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マツダ、発電用ロータリーエンジン搭載PHEVモデル「MX-30 Rotary-EV」発表会 開発陣らがロータリー復活の想いを語る

2023年9月14日 実施

マツダが新型「MX-30 Rotary-EV」のオンライン発表会を実施した

コンパクトなPHEVモデルには8Cロータリーエンジンがマストだった

 マツダは9月14日、ロータリーエンジンを発電機として使用する新型電動車「MX-30 Rotary-EV(エムエックス サーティー ロータリー イーブイ)」の予約販売開始に合わせてオンライン発表会を実施した。

 マツダ 執行役員 国内営業担当の東堂一義氏は、広島にあるマツダミュージアムでロータリーエンジンの構造や歴史などを説明しつつ、これまでに200万台近く生産してきたことを紹介。また、独自開発に成功したロータリーエンジンは、軽量、コンパクト、高出力という特性があり、環境にも適したエンジンであると説明するなど、MX-30 Rotary-EV導入に込めた思いを語った。

MX-30 Rotary-EV
マツダ株式会社 執行役員 国内営業担当 東堂一義氏

 MX-30主査の上藤和佳子氏はMX-30について、「私らしく生きる」をコンセプトとし、バッテリEVとマイルドハイブリッドのパワートレーンに加え、手動運転と通常運転を簡単に切り替えられるSeDV(セルフ エンパワーメント ドライビング ビークル)など、マツダの電動化をリードしながら、ラインアップに新しい視点を提案したモデルであると紹介した。

 ターゲット層は、EVに興味はあっても、航続距離や充電環境などから購入をためらっている人で、マツダならではの技術資産を組み合わせたONE&ONLYの新しいプラクティカルな選択肢を提案するとしている。

MX-30 Rotary-EV
マツダ株式会社 MX-30主査 上藤和佳子氏

苦労話やロータリーエンジン復活への熱い想いを語る開発陣

 発表会後の質疑応答では、プレゼンテーションを担当した東堂氏と上藤氏に加え、電気駆動主査の土井淳一氏と、エンジン主査の富澤和廣氏も参加。苦労話や今後の展開や戦略など幅広い質疑が投げられた。

左からマツダ株式会社 エンジン主査 富澤和廣氏、MX-30主査 上藤和佳子氏、執行役員 国内営業担当 東堂一義氏、電気駆動主査 土井淳一氏

──今回830ccの1ローターということで、開発の難しさ、技術的なブレイクスルーなどを教えてください。

富澤氏:今回新しいロータリーエンジンを作るということで、基本諸元から新たにゼロベースで設計しました。なので今まで「10A」とか「13B」といった「A」とか「B」とか記号が型式に付いていますが、今回まったく新しいエンジンということで「8C」と「C」という新しい記号が付いています。また、苦労話をすべて話すと長くなってしまうので、ここでは1つだけ、ロータリーエンジンとして初めて直噴化を採用したことについて回答いたします。

 マツダでは「SKYACTIV-G」や「SKYACTIV-X」といったレシプロエンジンで内燃機関の理想を目指し、燃焼技術、シミュレーション技術、机上予測といった技術を高めてきました。この技術を展開すれば、ロータリーでも非常に効率のいい燃焼ができるだろうということでチャレンジを始めたのですが、ロータリーにはロータリーならではの燃焼メカニズムがあって、そこがレシプロの知見でまだ補えず、最初は失敗の連続でした。

 しかし、「最終的にはこのメカニズムも手の内化して、モデルでも机上でも予測できるようにして、効率的な燃焼を実現するんだ!」という開発メンバーの挑戦スピリットで、10種類以上のローターを実際に試作し、実測データを積み上げて、ロータリーならではの燃焼メカニズム見極め、それを机上の予測シミュレーションにも反映させ、最終的に最適な燃焼室形状を選び抜き、素早く燃える効率的な燃焼を実現できました。

マツダ株式会社 エンジン主査 富澤和廣氏

土井氏:電駆領域でもコンパクトに作るところでブレイクスルーがありました。今回、ロータリーエンジンとモーター、ジェネレーター(発電機)を1軸上に配置するにあたって、小型化するところに非常に苦労がありました。

 薄型の高出力モーターを採用するだけでなく、実はコンパクトに作る上で「潤滑油」が非常に肝で、コンピュータ上のモデルを使って効率的に開発をしましたが、それらがちゃんと本当に実態として狙った通りになっているかを確認するにあたり、実際に潤滑油が流れている状態を可視化することで、モデルと実態の違いをしっかり合わせ込んで、理想の潤滑油量を確保して、狙った通りの冷却を実現できました。

 こういった工夫も合わせて1ローターのロータリーエンジンに、コンパクトなモーターとジェネレーターを合わせつつ、既存のプラットフォームと従来のアセットを使い切って、効率的に仕上げられたのです。

新たに開発されたPHEV電駆ユニットのイメージカット

──すでにマツダには直列4気筒2.5リッターエンジンのPHEVがあり、WLTCモード燃費は14.6km/Lだが、それに対して車格が小さいMX-30は15.4km/Lという値についてどうお考えでしょうか?

富澤氏:今回MX-30に搭載している8Cは、従来の13Bに対してまったく新規のロータリーエンジンを開発するということで、直噴化などを取り入れて大幅に燃費の改善を図っています。結果13Bに対してエンジンの燃費効率は最大で25%改善でき、車両トータルとして15.4km/Lという燃費ですが、普段はEVとして使っていただき、ロータリーエンジンと燃料タンク(50L)の関係で、航続距離はユーザーの不満のないレベルにできあがっていると考えています。

──搭載しているリチウムイオンバッテリやモーターは、マツダの他車と共用している部分などあるのでしょうか?

土井氏:電気ユニットは非常にコンパクトに収める必要があることから、弊社の独自開発となっていますが、設備は一般的なものをなるべく使って効率的に開発できるようにしています。電池につきましても取引先の設備を有効に活用し、投資を抑えながら開発しています。バッテリ自体はEVモデルと共通となっています。

マツダ株式会社 電気駆動主査 土井淳一氏

──価格がバッテリEVモデルの451万円からに対して、423万5000円からと、どのように低価格を実現したのか? また、ターゲットとするユーザー層は?

東堂氏:PHEVにしたことで搭載バッテリを小さくでき、価格を抑えられました。ターゲットは、現状でとても個性が豊かで魅力的なユーザーさんが実際にMX-30に乗っていて、さらに自分らしさを大切にするユーザーがターゲット層として共通すると思っています。また、過去にマツダのロータリーエンジン搭載車に乗られていたユーザーさんや、聞いたことはあるけれど乗ったことがないというユーザーにも、なんて言い出すと欲張りになってしまうのですが、いろいろな方に乗っていただきたいです。

上藤氏:MX-30は“自分らしく生きる”がコンセプトになっていますが、その通りで“こだわり”とか自分の生き方に自信を持ったユーザーに選んでいただきたいです。また、ロータリーEVに関しては、普段は環境への配慮などで電動化に興味を持ちながらも、住まいの環境などから充電に対する不安であるとか、航続距離に対する不安をお持ちのユーザーに対して、新しいソリューションになればという思いで導入しました。

各所にロータリーをあしらったデザインが配されている

──SUVモデルが多数ある中でロータリーを積んだMX-30 Rotary-EVの位置付けとは? また半導体不足など供給体制について教えてほしい。

上藤氏:日本国内では月販300台が目標台数ですが、生産キャパシティは年間約2万台の能力があります。部品の供給などは、市場のニーズを見ながら少しでも応えられるように供給していきたいです。

東堂氏:昨年までは楽しみにお待ちいただきながらも、生産が不安定でご迷惑とご心配をおかけして誠に申し訳ございませんでした。幸い直近は生産がとても安定してきており、今期に入ってからは過去のような心配はないかなと考えています。

──マルチソリューションのプラットフォームなど、既存のものを使って大きな設備投資はしていないとうかがったが、それがコスト低減、価格を抑えられた1つの要因になっているのでしょうか?

上藤氏:コスト低減に関する取り組みは常日頃から行なっていますが、その中でマツダの強みであります混流生産、既存のアセットを極力うまく活用していることでコストの高騰を抑え、価格を抑えることにつながっていると信じております。

マルチソリューションプラットフォームを採用

──紆余曲折がありながらもマツダのスピリットであるロータリーエンジン搭載車を復活できた意義は?

東堂氏:すべてのクルマがEVに置き換わるまではもう少し先の話だと思っていますので、マツダとしては内燃機関・電動化技術・代替燃料など、さまざまな組み合わせやソリューションを用いて、各国各市場の電源事情に応じて、適素適材でいろいろな車両を提供していくべく、マルチソリューション戦略を進めています。

 中でもPHEVはユニット自体が大きくなるため国内では大型車のCX-60に搭載していますが、ロータリーエンジンは軽量・高出力・コンパクトといった特性があり、小型の電気ユニットを作るのに適したエンジンですので、コンパクトクラスにPHEVを搭載するにはマツダの資産であるロータリーエンジンを活用できる。

 また、マツダの歴史・スピリット・DNAそのものがロータリーの挑戦だったわけで、社員や過去ロータリーエンジンに乗っていただいた多くのファンにも喜んでいただけると考えています。

マツダ株式会社 執行役員 国内営業担当 東堂一義氏

──今後ロータリーエンジンを発電ではなく、水素やカーボンニュートラル燃料などへの展開も検討しているのか? ロータリー戦略の展望は?

東堂氏:ロータリーエンジンは水素をはじめとした多様な燃料にも対応可能ということで、将来につながる発展性はあると考えています。しかし、現段階で具体的な説明はできませんので、温かく応援して見守っていただければと考えております。

──コンパクトサイズのPHEVが作れることの優位性、新たなユーザーへの訴求ははどのくらいあると考えていますか?

上藤氏:MX-30はシリーズ式PHEVと非常に独自な電気システムを搭載していますし、PHEVの中でも、どのクルマよりもEVに近い使い方が可能なのも、このクルマの独自性だと考えています。なので車両のサイズのみならず、使い方やユーザーのライフスタイルにより幅広く沿え、マルチソリューションの1つになると思っています。

──バッテリなどコスト面で課題があると思うが、MX-30の1台あたりの利益率は?

東堂氏:個別車種の収益は申し上げられないので、少し考え方を説明いたします。バッテリは非常にコストが高く、各社同じ事情だと思いますが、このコストをどう下げていくかは、マツダだけでは解決できない問題です。ただし、電動車を開発・販売していくことで、電動車の開発・販売の知見や経験を積み重ねていき、将来のビジネスに向けて資産化するといった価値も狙っています。

──欧州と日本以外でも販売するのでしょうか?

上藤氏:現在は欧州と日本のみの予定です。もちろんたくさん出したい気持ちは山々なのですが、それぞれの市場のお客さまニーズ、使われ方を鑑みた上で、やはり小型車であること、マツダ車全体のポートフォリオを見ながら、各市場にそれぞれに適したクルマを提供するスタンスのため、この2つの市場で今回は計画をしています。

マツダ株式会社 MX-30主査 上藤和佳子氏

──2030年までの戦略の中でロータリーエンジンを使ったEVはコンパクトなものが多いと思うが、MX-30以外の車種で欧州や日本以外の国や地域への展開は検討しているのでしょうか?

東堂氏:現時点では日本と欧州の計画になっていますが、今後の商品の反響を含めて、もちろん検討していきたいと思っています。ただし、今の段階では特に決まったことはありません。また、逆に言えば世界で唯一のロータリーエンジンを使ったPHEVは、日本では乗れますので、ぜひ多くの方にご体感いただきたいです。

──レシプロエンジンを使ったPHEVはどこまで小型化できるのか? それに対するロータリーエンジンの優位性はどのくらいあるのでしょうか?

富澤氏:今回開発したロータリーエンジンがどれだけコンパクトかを比較するために、エンジン本体の占める容積を計算して比較をしました。この8Cは50.4Lという大きさで、対してマツダの直列4気筒1.5リッターエンジンを、8Cと同等の出力性能にするとなるとちょうど3気筒に切ったくらいなので、3気筒分のレシプロエンジンの容積を計算すると61.2Lとなり、18%ほどロータリーエンジンの方がコンパクトにできています。当初この直列3気筒エンジンが搭載できるかというスタディもしましたが、実際問題ぜんぜん乗らなかったので、MX-30に対しては8Cがマストであったとなっています。

──EVモデルとPHEVモデルが同じプラットフォームで同サイズに収まるとのことだが、出荷後にEVに改造したり、後輪駆動のPHEVなどへ展開したりも可能になるのでしょうか?

上藤氏:まだ具体的な計画は明確にはないですが、この新しい電駆ユニットを世に出したことで、新しい技術の広がりや可能性について、スタート地点に立ったと考えています。

MX-30 Rotary-EV

MAZDA MX-30 Rotary-EV オンライン発表会(21分16秒)