ニュース

埼玉県深谷市と埼玉工業大学、損保ジャパン、KDDIなどによる深谷自動運転実装コンソーシアム設立 持続可能な公共交通の実現に向けて取り組み

2023年6月28日 発表

深谷自動運転実装コンソーシアムの参加企業

 埼玉県深谷市と埼玉工業大学、損害保険ジャパン、KDDIなどは6月27日、深谷自動運転実装コンソーシアムを設立すると発表し、連携協定を締結した。

 同コンソーシアムでは、地域交通の課題の解決に向けて、地産地消による新たなモビリティの創出を目指しており、自動運転レベル4解禁への対応も視野に入れ、先進的な自動運転技術の導入を図りながら、コンソーシアム参加各社の特徴を活かし、持続可能な公共交通の実現に取り組むという。まずは、2023年度後半を目標に、約1か月間の実証実験による運行を予定している。

 コンソーシアムには、深谷市と埼玉工業大学、損害保険ジャパン、KDDIのほか、A-Drive、アイサンテクノロジー、ティアフォー、深谷観光バスが参加する。深谷市に本部を持つ埼玉工業大学は、自動運転技術の研究開発に積極的に取り組んでおり、この経験を生かし、産学官連携による地域の課題解決につなげる考えだ。

深谷自動運転実装コンソーシアムの目的
深谷自動運転実装コンソーシアムのメンバー
深谷自動運転実装コンソーシアムメンバーとの過去の共同実証
「渋沢栄一 論語の里 循環バス」の実績
自動運転走行実績
走行精度・性能
協定締結書を手に持つ深谷市の小島進市長

 深谷市の小島進市長は「自動運転は異なる次元の話だと思っていたが、深谷市では自動運転の先端を走る技術に取り組んでいる埼玉工業大学があり、それを心強く思う。深谷市の宝である。2021年には、深谷大河ドラマ館や渋沢栄一記念館などを結び、約1年間にわたって、自動運転バスを運行した経緯がある。今後、深谷市内のバスを自動運転にしていきたいと考えている。公共交通を充実したいが、人手不足の課題がある。自動運転は、自治体経営において実現すべきテーマの1つである。深谷市は都市部も農村部もあり、日本の縮図のような場所である。また、日本経済を築き上げた渋沢栄一の里でもある。自動運転を深谷市から発信できることは渋沢栄一氏も喜んでいるはずだ。コンソーシアムを通じて連携を行ない、この取り組みをしっかりと前に進めたい」とコメントした。

深谷市の小島進市長

 また、埼玉工業大学の内山俊一学長は「深谷市をはじめ地域のニーズ対応した研究、開発で貢献することが、地元工業大学としての使命であると考えてきた。2017年10月に公道での実証実験をキャンパス周辺で開始するにあたり、深谷市の理解により、当時は国内では例が少ない公道走行の承認を得て、先進的な研究を開始することができた。その後、全国各地での実証実験を行なうなかで、今回のコンソーシアムに参加している企業などの支援を得た。日本の自動運転をリードする大手企業をはじめ、実績を持つ有力なメンバーが集まった。各社の経験や知見を生かして、深谷市の地域公共交通の課題解決を地産地消で実現していきたい」と抱負を述べた。

埼玉工業大学の内山俊一学長

 コンソーシアムの具体的な活動として、「自動運転技術に関連した社会ニーズの掘り起こし」「社会ニーズに即した自動運転技術の開発および環境整備」「次世代モビリティサービスとしての自動運転技術の社会実装に向けた検討」「自動運転技術による関連産業の振興」「目的を達成するために必要な取り組み」の5点を挙げている。

 埼玉工業大学 自動運転技術開発センター長の渡部大志教授は「地産地消の自動運転技術の導入により、公共交通システムのリデザインに率先して取り組むことで、運転士不足や地域公共交通の事業性に対する課題を解消することを目指す。また、自動運転レベル4の解禁に向け、先進的な自動運転技術の導入を目指した取り組みを推進する。観光資源をつなぐ交通ネットワークの構築や、先端技術を活用したまちづくりの推進により、地域産業の創出や地域振興を推進する。深谷市が直面する課題を解決していくことがテーマである」と述べた。

埼玉工業大学 自動運転技術開発センター長の渡部大志教授

 埼玉工業大学では、ジョイスティック・カーを開発し、障がい者がジョイスティックを操作しながら運転できる実験を開始しているほか、2017年12月からは深谷市において、自動運転の走行精度の高度化に向けた研究活動などを開始。2021年度は1万1229kmの自動走行の実績があり、2022年度も約1万kmの自動走行を行なったという。また、先に触れた渋沢栄一記念館などを結ぶ「渋沢栄一 論語の里 循環バス」でも、1万554.5kmの自動運転走行を行なった実績がある。さらに、世界初の水陸両用自動運転バスの開発にも取り組んでいるところだ。

約1万kmの自動運転を行なった「渋沢栄一 論語の里 循環バス」

「自動走行の実験を積み重ねることで精度を向上させており、正着制御(バス停に正しく横付けして到着させる技術)では誤差3mm以内となっている。2019年にはKDDIとともに、全国初となる複数の自動運転車を5Gで遠隔監視制御の実験を行なった経緯もある」とした。

 今回、コンソーシアムに参加している企業とは、兵庫県播磨科学学園都市や愛知県日間島、長野県塩尻市、栃木県茂木町、千葉県千葉市、愛知県セントレア空港、愛知県モリコロパークなどでの自動運転の実証実験で協業してきた実績があるという。

「深谷市は、広い道路があり、走行量が少ない場所もある。また、そこにはトラクターなどが走行しており、異なる種類の乗り物が混在して走行することにアレルギーがない。また、深谷市が自動運転の黎明期から積極的に協力してくれている点が大きい」と渡部教授。

 コンソーシアムでは、深谷市は全体の進捗管理や成果測定を実施。埼玉工業大学は自動運転車両の提供や技術支援、損害保険ジャパンは自動運転リスクアセスメントなど、KDDIは自動運転車両と遠隔監視システムとの通信技術の提供を行なう。また、A-Driveは自動運転社会実装コンサルティングや事業性の検証を担当。アイサンテクノロジーは高精度3D地図を提供し、ティアフォーは自動運転ソフトウェアであるAutowareに関する技術支援を行ない、深谷観光バスは自動運転車両の遠隔監視やテストドライバーの配置、緊急時の対応を行なうことになる。

「先ごろ開催されたG7サミットにおいて、自動運転は交通量を大幅に改善し、事故発生を減らし、運転手の負担と環境負荷を軽減し、付加価値と雇用を創出し、成長と繁栄をもたらすことができると定義された。人の命が救えることや通勤時間の短縮、経済効果が見込まれる。交通や社会全体に歴史的変革をもたらす自動運転に、早い段階から取り組むことで、深谷市を盛り上げていきたい」と結んだ。

 今回のコンソーシアムは、「深谷市から、埼玉工業大学に声をかけ、自動運転車に試乗させてもらったところから話が始まっている。その後、埼玉工場大学からコンソーシアムの提案があり、今回の設立につながっている」(深谷市)という。

 深谷市は、NHK大河ドラマ「青天を衝け」によって、渋沢栄一氏の生誕の地として注目を集めたが、2024年7月に発行される新1万円札に渋沢氏が起用されるなど、観光地としても引き続き注目を集めることになりそうだ。その際の観光資源の1つとして、自動運転バスの運行を取り入れ、深谷市の発信力強化にもつなげたい考えだ。

記者会見の様子