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ポルシェとアウディ、150kW急速充電設備を2024年に152基まで拡充 相互利用できる共同事業「プレミアム チャージング アライアンス」

2022年4月19日 実施

ポルシェとアウディが提携したことで、両社のBEVモデルに乗るオーナーはどちらの急速充電器でも充電可能になる。ポルシェジャパン株式会社ミヒャエル・キルシュ社長(奥)と、アウディ ジャパン株式会社ブランドディレクターのマティアス・シェーパース氏(手前)。2人で急速充電器を持つことで充電設備を共有できることを表現した

150kW急速充電設備を拡充することでBEV普及を後押しする

 ポルシェジャパンとアウディ ジャパンは4月19日、日本国内でのBEV(バッテリ電気自動車)モデル向け急速充電設備のネットワーク拡充を促進させるための共同事業計画「Premium Charging Alliance(プレミアム チャージング アライアンス)」の発表会を実施した。アライアンスの最大ポイントは、150kWの急速充電設備を2022年末までに102基、2024年までに152基まで拡充し、ポルシェとアウディのBEVモデルオーナーは、どちらの設備でも急速充電ができるようになり、さらにスムーズな長距離移動が可能となる点。

 発表会にはポルシェジャパン社長のミヒャエル・キルシュ氏と、アウディ ジャパンのブランドディレクターであるマティアス・シェーパース氏が登壇し、新たなアライアンスの説明とあわせて調印式とメディア向けの質疑応答も行なわれた。

両社の新たな取り組みとなる「プレミアム チャージング アライアンス」が発表された

 ポルシェジャパンのキルシュ氏は、2021年の決算発表にて、2030年には新車販売台数の8割以上をBEVとする目標をメーカーとして掲げたことに触れつつ、すでにポルシェとしては2019年に発表した「タイカン」を、日本でも2021年初旬からデリバリーを開始。2021年度は全販売数の約11%がBEVだったと説明した。また、ABB製の高性能急速充電設備についても、タイカンの販売と共に成長させてきて、現在は国内34か所のポルシェセンターに計38基、さらにディーラーと人口の多い都市部(東京・名古屋・大阪など)にターボチャージングステーションを11基、ポルシェ体感施設のエクスペリエンスセンター東京に1基と、合計50基を日本国内に配備済みであること紹介した。

ポルシェジャパン株式会社社長 ミヒャエル・キルシュ氏

 一方、アウディ ジャパンのシェーパース氏は、アウディ自体が2025年に最後の内燃機関エンジン車を発売し、翌2026年以降の新車はすべてBEVになること。そして2030年には内燃機関エンジンの生産を停止すると決断していることを改めて説明。

 さらに、100年に1度の変革期といわれる自動車産業では、BEVの登場によりIT系などソフトウェア側から参入してくる企業がさらに増えていくことが想定され、既存の自動車メーカーでも勝者と敗者と差が出てくる可能性が大いにあると解説。だからこそ勝者になるためにも、日本国内でいろいろな取り組みを積極的に推進していく必要があると語る。

 また、日本市場については欧州や中国に比べてBEVの普及速度が遅いものの、必ず変革期が訪れて一気に加速すると想定しているといい、アウディブランドでは2024年までにBEVモデル15種以上、2025年にはBEV比率35%、台数にして1万台を販売できると確信していると明かす。

アウディの今後のパワートレーン計画
アウディが目指すのはNo.1プレミアムBEVブランド
充電器のタイプ
アウディ ジャパン株式会社 ブランドディレクター マティアス・シェーパース氏

 そしてシェーパース氏は、そのBEV普及のカギを握っているのが「急速充電設備」となり、すでにさまざまな規格の急速充電設備がでてきているが、アウディとしてはプレミアムなユーザーへの利便性を追求すると150kWしかあり得ないと方針を示した。

 公共の急速充電設備の現状についても、7800か所のうち99%以上が49kW以下であるうえに、24時間365日稼働しているのも半数しかないため、これがユーザーの「遠出しても大丈夫なのか?」「充電に時間がかかるので大変そう」といった不安や不満を生み出し、BEV普及の足かせになっているとした。それらを払拭すためにも150kWをベンチマークにしたいとの考えを述べた。

 また、現在国内に50基あるアウディの急速充電設備はまだ50kWや90kWであり、今回のアライアンスの核となる150kWの設備については、2022年末の設置に向けてポルシェと同じくABB製の急速充電設備を運搬中であると説明。その後も2024年までに、既存の50kWや90kWの設備を150kWへと交換していくという。

アウディ単体での急速充電設備拡大計画

 ここでポルシェジャパンのキルシュ氏は、日本の公共急速充電設備について「数は充分にあるが、充電速度が充分ではないと考えている。ポルシェは自動車と同じように充電速度についても速さを追求し、ユーザーの利便性を高める想いが強い。しかし、1社で急速充電器の普及を推進するにも限度があるため、まずはフォルクスワーゲングループ内で検討したところ、アウディとの提携を提案。特にアウディはNo.1プレミアムBEVブランド構想を掲げているうえ、顧客層や接客レベルがポルシェと似ていることも提携先に選んだ理由である」と、今回のアライアンスの成り立ちを明かした。

 今回発表した新たな事業プレミアム チャージング アライアンスでは、専用アプリを使用して、車体番号や充電状態を管理。ポルシェディーラーもアウディディーラー、どちらの店舗でも急速充電設備の利用が可能となる。これは7月1日のサービス開始を予定していて、今後はアプリにディーラー検索や道案内など、さまざまな機能を追加していくという。

プレミアム チャージング アライアンスでのカスタマージャーニー

今はまだ利益よりもユーザーの利便性を高めてることを優先

 今回発表したプレミアム チャージング アライアンスのコンセプトについて問われたキルシュ氏は「現状の設置場所であるディーラーでは、温かくお出迎えすることから始めていて、充電している間に仕事をしたり、メールを返信したり、音楽を聴いたりといった使い方をしていただいているが、今後はおもてなしの精神で、充電をもっと楽しい経験にするための施策をいろいろ検討している」という。

 ただし「遠方の目的地(例:軽井沢や日光といった観光名所など)の急速充電設備については、現状はまだ充電するだけの施設なので、待ち時間は買い物へ行ったりしてもらっている。設置場所に関しては、人口密集地の都市部はもちろんだが、そこから郊外へ出かけた場合の観光名所やリゾートエリアへの設置も進めていく」としていて、実際にタイカンに乗っている自身の経験から、「白馬(長野県)や志摩(三重県)などに行った際も何も問題はなかったし、今回のアウディとの業務提携により、さらに充実する」と語った。

 また、シェーパース氏も、「今回の業務提携の狙いとしては、まず安心してお客さまに施設を使っていただくこと、さらに利便性を追求すること。ディーラーは開いていない時間帯もあるので、今回のアライアンスによって24時間対応できる体制作りを目指したい。また、遠方の充電設備に関しては、すでにホテルやゴルフクラブなどに作っているし、今後も継続的に設置していくが、そこは今回のプレミアム チャージャー アライアンスとは主旨が異なり、誰でも使えるような形態にしている」と解説した。

東京港区の虎ノ門ヒルズの地下にあるポルシェのターボチャージングステーション

 急速充電施設の設置費について質問されたキルシュ氏は、「2030年に新車販売の80%をBEVにする目標を達成するには、150kWの急速充電器が最低限で必要なレベルで、そのためにポルシェジャパンはディーラーと共に投資をしていると語る。また、海外にはさらに320kWとか倍近い急速充電器もあるが、現状で1番ユーザーにとって利便性の高い充電設備を導入するのがポルシェの考え方で、現状は150kWを急速充電器のベンチマークにしたい」との方向性を述べた。

 同様にシェーパース氏も、「積極的にBEVの展開を推進している中で、新しいビジネスモデルはどういったものか検討を重ねたうえで、ディーラーと150kWのチャージャー設立に合意してもらっている。また、毎年100か所ほど検討している遠方の充電設備に関しては、先述したとおりアウディ独自の考えた方で広めていく」と解説した。

 また、両社とも150kWの急速充電器の設置については、「現状では利益は追求せずとにかくユーザーの利便性を高めるためのもので、最低限の費用はいただくがプランによってはディーラーが赤字になるケースもある。しかし、それでも設置する意義の方が高い」と説明した。