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トヨタとホンダのドライバーが、世界三大レースとF1・WEC・WRCを制覇した2021年のモータースポーツ

F1モナコGP

 2021年は、2020年に始まったコロナ禍が続いた年として記憶に残るだろう。モータースポーツに関しては新型コロナウイルス対策がきちんと進み、多くのレースが予定どおり開催された。F1は22戦という史上最多のレースが行なわれたし、ル・マン24時間レースを含むWECやWRCも2020年より多くのレースを行なうことができた。

 ただ、F1 日本GPを含むフライアウェイのレースは、現地の入国制限などの絡みもあって多くが中止となり、日本ではF1、WEC、WRCというFIA世界選手権の3大シリーズのレースはいずれも中止となってしまった。

 そんな2021年のモータースポーツだが、実は世界三大レース(F1モナコGP、インディ500、ル・マン24時間レース)、そしてFIA世界選手権の三大シリーズ(F1、WEC、WRC)において日本メーカー製パワーユニットを搭載したマシンをドライブしたドライバーが優勝者ないしは王者になるというエポックメイキングな年となった。

 世界三大レースの勝者、FIAの三大選手権の王者は、いずれもホンダないしはTGR(TOYOTA GAZOO Racing、トヨタのモータースポーツ組織)のパワーユニット(ハイブリッドなしいはエンジン)を利用していたのだ。

ル・マン24時間レース

世界三大レース、FIA三大世界選手権のいずれも王者は日本メーカーのパワーユニットを搭載

インディ500を制したエリオ・カストロネベス選手(ダラーラ・ホンダ)

世界三大レースの優勝ドライバー

F1 モナコGP:マックス・フェルスタッペン(レッドブル・レーシング・ホンダ)
インディ500:エリオ・カストロネベス(ダラーラ・ホンダ)
ル・マン24時間レース:小林可夢偉/マイク・コンウェイ/ホセ・マリア・ロペス(TGR GR010 HYBRID)

FIA三大選手権のドライバーランキングチャンピオン

F1世界選手権:マックス・フェルスタッペン(レッドブル・レーシング・ホンダ)
WEC:小林可夢偉/マイク・コンウェイ/ホセ・マリア・ロペス(TGR GR010 HYBRID)
WRC:セバスチャン・オジェ(TGR ヤリスWRC)

 これまでもホンダF1のパワーユニット(2013年以前はエンジン)を搭載したマシンに乗ったドライバーがチャンピオンになったことは何度かあった。ホンダF1の黄金期と言える第2期F1(1983年~1992年)では、1987年(ネルソン・ピケ)、1988年(アイルトン・セナ)、1989年(アラン・プロスト)、1990年(アイルトン・セナ)、1991年(アイルトン・セナ)などがあるが、WEC(以前はWSPC、SWC)やWRCのチャンピオンは獲得していなかった。

 その意味では、WRCでトヨタのカルロス・サインツ氏(現フェラーリF1ドライバーのカルロス・サインツ・ジュニアの父親)がチャンピオンになった1990年が、F1(ホンダ)とWRC(トヨタ)という意味ではFIAシリーズ3冠に近かったが、WEC(当時はWSPC)はザウバー・メルセデスのジャン・ルイ・シュレッサー/マウロ・バルディ組がチャンピオンで実現していない。

 世界三大レースで3冠に最も近づいたのは1991年で、故アイルトン・セナ(マクラーレン・ホンダ)のモナコGP優勝、フォルカー・バイドラー/ジョニー・ハーバート/ベルトラン・ガショー組(マツダ787B)がル・マン24時間レース優勝で2冠は達成したが、インディ500はリック・メアーズ氏(ペンスキー・シボレー)の優勝で3冠は実現できていなかった。

 その意味で、世界三大レース、FIA三大選手権でいずれも日本のマニファクチャラーが作ったパワーユニットを搭載したドライバーが優勝者ないしは王者になったという3冠(英語でいうとトリプルクラウン)を実現したことが、どれだけ特別なことか感じていただけるのではないだろうか。

モナコGP優勝、そして最終戦の劇的な幕切れでホンダPUのフェルスタッペン選手がF1ドライバー王者に

 実は2020年も3冠に近づいた年だった。世界三大レースのうち、インディ500は佐藤琢磨選手(ダラーラ・ホンダ)が優勝し、ル・マン24時間レースは中嶋一貴/セバスチャン・ブエミ/ブレンダン・ハートレー組(トヨタ TS050 HYBIRD)が優勝した。また、FIA三大選手権のうち、WECは小林可夢偉/マイク・コンウェイ/ホセ・マリア・ロペス組(トヨタ TS050 HYBIRD)がチャンピオンに輝き、WRCはセバスチャン・オジェ(TGR ヤリスWRC)がチャンピオンになった。

 しかし、そこで最後の「ミッシングピース」になっていたのがF1だ。そもそも2020年はコロナ禍でモナコGPは開催されなかったし、ドライバー選手権はルイス・ハミルトン選手(メルセデス)が獲得して、レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペン選手は3位だった。

 2021年はどうだったかと言えば、すでにみなさんもご存じのとおり、モナコGPでは、1992年のアイルトン・セナの優勝(最終ラップまでナイジェル・マンセル氏との死闘を制した、あの伝説のレースでの優勝だ)以来のホンダ・パワーユニットでのモナコGP制覇を実現した。

 そして12月12日に行なわれた最終戦アブダビGPのレースでは、もはや伝説になったと言ってもよい最終ラップの死闘を制したマックス・フェルスタッペン選手が優勝し、ドライバー選手権のチャンピオンになった。ホンダ・パワーユニットを搭載したドライバーのチャンピオンは1991年のアイルトン・セナ以来となる。

レッドブル・ホンダ、F1モナコGPで優勝 ホンダは1992年のセナ以来、フェルスタッペンはモナコ初優勝

https://car.watch.impress.co.jp/docs/photogallery/1317840.html

ホンダF1ラストイヤーでドライバーチャンピオン獲得 F1最終戦アブダビGPでフェルスタッペンが最終ラップに大逆転優勝

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1373508.html

 そうしたホンダF1の快挙と同時に、TGRもル・マン24時間レースで小林可夢偉/マイク・コンウェイ/ホセ・マリア・ロペス組が優勝し、WECのシリーズチャンピオンも獲得している。WRCに関してもTGRヤリスWRCをドライブしたセバスチャン・オジェ選手が2年連続でチャンピオンを獲得している。TGRはこれで4年連続ル・マン24時間レース優勝と、3年連続WECとWRCのチャンピオンドライバーを輩出したことになり、こちらも歴史に残る偉業と言ってよいだろう。

トヨタ、ル・マン24時間レースを4連覇 小林可夢偉選手がル・マン初優勝し、豊田章男社長が「やっと“忘れ物”を取ってこれましたね」と祝福コメント

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1345418.html

トヨタ、WRCで1994年以来の3冠達成 ヤリスWRC 1号車のオジエ/イングラシア組が2021年チャンピオン獲得

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1368154.html

2022年のF1、WEC、WRCは新時代へ

F1最終戦アブダビGP

 2022年に目を向けると、ホンダF1は多くのファンに惜しまれながらも撤退することをすでに決めており、その方針に変わりはない。したがって、2022年のモナコGPおよびF1ドライバー選手権で、日本メーカーのパワーユニットが優勝する可能性はなくなっている。このため、世界三大レース/FIA三大世界選手権の3冠というのは2021年限りになるかもしれない。

 ただ、ホンダが設計、製造したパワーユニットは、そのパートナーであったレッドブルに使用権が与えられ、レッドブル・パワートレインズというレッドブルの子会社が、レッドブルとアルファタウリというレッドブル系の2チームに供給する形になる。現時点ではレッドブルがそうした「かつてホンダと呼ばれていたパワーユニット」にどんなブランドを使うかは明らかになっていないが、仮にレッドブルがそのパワーユニットで優勝しても、ホンダの勝利とは数えられない形になる。F1に関しては、ホンダは撤退するが、ホンダが作ったパワーユニットはレッドブルに名前を変えて走り続けることは間違いない。

 そして、ホンダF1がもう1つ日本のF1ファンに残してくれたのは、アルファタウリで2022年も走る角田裕毅選手。最終戦では4位となり、上り調子で2021年のシーズンを終えることができた。2年目となる2021年は新型車両になり、チームで2年目とチームメイトとのハンデも少なくなる。その意味で期待してよいシーズンになるし、逆にそこで結果を出さなければ次はないだろう。

WRC 2021年シーズンのドライバーおよびコ・ドライバー選手権のチャンピオンを獲得したヤリスWRC 1号車のセバスチャン・オジエ、ジュリアン・イングラシア組

 TGRは引き続きWECとWRCの両方に参戦する。WRCはラリー1というパワーユニットをハイブリッドにした新規定が導入される。引き続きTGR、ヒュンダイ、フォードの3つのマニファクチャラーが参戦する予定になっており、新規定の車両がどういうラリーを展開するかは今から楽しみだ。WRCは三大選手権のうち最も早く開幕し、1月20日に開幕するモンテカルロ・ラリーで新車両が実際に走り始めることになる。

 2021年の王者も獲得し、通算8度のチャンピオンになったセバスチャン・オジェ選手が来シーズンはフル参戦しないとすでに表明しており、誰が新しいチャンピオンになるのかにも注目が集まる。また、新しいラリー1規定で誰が一番速い車両を作ってくるのか、開幕戦のモンテカルロ・ラリーは要注目だ。

TGR WECチームは、平川亮選手を新ドライバーにむかえて小林チーム代表の下新体制に

写真はWEC(FIA世界耐久選手権)最終戦バーレーン

 WECに関してはハイパーカー規定の2年目となり、それに沿って作られたGR010 HYBIRDでの2年目となる。来シーズンはプジョーが新しいハイパーカーで参戦することを表明しており、2023年には1923年の第1回大会から数えて100年目のル・マン24時間レースになることや、新しいLMDhという低コストでハイパーカー相当の車両が作れる新規定が導入されることもあり、ポルシェやアウディなどがWECに復帰することも明らかにされている。そのほかにも新しいマニファクチャラーの参戦が期待されており、混戦になることは間違いない。

 そうした2022年、そして多くのマニファクチャラーが復帰するとみられる2023年に向けてTGR WECチームは体制を新しくしてきた。7号車のドライバーでもある小林可夢偉選手がTGR WECチームのチーム代表になり、これまでは国内のレースと同時にTGR WECチームのテストドライバーを務めてきた平川亮選手が、今シーズン限りでWECからの引退を表明した中嶋一貴選手に替わり8号車の正ドライバーになった。

 2017年に、史上最年少23歳で、同じ歳のニック・キャシディ選手とSUPER GTのチャンピオンになった平川亮選手は、2013年にスーパーフォーミュラ、2014年にSUPER GTにデビューして以来、9年にわたり日本のトップカテゴリーで活躍してきた。

 平川選手も今や27歳になり、成熟した大人のドライバーに成長し、世界と戦うフィールドへと進出することになる。SUPER GTからは旅立ちとなるが、スーパーフォーミュラに関しては来シーズンも日程がある限りは参戦予定だ。平川選手の活躍には期待だし、いきなり日本人5人目のル・マン24時間レースの勝者になってもおかしくない。

豊田章男社長、2022年モータースポーツ新体制発表会で「ドライバーファースト」「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」を語る

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1372026.html

WECのレギュラードライバーから勇退する中嶋一貴選手(写真中央)

 そして、中嶋一貴選手は、来シーズンのTGRのモータースポーツ活動発表会で、サプライズ的にドライバーからの引退を表明し、TGRのグローバルのモータースポーツ(WECやWRCなど)を運営しているTGR-Eの副会長に就任することが明らかにされた。今後はこれまでのキャリアを活かして、FIAとの折衝や後進ドライバーの育成などに当たるという。

 欧州中心のモータースポーツに勝てるかどうかは、実のところFIAとの折衝など政治面が重要なのは論をまたない。そうした表も裏もよく分かっている中嶋一貴選手がTGR-Eの経営陣の一人となるのは、TGR全体にとって大きな意味がある。

 中嶋一貴選手は、ウィリアムズから2シーズンにわたってチャレンジしたF1に関しては目立つような結果は残せなかったが、2011年に日本のレースシーンに復帰すると、2012年、2014年の2シーズンにわたり、フォーミュラ・ニッポン(2012年)、スーパーフォーミュラ(2014年)のビッグタイトルを獲得した。さらに、2012年から現TGRのWECプログラムに参加し、2012年の富士6時間耐久レースで、1992年の故小河等氏がモンツアで行なわれたSWC開幕戦で優勝して以来の日本人WEC優勝ドライバーになった。

 2014年にはル・マン24時間で日本人ドライバーとして初めてのポール・ポジションを獲得したほか、2018年にはル・マン24時間レースで初優勝。3年連続でル・マンウィナーになった。4人しかいない日本人のル・マン24時間レースウィナーで複数回優勝を遂げているのは中嶋一貴選手だけだ。さらに2018-2019シーズンでは、日本人ドライバーとして初めてWECのチャンピオンになった。

 そして中嶋一貴選手で忘れられないのは2016年のル・マン24時間レースにおける「no power、no power」の悲痛な叫びから、ゴール直前でトップ走行からのリタイアという「悲劇」だ。2016年は本当に惜しいところで優勝を逃すことになったが、だからこそル・マン24時間の歴史に「記憶」として「中嶋一貴」の名前が刻まれたと言ってよいだろう。

「中嶋副会長、本当にお疲れさまでした、そしてこれからもTGRの活動をよろしくお願いします」というのが筆者の偽らざる気持ち。中嶋副会長の今後の活躍が楽しみだ。