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京セラ、触覚伝達技術の進化版「ハプティビティ アイ」発表会 その触り心地を体感してみた

2021年11月8日 発表

京セラが開発した「ハプティビティ アイ」のデモ機

目で見なくても操作できるのが触覚伝達技術のポイント

 京セラは11月8日、リアルで多彩な触感を再現する触覚伝達技術「HAPTIVITY(ハプティビティ)」と、電子部品を搭載した基板を3D射出成形でカプセル化するタクトテック(TactoTek)の技術「IMSE(Injection Molded Structural Electronics)」を融合させた複合技術「HAPTIVITY i(ハプティビティ アイ)」を発表した。また、発表に合わせてデモ機に触れることのできる説明会も実施された。

 人間は「触覚」「視覚」「嗅覚」「聴覚」「味覚」といった5つの感覚を備えているが、触覚(=Haptics:ハプティクス)からさまざまな伝達を行なう技術を「触覚伝達技術」と呼んでいる。スマートフォンやゲーム機のコントローラーなどに備わっていて、触れている部分から「ブルッ」と振動が伝わってくる装置が代表的なもの。しかし、このハプティクスを搭載した従来のデバイスは、押していき「カチッ」、離していき「カチッ」となる通常のボタンのような触感がなく、操作にリアリティがないのが課題だという。

ハプティクスとは
ハプティクスの実用例
実際のボタン操作
ハプティクスデバイスの動作

 そこで京セラは、2008年から触覚伝達技術の研究を開始。力を加えると電圧が発生する圧電効果と電圧を加えると変形する逆圧電効果を持つ“圧電素子”を開発。そして、その圧電素子を金属板ばねに接着した「圧電アクチュエータ」を独自に生み出した。この圧電アクチュエータは、荷重検出と振動出力という2つの機能を持ちながらも小さく薄く、優れた応答性も備えている。また、触感も「カチッ」という1種類だけでなく、「グニュ」「コツ」「トン」など、多彩な触感の再現を可能にしている。

 京セラは、この荷重を検出して、その荷重をトリガーに触感を出力する技術を「ハプティビティ」として登録特許を取得。このハプティビティを搭載したデバイスでは、リアルなボタン触感や明確な操作感を提供できるので、車載、産業機器、医療機器、通信機器など、幅広い分野への展開を目指しているという。

京セラのハプティクスデバイスの構成
京セラが開発した圧電アクチュエータの原理
ハプティビティの動作

 そして今回発表した「ハプティビティ アイ」は、フィンランドのスタートアップ企業であるタクトテックが持つ、耐久性に優れた3D射出成形プラスチック内にプリント電気回路や電子部品を統合しカプセル化する特許技術「IMSE」と、京セラの「ハプティビティ」を融合させたものとなる。

 その特許技術IMSEとは、下側のプラスチックに回路パターンを印刷し、そこにLEDなど実装部品を乗せ、上側のプラスチックで挟み込んで形成する技術。とても薄くて軽くて丈夫に作れるのが特徴。回路パターンは印刷なので、変更も簡単にできるという。

IMSEの構造

 クルマの運転席と助手席の間の天井にあるオーバーヘッドコンソールを例にすると、厚みは最大で95%、重量は最大80%削減が可能。耐久性も高く経年劣化も少ないうえ、1つのパーツで完結しているため、組み立て工数の削減はもちろん、組み立てるためのラインすら不要となる。また、表面は自由に印刷ができるため、デザインの自由度も広がる。動作温度は自動車業界の標準的な-40℃~85℃にも対応。湿度に対しても強いという。さらに、金型を必要とせず、設計変更などにも素早く対応できるうえ、スワイプやタッチといった操作設定もプログラムで容易に変更できるなど、メリットが多数ある。

IMSEによって製造されたオーバーヘッドコンソールのサンプル品
回路、タッチセンサー、スライダー、Bluetoothアンテナ、LEDが、3D成形された厚さ3mmの間に収められている
デザインの自由度も高い
今の自動車に使われている一般的なオーバーヘッドコンソールは部品が多数使われており、製造にも組み立てにも時間が必要となるが、IMSEならすべてを1つのパーツで完結できる

 京セラは2019年12月にタクトテックとIMSEに関するマーケティング契約を結び、2021年4月にはIMSEのライセンス契約を締結。現在IMSEはフィンランドのタクトテックでしか製造できないが、京セラはライセンスを結んだことで、ハプティビティの生産工場である滋賀県の野洲工場に、今年末から2022年春を目途に日本でも製造できるようにする予定だという。

新たな融合技術ハプティビティ アイ

 京セラとタクトテックが保有する特許技術を融合させた「ハプティビティ アイ」は、触覚伝達機能を有するさまざまなモジュールの一層の薄型化・軽量化と、「加飾」「照明」「タッチスイッチ」「圧力センサー」「触感アクチュエータ」などを1つのモジュールにできるため、部品点数の削減や工数低減、曲面なども含め、自由な設計によるシームレスデザインも実現可能。この技術を活用することで、より魅力的なHMI(Human Machine Interface)が実現でき、製品の付加価値の向上も図れる。

 複数のサプライヤーから部品を調達して組み上げることもなく、在庫や部品の管理、性能調整なども必要がなくなる。自動車のステアリングデモ機(HIEI)では、厚みで24%、部品点数で90%、重量で36%削減できたという。

ハプティビティ アイとは
ハプティビティ アイの特徴1
ハプティビティ アイの特徴2
ハプティビティ アイの市場/用途
ハプティビティ アイによる課題解決例

 京セラは、ハプティクス市場は2020年現在では3700億円規模だが、2030年には6500億円規模に達すると見込んでいて、IMSEをプラットフォームとした新たな技術製品の開発も始めているといい、2022年夏頃に発表し、2023年からの量産を目指す。現在IMSEとアクティビティの製品を開発できる企業は少なく、京セラはこの市場の100%シェアを目標としている。また、潜在市場も広く、今後も拡大すると見込んでいるという。

 自動車関連では、運転席まわりのパーツにハプティビティ アイを採用することで、手探りでも触れるだけで触感が返ってくるので、自分が探しているボタンの位置が見なくても分かり、ドライバーが前方から視線を逸らすことなく、さまざまな機能操作をできるようになるといった利用方法などを想定しているという。

デモ機で実際の触感を体験してみた

 まずはハプティビティを搭載したタッチパネルディスプレイで体感。【Soft】【Middle】【Sharp】の各ボタンを押し込むことで指先に触感が返ってくる。【Soft】では「トンッ」と軽い触感があり、【Sharp】ではやや鋭く「ツンッ」といった触感。【Middle】はその中間で、言葉で表現するのは非常に難しい。強いて言うなら「コンッ」か……。下にあるバーはスライダーになっていて、指でなぞるとバーの色が変わるだけでなく、指先に「トン、トン」と触感も同時に発生させている。

これはハプティビティを搭載したディスプレイ

 続いて本命の「ハプティビティ アイ」。表面は普通のプラスチックで、ボタン部分が若干凹んでいる。押さなくても指を当てるだけで、触れていることを検知し、ボタンを少し押し込むと「カチッ」とした触感が返ってくる。ステアリングの上にはモニターが設置されていて、触れると青、押し込むと赤とリアクションの色表示も行なってくれる。

 また、縦に動かすスライダー部分は、一度押し込むとスライダー機能が使えるようになり、上下にスライドすると動きに合わせて指先に「トトトトトトッ……」と触感が返ってくる。左側のボタンで触感を変更することもでき、「トンッ」「ツンッ」「コンッ」と同じボタンなのに瞬時に異なる触感に変わってしまうのは、なんとも不思議な感覚。

自動車のステアリングデモ機(HIEI)
ステアリング上のモニターもで操作が色で見える
上がIMSEによって製造された部分、横から見ると薄いのがよく分かる
いろいろな操作条件を体感できるようにプログラムされている
【京セラ】新開発「HAPTIVITY i」を触ってみた