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ホンダ、開発中の「電動フラグシップスポーツ」にF1技術投入も 三部社長「F1がホンダの目指すカーボンニュートラルの方向性と合致」

2023年5月24日 発表

左から株式会社ホンダ・レーシング 代表取締役社長 渡辺康治氏、本田技研工業株式会社 取締役 代表執行役社長 三部敏宏氏、アストンマーティン・アラムコ・コグニザント・フォーミュラ・ワン・チーム 会長 ローレンス・ストロール氏、アストンマーティン・パフォーマンス・テクノロジーズ・グループCEO マーティン・ウィットマーシュ氏

 本田技研工業は5月24日11時、Hondaウエルカムプラザ青山で記者会見を行ない、2026年からアストンマーティン・アラムコ・コグニザント・フォーミュラ・ワン・チームにパワーユニットを供給し、FIA フォーミュラ・ワン世界選手権に参戦することを明らかにした。

 記者会見にはホンダから本田技研工業 取締役 代表執行役社長 三部敏宏氏、ホンダ・レーシング 代表取締役社長 渡辺康治氏が参加し、アストンマーティンF1からはアストンマーティン・アラムコ・コグニザント・フォーミュラ・ワン・チーム 会長 ローレンス・ストロール氏、アストンマーティン・パフォーマンス・テクノロジーズ・グループCEO マーティン・ウィットマーシュ氏の4名が参加し、今回の提携に至った経緯など説明が行なわれた。

カーボンニュートラルを実現するというホンダの方向性と、F1の方向性が再び同じになったのが復帰を決めた理由

本田技研工業株式会社 取締役 代表執行役社長 三部敏宏氏

 会見の冒頭に登壇した本田技研工業 取締役 代表執行役社長 三部敏宏氏は、「先週末にエミリア ロマーニャGPが行なわれるはずだったイモラは洪水に見舞われて中止になった。現地のみなさまに心よりお見舞い申し上げたい。そして今後再びイモラでF1を見る日が来ることを楽しみにしている」と述べ、洪水被害が発生したことにより直前にキャンセルになったイモラ・サーキットや現地の被災者などに対するお見舞いの言葉から会見をスタートした。「今回の会見はそのF1に関する話題だ。ホンダは2026年よりパワーユニットサプライヤーとしてF1に参戦する」と述べ、2026年からパワーユニットを供給するという形でF1に再参戦すると明らかにした。

 三部氏は「ホンダは技術でナンバーワンを目指してきた企業で、そのホンダがモータースポーツに参戦する意味は人と技術を育てることにあり、そうして磨き上げた技術を量産車にフィードバックしていくことだ。MotoGPやF1という世界最高峰のレースは、技術者の取り組み姿勢も最高レベルが求められるからだ。そうしたF1挑戦だが、21年に1度終了したことはみなさまもご存じのとおりだ。それは我々が目標として掲げている2050年でのカーボンニュートラル実現に集中するためだった。」と述べ、カーボンニュートラルを実現するために、F1活動は2021年を持って終了したことを振り返った。

 ただ、よく知られているように、その後はRBPT(レッドブル・パワートレインズ)というレッドブルの子会社にパワーユニットを供給する形で、技術的な関与は続けられている。今シーズンはHonda RBPT(ホンダ・レッドブル・パワートレインズ)という製造者名でレッドブルに対してパワーユニットの供給自体は続いており、ホンダの関与は続いていたが、ホンダとしては参戦していないという形になっていた。

本田技研工業株式会社 取締役 代表執行役社長 三部敏宏氏

 三部氏は「我々が撤退を決めた後、F1自体の環境も変わってきた。26年からはカーボンニュートラル燃料を使うことが決まっているし、電動化率も現在の8:2から5:5になり、1000馬力のパワーユニットであれば内燃機関が500馬力、モーターが500馬力となり、大電力と高性能バッテリが勝利の鍵となる。それにより電動フラグシップスポーツカーや電動車の開発競争などにいい影響を与えられると考えられる。つまり今後はF1がカーボンニュートラルを実現する開発を行なうプラットフォームになりうる、それがF1参戦を決めた大きな理由になった。そうしたこともあり若いエンジニアからも、私どもの技術の高さを証明するためにF1に参戦したいと言う声が上がってきていた。そうした人材育成面での評価からも、新しいレギュレーションが導入される2026年からパワーユニットサプライヤーとして参戦することを決めた」と、カーボンニュートラルに参戦するためにF1撤退を決めたホンダだが、今回はその逆にカーボンニュートラルを実現するためにF1に参戦するのだと説明した。

 そして「21年の撤退を決めたときにはファンのみなさまからも厳しいご意見をうかがった。そうした気持ちを裏切らないためにも、今後は持続可能な形で参戦することが重要だと考え、26年以降の参戦体制も従来とは変えていっている。今回のF1参戦は子会社のHRCをF1活動も母体とする。26年以降はパワーユニットの開発にもコストキャップ制が設けられ、長期的に継続する参戦が容易になる。もちろん26年以降はさまざまなメーカーが参戦するため、今よりも競争は激しくなるが、HRCを中心に技術を研ぎ澄まして勝ち抜いていく」と厳しい競争を戦い抜く強い意志を明らかにした。

アストンマーティンのストロール会長は、ホンダが残した実績を評価し、ホンダを選んだと強調

本田技研工業株式会社 取締役 代表執行役社長 三部敏宏氏(左)とアストンマーティン・アラムコ・コグニザント・フォーミュラ・ワン・チーム 会長 ローレンス・ストロール氏

 三部氏はそうした2026年からのF1参戦に向けてワークス体制でのパートナーとして選ばれたのがアストンマーティンF1だと発表した。アストンマーティンF1は、カナダの大富豪で同チームのドライバーの1人であるランス・ストロール選手の父親としても知られるローレンス・ストロール氏が、2018年にフォースインディアF1が破産したときに買い取ってレーシング・ポイントとして活動し、2021年から現在のアストンマーティンF1チームに改称されている。これはストロール氏がイギリスの自動車メーカーであるアストンマーティンを買収したことに伴う措置になる。

 といっても、自動車メーカーのアストンマーティンとは完全に別組織で、そもそも同チームの源流をたどれば、1991年に設立されたジョーダンGPにたどりつく。ホンダはこのジョーダンGPとパートナーとして参戦していた時期もあり、1998年~2000年は無限ホンダとして、2001年~2002年はホンダとしてエンジンを供給しており、1998年には1勝、1999年には2勝を挙げるなどしている。2002年は後にインディ500で2勝を挙げる佐藤琢磨選手がジョーダン・ホンダをドライブするなど、オールドF1ファンにとっては懐かしい名前ではないだろうか。それから20年以上が経過し、2026年からはアストンマーティン・ホンダとして参戦するのが今回の発表となる。

アストンマーティン・アラムコ・コグニザント・フォーミュラ・ワン・チーム 会長 ローレンス・ストロール氏

 そのアストンマーティンF1のチームオーナーであり、アストンマーティン 会長でもあるローレンス・ストロール氏も会見に登場し「ホンダは6つのドライバータイトル、6つのコンストラクタータイトルに輝く実績を残している。ホンダがアストンマーティンF1に可能性を感じてくれて、我々を選んでくれたことを喜んでいる。みなさんもご存じのとおり、アストンマーティンF1は急速に進歩しており、我々にとってホンダとのパートナーシップは(世界王者になるための)最後のピースであると考えている。2026年に新レギュレーションが導入されることで、F1は一度リセットになる。その時にホンダの経験が生きてくると考えている。そして21年、22年がどうだったかはみなさんがご存じのとおりだ。2つの偉大な企業が力を合わせて前に進み、成功を収めることを期待している」と述べ、ホンダの実績が提携を決めた鍵だったと強調した。

2026年からはパワーユニットの開発にもコストキャップ制。持続可能なF1参戦を目指す

質疑応答の様子、左から株式会社ホンダ・レーシング 代表取締役社長 渡辺康治氏、本田技研工業株式会社 取締役 代表執行役社長 三部敏宏氏、アストンマーティン・パフォーマンス・テクノロジーズ・グループCEO マーティン・ウィットマーシュ氏

 冒頭でホンダの三部社長、アストンマーティンのストロール会長のスピーチが行なわれたあと、ホンダのレース専門子会社となる株式会社ホンダ・レーシング 代表取締役社長 渡辺康治氏、アストンマーティンやF1チームの技術開発を担当するアストンマーティン・パフォーマンス・テクノロジーズ・グループCEO マーティン・ウィットマーシュ氏などが参加して、質疑応答が行なわれた。以下はその模様になる。

──ホンダはこれまでもF1に参戦、撤退を繰り返してきたが、2021年に撤退を決めたときにも(今後のカーボンニュートラルを実現する)市販車とのつながりがなかったというのが大きかったと思うが、アストンマーティンと量産車などでの提携はあるのか?

三部氏:今回はレースに限った話で量産の話はしていない。ホンダは内燃機関で頂点をきわめたと自負しているが、今後は電動の比率が高くなる中で電動化のパワーユニットでも頂点であるべきだと考えている。例えばフラグシップのスポーツカーはダイレクトにF1の技術が使えるのではないかと考えており、電動化時代の量販車にもF1由来の技術を使っていきたい。アストンマーティンとはレースはレース、量産は量産と考えている。

──HRC渡辺社長は20年の撤退を決めたときの会見も、今回の参戦の会見にも参加しているが今の気持ちを教えてほしい

渡辺氏:非常にうれしく思っている。HRCは昨年の4月にモータースポーツ専門の企業として立ち上がった。持続的にモータースポーツに関わり、ホンダのブランドイメージ向上にも貢献していきたい。F1も同じ方向に向いており、26年からはカーボンニュートラル燃料100%で、電動化の比率が5割に引き上げられる。そうした中で、新しい燃料に関しても積極的に取り組んでいきたい。

──事業としてF1を見ると、F1の関連投資、4桁億円とされているが、F1参戦の持続可能の中で、F1関連投資、費用対効果、KPIを提示する計画などはあるか?

本田技研工業株式会社 取締役 代表執行役社長 三部敏宏氏

三部氏:開発にお金がかかるのは事実だ。しかし、26年からはコストキャップ制がパワーユニットにも導入されるため、ある一定以上のコストはかけられなくなる。ただ、そうして開発した技術もレースにしか使えないというものでもない。例えばカーボンニュートラル燃料はeVTOL(垂直離着陸機)などにも応用ができるし、どこまでがレースだけで、どこからがそうでないのかを計算するのは難しい。KPIなど具体的な数値の形で表に出すかどうかはまだ決めていないが、事業性も加味しながらやっていく。大事なことは継続的にレース活動をしていくことで、その時に必要以上にコストをかけないことは重要になってくるので、そこはしっかりやっていきたい。

──ウィットマーシュ氏に、マクラーレンとホンダと契約したが、それから10年見ていて、今のホンダと当時のホンダは何か?(10年前に同じ会場で行なわれたホンダがマクラーレンにパワーユニットを供給するという会見に、当時マクラーレンF1の代表だったウィットマーシュ氏は参加していた)。

ウィットマーシュ氏:ホンダが非常に強力な企業であることは、過去に何度も一緒に仕事をしたことがあるのでよく知っている。10年前も契約したときには私も居たのだが、ホンダがF1に戻ってきたときには(すでにマクラーレンF1チーム代表を退任していたので)私はもういなかったので、どんな状況だったのかは分からないが、両者ともに成功を収められなかったのは残念だったと思っている。しかし、21年、22年、そして本年に入ってもそうだが、ホンダが残した記録は非常に素晴らしいものだ。我々とのパートナーシップでもホンダのそうした経験が活かされることを期待している。

──2026年までずっといるかどうかは分からないが、過去にマクラーレンとの提携時代に「GP2エンジン」といった発言などが問題になったフェルナンド・アロンソ選手がアストンマーティンF1のエースドライバーになっている。それは障害にはならないのか? そうしたことは基本的にはチーム任せという理解でよいか?

三部氏:過去の話は過去の話として捉えている。アロンソ選手は天才的なドライバーで尊敬している。26年にどうなるのかは、ドライバーに関してどうかは今の時点ではなんとも言えないし、そのあたりはチームにお願いしたいと考えている。ただし、ワークス体制で臨むので、車体側からの要求仕様などを取り入れながら、車体にあったエンジン設計を行なっていく、両者で協力してハイポテンシャルなクルマにしていく。

渡辺氏:苦しい時期を一緒に過ごしたけれど、結果、我々も努力してPUとして世界タイトルを獲ることができた。アロンソ選手はレベルの高い選手でリスペクトしている。ドライバー戦略はこれまで同様、最終的な決定権はチーム側という形となる。もちろん、我々がバックアップしている日本人ドライバーもいるし、HRSのようなスクールもあるので、そうしたドライバーにはこれからもチャレンジしていただいて、26年のドライバー候補になっていただけるとうれしいと思う。

──F1参戦を決めた理由はeVTOLやスポーツカーに影響があるというお話しをしていたが、F1開発から量産へ知見を伝えていく仕組みはどうなっているのか?

三部氏:F1の開発体制はHRC主体でやっていく、要素技術としては高出力なバッテリを作っていく。そのために基礎的な技術はHRD(本田技術研究所)が技術を持っている。HRDのパワーユニットのセンター長である武石が、HRCの常務も兼ねている。人でつなぎながら、モビリティの開発は進めていきたい。

──アストンマーティン側がホンダを選んだ理由は分かったが、ホンダはなぜアストンマーティンを選んだのか?

渡辺氏:昨年の11月に製造者登録をした後それがオープンになり、複数のチームと今後の議論をした、その中の一つにアストンマーティンF1があった。いろいろな議論をさせていただくなかで、チャンピオンへの情熱が強く感じた。また、私も新しいファクトリーにいって中を見せてもらった、いろいろな人やものを見ながら着実にステップアップしていく気概を感じた。先方も我々のPUに高い評価をしていただいているが、我々も彼らを高い評価をしていることがその理由だ。

──ホンダのF1活動は、ブランディングやマーケティングは重視していないように見えているが?

渡辺氏:耳が痛いお話しだが、今後はしっかりとMS活動を通じてブランドを高めていくと考えている。われわれ自身も、不十分だと認識しており、今後アストンマーティンと組みながらしっかりとマーケティングもしていきたい。

三部氏:北米においてF1人気が急速に高まっており、北米地域で5戦もある。これまでアメリカではF1に対してあまり興味を示してもらえなかったため、あまりうまく使えなかったというのは事実だが、今後はわれわれの主要市場の一つである北米でのマーケティングブランディングに最大限使っていこうと考えている。

──本格的な開発開始はいつからか?また、カーボンニュートラル燃料について、燃料をどこから調達するのか?

渡辺氏:開発は昨年の8月に26年のレギュレーションが決まっており、すでに要素研究を始めている。エンジン側、電動側をバラバラに開発しており、それを一つのPUにするのが次の段階で、そこまでには開発を強化していく。カーボンニュートラル燃料に関してはアストンマーティンF1側のパートナーとなるアラムコと一緒にやることになる。アラムコと速やかにテクニカルワークショップを設けてやっていく必要がある。

三部氏:第4期の時代、初期はまったく勝てなかった時期が数年あった。第3期から第4期の7年間、研究開発を止めていたことがその大きな要因になっていた。第4期は7年前の技術から始めたため、そこからリカバリーに時間がかかった。今回は、要素技術研究はずっと続けてきた。要素技術にすると研究のコストは低いためだ。昨年の末に製造者登録をしないと作れないということになるということで、登録だけしていた。その当時は参戦するとか話をしていなかったのだが、それからいろいろなチームから話がきて、26年本当にやるのかということを議論した。結局いいお話しをいただいて、アストンマーティンの熱意や考え方が同じということで本日の発表に至った。26年からはゼロからのスタートではないので、勝てるようなポテンシャルでやっていきたいと考えている。

──アストンとホンダの契約が正式にまとまったのはいつなのか?

渡辺氏:正式には先月にまとまった。

──F1の技術が高性能車に活かせる、量産車でもタッグを組んでということはあるのか?

三部氏:今回はレースに限って話をしてきた、今後も可能性としてはないということはないが、まずはレースに集中していい結果を出すことが大事だ。量産に関しては別の席で話しをする必要があればするかもしれないが、今回の提携には量産の話は入っていない。

──カーボンニュートラル燃料について聞きたい。潮目が変わってきたなという印象がある。EUではエンジン車でもカーボンニュートラル燃料を使えば新車販売できるようになりつつある。ホンダは40年までにEVとFCVで100%を表明しているが、エンジン車の投入などもあるのか?

三部氏:発表してきたように電動化にかじを切る。内燃機関を残していく可能性は今の時点ではない。カーボンニュートラル燃料は、航空機の燃料やeVTOLにもガスタービンがついているので研究をしている。しかし、道路を走っている個人の保有車という観点ではEフューエルという選択肢を考えておく必要があると考えている。

 カーボンニュートラル燃料の課題はコストだが、例えばスポーツカーを趣味で持っている人は週末に少し走らせる程度だろうから、燃料のコストはそれほど大きな問題ではない。しかし、経済的合理性で考えれば、大多数にはならないだろうと考えている。いずれにせよ代替がない場合にはカーボンニュートラル燃料は意味があるだろうと考えており、F1でもアラムコと知見を合わせながら取り組んで行きたい。

アストンマーティンのウィットマーシュ氏、「角田選手は考えないといけないドライバー候補の1人」

株式会社ホンダ・レーシング 代表取締役社長 渡辺康治氏

──今シーズンの角田裕毅選手は、非常に安定した結果を出しており、欧州での評価も高まっている。2026年からということで気が早い話だが、彼がこの新しいアストンマーティン・ホンダのドライバーになる可能性は?

渡辺氏:今の段階ではどうこう言えるタイミングではないが、そこに絡んでくれるとうれしいなと思っている。ただし、最終的にそれを決めるのはチームだというのが我々の姿勢だ。

ウィットマーシュ氏:彼の本年の活躍は非常に印象的だ。彼はまだ若く経験だってそう多くないのに、賞賛すべき結果を残していると思う。ホンダにとってもアストンマーティンにとってもドライバーラインアップは重要で、最高の2人をそろえたいと常に思っている。特に2026年にはホンダと常勝チームになりたいと思っているからだ。

 そうした中で、私は彼が考慮しなければならない候補の1人だと考えている。もちろん彼は喜んでホンダパワーのクルマに乗りたいと思ってくれるだろうし。彼が今後数年でどういう結果を残すのか、それが話が本格的になるかどうかを左右するだろう

──事業構造を変えたことがF1に継続的に参戦できる体制になった理由か?

三部氏:結論としてはそういうことだ。開発費含めて、内部ではかなり議論はした。先ほど、ブランディングとか、マーケティングの話をしたらそれと同じようにフルに使っていくことが大事だ。2輪では製品とリンクしてきたが、4輪もそれをやっていこうという話をしている。トータルでレースの費用を見ながら上手にコントロールし、許容範囲の中でやっていけると判断している。事業にマイナスのインパクトを与えることはない、プラスの方向に使っていきたい。

──ここから得られる技術やノウハウは参入しないと、電動化で遅れてしまうという危機感があるということか?

三部氏:電動化技術に関して劣っているという感覚はない。先ほどもいったようにそれを証明する場としてF1は優れた選択肢だ。量産はコストの問題もあって、技術を極めることは難しい。F1ではかなり新しい技術をやっており、それを量産車にも取り入れていく。われわれとしてはむしろ逆で、エンジンのホンダと言われているけれど、電動の時代になってもパワーユニットのホンダなのだということをF1で示していきたい。

──26年にアストンマーティンへのPU、ホンダとしてそれ以外の可能性を考えているのか?

渡辺氏:アストンマーティンは唯一のワークス供給。ユーザー供給について否定するものではまったくないが、現時点では計画はない。

ウィットマーシュ氏:ホンダと一緒の取り組みには期待している。ホンダにはいろいろ教えを請いたい。今はまだ勝てる段階にはいないし、そこに至るには長い道のりだ。しかし、この素晴らしいパートナーと、勝つために一緒にコミットしていきたい。

──アストンとの提携関係、供給の体制、HRCがRBPT、アストンとの間でどう構築していくのか?

渡辺氏:役割分担はこれからの協議になる。今の時点では申し上げることはないが、レッドブルとHRCの関係と大きくかわることはないと考えている。

ウィットマーシュ氏:25年の末までは今のPUパートナーをリスペクトして、一緒に勝利を目指していく。ホンダも同じだと思うが、2年半後にはそれぞれのパートナーと一緒にやっていく。その後、プロジェクトチームを作り、ホンダの経験を生かして26年にPUとシャシー両方で優れたものをパッケージとして作り上げていく。

──アストンマーティンとの交渉は何時頃から?

渡辺氏:具体的には年明けから、本格的な議論になった。1月ぐらいから始め、4月に基本骨骼に合意した。

──アメリカ市場のF1人気はどれくらい影響したか?

三部氏:決断の要因の一つにはなった。しかし、今回の決断の大きな部分は、ホンダの目指す方向とF1の目指す方向が合致したことにある。アメリカでは別のレース活動もしているので、それとバランスをとりながらF1もやっていきたい。

──ウィットマーシュ氏、渡辺氏に、初年度にチャンピオンを目指していると思うがどのような取り組みを行なっていくか?

アストンマーティン・パフォーマンス・テクノロジーズ・グループCEO マーティン・ウィットマーシュ氏

ウィットマーシュ氏:ここ最近アストンマーティンF1がどのように進化しているかを見ていただければ分かると思うが、我々はアグレッシブな投資をしており、競争力を上げている。ホンダには勝つための情熱があり、ホンダからいろいろ学んで行きながら一緒に前に進んでいきたい。

渡辺氏:26年から始まる新しいレギュレーションは、カーボンニュートラル実現に向けて大きく変わっていく。非常に厳しい挑戦で、チャンピオンを獲るのは簡単ではないけれど、勝ちにこだわって行きたい。HRCだけでなくオールホンダでやっていきたい。

──研究開発に使われる費用は以前に比べて抑えられるということか?

三部氏:26年からはパワーユニットの開発にはコストキャップ制が導入される。過去に投じてきたように膨らむということはないと考えている。このため、開発の効率が競争の行方を左右すると考えており、かつてのように試作を作って何度も回すなどいうやり方ではなく、より効率の良い方法でパワーユニットを開発していくことが重要だ。その意味ではかつてに比べると開発費はかなり少ない数字になるだろう。