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パナソニック、銅部材の青色レーザー溶接技術を自動車メーカーなどに提案する「AMP Connect Lab」公開
2021年11月29日 05:00
- 2021年11月26日 開催
パナソニック スマートファクトリーソリューションズは、大阪府豊中市にある豊中事業所内に12月1日から開設するプロセス実証センター「AMP Connect Lab(Advanced Material Processing Connect Lab)」の報道機関向け説明会・見学会を11月26日に開催した。
同社は電子デバイスや熱加工システム、測定システムといった産業向けの実装機のほか、ソリューション事業、自動化・省人化システムなどを手がけるメーカー。パナソニックがすでに発表している持株会社制への移行により、2022年4月から「パナソニック コネクト」に社名変更することになっている。
新たに開設するAMP Connect Labは、電動車に搭載される駆動用モーターや二次バッテリといった各種電子デバイスに使われている銅材料を、より高い品質で加工するための青色レーザー加工機について加工実証する施設。同社の青色レーザーは傘下の米テラダイオードと共同開発した「高出力青色DDL(ダイレクトダイオードレーザ)」で、光源にダイレクトダイオードを用いたレーザーの光を、光学レンズではなく回析格子によって1つのビームに結合。高出力化と高いビーム品質を実現している。
高出力青色DDLの技術自体は2020年1月に発表されており、その後に実用化に向けた改良を進め、同社のユーザーとなる各メーカーの担当者に技術内容を披露する実証機などの準備が整ったことからAMP Connect Labが新設されることになった。12月から顧客であるメーカー担当者と実証実験を行なって要望の取り込みや改良を進め、2022年度の商品リリースを予定している。
銅素材でも60%が吸収される青色DDLで高精度の溶接を実現
説明会では最初に、パナソニック スマートファクトリーソリューションズ 代表取締役社長 CEO 秋山昭博氏が登壇。同社の事業概要と2022年4月に行なわれる事業再編などについて説明し、世界各国に拠点を構えて国内で約2400人、海外で約2100人のスタッフを雇用してユーザーからの要望にすぐ応えられる体制を構築しているとアピール。
これまで培ってきたエッジデバイスである製造機器の強みをネットワークにつなげ、売り切り型だった装置産業から工場全体の提案を行なう「オートノマスファクトリー」に進化を果たし、工場全体を提案することでユーザーとつながり続ける事業構造に転身。収益性の高いビジネスに移行して事業成長を果たしていくと語った。
続いて、同社 DDL事業開発センター 所長 大塚隆史氏から、青色DDL事業と今回の発表内容についての解説が行なわれた。
同社では2014年4月に回析格子の技術を用いた赤外線のDDLを搭載するレーザー溶接ロボットシステム「LAPRISS(ラプリス)」を世界で初めて製品化。レーザー溶接は従来からあるスポット溶接と比べて溶接しろが不要で、形状にも制約を受けにくいといったメリットを持ち、軽量化や剛性アップが望めるため近年では自動車製造でも多用されている。
車両の電動化が進み、駆動用モーターや二次バッテリでの利用が増えた銅材料の溶接にも赤外線DDLが生産工程に採用されているが、銅は赤外線を使ったレーザーの光を強く反射して光吸収率が低く、部材の溶接に必要な温度まで高めるために高い出力が求められることに加え、融点に達して固体から液体に変化したときに光の吸収係数が大きく跳ね上がり、温度が急上昇して安定した溶接が難しいといった課題を抱えていた。
この課題を解決する策となる青色DDLでは、赤外線の光吸収率が10%ほどに対し、青色DDLは60%が吸収されて低い出力でも溶接が可能になり、光の吸収係数も安定しているので温度をコントロールしやすく、スパッタやボイドといった不良も起きにくい特徴を持っているという。
製品化に向けて同社では、高出力・高ビーム品質を実現した定格出力400Wの青色DDL発振器を開発。3次元加工にも対応するガルバノスキャナと組み合わせた実証機を用意して、顧客となるメーカーなどの担当者に実際の技術内容を見てもらい、対象となるワーク(加工対象)で実際にデモを行なえるAMP Connect Labを立ち上げた。また、今後はレーザー加工機でのニーズに対応するため、出力をkW級まで高めて切断加工などを行なえる検証機を2021年度末までに導入する予定となっている。
AMP Connect Labで実際の銅板溶接を体感
説明会の終了後にはAMP Connect Labの見学会が行なわれた。豊中事業所内の会議室を改装して新設されたAMP Connect Labには3か所の実証機スペースが用意され、当日に技術内容が紹介されてデモも行なわれたガルバノスキャナと組み合わせる「溶接」の実証機のほか、「表面改質」と「ハイパワー・切断」の実証機も設置される。
実証機のデモでは厚さ0.3mmの銅の薄板2枚を重ねて四隅をスポット溶接し、続けて表面にパナソニックのロゴマークと1mm刻みの3cmスケールをレーザー彫刻。この工程で実際に製作された製品サンプルが取材陣に手渡された。
ラボ内にはデモで作成したサンプルの評価を行なうスペースを用意。溶接状態を精密にチェックできる光学顕微鏡や3D計測器などが設置されていた。
光学顕微鏡では先ほどの溶接デモで製作されたものと同じ製品サンプルのレーザー彫刻部分を紹介。肉眼では細い線にしか見えない文字の輪郭が、実際には70ミクロンという微細な半円状のラインを連続して刻みつけていることが示され、加工の素早さと精密さに驚かされた。
「プロセスエンジニアリングセンター」の見学会も実施
このほかに当日は、豊中事業所内にある「プロセスエンジニアリングセンター」の見学会も合わせて実施。
この施設は同社の溶接技術について紹介するショールーム機能に加え、ユーザー企業で発生している溶接関連の問題解消に向けたコンサルティング、溶接ロボットの新規導入時の操作研修や技術者のスキルアップに向けたトレーニングなどを行なっており、当日は同社が生み出した最新の溶接関連技術の一部が紹介された。
VRPS(簡易ロボットティーチングシステム)
溶接ロボットを新たに導入する、または新しい作業を登録する際に、従来はペンダントと呼ばれる専用の端末を使ってロボットのアームなどを動かして動作をティーチングする作業が必要だったが、ペンダントを使ったアーム操作には熟練が必要なことに加え、ティーチング自体にも長い時間を要していた。
VRPS(簡易ロボットティーチングシステム)では初期のキャリブレーションが終わった後は、VR機器を活用して溶接技術者の動作をティーチングとして入力。一連の動作の基本的な部分をVR機器による直感的な操作で行ない、アームの動きなどを確認しながらペンダントを使って微調整するだけでティーチングが完了する。ティーチングの専門性が減って大幅な時間短縮を実現し、多品種少量生産なども可能になるという。
Super Active TAWERS
同社が2018年3月に発表した「Super Active TAWERS」は高速溶接を実現したほか、精密な電流制御と溶接ワイヤの高精度送給を組み合わせることで溶接時に周囲に飛び散るスパッタを大幅に減らし、溶接後のスパッタ除去の手間を削減する技術。
デモでは1台の溶接ロボットを使い、まずは従来のActive工法で溶接を実施。1回アームを持ち上げつつSuper Active TAWERSに切り替えて再び溶接を行なったが、スパッタの発生には同じロボットを使った作業とは思えないほどの差が出て驚かされた。
溶接外観検査ソリューション「Bead Eye」
同社がリンクウィズと共同開発した溶接外観検査ソリューションの「Bead Eye(ビードアイ)」では、同社がこれまで培ってきた溶接ノウハウとAI技術、リンクウィズの3次元データ解析技術を融合。ロボットのアームに取り付けたスキャナーで溶接面を3次元データ解析し、あらかじめ登録した良品との形状比較に加え、同社がこれまでの溶接実績で手に入れてきたサンプルを使った学習データを活用するAI外観検査のダブルチェックを行なえる。
また、検査データは保存してトレーサビリティに活用。結果を蓄積して解析することで、溶接欠陥が発生しやすい場合には溶接条件の適切化を図り、生産性や品質のさらなる向上も目指せるようになるという。
デモでは良品と溶接不良のサンプルが用意され、良品のスキャンデータは溶接部分がグリーン1色で表現されたが、溶接不良はビット(凹み穴)や余盛りといった不良部分を色分けして表示し、しっかりと溶接不良を認識していることが披露された