDIAが2023年からサンプル出荷する「Atlan」

圧倒的な演算性能を持つAtlan

 NVIDIAは4月13日(現地時間)、同社のプライベート技術会議「GTC 2021」をオンラインで開催、ジェンスン・フアン(Jensen Huang)CEOは、このGTC21で1000TOPSの性能を持つ次世代車載半導体「DRIVE Atlan(アトラン)」の概要を発表した。

 これは、同社が一貫して提供してきた車載向けSoC(System On a Chip)の最新版となるもので、その能力を「A Data Center on Wheels(車載データセンター)」と表現。データセンターレベルのコンピューティングパワーがクルマに搭載されることを強調している。

 今回の1000TOPSという値はTrillion Operations Per Second、つまり1秒間に1000兆回のAI計算を行なえることを示している。これをこれまで発表されてきたNVIDIA製車載半導体と比べると、2018年のParker(パーカー)で1TOPS/7SPECint、2020年のXavier(エグゼビア)で30TOPS/17SPECint、2022年のOrin(オーリン)で254TOPS/25SPECintであるとしている。

 ParkerはDRIVE PX2などの製品名で知られるもので、多くのレベル5自動運転実験車は、このParkerベースのDRIVE PX2ユニットを搭載していることが多い。難点はその消費電力で、Parker×2とPascal GPU×2を搭載して24TOPSまで引き上げたDRIVE PX2ユニットは250Wと(その後、消費電力低減版も用意した)実験車には問題ないが、市販車への搭載は難しかったことだ。もちろんNVIDIAもそのようなことは理解しており、彼らの狙いはレベル5自動運転実験車開発にNVIDIAのAI開発環境を使ってもらってソフトウェアノウハウを蓄積し、NVIDIA製品が自動運転用AI開発のプラットフォームになれればというものになる。

 すでに同社はデータセンター側では、AI製品で大きなシェアを獲得しており、サーバーから車載製品まで一貫した開発環境を提供している。開発する側からすると非常に分かりやすく、しかも実際にレベル5自動運転で走行する実験車を動かせるような時代を作り上げた。

 次にNVIDIAが投入したのがXavier。これはParkerの30倍のAI性能を持ちながら消費電力を削減した製品。ユニットとしては30TOPSのDRIVE XavierとXavierを複数搭載した320TOPSのDRIVE Pegasusを用意。30TOPSが市販車搭載をターゲットに、320TOPSが実験車搭載をターゲットにした製品となる。

 実際にXavierは、トヨタ自動車/デンソーなど採用例が2020年から出始めている。トヨタが「ミライ」や「レクサス LS」向けに発表・発売した「アドバンスドドライブ」ではXavierが使われており、デンソーのADXユニットに組み込まれていると思われる。

デンソー、トヨタ「アドバンスドドライブ」製品解説 新型LiDARやルネサス搭載ADS、NVIDIA搭載ADXなど

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1317883.html

 そして、2022年に次世代ボルボ「XC90」に搭載されることが発表されたのがOrin。メルセデスベンツの次世代車に採用することも発表されている。こちらの性能は254TOPS/25SPECintで、わずか4年でAI性能は254倍になったわけだ。このOrinはさらに消費電力を低減することを目指しながら性能を上げており、Orinが1つでレベル2自動運転を可能とする254TOPSで45Wというものだった。さらにこのOrinでは、フロントウィンドウに装着可能な10TOPS/5W版も発表。ほかの半導体メーカーが高いシェアを持つADAS市場に切り込んでいこうとする姿勢も見せている。

 ただ、NVIDIAの強みはほかの半導体メーカーが持っていない、圧倒的なコンピューティングパワーにある。データセンターから車載まで一貫したアーキテクチャを提供し、膨大なソフトウェア資産を提供するというビジネスモデルだ。それは彼らも分かっているため、さらなる高性能半導体であるAtlanを投入。2023年サンプル出荷、2025年製品搭載ということで表では2024年となっているが、4年でOrinの4倍となる1000TOPS/100SPECint以上という驚異的なコンピューティングパワーをワンチップで提供する。2018年のPakerからは6年で1000倍と「ムーアの法則」を超えるレベルでの成長を実現していく。

NVIDIA車載半導体ロードマップ

 これは半導体技術の進歩もあるがAIソフトウェアの進化もあり、当初は浮動小数点で行なわれていたAI計算が、8bti整数でも可能ということになり計算負荷が低減した。そのため、Orinも発表当初は200TOPSの性能としていたものが、今では254TOPSに引き上がっている。2割以上の性能向上にはソフトウェア面の寄与もある。

NVIDIAの製品名

 1000TOPSを実現するAtlanでは、複数の次世代プログラマブルアーキテクチャが採用されている。CPU部分には同時発表された「Grace」の次世代を採用、GPUにはすでに製品化されている「Ampere」の次世代版が採用される。GraceはArmベースのデータセンター向けアーキテクチャで、x86ベースのアーキテクチャと比べてメモリバンド幅を改善。10倍の性能を目指すというものだ。

NVIDIA、Armベースのデータセンター向けCPU「Grace」投入を表明(クラウド Watch)

https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/1318150.html

 ちなみにNVIDIAはアーキテクチャ名にコンピュータサイエンスを革新した人名を用いており、Graceはアメリカ海軍の女性であるGrace Murray Hopper(グレース・ホッパー)、つまりプログラミング言語「COBOL」の開発者名を用いている。記者は若いころはCOBOLのSEだったが、COBOLの特徴として2進化10進、つまりBCD演算を標準でサポートしていることにある。COBOLは整数演算に強い言語であり、「INT8によるAI演算が増えてきた現状に最適化したアーキテクチャだからGraceなのか?」と、今回のGTC12のキーノートを見ながら思った部分もある。

 さらに脱線すれば、近年NVIDIAの製品群の冒頭についている「DRIVE~」という名称は、自動運転用などの製品を表わすものであり、DRIVE~という製品であればソフトウェアを含め自動車向け製品になる。また、Parker、Xavier、Orinなどは某コミック(もちろん米国の)が由来であるとウワサされており、Atlanもその延長線上にあるのは間違いないだろう。

Atlanのダイレイアウト

 このAtlanのダイレイアウトを見てみると、下半分がメモリを挟んでCPUとGPUを配置している。スーパーコンピュータやデータセンター向けのGraceの説明では、メモリ-CPU-GPUという配置(ブロック図では)になっていたが、車載向けのためかCPU-メモリ-GPUという配置になっている。さらにそれを上部のBlueField DPUなどセキュアなブロックで外部とやりとりするようなレイアウトになっている。このセキュアなブロックは400Gbpsでやりとりできるとしており、ASIL-Dの安全規格に適合する半導体として仕上げた。

 1000TOPSという数値は膨大だが、NVIDIAはすでにロボタクシー向けに2つのOrinと2つのAmpere GPUで構成されたユニットを発表しており、これが2000TOPS。しかしのこのユニットの消費電力は800Wと発表されており、完全に実験車向け。今回発表されたAtlanはワンチップ構成のため、1000TOPS/400Wというようなことはなく、大幅な消費電力低減が期待できる。そして、それは市販車への搭載の道を開くものであり、レベル5自動運転車の普及につながるものであるのは間違いない。