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ボッシュ、2026年までに30億ユーロの巨額投資 半導体の製造キャパシティー拡大や研究開発拠点を設置

2022年7月13日(現地時間) 開催

記者会見でスピーチするロバート・ボッシュ 代表取締役会長 シュテファン・ハルトゥング氏

 ボッシュ(ロバート・ボッシュGmbH)は7月13日(現地時間)、ドイツ ザクセン州ドレスデン市にある同社の最新半導体工場(300mmウエハーファブ)において記者会見を実施。マイクロエレクトロニクスおよび通信技術に関する「欧州共通利益に適合する重要プロジェクト(IPCEI)」国家補助プログラムに基づく30億ユーロ(1ユーロ=137.94円換算で、約4138億円)となる巨額投資を半導体ビジネスに投資する方針を明らかにした。

 その投資の一部としてドレスデンにある300mmウエハーファブを拡張していくほか、ドレスデンと同社の従来の半導体工場があるロイトリンゲンに研究開発センターを設置するとのこと。

 ロバート・ボッシュ 代表取締役会長 シュテファン・ハルトゥング氏は「自動車やデジタルの発展には半導体が必要だ」と述べ、同社の半導体工場への投資が次世代の自動車産業や家電産業などの発展に資すると強調した。

同社がドイツ・ドレスデンに300mm ウエハーファブを建設。すでに稼働状態に

ドレスデンに建設されたボッシュの300mmウエハーファブ

 ボッシュは、2018年に同社の新しい最新半導体工場(300mmウエハーファブ)をドイツ ザクセン州ドレスデン市に建設することを決定し、2021年に稼働を開始している。クリーンルーム(ウエハーと呼ばれる半導体の製造に利用されるシリコンの板を加工する防じん施設のこと)の広さは1万m 2 と、巨大な工場になっており、いわゆるメガファブと呼ばれるような工場の1つだ。

工場の敷地は広大で、今後の拡張に備えた用地も確保されている
製造されているウエハーは300mm

 ドレスデンにはボッシュだけでなく、受託半導体製造ベンダー(工場を持たない半導体メーカーの受託により製造を行なうベンダーのこと)のグローバル・ファウンダリーズが製造工場を持っているなど、「欧州のシリコンバレー」と言われるようなハイテク産業が集中する地域になっている。

 そのドレスデンで行なわれ、インターネットで世界中に中継された会見でロバート・ボッシュ 代表取締役会長 シュテファン・ハルトゥング氏は「自動運転自動車、電動自転車、工場で使われている自律ロボット、PCR検査を迅速に行なう機器……さまざまなデジタル機器がわれわれの生活を豊かにしている。ボッシュはそうしたさまざまなイノベーションを社会に提供してきたが、そこには半導体という本質的な共通点がある」と述べ、現代社会のさまざまなイノベーションには半導体が欠かせないということを強調した。

ボッシュが使った研究開発費
研究開発に関わるエンジニアには7万8000名で半数がソフトウエアエンジニア

 その上で「重要なことはそうしたビジョンだけでなく、実際に(半導体を製造するための)財務的な裏付けだ。2021年のボッシュの研究開発費は61億ユーロで、これは売上高の8%弱となり、業界の平均を大きく上まわっている。2022年にはこれを70億ユーロまで増やす計画だ。また、研究開発に関わるエンジニアも2021年の末時点で7万8000人近くになっており、その半分はソフトウエア開発に関わっている。そうした研究開発への投資が新しいイノベーションをもたらし、社会をよりよくしていくとわれわれは信じている」と述べ、今後もデジタル変革の時代に対処するための投資を積極的に行なっていく姿勢を示した。

欧州内の半導体製造が世界の20%を占める戦略の元に建設されたボッシュの半導体工場

ボッシュの半導体工場は200mmウエハーを利用して製造するロイトリンゲンと300mmウエハーを利用して製造するドレスデンの2か所がある

 ハルトゥング氏はドレスデンに2021年に落成した同社の「300mmウエハーファブ」を紹介し、「この新工場は1999年以来、欧州で初めて建設された300mmウエハーの工場だ」と述べ、欧州では長年半導体工場への投資が行なわれていなかったが、それが久しぶりに巨額の投資が行なわれたということを述べた。

 なお、余談だが、ここでいう1999年の工場というのはAMDがドレスデンに建設し(現在はAMDの製造事業を引き継いだグローバル・ファンダリーズの所有)、1999年に開所して製造が開始された後に300mmの工場にアップグレードされたFab 30のことだと思われる。その後、AMDは2006年に300mmウエハーを製造するFab 36をFab 30の隣に建設しているので、厳密に言えば欧州に建設された300mmウエハーの工場としては1999年以来初めてという訳ではない。ただし、Fab 36はFab 30の拡張とも考えられるので、「新規に建設された300mmウエハーの工場」という意味では確かに1999年以来という表現では間違っていない、念のための補足だ。

ドレスデン工場のクリーンルームは1万平方メートルと非常に巨大に
工場の内部は最新のオートメーション装置を利用して人間が関わる部分を減らしている

 ハルトゥング氏は「今回の工場の建設は欧州チップ・アクト法(半導体産業の欧州への回帰を実現するための投資措置などを定めた、欧州委員会の法案のこと)が目指していることを体現しており、ほかのベンダーも含めてドイツに新工場を建設するようになるといいと思っている。この法案の目標は世界の半導体生産に占める欧州の割合を10%から20%へと倍増させようというものだ。とても意欲的な取り組みだが、欧州すべての需要を満たせるという訳ではない。欧州が必要としているのは、自動車産業などで必要になるのは最先端の製造技術ではなく、40~200nmあたりの製造技術で製造される製品であり、われわれのドレスデン工場ではそうした技術とわれわれの経験から作られるチップを組み合わせてお客さまに提供していく」と述べ、ドレスデンの300mmウエハーファブでは欧州の自動車産業が必要とするような製品を中心に製造していくとした。

ドレスデン工場ではMEMSの研究開発を行ない26年に製造開始。GaNの自動車への適用も研究を進める

ボッシュの歴史の中で1つのプロジェクトとしてはもっとも巨額の投資となったドレスデン工場

 ハルトゥング氏は「すでにボッシュはこの工場に10億ユーロを投資しており、その規模はボッシュの歴史において1つのプロジェクトというくくりでは最大の投資額になっている。それが実現したのも、欧州委員会、ドイツ連邦政府、地元ザクセン州政府などが、IPCEI(欧州共通利益に適合する重要プロジェクト)という形で補助金を出してくれたからだ。それにより、2022年の末までに400人を超える雇用が実現され、工場が完成したときには700人もの雇用が生まれると予想している。これは補助金の条件よりも高い数字だ。ドレスデンには地元の大学出身をはじめとして優秀な人材がそろっており、今回の工場の立ち上げでも、15万個のセンサーが設置されており、毎秒250MBのデータを生成し、AIを活用しながら製品出荷のスピードアップを図っている」と述べ、ドレスデンの工場建設が同社のような巨大な企業にとっても歴史上例が無かった巨額の投資であり、欧州委員会やドイツ政府、地元政府からも高く期待されていると説明した。

すでに400名の雇用が発生
最終的には700名の雇用が実現される見通し
15万のセンサーがあり毎秒250MBのデータが生成され、AIも利用されている
従業員はMicrosoftのHololens 2を利用してMRを生産に活用する
現在欧州でもっとも進んだ半導体工場になっている

 そして、そのIPCEIの第2弾とされるIPCEI 2の投資も欧州委員会などにより行なわれることがすでに決定されており、ボッシュではその投資補助をうけて、2026年までに30億ユーロの投資を行なうことを明らかにした。その30億ユーロの投資では、ドレスデンの工場のクリーンルームの拡張(1万m 2 から1万3000m 2 へと拡張される)のほか、ロイトリンゲンの工場も拡張される計画。

窒素ガリウム(GaN)の自動車への応用も研究していく

 さらにハルトゥング氏は「より安全な自動車実現のために、半導体は大きな役割を果たす。そうしたことを実現するためにロイトリンゲンに研究開発センターを、ドレスデンには半導体とMEMSの研究開発センターを設置する」と述べ、自動車や家電などのイノベーションを実現するための研究開発センターを、ロイトリンゲンとドレスデンに設置すると発表した。

 さらに「ドレスデンの研究開発センターでは半導体とMEMSの研究を進め、2026年にはドレスデンの工場で実際に製造を開始したい」と述べ、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と呼ばれるセンサー、アクチュエイター、電子部品などをシリコン基板などに集積したデバイスを、ドレスデンの工場で2026年から製造を開始すべく研究開発を続けていくと述べた。MEMSは今後自動車での利用が増えていくと考えられているデバイスで、ボッシュがその製造を自社の工場で行なうと発表したことは大きなインパクトがあると言える。また、「ボッシュはすでにシリコン・カーバイトを使うことで、EVの航続距離を6%伸ばすことに成功している。今後それをさらに伸ばし、さらにはノートPCやスマートフォンのACアダプターに採用され始めている窒素ガリウム(GaN)を自動車のバッテリーの高電圧にも耐えるようにして実用化も目指していきたい。そうした研究開発をロイトリンゲンで行なう計画だ」とも説明した。