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豊田章男氏、モータースポーツ愛を語り合う富士スピードウェイホテル開業レセプション 幹事に小林可夢偉選手と千代勝正選手

富士スピードウェイホテル開業レセプションのホストである豊田章男氏(中央)と、幹事の小林可夢偉選手(右)、千代勝正選手(左)

水素カローラも登場した富士スピードウェイホテル開業レセプション

 10月7日、富士スピードウェイに隣接して富士スピードウェイホテルが開業する。すでに関係者や報道向け内覧会が始まっているが、10月5日夕刻に開業レセプションが開催された。

 富士スピードウェイホテルは、トヨタ不動産が開発する「富士モータースポーツフォレスト」の一環としてオープンするプレミアムホテル。ハイアットが運営を行ない、温泉付きホテル「アンバウンド コレクション by Hyatt」として、アクティビティを重視したコンセプトのホテルとなる。

オープニングに水素カローラが登場。サプライズドライバーは千代勝正選手

 レセプションのホストは、トヨタ不動産会長であり、トヨタ自動車社長であり、モリゾウ選手としても知られる豊田章男氏。レセプションの出席者にはあらかじめホストの豊田章男氏から、「この日を『自分がいかにモータースポーツが好きか?』を照れずにみんなで話してみる場にさせていただければと思います」と書かれた招待状が送られており、トヨタや日産、ホンダといったメーカーの垣根を越えた、レース関係者やレースを支援する企業関係者が招かれていた。

 レセプションの冒頭、日本グランプリやレジェンドドライバーの映像が流れた後、独特の排気音を奏でて水素カローラが登場。この日の夕刻は雨となっており、雨が降りしきる中を水蒸気のみを排気する水素エンジン車が登場するという演出になっていた。

 当然、水素カローラからはモリゾウ選手が登場すると思われたが、モリゾウ選手ではなく豊田章男氏がレセプションルームの壇上に登場。レセプション開始にあたってのあいさつを述べた。

 豊田章男氏の誕生日は5月3日。7歳の誕生日は鈴鹿サーキットの第1回日本グランプリ、10歳の誕生日は富士スピードウェイ初開催の第3回日本グランプリのパドックで迎えている。それがクルマ好きの原点と紹介しつつ、現在はモリゾウ選手として、トヨタ自動車社長として、自工会会長として、そしてFIA評議委員として、4つの顔をすべて使ってモータースポーツへの恩返しを行なっていきたいという。ただし、自分はあくまでもサポート役であり、本当にモータースポーツを守っていくのは、現役のみなさんと語り、今回のレセプションの幹事役は小林可夢偉選手にお願いしたと、可夢偉選手を紹介した。

 小林可夢偉選手は、ドライバーを兼任しつつ今シーズンからトヨタWECチームの代表に就任している。壇上に上がった可夢偉選手は、このレセプションを未来にしっかりつなげるものにしたいとあいさつし、水素カローラを運転したサプライズドライバーを共同幹事として紹介した。

 登場したドライバーは、GT500において3号車CRAFTSPORTS MOTUL Zで参戦中の千代勝正選手。ライバルチームのドライバーが、レセプションのオープニングを飾ったほか、日産系ドライバーが開発中の水素カローラのステアリングを握ったことになる。

 この千代選手の起用について可夢偉選手は、千代選手が同い年であり声がかけやすかったこと、会社を越えてレセプションを盛り上げたかったことを挙げていた。サプライズドライバーとして登場した千代選手は、可夢偉選手からのオファーそのものが驚きだったことを語ったほか、日産モータースポーツ&カスタマイズの片桐隆夫社長の後押しがあったことを明かしていた。

モータースポーツ愛と音にこだわったレセプション

星野一義氏(右)はノリノリ。クイズも真っ先に当てていた

 レセプションでは、レジェンドドライバーである星野一義氏、中嶋悟氏、舘信秀氏、関谷正徳氏などへのインタビュー企画などが行なわれたほか、モータースポーツ愛を語る、爆音にこだわるというコンセプトもあって、ギタリストの岡聡志(@sam_guitars)氏がゲストとして登場した。

中嶋悟氏(中央)、大湯都史樹選手(中央右)、HRC 稲葉隻氏(中央左)らとのインタビュートーク

 岡氏はエンジンサウンドをギターで再現するギタリストとして知られており、SUPER GT 公式応援団ギタリストとしてイベントステージなどへ出演もある。

 レセプションでは岡氏が参加者に見えないようにしたインカービデオに合わせてエンジンサウンドを生演奏。その音で走行するドライバーは誰か?サーキットはどこか?クルマはなにか?など、3つの問題が出された。

これぞ神ワザ!?エンジンサウンドマニアに捧げる!SUPER GT エンジン音の匠(たくみ)~ 番外編 ~ SUPER GT 公式応援団ギタリスト登場‼第二弾!!

 インタビュー企画、エンジンサウンド企画のいずれにもノリノリだったのが星野一義氏。インタビュー企画では「カラオケ歌おうか?」など場を盛り上げ、エンジンサウンド企画では早押しクイズではないのに、すぐに解答。日本一速い男の異名どおり、とにかく全力で企画を楽しんでいた。

 とくに星野氏のすごさが際立ったのは、エンジンサウンド企画。岡氏のギュイーン、ギュイーンという音が切り替わるタイミングを聞き分け、その間隔があることからミッションのギヤ比が離れていることを理解。富士スピードウェイと真っ先に答えていた。また、最後の問題ではシフトタイミングがHパターンであることを真っ先に発言。正解は水素カローラのオートポリス走行(モリゾウ選手)だったのだが、星野氏のギヤ比に対する感性には驚いたしだいだ。岡氏のエンジンサウンド再現度もすごかったが、星野氏の即答(とノリノリ発言)に、モータースポーツを見るときにもっと音に注目してみようと改めて思った。

 ちなみに記者のテーブルには平川亮選手がおり、平川選手もすぐにぼそっと「千代選手」と正解を解答していた。平川選手に「なぜ分かるんですか?」と聞いたところ、「分かりますよ」という答えが返ってきた。遠くのテーブルでノリノリ発言をしている星野氏と、目の前でぼそっと正解を答えている平川選手のコントラストも楽しかった。

水素コンロでの料理

水素コンロでの料理を提供

 レセプションでは富士スピードウェイホテルならではの料理も出たのだが、そのハイライトとなったのが和牛のグリル料理だ。お肉を厨房で焼いていたのだが、そのコンロに水素コンロが使われていた。これは10月4日にトヨタからリリースが出ていた、「リンナイとトヨタ、調理時にCO2を排出しない水素調理の共同開発」というコンロそのもので、ウーブン・プラネットが実証実験を行なっていくものだ。

 このレセプションに合わせて、トヨタ自動車とウーブンで作り上げ、水素を厨房に引き込んでおり、水素で料理するという発想に驚くとともに、すでに水素コンロが動いているのには驚愕した。

意外とできあがっている水素コンロ。右下に「Hydrogen Grilled」の文字が読み取れる

 ホテルの料理長によると、水素コンロは火力も強く、燃える際に水蒸気しか出ないためお肉がジューシーに仕上がるという。記者のテーブルにはウーブンのシニア・バイス・プレジデントである豊田大輔氏がおり、この水素コンロについて聞いてみると、「レース場で出るCO2ですが、1%はサーキットのレース中のクルマから出ています。99%は人のサーキットへの移動、サーキットからの移動とパドック内などの活動において出ています。カーボンニュートラル社会を迎えるには、この99%をどう抑えるかがポイントになります」とのこと。ウーブンでは水素カートリッジなども導入しようとしているが、この水素コンロも実証実験を行なうことで、カーボンニュートラル社会へ向けたデータを集めていく。

 レセプションは豊田章男社長のあいさつで中締め、その後、富士モータースポーツミュージアムにて記念写真撮影などが行なわれていた。

レセプション後、富士モータースポーツミュージアムの壁に参加者がサイン。横浜ゴム社長 山石昌孝氏(中央)、近藤真彦監督(左)、坂東正敬監督(右)は、タイミングを合わせてサインをしていた。ミュージアムに行った際は探してみてほしい

豊田章男社長、中締めの言葉

 昨年、「五輪で許されても、4輪・2輪はなぜですか?」と言いましたけど、本来世の中でリンと数えるのはタイヤと花だけなのです。普通の草花は1本、2本と数えますけど、これが花が咲くと一把、二把、輪(リン)とも呼びます。そしてモータースポーツは、四輪、つまり花がある世界だと思います。

 その花となるべき方々というのは、今日ここにお集まりいただきましたチームオーナー、そしてドライバー、メカニック、エンジニア、レースクイーン、クルマ、バイクを作ってる人たち。たくさん集まると大輪の花になりますが、ファンは花を見にまいります。

 また、輪はワ(和)とも呼びます。ぜひ、個性ある花も集まる輪(ワ)となり仲間になる。こんな決起大会になったらよかったな、という風に思っております。

 本当にお忙しい中、みなさまお集まりいただきました。レース場ではみなさまライバルとして戦い合ってるのでこういったコミュニケーションができていなかったと思いますけど、ぜひともこれを機会に、戦うときは戦う、しかしながら一緒にレース業界を盛り上げる。

 ときにはぜひ花となって、みなさまのお力で大きな花を咲かしたいと思います。ここ富士スピードウェイも今は変革が始まり、1本ずつ木を植えております。この場所はモーターフォレスト、森と命名させていただいております。

 今は1本1本の木であります。ちょうど今日のこのパーティーのようだと思います。しかしながら、それが大きな森になるためには、やはりみなさまの情熱を持った行動がきっと未来の姿を変えると思います。みなさまへのお礼と、今日友人になれたことを記念して、お礼のあいさつにかえさせていただきます。本当にみなさま、今日はご参加いただきましてありがとうございました。

未来につながるレセプションにしたかったと可夢偉選手

 豊田章男氏の中締めのあいさつは、モータースポーツをみんなとともに未来へ進めていくという決意のこもったものだった。モータースポーツを花(華)と位置づけ、その華が育つ土壌として自分はフォレストを耕していく決意を感じた。ホテルを誘致し、ミュージアムを作り、メカニックがかっこよく見えるルーキーレーシングのガレージを作り、さらに各チームが集うエリアを作り上げようとしている。

 章男氏自身、第1回日本グランプリや第3回日本グランプリをパドックから誕生日に見て育つというプロのモータースポーツ好きであり、深い洞察の結果100年に一度という自動車の変革期を実証するものとしてモータースポーツを位置づけようとしているのがその行動から分かる。とくにモータースポーツを華と位置づけたのは、世阿弥の風姿花伝(花伝書)に通じるものもあり、章男氏の考え方がうかがえる部分だった。

 レセプション後、幹事を務めた小林可夢偉選手に企画意図を聞いたところ、「やっぱりもっと未来につながることをしたい、ということでこういう企画にさせていただいた」と語り、普段はライバルであるものの、メーカーの壁を越えたいという思いがあって千代選手にオープニングドライバーを頼んだとのこと。千代選手のすごさは「パッと来て、トヨタのチームのドライバーと普通に話せること」と、人間力の高さにあるという。千代選手も可夢偉選手と同様に国際レース経験の豊富なドライバーであり、その辺りも起用の背景にあるのだろう。

 サプライズドライバーとして登場した千代選手にも水素カローラの感想について聞いてみた。千代選手は、「開発中のクルマに、別のメーカーのクルマに乗るなんて絶対あり得ない。それをさせてもらったことにすごい感謝です。エンジンのフィーリング、吹き上がりとか伝わってくるものがある。振動とかは本当にそう。レシプロエンジンのフィーリングが残っていて、しっかりクラッチをつないで。これで水蒸気しか出ないというのがすごい不思議な感覚」と、水素エンジンの第一印象を語る。

「今日は、トヨタさんだけでなく、ホンダさんだけでなく、日産だけでなく、みんなで未来につなげていこうというのがあった。それが可夢偉の思いでもあり、一緒にやりたいねと。未来につなげるための決起大会になったのがすごくよかった」と、千代選手は語った。