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ホンダ・レーシング 渡辺社長とF1プロジェクト角田LPL、2026年からのF1再参戦について詳細を語る

株式会社ホンダ・レーシング 代表取締役社長 渡辺康治氏(左)と同 エグゼクティブチーフエンジニア F1プロジェクト LPL 角田哲史氏(右)

2026年からアストンマーティンF1と組んで再参入

 本田技研工業のモータースポーツ専門会社であるHRC(ホンダ・レーシング)は6月28日、栃木県さくら市にある研究開発拠点「HRC Sakura」において説明会を開催し、ホンダと同社が5月に発表したアストンマーティンF1チームと提携して2026年からF1に復帰することについての最新情報を語った。

 ホンダおよびHRCは5月24日に記者会見を行ない、F1のレギュレーションが大きく変わることになる2026年からF1に正式に復帰する計画をすでに明らかにしている。

 ホンダは2021年の最終戦をもってF1参戦からは撤退し、その後はモータースポーツ専門の子会社となるHRCを通じて、2021年までのパートナーだったレッドブル・レーシング、スクーデリア・アルファタウリのレッドブル系2チームにパワーユニットを供給するレッドブル・パワートレインズに対してパワーユニットと技術サポートを有償で提供している。

 しかし、2022年の11月に2026年からF1にパワーユニットを供給するマニファクチャラーとして登録を行ない、その後は複数のF1チームと話し合いを行なっていることをHRC渡辺社長が認めるなど、復帰に向けての動きが出ていた。5月に正式にアストンマーティン・アラムコ・コグニザント・フォーミュラ・ワン・チームと契約し、2026年からアストンマーティンF1をワークスチームとしてパワーユニットを供給して参戦することを明らかにした形だ。

 HRCが今回行なった説明会は、そうした2026年からのF1参戦復帰に関してさまざまな質問に答える形で開催された。

 説明会冒頭でHRC渡辺社長は「2026年からアストンマーティンF1と一緒になって戦うことを発表した。そんなに甘いものではないことは理解しているが、なんとしても勝ちたい。電動化時代でも、ホンダ/HRCが世界でナンバーワンを獲ることを目標にチャレンジしていく。2026年からのルールでは出力が従来の120kWから350kWに大幅に引き上げられた高性能モーターの開発が必要になる。そうした技術開発はホンダとしてのコア技術の1つになると感じており、F1を通じてホンダやHRCのバリューを上げていきたい」と述べ、電動化技術の比重が引き上げられることが、F1再参戦を決めた最大の要因だと説明した。新時代のF1で勝利することが電動化技術のホンダを構築することに貢献するように、強力なパワーユニットを開発していきたいと説明した。

HRC角田LPL、電動化・ICE・コストキャップへの対応が2026年レギュレーションのポイント

2026年からのパワーユニット レギュレーションの変更点

 HRC F1プロジェクト LPL 角田哲史氏は、技術的な観点からの2026年のパワーユニット レギュレーション概要や、競争領域についての説明を行なった。

 角田氏は「2026年からのパワーユニット レギュレーションには3つの骨子がある。1つ目は電動化の比率が現行のICE(内燃機関)と電動化の8:2から、5:5になることだ。2つ目はカーボンニュートラル燃料の導入で、一エンジニアとして世界中の車両全部が電動化になるのかと考えると、そうではないと考えられるので、マルチパスのエネルギー開発が重要であり、それにF1を通じて取り組めることになる。最後にパワーユニットに関してもコストキャップ制度が導入され、効率よく開発していくことが重要になる」と述べ、電動化比率のアップ、カーボンニュートラル燃料対応、そしてパワーユニットのマニファクチャラーにもコストキャップ(参戦経費に上限を設ける制度、すでにチーム側に関しては導入済み)制度が導入を、2026年からの新しいパワーユニット規則の重要ポイントとして挙げた。

2026年レギュレーションに対応するポイント

 角田氏はそうした中で開発のポイントになりそうな点をいくつか挙げた。ICEとの比率が5:5になる電動化まわりでは、MGU-Hという排気の熱を電気に変えるユニットが廃止されMGU-Kに一本化されることで、モーターとバッテリの開発が重要になると指摘した。角田氏によれば、モーターの出力は現行の120kWから350kWに出力が引き上げられ、さらに回転数も現行の50000rpmから60000rpmへと引き上げられる。また、バッテリ容量は4MJと変化ないが、MGU-KからES(エナジーストア、バッテリなど)へのエネルギーは2MJから9MJに引き上げられ、ESからMGU-Kへは4MJから制限なしになる。

 またもう1つの大きな制限としては、ERSと呼ばれるMGU-K、バッテリ、制御装置などの電動系のモジュールは、モノコック内の指定のエリアに納める必要があるという。これらのユニットは、ちょうどドライバーのお尻の下あたりに格納されることになる。

 角田氏は「モーターは高出力になり、エネルギーも増えることになる。それらにより発熱が増えることになり、どのように処理していくのかがポイントになる。また、モーターが大きくなると、モーターのイナーシャ(慣性モーメント)が大きくなる。それによりクランクシャフトとモーターをつないでいる部分が壊れてしまう。第4期F1の初期でも、その信頼性を確保するのに2年以上かかるなど苦労しており、今回もそこは大きなポイントになる。MGU-Hがなくなったのでエネルギーはバッテリに入れて出すという形になるので、低抵抗化や劣化の少ないバッテリを作ることも重要になる。例えば、バッテリを10レース使ったときに、できるだけ新品と10レース目で劣化が小さければそれだけ有利になり、350kWのデプロイが切れにくくなる」と、ICEとの比率が5:5になった電動化まわりが競争上重要になると説明した。

 ICEまわりに関しては、燃料制限が流量制限からエネルギー量制限になり、エネルギーに換算すると約3割程度減る計算になるという。また、燃料もE10(合成燃料の割合が10%)から100%再生可能エネルギーから作られたカーボンニュートラル燃料(CNF)になる。このほかにも、最大圧縮比が18から16に、高額センサー類の廃止、エンジン本体主要寸法の範囲指定などが規定されている。

 角田氏は「ICEでは燃焼系が完全に変わる。ホンダのICEは高速燃焼を強みとしてきたが、圧縮比や燃料が変わるのでそれが実現しにくくなる。また、燃料が100%合成燃料になるため、気化性が変わってしまう。小さいところにドバって吹いて燃やすのがこれまでのF1のICEだったが、今後はきれいに吹いて燃やすという形になる。燃料によっても左右されるため、燃料の開発も重要だ。また、トルク特性も大きく変わる。これまではMGU-Hがターボラグを抑えることに使えていたが、MGU-Hはなくなったため、普通のターボエンジンとしてどう作っていくかもポイントとなる。また、これまではICEに高額部品であるセンサーを使っていた。例えば、2021年のエンジンであればシリンダーのセンサーに非常に高いセンサーを使ってきたが、そうした高額センサーの使用は禁止になる。インジェクターも共通部品となり、複数の会社が入札しようとしている。ホンダとしては入札で指定されるインジェクターメーカーが現行と変わると開発に影響する」と述べ、ICEに関しても大きな変更が入ることを説明した。現行レギュレーションではホンダの強みとして高速燃焼が挙げられているが、2026年以降のICEではそのまま使うことは難しいことを示唆した。

 最後にコストキャップに関しては、「これまでの開発では部品を作ってトライ&エラーを行なってきた。その上で信頼性の確立などを行なってきたが、これからは市販車でもやっているようなシミュレーションを利用したモデルベース開発をやっていかないといけない。また部品の単価に関しても見直していかないといけない」と述べ、これまでとは違った角度で開発を行ない、コスト削減にも取り組んでいかないといけないと説明した。

The 2026 Engine Regulations: All You Need To Know! - YouTube

https://www.youtube.com/watch?v=ngwieh3s_fw

HRCというモータースポーツ専門会社に移管されたことで、以前よりも「不況に強い構造」になったとHRC 渡辺社長

 HRC 渡辺社長、角田LPLによる説明の後、説明会参加メンバーからの質問に答えた。

──今アメリカではF1の人気がすごい。2026年からの参戦発表のときにも、アメリカ市場でのF1の盛り上がりを理由の1つに挙げられていた。参戦発表後の、アメリカ市場からの反響は?

渡辺社長:アメリカでも多数報道されていた。なかでも(ホンダの)アメリカの従業員の反応はものすごくよく、「ホンダがF1に戻れてうれしい」とか「HRCと一緒になってF1を盛り上げていきたい」という声が届いている。アメリカでのF1人気がすごいので、ポジティブな反応がくるだろうとは思っていたが……(ここまでは思っていなかったというニュアンス)。(Netflixで特番とかやってほしい、ないしはすでに話を開始しているのか?という記者からの声に)やってほしい。

──発表会のときに、HRCという独立した会社になったので業績に左右されず、こういう仕組みだから参戦し続けていくのだという話をしていたが……。

渡辺社長:F1参戦を将来にわたって決してやめないという約束はできない。会社としての判断がある(のでそうしたことはあり得る)。ただし、できるだけ継続してやっていきたいとは思っている。ホンダではプロジェクト制度を採用していて、F1をやるからLPLを決めて人材を集めてきて……という形で参戦し、逆に撤退するときには担当者がいなくなって予算もなくなってとやってきた。それに対してHRCというレース専門会社ではF1をやることで、ある程度将来のモータースポーツの技術研究をやることは親会社から許可をもらっている。今までのようにゼロにはしないことは保証された。そこが今までとの違いで大きいと考えている。

 また、予算の在り方などもガラス張りになっており、それをどう使ったのかということはホンダ本体の経営陣にレポートが出せるようになっている。経営陣としてもそこをきちんと見て判断できる。

 もう一つ指摘しておきたいのは、これまでパワーユニットサプライヤーというのは、権利や地位というのが相当弱かった。開発費とか製造をしたことによる収入がないという中で、企業として経営が傾くとやめざるを得ない形になっていた。しかし、(2026年からの新規定の中で)パワーユニットサプライヤーとしての権限が増えており、それがパワーユニットサプライヤーとして継続していく中で大きな要素になっている。チームの経営には何も言えないとか、出費しかないということが改善されていくなど従来とは違う状況になった。

──ホンダからのサポートがなくなったとして、HRC単体として継続していく基盤はあるのか?

渡辺社長:それはない、本社からのサポートがなければ開発としては継続できず、その場合はもちろんやめないといけない。(HRC自身が足りない部分を稼ぎ出すのか?)二輪ではスポンサー収入もあるし、マシンを貸し出すことの収入があり、事業のPL的に言うと多少出せるようになってきている。四輪も最終的には同じようにしていかないといけない。また、HRC自身がブランド商品を出すということもやっていかないといけない。

──その意味では、パワーユニットの代金を得られるカスタマーチームは有益な選択肢なのでは?

渡辺社長:アストンマーティンF1との契約ではカスタマーチームへの供給はやれる契約になっており、将来にわたってやらないというつもりはなく、必要に応じてやることはやるだろう。しかし、最初のうちは1チームに集中してやるべきだろうと判断している。

──カスタマーチームにも供給して2チームで走らせることはデータ取りの観点からも意味があると思うが?

角田LPL:リソースに余裕があればそのとおりだが、その一方でより多くの数を作らないといけないので、それはそれで難しい。仮に2チームに供給するとなるとそれなりの人員を抱えないといけない。その意味で今はアストンマーティンF1に集中すべきだと考えている。(カスタマーチームに供給する場合は2スペックを作るのか?)アストンマーティンF1をワークスチームとしてやっている。仮にカスタマーチームに供給する場合にアストンマーティン仕様を使ってくださいということになる。

──100%再生エネルギー由来の燃料に変わるがその影響は?

角田LPL:一般論で言えば、カーボンニュートラル燃料は気化性が低い。2026年からの技術規則に関しては市販車に近しくなれるようにという形で作られており、F1だから特殊でいいということではない。

──350kWと大きく出力が上がることになるが、モーターの大きさは大きくなるのか?

角田LPL:モーターに関しては最低重量規則と、規定されているERSのケースの中に入っていないといけない。このため、同じ出力でより小さなモノを作れれば有利になる。ただし、磁石などの素材などは規則で決められており、その中で差をつけるのは難しいところではある。

──2026年からの参戦発表の後、今ホンダはF1をやめていたのか?それともやっているのか混乱するという声が出ていた。二輪ではブランドはHRCに統一されているが、F1だと昨年の日本GPからホンダのロゴがマシンに復活するなどしているが……。

渡辺社長:基本的なモータースポーツ活動のブランドバリューはHRCに統一していく、二輪に関しては長い歴史があるが、四輪に関してはまだ始まったばかりでこれから訴求していくことになる。そうした活動を通じてホンダ本体のブランドバリューを上げていくのがHRCの役割となる。

──SUPER GTでカーボンニュートラル燃料をすでに使っている。そこから得た知見をF1に応用することはできるのか?

角田LPL:一般論を勉強することはできる。しかし、より詳細なことは今後チームの燃料パートナーのアラムコと一緒にやっていくことになり、われわれからハードウエアにはこういうものが必要だということを提案して、アラムコ側の提案と合わせてよりよい燃料を一緒に作っていくことになる。その観点で、国内レースにおいてカーボンニュートラル燃料を使っていることは参考にはなるが、直接的に有益だということではない。

将来的には「CIVIC TYPE RのHRCバージョン」のような市販車を出していきたい

──新しいICEのルールでは高速燃焼が難しくなりそうだという話があった。そこが現行ルールでのホンダの強みだということは何度も紹介されてきたが、新しいルールでもそれは継続できるのか?

角田LPL:高速燃焼に関しては、与えられた環境の中で作り出したいと思っている。ただ、すでに説明したとおり、ICEとERSと50:50になるので、両方に力を入れて開発していく必要がある。

 電動系はその評価を表に出しにくい。例えばモーターは、最高出力は決まっており、その中で小さく発熱が少ないものを作るというのが競争領域になる。バッテリに関しても同様で、10レースを走った後でも新品と同じぐらいの性能を発揮するようなものを作り差別化していくことが大事だ。(2021年から入れているバッテリに関しては新規定でも活用できるか?)それをベースに開発している。

──モデルベースの開発というのはすでに量産車でやっているようなシミュレーションの技術を使っていくことになるのか?

角田LPL:シミュレーションの概念そのものは、レースだろうが、量産だろうが同じだ。一番大事なことはシミュレーションの結果と、現実を照らし合わせていくことだ。そこで実際にモノを作ってみて応力を測ったりしながら、シミュレーションの精度を上げていく必要がある。(現時点ではシミュレーションはコストキャップに入っていないのか?)車体の空力のようには時間制限がない。それもどうしてもそうした実験と組み合わせることが必要だからだ。

──第4期が終わったときに、エンジニアは別の部門に戻っていったりしていったと思うが、またそうしたトップエンジニアを集めているのか?

渡辺社長:グループ内の適切な人に来てもらう。第4期をやっていたメンバーには戻ってもらうことになるだろう。

角田LPL:電動系でいうとそのキーパーソンは残している。というのも常に技術は開発していっていかないといけないと思うからだ。それがF1向けの技術になるのか、あるいはWEC向けになるのか、その時点ではどのレース向けとか想定せずに、基礎技術を開発するという意味で電動化の技術開発を行なってきた。

──2026年規定まで残り2年半という時間は十分か?

角田LPL:焦っているかと言われればそうだ(笑)。競合は2022年パワーユニットのホモロゲーション(開発凍結によるスペックの固定のこと)を出してから2026年向けの開発にまっしぐらでやってきた。その意味で1年遅れているのかと言われるとそうではなく、バッテリやMGU-Kの駆動系などの基礎技術の開発は予算をもらってやってきている。

 合成燃料への対応もパートナーになるメーカーはいなかったが、こちらも基礎的な開発は行なってきている。その意味では方向性が見えているというところからスタートできるのは、第4期との大きな違いになる。

──バッテリの材質、ホンダは全固体電池を自社開発(2024年からさくら市で実証ラインを立ち上げ)することを明らかにしているが、F1に使う可能性はあるのか?

角田LPL:全固体はF1にはまだ持ち込めない。

──第4期のときはミルトンキーンズに前線基地を作っていたが、2026年からも同じように欧州に前線基地を作るのか?

渡辺社長:なるべく早く決めたいと思っている。全体的には第4期よりは日本を主体にして、日本で開発製造をやっていくという大きな方針。ただし、欧州側に拠点がないわけにはいけないので、近々に決めて動き出したい。

──第4期、最初はICEの圧縮比18が見えないといっていたが最終的にそこに近いところまでいったのではないかと理解している。新規定での16はどんな手応えか?

角田LPL:数字としては下がって残念だ。結局(ホンダ以外のパワーユニットメーカーの多く)は16なんじゃないかと思う。しかし、上にいた人(圧縮比16を超えているメーカーのこと)は(圧縮比を)降ろしてくることになる。少なくともわれわれは降ろされた側になる。(基本的な構造が規定されていることは痛手かと問われて)われわれとしては痛手であることは間違いない。基本的なジオメトリは、われわれと違う寸法になる。新規参戦メーカーも含めて同じところからスタートすることになるが、第3期、第4期はゼロからスタートして苦労したが、今回はある程度の基準からスタートできる。

──先ほど1エンジニアとしては、すべてをBEVにするのは難しいのではないかという発言もあったが、カーボンニュートラル燃料の普及も含めてどうなっていくと思うか?

角田LPL:ホンダとしての発言ではなく、1エンジニアとして言うのであれば、すべてのクルマをバッテリにするというのは難しい。例えばインフラが整っていない地域、何らかの危険性が残っている地域などで、BEVがすべてカバーできるかと言われればそれは難しい。そのときにカーボンニュートラル燃料の方に進んでいくというのは当然の流れだと思う。そこでそのカーボンニュートラル燃料をどうやって燃やせばよいのかということを今勉強している段階だ。

 ただし、量販とF1の大きな違いは、F1は全開か全閉だが、量産車はパーシャルの時間が長いということだ。それぞれの特性に合わせた研究をしていかないといけないと考えている。また、カーボンニュートラル燃料もどうやって作っていけばいいのかも、燃料メーカーさんとよく話し合っていく必要があると考えている。

 アラムコのF1向け燃料をやっている人たちはかつて別の燃料メーカーでF1を担当していた人もいて、レスポンスよくやりとりができており、それがアドバンテージになればいいなと考えている。

渡辺社長:アラムコとは技術者ミーティングを1回やっただけで、すべてはこれからだ。

──アストンマーティンF1との交渉、F1を再参入していく中でのエピソードを教えてほしい。

渡辺社長:2022年の11月に、26年からのパワーユニット製造者登録をした。その情報を踏まえて、フェラーリやメルセデス、アルピーヌなどのワークス系チーム以外のほぼすべてのF1チームと何らかの形でコンタクトした。

 その中の1つにアストンマーティンF1があり、チームオーナーのローレンス・ストロールさんの情熱を強く感じた。彼はF1で勝ちたいという気持ちが強く、それはホンダも同様だ。そしてアストンマーティン側も、チャンピオンを獲るためにホンダのパワーユニットが必要だと評価してくれた。その後、彼らのファクトリーを訪れ、主要メンバー全員とミーティングして、とてもフェアな人たちで仕事がやりやすいと感じた。それからホンダ本体の三部社長をはじめとして経営陣とも話をしてもらい、アストンマーティンF1と契約する流れになった。

──ホンダの中での議論というのはあったか?

渡辺社長:当然、ぜひ再参戦したいという人もいれば、すべてきではないという人もいた、それが健全だと考えている。そうした経営陣の中でもいろいろな議論をし、最終的にやるという結論になった。

 新しいF1の技術規則は本業の方に技術が活かせるという方に判断がされて、再参戦にあたっては事業側の責任者も入ってきて、この技術は将来使えるということになり、そのメリットも大きいと評価された。

 われわれはBEVのフラグシップスポーツカーを計画しているが、F1の技術はそこにいろいろ使えると判断されている。例えば低抵抗の話や劣化しにくいバッテリの技術は、F1由来のモノが使えそうだと評価されている。それにより最近は使っていなかった「レースは走る実験室」という言葉が復活しつつある。

──将来的にはHRCのブランドを利用した市販車というのも考えられるか?

渡辺社長:それは検討している。HRCがレースで培った技術を量産車にフィードバックしていくが、例えばカーボンニュートラル燃料を使ったCIVIC TYPE R CNF-Rはそうしたコンセプトでスーパー耐久に出走させている。同時になるべく安くベース車両を作り、レース用の車両としてレーシングチームに提供していく流れを検討している。そういうことをやりながら将来は、例えばCIVIC TYPE RのHRCバージョンのような市販車を出せないかを検討していく。

──ドライバーの育成プログラムに関しては現在レッドブルと共同でやっているが、これは変わっていくか?

渡辺社長:(レッドブル側と)やめるという議論はまだしていない。これからそれは議論することになるが、急に全部やめということになると、今プログラムに乗っている人に大きな影響が出る。ただし、(2026年から別のパートナーと組むことになったので)今の形で続けていくのは難しいと考えている。もちろんHFDPとして続けるが、単独でやっていくのか、新たにアストンマーティンF1と組んでやっていくのかはこれから議論する。

──現在この研究所でやっている2026年向けの研究について教えてほしい。

角田LPL:現在やっていることは単気筒エンジンで、新しいジオメトリの中で燃焼のテストを行なっている。またV6エンジンに関しても、MGU-Hがないエンジンでどういう振る舞いをするのかをテストしている。ターボラグがMGU-Hでカバーできないとレスポンスが重要になるので、MGU-Kで補う形になるが、トルク特性をうまく作れないと競争力がなくなってしまうからだ。MGU-Kができ、ICEができという形で1つ1つやっていき、年内ぐらいにはパワーユニットとして合体できればいいと考えている。

ホンダF1の開発拠点となるHRC Sakura