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ランボルギーニのサスティナビリティ戦略の実例とは? 水性塗料の採用や端材の再利用、そしてミツバチ観察!?
2022年10月3日 18:47
- 2022年9月21日(現地時間) 開催
サスティナビリティやカーボンニュートラル実現に向けた具体的な活動
アウトモビリ・ランボルギーニ(Automobili Lamborghini S.p.A.)は9月21日(現地時間)、イタリア共和国ボローニャ市にある同社ファクトリーなどで「ランボルギーニ・サステナビリティ・デイズ」を開催した。
ランボルギーニのCEO ステファン・ヴィンケルマン氏はイベント前半に記者説明会を行ない、同社がカーボンニュートラル実現に向けてどのような取り組みを行なっているかなどを説明した。
そして後半では、ヴィンケルマン氏が説明した戦略がどのように実行されているのかを知るための、同社ファクトリー見学会が実施されたが、見学前に参加者には「蜂蜜」の入ったランボルギーニ印の瓶が配られた。「なぜランボルギーニが蜂蜜を生産するのか?」実はそれこそが、“サステナビリティ(持続的成長)”を実現する取り組みの1つだという。いったいそれはどういう意味なのか……。
水性塗料の使用やバイオ燃料で水を沸騰させた熱で塗料を乾かす取り組み
ランボルギーニ ファクトリーのカーボンニュートラルの取り組みは、その上流から始まっている。というのも、自動車の製造というのは、自動車メーカーのファクトリーだけで行なわれるのではなく、サプライヤーと呼ばれる部品メーカー工場での部品の製造、さらにいえばファクトリーへの電力の供給などいった、さまざまな形のサプライヤーがおり、そうした「サプライチェーン」と呼ばれる相互につながっている原材料・部品の調達から組み立てまでの一貫した一連の流れがある。そのすべての流れの中で、カーボンニュートラルを実現していくことが自動車メーカーとしては重要な取り組みとなる。
ランボルギーニにもそうした取り組みを実践していて、サプライチェーンの上流に位置するサプライヤーの取り組みを点数化する仕組みを設けたり、ファクトリーがあるボローニャ近くにはバイオ燃料を製造する協力工場を設置して、そこで製造されたバイオガスを利用して沸かした熱湯をファクトリーに供給する仕組みが採用されている。この熱湯は、後述するウルスの塗装工程において、塗装を乾かす熱源として利用されており、CO2排出を最小限にして塗装を行なえる仕組みに活用されている。
そうしたバイオ燃料の製造工場では、植物に含まれている糖を発酵させてバイオガスを生成する。このバイオガスの工場は、ランボルギーニのファクトリーから数kmの場所にある協力会社の工場にあり、その生成されたバイオガスを燃やして、水を沸騰させて熱湯にし、パイプを通じてランボルギーニの工場に送る仕組みになっている。熱源として利用された水は再びバイオガス工場に戻され、再び沸騰して熱湯になり工場へ戻るという循環システムで、その熱湯はウルスの塗装工場で、塗装を乾かすのに利用されている。
ランボルギーニによれば、他の車種は部品メーカーの工場などで塗装されるが、ウルスだけはファクトリー内の専用塗装ラインで塗装しているという。このウルス用の塗装工場は2018年に開設したもので、ドイツで組み立てられたボディが運ばれてきて塗装される。このため柔軟なラインアップ構成が可能になっており、他の車種に比べるとカラーバリエーションが多いのも特徴となっている。
ランボルギーニの説明員によれば、塗装の工程はまず下塗りとなるさびなどを防ぐための塗装(プライマー)が行なわれ、その上に本塗装と呼ばれるボディ色の塗装が行なわれる。通常のボディカラーであれば最後に保護するための塗装が行なわれて終了になるが、特別色の場合には、それに加えて2層が加えられ4層の塗装になるそうだ。
ウルスの塗料は、従来の方式ではプライマーと本塗装には溶剤塗料が多く使われていたそうだが、今では95%が水性の塗料に変更されているという(クリアに関しては、水性塗料は難しいので溶剤塗料だが、環境に影響を与えにくい特別な塗料を利用している)。この水性塗料を利用するメリットは、言うまでもなく環境への配慮と扱いやすさ(床に落ちた分などの回収と処理が容易であること)だ。
なお、ウルスの塗装工程はほとんどが機械化されており、人間が塗っていた場合と比較すると80%の時間で塗ることが可能になっており、25%ほどエネルギー効率が改善され、さらに必要とすると工場の面積も30%削減することが可能になったという。工場の中をボディが動いていくのも自動で、大きな自動車のボディが、レールの上を流れていく姿は圧巻だ。
もちろん、すべて機械がやっているという訳ではなく、人間の手も入っている。細かな所は人間の目で確認したほうが確実なため、そうした工程では人間が確認して、次の工程にまわす仕組みになっている。
そして塗装を定着させる過程では、先ほど紹介したバイオ燃料で沸かした熱湯が熱源として利用される。そうしてエネルギーのCO2排出削減に配慮しながら、ウルスの塗装は行なわれているのだ。
カーボンファイバーの再利用や、皮革のアップサイクリングなどの取り組みも
そのほかにも、ランボルギーニの工場では、素材のリサイクルやアップサイクリングが行なわれている。リサイクル(再利用)に関しては、カーボンファイバー(炭素繊維)素材の再利用も行なわれている。カーボンファイバーは、自動車のボディの素材に一般的に利用されているアルミニウムや鉄などに比べて、同じ強度であれば薄く軽く作ることが可能になる素材。自動車でよく知られている利用例としてはレーシングカー(F1などのフォーミュラカーなど)のモノコックがある。
ランボルギーニでも、スーパーカー(ウラカンやアヴェンタドールなど)の車体の一部に利用しているが、コストはアルミニウムや鉄よりは高いので、一般的な大衆車にあまり使われることはない。
スーパーカーを製造するランボルギーニでは、カーボンファイバーはおなじみの素材だが、その課題としては一度整形してしまうと、再利用が難しい点にある。カーボンファイバーは熱を加えながら形を整えていくのだが、一度整形した後は別の形に整形し直すのが難しい(だからこそ強度が強いのだが……)。このため、製造時に不良になってしまった部品などの再利用は容易ではない。
そこでランボルギーニでは、このカーボンファイバーのリサイクル方法として、1つには産学連携で協力している外部の大学に寄贈して、研究開発に役立ててもらい、カーボンの形状はそのままにキーホルダーにして販売する、そうした形のリサイクルを行なっていると説明された。
また、ランボルギーニはアップサイクリング(創造的再利用)にも取り組んでいる。自動車の内装に利用されている皮革は、自動車の内装やシートの形に合わせて使われるため、どうしても使われない無駄な部分が出てきてしまう。
従来それは単なるゴミとして捨てていたそうだが、今はその使わない部分の有効利用が考えられており、ランボルギーニロゴ入りのiPhoneケースを作ったり、小銭入れ、トートバッグなどを作成して、顧客へのギフトに利用しているそうだ。
生態調査している蜂が作り出した蜂蜜がランボルギーニ印の瓶に入ってギフトに
最後にランボルギーニのユニークなカーボンニュートラルへの取り組みを紹介して、この記事のまとめとしたい。ここまで紹介してきたランボルギーニのファクトリーから数百m離れた場所に、「ランボルギーニ・パーク」という公園を設置していて、森や池といった自然環境を維持する取り組みも行なっているのだ。
カーボンニュートラルとは、二酸化炭素(CO2)の排出と吸収のバランスが取れていることを意味しているので、二酸化炭素を吸収して酸素として吐き出す光合成を行なってくれる植物を育てることは、その大きな第一歩となる。といっても、人間が経済活動で排出している二酸化炭素を吸収するのは、わずかな植物を育てる程度では追い付かないのも事実で、ランボルギーニとしても、こうした自然環境を構築している程度でカーボンニュートラルが実現されると短絡的に考えている訳ではない。
では、このランボルギーニ・パークで何を行なっているのかといえば、自然の生態系モニタリング事業を、地元大学の研究機関などと共同で行なっており、「その成果をさまざまな形で展開していくことで、地球環境の改善に役立てよう」といったポリシーで運営されている。
このランボルギーニ・パークでは、公園としてランボルギーニの顧客を招待して接待する部分と、完全に人が入れない森を残している部分があり、その森の部分は地元大学研究者が常にモニタリングして、人間の手が入らない自然がどのように再生していっているかなどを研究しているという。
また、ユニークな取り組みとしては「蜂」の生態観測事業がある。いわゆる養蜂(ようほう)と呼ばれる蜂を巣箱に入れ、蜂蜜を収穫するのと同じような取り組みが行なわれており、蜂がどのような生態であるのかを常にモニタリングしているという。実際にその蜂の巣に近づいて、蜂がどのように暮らし、蜂蜜がどのように収穫されているのかなどに関して研究者から説明を受けることができた。
なお、そうして収穫された蜂蜜は、ランボルギーニブランドの蜂蜜として製品化もされている。ただし、外部には販売されておらず、あくまで同社の顧客などへのギフトなどとして利用されているということだった。ランボルギーニの「サステナビリティ」を実現する取り組みを象徴しているのが、まさにその「蜂蜜」の瓶にある、そういっても言いすぎではないだろう。