ニュース

日立アステモ、ブレーキやサスペンションにおける不適切行為で会見 ブリス・コッホCEO「失敗から学び、改善をしていきたい」

2021年12月22日 発表

ブレーキ構成部品、サスペンション構成部品で不適切行為が行なわれていたとして会見を行なった日立Astemo株式会社 プレジデント&CEOのブリス・コッホ氏(右)、ヴァイスプレジデント 品質統括本部長の熊谷裕二氏(左)

 日立Astemoは12月22日、山梨県南アルプス市の同社山梨工場で製造するブレーキ構成部品と、福島県伊達郡桑折町の同社福島工場で製造するサスペンション構成部品において、定期試験の未実施などの不適切行為が行なわれていた事実が判明したと発表した。

 山梨工場ではブレーキキャリパー、マスターシリンダー、マスターシリンダーおよびブースタ、電動型制御ブレーキ、分離型リザーバタンクの5種類のブレーキシステム部品に関して不適切行為が行なわれており、9社に納入された製品が該当することが判明した。

 また、福島工場ではサスペンション構成部品のうち、フロントストラット、リアショックアブソーバー、ステアリングダンパー、セミアクティブショックアブソーバーの4製品が出荷検査で不適切行為が行なわれており、フロントストラット、リアショックアブソーバーの2製品については定期試験の不適切行為が行なわれていた。出荷検査の不適切行為では14社、定期試験の不適切行為では5社に納入された製品が該当することが判明しているという。

 2つの工場をあわせて、合計では16社の顧客に対してこれらの製品を納入しており、いずれも日本を拠点とした顧客だという。また、これらの部品は商用車には採用されていないとのこと。

 12月22日19時から行なわれた会見で、日立Astemo プレジデント&CEOのブリス・コッホ氏は「こうした不適切行為が長年続いていたことは遺憾である。お客さま、従業員、パートナーなどのステークホルダーに対して、今回の問題による信頼の失墜と心配、ご迷惑をかけたことを深くお詫びする」と陳謝。続けて「残念だが、落胆はしていない。信頼できる企業として正しい方向に導くことができると信じており、失敗から学び、改善をしていきたい」と述べた。

 また、「現時点までに判明した不適切行為については是正措置を行ない、現在では適切に試験や検査を実施している。また、不適切行為の対象となる過去の生産品については、社内検証を実施し、安全性および性能に問題はないと判断している」と述べ、「最初に安全性のリスクがないことを確認した。顧客とのコミュニケーションを取り、国交省にも支援を得た。顧客側の判断もあるため、リコールが必要なのかは現時点では答えられない。対話を続けて、製品の安全性については安心してもらえるように話をしている。安全な製品であればリコールにはならないと判断している。現在、当該部品を搭載した自動車が道路を走行しているが問題は出ていない。安全性の問題は確認しており、そこでは問題がでないと思っている。過去の製品も、いまの製品も安全であるということを説明しているところ」とした。

 対象部品を納入した顧客名(自動車メーカーなど)については、「機密保持契約の観点から公表することはできない」とし、「調達に関してペナルティが発生したり、納入した製品に対するクレームも現時点ではない。財務面でも大きな影響はないと考えている」と述べた。

 日立Astemoでは社外弁護士による特別調査委員会を2021年12月に設置し、独立した立場から客観的な視点で事実関係や発生原因を調査し、再発防止に取り組むとしており、コッホCEOは「調査委員会に対しては、いつまでに調査を完了させるという時間軸は設けず、すべて調査してもらいたいと考えている。しっかりと根本まで突き詰めてもらいたいが、2022年半ばまでに明らかにしたいと考えている。調査委員会によって、新たな課題が発見されるかもしれない。不適切行為は数人が知っていたことは分かっているが、組織のどこまで知っていたものなのかが分からない。これも明確にしたい。工場だけの問題なのか、全社規模の問題なのかも調査する。調査委員会を全面的にサポートし、勧告に基づいて行動し、正しい方向に導くことをリーダーとして約束する」と述べた。

 特別調査委員会のメンバーは、委員長に貝阿彌誠氏(大手町法律事務所)が就き、委員として松山遙氏(日比谷パーク法律事務所)、山田広毅氏(東京国際法律事務所)で構成する。さらに、グローバルの全拠点での自己監査を2021年11月に完了したことや、日立Astemoに統合したケーヒン、ショーワ、日信工業、日立オートモティブシステムズによるグローバルでの相互監査を実施。また、リスクマネジメント強化を行なうガバナンスオフィスも設置し、調査委員会をサポートするという。

 また、「全世界145カ所の工場があるが、自己監査と相互監査を行なった結果、今回の2つの工場以外には不適切行為は見つかっていない」としており、山梨工場および福島工場はいずれも日立オートモーティブ時代に買収したトキコの工場だったという。山梨工場では2003年10月~2021年3月までの期間、定期試験を実施せずに顧客向け報告書にデータを記載する不適切行為が行なわれており、これが約5万7000件に達しているという。

 日立Astemo ヴァイスプレジデント 品質統括本部長の熊谷裕二氏は、「品質評価のプロセスは、製品開発後に自主評価を行ない、納入先となる自動車メーカーから生産承認を得てから量産を開始。各部品や各工程での品質を確保するための工程検査、製品としての品質を確認する出荷検査のほか、量産工程では評価できない耐久要件などを確認するための定期試験を実施している」とし、「山梨工場では定期試験において、未実施試験のデータを記載。試験総数7万4000件のうち、5万7000件が該当した」と、不適切行為の概要を説明した。

 2020年12月に日立製作所の品質保証部門による品質コンプライアンス監査が実施された際に、日立Astemoの社員から同部門に対して不適切行為に関する情報提供があり、これを受けて2021年1月にかけて調査。顧客との間で取り決めた定期試験に関して、提出する定期試験報告書に未実施試験のデータを記載する不適切な行為が行なわれていたことが分かったという。2021年3月に不適切行為の是正を完了。5月に外部弁護士を交えた社内調査を実施し、7月には外部審査機関による定期試験の妥当性を証明できたという。

 対象となる過去生産品については、定期試験とは別に安全性や性能を確認する工程検査や出荷検査を適切に実施していることを確認したこと、管理データ記録の解析を基に強度や耐久性の再評価、対象となる過去生産品の各部品の性能確認、それらを組み立てた完成品を再現した試験を実施した結果、「安全性および性能に問題は確認されておらず、対象となる過去生産品に問題はないと判断している。また、製品の性能は十分余裕を持ったレベルに設定して開発生産しており、安全性および性能に問題が生じた事案は現時点では確認されていない」とした。

 一方、福島工場においては量産工程における出荷工程での減衰力試験において、3件の不適切行為が行なわれていた。

 2000年頃~2021年10月に、減衰力測定時の判定温度設定を変更して出荷検査を行なったものが、2018年4月~2021年10月までに約420万本、減衰力規格要求値に対する適合出力の許容範囲の変更では、2018年4月~2021年7月までに約110万本、減衰力規格外れの製品として、2018年4月~2021年10月までに約480万本を出荷したという。さらに、量産品の定期試験において試験報告書の減衰力数値の書き換えが2000年頃~2021年10月に行なわれており、2019年1月~2021年10月までに259件あったという。

 なお、2018年以前については使用していた検査機器が減衰力測定の検査結果データを残せる仕組みになっていなかったため、把握ができいないという。同社では、2018年3月以前については生産管理システムのデータを調査することにより、不適切行為に該当する製品の確認作業を進めているところとしており、「減衰力はオイルの温度によって変化するため、性能評価の際には20℃で行なうことが決められているが、季節変動で変化する測定時のオイルの温度と、基準である20℃での減衰力値との差を補正するための設定値を実温度とは異なる値に設定し、規格外れ品を合格になるようにしていた。また、規格要求値の許容範囲を超える製品を合格とするため許容範囲を広げていた。そして、減衰力判定で不合格となった製品を不合格品として処理せず、合格品と一緒に出荷していた」(熊谷氏)という。

 福島工場では、2021年7月に日立Astemoの社員から日立製作所の品質保証部門と、日立Astemoのコンプライアンス部門に出荷検査に関する不適切行為について情報提供があり、それをもとに出荷試験や定期試験での不適切行為を確認。2021年10月に是正したという。

 対象となる過去の生産品については、管理データ記録の解析を基に強度や耐久性の再評価。対象となる過去生産品の各部品の性能確認などにより、安全性や性能に問題がないことを確認しているという。

 会見では、今回の不適切行為の背景には検査人員の不足、人材の流動性の欠如、試験マニュアルの不備、品質監査の不徹底といった課題があったとし、「現場において、定期試験の重要性に対する意識が足りなかったこと、投資や人材が不十分であったという反省がある。風通しのわるさもあり、マネジメントとスタッフの間での透明性が欠けていたことや、システムによるモニタリングができていなかったことが反省点」(コッホCEO)とした。また、「人員増強による検査人員の確保により、必要な検査が完遂できる体制を整える。また、部門や工場をまたぐ人事ローテーション、業務手順の標準化、監査機能の強化として監査専任組織の新設を行なった。さらにデータ改ざん防止として、人手を介さないデータ処理システムの導入を計画している」と熊谷氏は述べた。