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マツダが「飽くなき挑戦」と位置付ける新型8Cロータリーエンジン開発 次世代RENESIS 16Xや787Bの技術を投入
2023年9月14日 11:45
マツダは9月14日、シリーズ式プラグインハイブリッド「MAZDA MX-30 Rotary-EV」の予約受付を開始した。このMX-30 Rotary-EVで注目されているのが、シリーズ式ハイブリッドの発電ユニットとして新開発のロータリーエンジンを選択したことであるのは間違いないだろう。
マツダは世界で唯一の量産ローターリーエンジン車を作り続けたメーカーとして知られており、RX-7など日本の自動車史上に残るクルマを発売。そのローターリーエンジンの技術はモータースポーツシーンで磨き上げられ、1991年のル・マン24時間レースでは、4ローターのマツダ 787Bが日本車として初めて優勝。その独特の排気音は世界の人に愛されており、100周年を迎えた2023年のル・マン24時間におけるデモランにおいても、観客から大きな拍手を贈られていた。
そのマツダが、発電ユニットという形ではあるものの、11年ぶりにロータリーエンジンの量産を開始。さらに、そのロータリーエンジンは完全新設計で次世代RENESISとして発表されていた16Xや、ル・マンを制した787Bの技術が投入されているという。
新型ロータリーエンジンである8C型は、マツダの「飽くなき挑戦」そのものであるという。この8Cロータリーエンジンの開発説明において、マツダ技術陣は「マツダの飽くなき挑戦 SKYACTIV エンジン開発の志~」と題した1枚のスライドを取材陣に見せた。
マツダの飽くなき挑戦 SKYACTIV エンジン開発の志~
・私たちは世界で唯一の量産REの開発を行っています。
・従って、私たちが歩みを止めればREの進化は止まります。
・全世界に何万人といるレシプロエンジンの開発者を相手にして、私たちは最高のREを作りたい。いや作るべき。それが後世にREを伝え、お客様に笑顔をとどける唯一の道だから。
・そのためには、常に進化を求め挑戦し続けるしかない。それが「飽くなき挑戦」であり、SKYACTIVエンジン開発の志です。
排気量830cc×1ローターの8C型ロータリーエンジン
この特別な思いから8Cロータリーエンジンの開発は、始まっているという。8Cロータリーエンジンは、数々のノウハウは注ぎ込まれているものの、ロータリーエンジン市販開始以来のゼロベース設計になる。そのポイントは熱効率最大化を目指し、ロータリーエンジンのハウジングやローターを完全新設計している。
現在でも愛されている13B型ロータリーエンジンは、排気量654cc×2ローターの構造をしている。2ローターとすることで、2つのローターが互いに振動を打ち消し合う部分があり、ピストン運動を用いる通常のエンジンで言えば直列6気筒同等のスムーズさがある。
一方、今回新設計された8Cロータリーエンジンは、排気量830cc×1ローターのユニット。発電という用途に向けてあるため、できるだけコンパクトにするという意図から、1ローターという構造を採っている。ただし、振動面で2ローターよりも不利になるため、エンジンの基本スペックである熱効率の追求はもちろん、振動面などにも配慮。電動車への搭載もあるので軽量化も図られている。
ロータリーエンジンの基本設計となる単室の排気量を13Bの654ccから830ccへと拡大。これは発電に必要な仕様から決まったといい、8Cロータリーエンジンは最高出力53kW/4500rpm、最大トルク112N・m/4500rpmのパワースペックを持つ。ただし、効率のよい領域で用いるため、必要に応じて2000rpm~3000rpmのところで運転が行なわれている。
この8Cロータリーエンジンは、1ローターとしては大きくなっていることから振動面では不利になるため、バランスを徹底的に追求。鋳造、機械加工、組立といった製造面でも、さまざまな工夫が行なわれている。
次世代RENESIS 16X由来のCディメンジョンを採用した8Cロータリーエンジン
ロータリーエンジンは、三角おむすび型ローターの3つの頂点がトロコイド曲線と呼ばれる曲線上を動いていく仕組みになり、それがハウジングの形を決めている。8Cロータリーでは13Bと比べハウジングを拡大、幅方向で180mmから205mmへと25mm、高さ方向で240mmから275mmへと35mm、それぞれ増加している。
このように新しい形状を採用したことで、13BのBディメンジョンからCディメンジョンへと進化し、排気量も830ccとなったことから「8C」と名付けられている。
これによりローターも大型化、ローター幅は13Bの80mmから76mmと薄型化しているものの、ローターの回転中心から三角形の頂点を結んだ距離となる創成半径は、105mmから120mmへと大きくなっている(トロコイド諸元は、e[偏心量]=17.5mm、R[創成半径]=120mm、b[ローターハウジング幅]=76mm)。
実はこの諸元は、次世代RENESISとして発表されていた2ローターである16X由来のものになる。16Xは2ローターで1600ccほどであったため「16」、その半分だから「8」というレンジになるのだろう。
もちろん16X由来のトロコイド曲線ではあるものの、注ぎ込まれた技術はこれまでマツダがSKYACTIVエンジン開発で培った技術が多数注ぎ込まれている。その大きなものが直噴化。13B当時に直噴化を検討したものの、当時は10MPaの1回噴射。それを今回は、30MPaの3回噴射と多段化している。ただ、これだけでは「素早く燃える」「効率のよい燃焼」が得られなかったため、燃焼室を変更。
これまでは、ローターの側面をすくったような燃焼室だったが、スキッシュエリアを設け、燃焼室部分も彫り込まれている。マツダはMBD(モデルベース設計)が進んでいるメーカーでもあり、この燃焼部分もMBDで作られており、多様なシミュレーションが可能になったことで圧縮比は11.9に、13Bよりも効率のよい燃焼が得られている。なお、プラグもL/Tの2本から1本へとなり、このことからも燃焼改善がうかがえる。
また、直噴と相性のよくないロータリーエンジンの潤滑も改善。オイルを噴く位置や形状をシミュレーションや実際に観察することで最適化。オイル穴も13Bの3つから、2つへと減らし、必要な潤滑を得つつ、不要なオイルを減少させた。
787Bのレーシング技術を量産技術へ
この8Cロータリーエンジンでは、電動車両に搭載するということで軽量化も図られた。具体的には、サイドハウジングを鋳鉄からアルミへと変更。ロータリーエンジンのサイドハウジングにアルミが採用されたのは、初代コスモスポーツに搭載された10A以来のこととなり、約60年ぶりになるという。
もちろん、10Aから12A、13Bになる過程で鋳鉄に変更されたのは、大量生産時の品質確保のため。鉄はアルミよりは重いが、アルミよりも強度が高く、サイドハウジングに必要な強度の確保も容易だったと思われる。マツダは、今回そのサイドハウジングの強度を確保するため、ル・マン優勝車であるマツダ 787Bのエンジンに採用されていた「サーメット(セラミック)溶射」を採用。
耐摩耗性と量産性を確保するサーメット溶射をサイドハウジングに行なうことで、量産車に必要な品質を確保した。787Bが優勝した1991年当時はレーシング技術(当時はガス爆発式[D-Gun]溶射)だったものを、高速フレーム法溶射という量産技術でだれもが買えるものとした。
これらの技術によりエンジン自体で15kgの軽量化を達成。次世代RENESIS 16X、マツダ 787Bのエンジン技術を採り入れながら、新時代のエンジンとして作られている。
なお、この8Cロータリーエンジンは、ハウジング内径は拡大されているものの、外径については13Bと同様の大きさにとどまっている。吸気ポートはサイドに2つ、排気ポートもサイドに2つと高効率仕様。エンジン外径の大きさが大きくなっていないことや、そもそも発電機としては必要以上に技術や生産方式が高度なものになっていることにマツダの意図を感じる気もするが、11年ぶりに量産化された8Cローターリーエンジンの登場は、同社の「飽くなき挑戦」が結実した製品であるのは間違いない。