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BOLDLY、レベル4に対応した新型自動運転EV「MiCa」を公開 秋から茨城県境町で運行目指す

2023年5月16日 公開

レベル4に対応した新型自動運転EVの「MiCa」を公開

 ソフトバンクの子会社となるBOLDLYは5月16日、新型自動運転EV(電気自動車)「MiCa(ミカ)」を公開した。

 自動運転シャトルの設計・製造を行なうエストニア共和国のAuve Tech(オーブテック)が開発した自動運転レベル4対応のEVで、BOLDLYはMiCaの日本仕様の開発に協力。2023年夏以降には公道走行を目指し、茨城県境町で運行している自動運転バスへの導入も行なわれる。

左から東京大学生産技術研究所の中野公彦教授、須田義大教授、茨城県境町 橋本正裕町長、BOLDLY株式会社 代表取締役社長兼CEOの佐治友基氏、エストニア共和国大使のヴァイノ・レイナルト氏、Auve Techのクリスチャン・ヴィリポルド氏

クローズドなコースで無人運転を公開

 今回の公開は、千葉県柏市にある東京大学柏キャンパス 生産技術研究所 ITS R&R 実験フィールドで行なわれた。東京大学生産技術研究所とBOLDLYは自動運転について共同研究を行なっていて、ITS R&R 実験フィールドには実験に使える道路や線路が設けられている。

 公開されたMiCaは、まだナンバープレートがついてない状態で、公道を走ることはできず、今回のような閉鎖された空間で走行実験を重ねていく必要がある。

MiCa
MiCaのリア
客用ドアは左側に装着
ドアのない側

 MiCaは、すでにBOLDLYが導入している仏Navya製の自動運転バス「NAVYA ARMA(ナビヤ アルマ)」に比べて車両サイズが小さく、定員は最大8名となるものの、4.2×1.8×2.5m(全長×全幅×全高)というコンパクトさから、狭い道路の走行にも適している。

MiCaのリア
バンパー中央部に、センサーを搭載
センサー
センサー類がここにも
カメラ類

 ARMAでは前後で同じデザインだったため、客用扉の位置が変わる右側通行と左側通行で同じ車体のまま左側通行への対応ができたが、MiCaはそうなっていない。今回、日本仕様としてドアの位置を反対にしたほか、BOLDLYが日本の道路で自動運転ができるよう、センサーのチューニングなどを行なっているという。

MiCaは最大8名乗車、前後に向かい合わせに3席ずつ、側面に折り畳み式のシートが2席ある。2点式だがシートベルトもある
MiCaの車内にはモニターやカメラがある
グラスルーフとなっており、車内は明るい
リアシート。今回、補助スタッフは左側に座り、タブレットで操作していた
走行中に前方を臨む
車内のモニターにはレーダーが捉えた様子が表示される

 MiCaは7台のLiDARセンサーと8台のカメラで周辺環境を把握するが、センサー自体の性能もARMAに対して上がっていて、100m先まで検知できる。ステアリング、ブレーキ、コンピューターセンサーなど安全に関わるものは二重化しているほか、急速充電は1時間の充電で20時間走行可能とするなどの性能を持っている。

急速充電なら1時間の充電で12時間走行可能
ARMAは4輪操舵だったが、MiCaは通常の前輪操舵。タイヤはRadar Rivera Pro 2で、サイズは185/55R16

 今回は関係者を乗せてMiCaを走行させ、自動で障害物の回避などをしたほか、加減速のスムーズさをアピールした。

MiCaが走行開始。まずは黄色いコーンを避けて走る

 MiCaに乗車してまず感じることは、スムーズな加減速を実現していること。ARMAに比べて世代が新しく、よりスムーズに走行する。通常走行時の最高速は20km/hでARMAと同じだが、かなり慎重な加速をする印象のあるARMAに対して、MiCaはさっと加速して規定速度に達する印象がある。

前方には自転車があるが
さっと自転車を避けて走行を続ける
街路樹が道路にはみ出しているところでも、自動的に木々を避けて走行する
コーナーもスムーズに回っていく
加速もスムーズ

 ARMAではレベル4の自動運転は限定的になるが、MiCaでは世代が新しく処理性能が上がっており、より広い範囲でレベル4の自動運転が使えるという。

 さらに、人を乗せるだけでなく、サポートスタッフも乗せずに無人でMiCaを走行する様子も公開された。

自動運転として、無人走行も行なった。車内に全く人が乗っていない
停車してドアが開いて、車内に誰もいない
レベル4に対応した新型自動運転EV「MiCa」の走行シーン

エストニア製だが、中身は日本の技術が多く使われている

 MiCa自体はエストニアのAuve Techのものとなるが、BOLDLY 代表取締役社長兼CEOの佐治友基氏は「日本の技術が多く使われている」と強調する。自動運転のOS「Autoware」はオープンソースであり、日本のティアフォーが開発を主導しているが、MiCaにはAutowareをベースにしたソフトウェアが搭載されている。

MiCaの説明をする、BOLDLY株式会社 代表取締役社長兼CEO 佐治友基氏
多数のセンサーを搭載するが、センサーの働きに日本の道に合ったチューニングを施すのもBOLDLYの役割だという

 佐治氏は「1つの車両や1つのシステムが純国産というのは、もうあり得ない時代になっている」とし、それでもMiCaは「日本の技術が詰まっている」と述べ、日本に合うように仕様変更をすることはBOLDLYが責任を持って行なうとした。

 また、ARMAの場合は、BOLDLYの自動運転車両運行プラットフォーム「Dispatcher(ディスパッチャー)」で運行管理をするために追加で機器を設置していたが、MiCaは最初から遠隔監視をDispatcherで行なう設定で作られ、カメラを設置することや、機器の設置、配線の処理などはすべてメーカーの工場で完結しているという。

 なお、佐治氏によれば、MiCaという名称は本国では「マイカー」と発音するが、日本では、親しみをこめて女性の名前でもある「ミカ」としたことを明らかにした。

エストニア共和国大使も出席し車両公開

 今回の車両公開には、Auve TechとAuve Techのあるエストニア共和国から大使や、東京大学関係者、茨城県境町町長らが出席した。

東京大学生産技術研究所 中野公彦教授

 東京大学生産技術研究所の中野公彦教授は「BOLDLYとは自動運転車両ができた後のオペレーションと、それを社会実装していくことに興味があるということで、活動を一緒にさせていただくことになった。境町で定期運行を行なうかたちで、われわれの社会実装の活動が実を結んだ」と活動を振り返り、今後は「道路交通法が改正され、無人走行、レベル4の自動運転が可能な法制度の整備ができた。今後はレベル4の走行と、より高いレベルでの走行を目指した活動に移っていく」とし、MiCaに期待を寄せた。

BOLDLY株式会社 代表取締役社長兼CEOの佐治友基氏

 続いて、BOLDLYの佐治氏は「BOLDLYが今の事業を確立したのは東京大学が技術のみならず、エコシステムを研究する機関を持ち、官民連携のスキームを持っているところに非常に影響された部分があった」とし、また、境町についても「2年半以上、自動運転が普通に動いていて、住民の生活の一部となっている環境を実現することができた」とし、両者に今後も協力を呼びかけた。

茨城県境町の橋本正裕町長

 また、茨城県境町の橋本正裕町長は「今年の2月にエストニアに行き、MiCaと先代となるIseauto(イセオート)に乗せてもらい、ARMAより進んでいるなと感じ、乗り心地もよかった。検知もさらに進化していると感じたので、日本で走らせて各地域に横展開をしていく礎になるように、境町として協力したい」と述べるとともに「秋をすぎたころには、公道を走るMiCaが見られるのではないかと思っている」と今後の見通しを語った。

エストニア共和国大使のヴァイノ・レイナルト氏

 エストニア共和国大使のヴァイノ・レイナルト氏は、日本に赴任した2018年の話として「自動車製造の歴史がないエストニアが世界最大の自動車製造国に自動車を売ることは現実味のある話ではなかった」と語り、「でも今ここにいる。私にとっては、この上ない喜びの瞬間。自動運転車のルールがすでに整備されている今、境町の公道でAuve Techのクルマを走らせることで、日本のほかの自治体の模範となる道を開くことができると確信している」と喜びを表した。

Auve Techのクリスチャン・ヴィリポルド氏

 Auve Techからはクリスチャン・ヴィリポルド氏があいさつに立ち「素晴らしいチーム、素晴らしい日本の方々と働けたことが幸せ」と述べた。

茨城県境町で導入に関する覚書を結ぶ

 今回の公開に合わせて、最初にMiCaを運行する見込みの茨城県境町と導入に関する覚書を結んだ。今後、MiCaは関係省庁から必要な許認可を受けて公道を走行可能な状態にしていく必要があるが、2023年夏以降に公道走行が可能になるように準備を進めており、秋には境町での運行開始を目指すという。

 また、佐治氏によれば、MiCaはBOLDLYが購入する1台と、境町で運行する1台、自動運転事業を行なっているセネックが1台と合計3台の導入が決定しているが、本年度は10台の導入を目標としているとした。

 なお、MiCaでは、スタッフを全く乗せない自動運転も可能になるが、最初に運行する見込みの境町では、乗客が無人の運行に慣れておらず、不安にもなるため、当面はスタッフを乗せて運行する予定としている。

茨城県境町と導入に関する覚書を結んだ