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トヨタの新型プリウスレーシングハイブリッドは25%の出力アップ、TGRプレジデント高橋智也氏と開発者大矢賢樹氏が会見

チャーン・インターナショナル・サーキットにおいて行なわれた会見。左からTDEM パナットGM(エンジニア)、TOYOTA GAZOO Racing Companyプレジデント 高橋智也氏、TC製品企画 主査 大矢賢樹氏

25%パワーアップして10時間耐久レースに挑む新型プリウス

 タイのチャーン・インターナショナル・サーキットにおいて12月22日~23日(現地時間)、「IDEMITSU SUPER ENDURANCE SOURTHEAST ASIA TROPHY 2023」(タイ10時間耐久レース)が開催されている。

 トヨタ自動車は、この10時間耐久レースに「ORC ROOKIE GR86 CNF concept」「ORC ROOKIE GR Corolla H2 concept」「CP ROOKIE PRIUS CNF-HEV GR concept」の3台のカーボンニュートラルレーシングマシンを投入。GR86は日本のスーパー耐久シリーズに参戦しているカーボンニュートラル燃料を使用したGR86、水素カローラは1年ぶりの実戦となる高圧気体水素バージョンとなる。

10時間レーススタート前の新型プリウス

 最も注目を集めているのは、カーボンニュートラル燃料を使用する新型プリウスのレーシングハイブリッド車で、市販仕様のプリウスからさまざまな変更が加えられている。

 TOYOTA GAZOO Racing Companyプレジデント 高橋智也氏と、新型プリウスの開発責任者であるTC製品企画 主査 大矢賢樹氏はタイで会見。3台のカーボンニュートラル車で耐久レースに参戦する意義と、プリウスレーシングハイブリッドの変更点などについて語った。

モータースポーツに取り組む意義
トヨタのモータースポーツ参戦には、創業者の意志が込められている
モリゾウ選手の取り組み
タイの10時間耐久レース「IDEMITSU SUPER ENDURANCE SOURTHEAST ASIA TROPHY 2023」に取り組む意義
各国の電力構成比には差があり、CO2排出火力発電の多いタイや日本ではハイブリッドがカーボンニュートラル推進に貢献する
カーボンニュートラル燃料のGR86とプリウス、水素のGRカローラで脱炭素へのマルチパスウェイを進めていく
モリゾウ選手の言葉
カーボンニュートラルの仲間が増えてきた

 高橋プレジデントは、新型プリウスのレーシングハイブリッド車参戦の意義について「ハイブリッドでも楽しい走りができると伝えていければ」という。「トヨタのTHSハイブリッドシステムは、燃費のためのハイブリッドシステムというイメージが強いと思うのですが、今回は電池を枯渇させないような制御を取り入れており、走りながらどうやって電池の残量をマネジメントするかという走るテクニックも必要になっています」「今までにない走る楽しみを作ることができればと思っています。今回のレースでそうしたヒントを得られればと考えています」と語り、さまざまな新しい制御が入っていることを示唆する。

「電池枯渇制御、トラクションのかけ方、エンジンのトルクを充放電に使う割合」などWECの知見と投入し、レースで開発

ルーキーレーシングと新型プリウスの記念写真

 具体的には「電池枯渇制御、トラクションのかけ方、エンジンのトルクを充放電に使う割合」などで、これにはハイブリッドシステムを使うWEC(世界耐久選手権)マシンであるGR010のノウハウが入っているとのこと。高橋プレジデントはWECモードと呼んでいたが、そういった形でモータースポーツ参戦の知見が活かされていると語ってくれた。

 大矢氏によると、ブレーキペダルを踏んだ際の回生制御とブレーキ制御のミックスが難しいという。レーシングスピードでのブレーキ時にできるだけ回生にエネルギーを持っていきたいが、当然ながらストップパワーも必要で、減速エネルギーをどれだけ回生で回収して、どれだけレーシング仕様のブレーキで発散するかがポイントになる。その制御を高めていくためにも10時間耐久レースでデータを取っていきたいとのことだった。

 ユーザーにとって気になるのは、このようなレーシングハイブリッドの取り組みが市販車につながるのかということだろう。TOYOTA GAZOO Racingは、ル・マンの100周年記念として6月にレーシングハイブリッドを前面に打ち出した「Prius 24h Le Mans Centennial GR Edition」を展示、大きな反響を巻き起こした。

 そして、タイの10時間耐久レースには、「CP ROOKIE PRIUS CNF-HEV GR concept」というGRのネーミングが入った新型プリウスで参戦している。

 GRによる市販化の可能性を高橋プレジデントに聞いたところ、「僕らが大事にしているのは、クルマが楽しいかどうかになります。そういうクルマになりそうであれば、しっかり会社の中で計画していきたいと思います」「僕らはプリウスを作っているものの、プリウスが出口ではなく、ハイブリッドでどう楽しいかが大事だと思っています」と答えてくれ、まずはレーシングシーンにおけるハイブリッド制御を極めていきたいという。その上で、市販化の可能性を考えていくとした。

 ハイブリッド制御によるモータースポーツの可能性だが、すでにTOYOTA GAZOO Racingがル・マンで5連覇を達成したTS050やGR010は、駆動方式こそ異なるもののモーターとエンジンのハイブリッド車だ。WRC(世界ラリー選手権)でチャンピオンを獲得しているGRヤリス ラリー1 ハイブリッドも当然ながらハイブリッド車。PU(パワーユニット)と一般には理解不能な名前で呼ばれるF1の心臓部もハイブリッド。であるならば、モータースポーツを楽しめるハイブリッド車というのは、極めて自然な流れになるのではないだろうか。

 ハイブリッドのよさとして、モーターとエンジンの駆動制御、回生制御などがコントロールしやすいことが挙げられる。レースシーンで言えば、ホンダがレッドブルで初優勝した際の「エンジン11、ポジション5」の制御変更無線は、メカ好きの心を直撃していた。F1の予選などでも見かける、充電モードとタイムアタックモードの走行など、ハイブリッド車にはスポーツする楽しみの軸がたくさんあるように思える。

 それら制御のさらなる作り込みが必要であれば、タイと同様にカーボンニュートラル燃料を使用してスーパー耐久に参戦する方法もあるだろう。スーパー耐久参戦の可能性について高橋プレジデントに聞いたところ、「ここ(タイ)で乗ってみて、面白くなるポテンシャルがあるのであれば、正直S耐でも走らせてみたい」といい、その可能性はゼロではないとする。

 今回のプリウスの市販車からの変更点は小さく、モーターはカムリのものを転用しており、電池容量はプリウスHEVとプリウスPHEVの中間程度。エンジンについては制御を変更しているが、ボディ補強は参戦ルールにしたがったロールケージなど、驚くほど市販車に近い。新型プリウスの飛び抜けたボディデザインは、レーシングマシンの中に入っても見劣りせず、スーパー耐久でも見栄えのするものになるだろう。

 なにより、トヨタ車は販売でのハイブリッド比率も高く、多くのハイブリッドユーザーから注目される参戦になるだろう。モータースポーツで鍛えたハイブリッド車(制御)を、充電効率に振る、ロングドライブに振る、そしてサーキットでのスポーツ走行を楽しめる。新型プリウスのレーシングシーンにおける開発に期待したい。

新型プリウス開発者である大矢賢樹氏とドライバーを囲んでの記念写真