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HRC 浅木部長にF1のカーボンニュートラルとモータースポーツの将来について聞いた

株式会社ホンダ・レーシング(HRC) 常務取締役 四輪レース開発部 部長 浅木泰昭氏

 F1 ベルギーGPが開催されたスパ・フランコルシャンサーキット。HRC(ホンダ・レーシング) 常務取締役 四輪レース開発部 部長 浅木泰昭氏が来場しており、F1のカーボンニュートラルとモータースポーツの将来について話をうかがうことができた。


浅木氏:カーボンニュートラルをEVで今後実現するとホンダは宣言したわけですが、カーボンニュートラルを達成する方法はEVだけではなく複数の道があるわけです。そこで、EV以外の道を受け持つことが、HRCのサクラの仕事だと思っています。

 そのほかの道の1つとして、カーボンニュートラル燃料の開発をしています。ウイークポイントとしてコストが高い、大量生産に向かないということですが、F1が2026年からカーボンニュートラル燃料の使用+モーター出力の増強というパワーユニット(PU)レギュレーションを発表しました。今後はその流れでないとF1以外のモータースポーツも続けられないと思います。

 そう考えると、世の中の流れもそうですし、ホンダもその流れに乗らなければならないわけです。2輪、国内のスーパーフォミュラ、SUPER GTにしても確実にその方向に進むわけです。

 そこで私は、カーボンニュートラル燃料をサーキットで使う分だけをまず作って、その作る過程で検証しながら、どのようにして安く大量生産ができるのかという実証事件をサーキットでやろうと考えています。

 レギュレーションの変更でモーターの出力も大きくなりました。これは、ホンダにとって垂直離着陸ができる「eVTOL」というドローンの大型版の開発内容と、そのモーターの大きさが非常に近いものがあるんです。

 開発していくバッテリーと超小型、超軽量、超高出力のモーターで空に飛ばすニーズに応えるという、さまざまな未来のモビリティに対応する技術の開発にも、HRCは貢献できるのではないかと思っています。

 これまで内燃機関だけを開発していたときは、サーキットで走る実験室といっても現実の量産とはかけ離れたものになってしまっていましたが、このカーボンニュートラル燃料とモーターの開発においては、今後、本当の意味で走る実験室としてサーキットを使って取り組んでいくと考えています。

 そしてその結果を出すことで、世の中の変化に対してレース&サーキットを使って社会と会社に貢献したいと考えています。今までのようにCO2を出しながらレースを続けることは、許されない時代がそこまで迫っているわけですから。このままではモータースポーツを応援してくれるスポンサーにもソッポを向かれると思いますからね。

 FIAもF1 2026年以降のレギュレーションは、非常にいい反応をしたんだと思います。内容はホンダの目指す方向性と一致しているように見えます。

 HRCというレース会社にF1レース部門を移したのも、これまでレース活動で得た技術を継承していく決断を経営陣がしたということですから、その期待に応える研究開発の中で、2026年以降のカーボンニュース燃料+バッテリーに適合する研究開発は進めています。少し前に発表しているのですが、2021年のF1 PUの燃料の主成分は、実はカーボンニュートラル燃料を使用していました。そういう意味でもホンダは、ほかメーカーに比べても進んでいるのです。


 この最後のお話も含め、F1のカーボンニュートラルを目指すというレギュレーションが、世の中の動きに合致していくような動きであれば、ホンダとして参戦の継続という方向性を見つけられるかもしれない。

 そして、2022年のF1でランキングトップを快走しているのは、レッドブル・パワートレインズという名前の、ホンダが作ったパワーユニットなのです。世界で一番のパワーユニットは、栃木県のサクラで作っているのです。ほかのどの自動車メーカーでも成し得ない高みに、今ホンダはいます。

 このままF1の世界からホンダという存在がなくなってしまっては、これまでの技術者、サプライヤーの苦悩、そして、応援してくれるファンの気持ちを置き去りにしてしまうことになりますし、あまりにもったいない。

 さまざまなハードルは高いと思いますが、僕個人的には、2026年以降の参戦継続に向けて動いていってほしいと切に願います。