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住友ゴム、水素エネルギーを活用したタイヤ製造お披露目会 「得られた水素技術の知見は幅広く提供したい」と山本悟社長

2023年4月18日 開催

左からNEDO 大平英二氏、住友ゴム工業株式会社 山本悟社長、AIST 古谷博秀氏。そして製造時カーボンニュートラルを実現した量産タイヤ、ファルケン「アゼニスFK520」

 住友ゴム工業は4月18日、今年1月に福島県にある白河工場にて、水素エネルギーと太陽光発電を活用し、日本初となる「製造時(Scope1&2)カーボンニュートラル」を実現したファルケンブランドの量産タイヤ「アゼニス FK520」の製造工程のお披露目会を実施した。

 お披露目会前の説明会では、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)のスマートコミュニティ・エネルギーシステム部 燃料電池・水素室 ストラテジーアーキテクトの大平英二氏が登壇し、水素エネルギーは現在、世界20か国以上で使用されていて、20か国以上が使用するための準備段階にあると紹介。また、日本国内は世界に先駆けて2017年12月に「水素基本戦略」を作っているが、2023年4月に岸田総理から改定指示が出され、2030年には水素製造装置の国内外への導入や、2040年には水素の利用量を今の6倍の1200万t程度に引き上げることなどチャレンジングな目標を掲げていることや、同時に経済産業省・資源エネルギー庁では、環境対策だけでなく日本の経済をけん引していくための「水素産業戦略」の構想も始まっていると説明した。

 また、産業の発電部門におけるCO2排出量はおよそ全体の4割となっていて、正解は1つではないものの、カーボンニュートラル実現のためには水素の活用は非常に大きいと捉えているのが世界の一致した見解となっており、水素は輸入だけでなく新たなシステムを作って国内で製造していくことも重要であり、今回住友ゴム工業が取り組んでいることは非常に意義があると解説した。

NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)のスマートコミュニティ・エネルギーシステム部 燃料電池・水素室 ストラテジーアーキテクトの大平英二氏

 続いてAIST(国立研究開発法人産業技術総合研究所)からは、研究戦略企画部 次長 プロジェクトマネージャー カーボンニュートラル担当 兼 福島再生可能エネルギー研究所 所長代理の古谷博秀氏が登壇。「タイヤをカーボンニュートラルで製造するのはとても難しいことだと思っているが、難しいからこそチャレンジする価値がある。今は世界中でカーボンニュートラルの実現を掲げているが、どのように実現していくのかが課題で、水素の重要性はヨーロッパでも高まっているし、米国では10年以内に水素1Kgを1ドルにすると目標を掲げていて、日本ではまだこの倍の価格帯が目標なので、かなり高いハードルを掲げ、国を挙げて水素エネルギーの開発を推進している。日本は水素エネルギー開発に関しては先進国だったが、ここ数年で追い付かれはじめている」と語る。

 また、「カーボンニュートラルはどこか一部で実現しても意味がなく、トータルで実現する必要があるものの、工業では熱を必要とすることが多いため、どうしても燃料を使う行程がある。今回住友ゴム工業がこういったチャレンジをするという話が出たころから立ち会ってきたが、水素エネルギーを活用することで、カーボンニュートラルを実現したタイヤをいち早く製造したのは、福島県や日本が世界に誇れることだと思います」と自身が関わってきたことも含めて思いを述べた。

AIST(国立研究開発法人産業技術総合研究所) 研究戦略企画部 次長 プロジェクトマネージャー カーボンニュートラル担当 兼 福島再生可能エネルギー研究所 所長代理の古谷博秀氏

水素エネルギーの活用技術は幅広く提供していく方針

 一方、住友ゴム工業 山本悟代表取締役社長は、世界的なカーボンニュートラルへのシフトや環境の変化に加え、CASEやMaaSの発展によりモビリティ社会でも急速な変革が起きているなかで、SDGsを推進しながら事業を通じて環境問題や社会課題の解決を目指し、持続可能な社会の実現に取り組んできたと説明。

 具体的には2021年9月に、2050年を見越した長期視点での方針・計画「サステナビリティ長期方針」を打ち立て、工場からのCO2排出量をグローバルグループ全体で2030年までに50%まで削減、2050年には100%達成を目指すと公表すると同時に、天然ガスの代わりに水素を活用した実証実験を進めてきたこと、2023年3月には独自サーキュラーエコノミー構想「TOWANOWA」を発表するなど、日々取り組みを発展させていると紹介した。

外部環境の変化と住友ゴム工業の取り組み
住友ゴム工業独自の循環型構想
カーボンニュートラルへの取り組み

 タイヤ製造段階でのカーボンニュートラル実現について山本氏は、「タイヤ製造で使用するエネルギーは電力と天然ガスの2種類があり、電力については省エネルギーの推進、コージェネレーションシステムの拡大、太陽光発電の導入、再生可能エネルギー由来のグリーン電力の調達を軸にCO2削減を実現してきた。しかし、熱と圧力を加えてタイヤを仕上げる『加硫工程』で求められる蒸気は、温度や圧力の高さから電力に置き換えることが難しく、化石燃料である天然ガスを使用していて、ここのエネルギー転換が課題だった。そこで代替エネルギーを検討した結果、燃焼してもCO2を排出しない『水素』に辿り着いた。そして本格的な実用に向けて知見をいち早く集積するために2021年8月から白河工場で実証実験を開始した」と振り返る。

住友ゴム工業株式会社 代表取締役社長 山本悟氏

 実証実験は、2012年に完成したという白河工場内にあるコンパクトな製造工程で高性能なタイヤ作りを可能にする高精度メタルコア製造システム「NEO-T01」で行なっていて、蒸気を発生させるエネルギーを水素に置き換え、電力は従業員用駐車場に屋根を新設し、その上に太陽光発電パネルを敷き詰めている。すでに「NEO-T01」を稼働させる以上の発電量があるという。

 また、白河工場のある福島県は、2040年までの再生可能エネルギー100%化を目標に掲げるほか、白河市も2050年までにCO2排出量を実質ゼロにする「ゼロカーボンシティ」を宣言するなど、再生可能エネルギー先進県の1つで、今回の実証実験では福島県内における「水素の地産地消モデル」の構築も目指しているという。

 さらに、水素社会の実現に向けた実装モデル確立は単独では難しく、産学官の連携が必須で、関係するメーカーと積極的に情報交換を進めつつ、教育機関や研究機関からも学術的見地からのアドバイスをもらうため、講演会を通じた情報収集も行なうと説明した。実証実験は2024年2月頃まで続け、成果として得られた水素エネルギーの地産地消のスキームは1つのモデルケースとして、自動車業界だけでなく幅広く提供する考えであると締めくくった。

タイヤ製造における使用エネルギー
水素エネルギーの地産地消モデル
産学官連携の取り組み
水素エネルギー実証実験計画

白河工場は住友ゴムグループのフラグシップ工場

 最後は住友ゴム工業 執行役員 タイヤ生産本部長 斎藤健司氏が登壇し白河工場の解説を行なった。

 住友ゴム工業の国内製造拠点は、タイヤが4工場、スポーツが2工場、産業品が2工場あり、白河工場は1974年操業と約50年の歴史を持ち、敷地面積は60万m 2 と東京ドームおよそ13個分、従業員1600名を超える国内最大級の工場。建設当時の昭和40年代、日本では公害が大きな社会問題となっていたこともあり、「自然との調和」「公害を出さない」「地域との密着」というスローガンを掲げ、地域に愛される工場を目指して活動しているという。

住友ゴム工業株式会社 執行役員 タイヤ生産本部長 斎藤健司氏

 フラグシップ工場として高性能車両用タイヤを製造するほか、その技術を生かして市販乗用車、トラック、バス用のタイヤも製造。また、スタッドレスタイヤの中心的な製造拠点も兼ねているという。さらに今回のお披露目会の主役である製造時カーボンニュートラルを実現したタイヤを製造する高精度メタルコア製造システム「NEO-T01」があるのも、ここ白河工場となる。

住友ゴムグループ工場所在地
白河工場について
白河工場で生産している代表的なタイヤ
社会貢献活動
社会貢献に関する受賞歴
タイヤ製造のカーボンニュートラル化に向けた取り組み

 実証実験では、水素ボイラーを導入した際の課題となるNOx(窒素酸化物)排出量のコントロールを始めとした24時間連続運転における課題の抽出と対策を行なうことで、生産エネルギーを水素に転換していくことの有効性を評価するという。また、併せて実証実験後の水素需要拡大を見据え、再生可能エネルギー由来の電力からの水素製造、カーボンフリー水素調達の検討も行ない、タイヤのライフサイクルを通じたCO2排出量の極小化を図るとしている。

 水素は白河工場内にある高精度メタルコア製造システム「NEO-T01」の加硫工程に必要となる水蒸気の発生に利用していて、住友ゴム工業では水素自体も福島県内の企業から供給を受け、地産地消モデルの構築を進めているという。

白河工場へ水素を運ぶ専用トレーラー