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ホンダ、新型「CR-V e:FCEV」にコスト3分の1の燃料電池システム投入 開発チームがポイントを解説

2024年2月28日 公開

本田技研工業株式会社 電動事業開発本部 BEV開発センター 開発責任者 生駒浩一氏らが新型「CR-V e:FCEV」の事前説明会を行なった

水素は電気を補う次世代のエネルギーキャリア

 本田技研工業は2月28日~3月1日の期間、東京ビッグサイト(東京都江東区有明)で開催されている「H2&FC EXPO[春]2024~第21回[国際]水素・燃料電池展[春]~」にて、2024年夏に日本で発売予定の新型燃料電池車「CR-V e:FCEV」を公開しているが、先行して説明会を実施した。なお、CR-V e:FCEVは2月29日から先行予約の受け付けが開始される。

 先行説明会で登壇した水素事業開発部の長谷部哲也部長によると、ホンダは2050年に製品だけでなく企業活動を含めたライフサイクルでの「環境負荷ゼロの循環型社会」の実現に向け、「カーボンニュートラル」「クリーンエネルギー」「リソースサーキュレーション」という3つの柱に取り組んでいるが、再生エネルギー由来の電気だけにとどまらず、水素やカーボンをエネルギーキャリアとして循環利用することも必要という。

 また、ホンダは2030年までに販売比率をハイブリッドモデル80%、EV/FCEVモデル20%の100%電動化を目標に掲げていて、2035年にはEV/FCEVモデルの比率を80%まで高め、さらに2040年にはEV/FCEVモデルの比率を100%にすることを目指している。

本田技研工業株式会社 コーポレート戦略本部 ポートレート事業開発統括部 水素事業開発部 部長 長谷部哲也氏

 水素については、「電気よりも保存時のエネルギー密度が高いことや、電気へのエネルギー変化が容易という特徴があり、電気を補う次世代のエネルギーキャリアとして有望視されている」と紹介。

 さらにGMと共同開発・製造協業している燃料電池システムについては、今後FCEVを皮切りに世の中のさまざまなアプリケーションへの拡大を検討していて、稼働率の高い大型モビリティや大型のインフラ定置電源などでの活用を中心に積極活用するという。

 また、将来の本格普及期に向けては、「3代目の燃料電池システムの開発も研究所でスタートしている」といい、将来のパワートレーンは従来パワートレーンと置き換え可能で、高い目標値を定めて推進していると説明した。

水素の本格普及期に向けた技術方向性と目標

 続いて、新型CR-V e:FCEVの開発責任者である電動事業開発本部の生駒浩一氏がターゲットユーザーについて言及。1人目は環境トレンドセッターで、便利な日常使いを希望しながらも、環境に優しいというこだわりが外せないタイプ。2人目はイノベーティブプランナーで、環境に配慮しながらも家電で生活の広がりを楽しみつつストレスフリーな生活を楽しむ。自分で工夫して技術をうまく活用し、そこからイノベーションを生み出すようなタイプと2つの例を挙げた。

 CR-V e:FCEVは、水素から作った電気とバッテリに蓄えた電気の両方を使えるので、これらをうまく融合させ、自分なりの面白い使い方を見つけるような人を想定していると説明した。また、水素インフラが整備されている地域では、その強みがより生かされ、バッテリEVよりも選ばれる存在になると想定しているという。

本田技研工業株式会社 電動事業開発本部 BEV開発センター 開発責任者 生駒浩一氏
CR-V e:FCEVの特徴を生かした使い方イメージ

ベース車両は北米や中国で販売中の6代目「CR-V」

 デザインセンターの須藤大志氏によると、エクステリアは北米仕様の6代目CR-Vの先進スポーティ骨格をさらに力強く進化させながら、さらなる機能的骨格を追求。11cmほどノーズを伸ばすことで、燃料電池システムの搭載と衝突安全基準クリアを両立。最小限の変更幅で知的なたたずまいと、ゆとりから生まれる力強さを表現したという。

 また前後フェンダーガーニッシュとサイドシルガーニッシュをボディ同色としつつ、ヘッドライトは薄型でワイド感を強調し、リアコンビネーションランプはCR-V伝統の縦型スタイルでキャラクターを確立させている。

株式会社本田技術研究所 デザインセンター デザイン インテリア担当 須藤大志氏
CR-V e:FCEV
ボディサイズは4805×1865×1690mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2700mm(ホンダ社内測定値)
タイヤはハンコックの「KINERGY GT」で、装着サイズは前後とも235/60R18
薄型ヘッドライト
CR-V伝統の縦型リアコンビネーションランプ。透明カバーにすることでスッキリ感を高めている

 インテリアは、後席もリクライニング可能と、CR-V特有のゆったりとした空間を確保。須藤氏は、「今回のパッケージングで最大の特徴となるのは、荷室の使い勝手です。荷室はあらゆるシーンで賢く使え、E-Lifeの可能性が広がるフレキシブルカーゴを提案しています。通常FCVの荷室には円柱形の水素タンクが搭載されますが、CR-V e:FCEVでは水素タンクの張り出しを荷室の使い勝手に積極利用するアイディアを採用いたしました。水素タンクの上面を平らな板で覆い、その上面の高さに合わせてフレキシブルボードを設定しています。荷室後端までフラットになる広い荷室をトランクスペースに創出しました」と使い勝手のよさをアピールした。

新型CR-V e:FCEVの荷室は、生活の可能性が拡がる「フレキシブルカーゴ」に
インテリアカラーはブラックのみの設定。12個の高性能スピーカーを配置したBOSEのサウンドシステムを標準装備する
ステアリングは感触のいい合皮を採用。ヒーターも備えている
10.2インチのTFTフルグラフィックメーターを採用。
センターディスプレイでは電池残量や航続可能距離などを確認できる
シフトレイアウトは「ZR-V」「オデッセイ」などと同型を採用。センターコンソールには12Vソケット、USBポート、置き充電も備える
シートはバイオ合皮を採用。環境に配慮した素材を使いつつ、横基調の幅広いキルティングを大胆に施すことで、安心して使える力強さを表現したという。シートヒーターも完備
後席にもリクライニング機構が備わっている
ラゲッジスペース
2段式を採用
水素タンクの場所を積極的に活用したレイアウトを実現
ラゲッジスペースの下には三角表示板やパンク修理キット、AC車外給電用のパワーサプライコネクターなどを格納できる

 ボディカラーは軽やかでクリーンな印象の「プラチナホワイト・パール」と、力強くて頼もしい印象の「メテオロイドグレー・メタリック」の2色のみの設定となる。ホイールはモダンスポーティなデザインを採用した18インチ(ブラック)のみ。

従来の燃料電池システムよりコストは3分の1、耐久性は2倍、耐低温性も大幅に向上

  先進パワーユニット開発責任者である上野臺浅雄氏によると、新型「CR-V e:FCEV」は今後のFCEVの普及拡大を見据え、量産CR-Vハイブリッドのプラットフォーム、IPU(インテリジェント・パワー・ユニット:バッテリ、12V DC-DCコンバータ、バッテリ制御用ECUを一体にしたもの)、充電機能を積極的に利用。

 さらに、低ハイトなギヤボックスを新規開発し、トルクフルなモーターと組み合わせてドライブユニットを構成したことで、ベース車両に大幅な変更を加えることなくコンポーネンツの搭載が可能になり、前モデルの「CLARITY FUEL CELL」ではパワートレーンの主要ユニットが、ボディに個別に搭載していたが、今回のCR-V e:FCEVでは全てを一体化して搭載。小型軽量化、衝突安全性、NV性能、運動性向上に貢献したという。

株式会社本田技術研究所 先進パワーユニット・エネルギー研究所 先進パワーユニット開発責任者 上野臺(うえのだい)浅雄氏
パワーユニット主要コンポーネンツ
前モデル「CLARITY FUEL CELL」とのパワーユニットの違い

 具体的には燃料電池システムのコアとなる次世代型燃料電池「FCスタック」は、内部セルの積層数を15%ほど削減しつつ同等のネットパワーを確保。低コスト化と耐久性の向上も図られている。また、電動ターボ型エアポンプは、高回転化にともない小型化することで重量が約半分と軽量になると同時に、振動低減による静粛性向上も実現。さらに電動温度調整バルブを採用したことで、温度と湿度をより綿密にコントロールできるようになり、FCスタックの耐久性を向上させたという。

 そのほかにも、チャンバーの新規採用と最適マウントを実現したことで、優れたNV(ノイズバイブレーション:騒音・振動)性能を両立している。それらの積み重ねにより、従来の燃料電池システムと比較すると、コストを3分の1まで削減、耐久性を2倍に向上、耐低温性も大幅に向上させている。

GMと共同開発した燃料電池システムを搭載する
フロント左側のみ冷却用のクーラーを搭載
水素タンクは後席床下とラゲッジスペースと計2個。水の排出口は後方の車両にかかりにくくするため後輪よりも前に配置している

給電もできて、充電もできる新型CR-V e:FCEV

 新型CR-V e:FCEVが備えるプラグインバッテリの充電は、左フロントフェンダーにあるAC充給電コネクターを使用。また、車室内にはアクセサリーソケットやUSBポートなどを備えていて、電装品が使用できるほか、左フロントフェンダーにあるAC充給電コネクターに、ホンダパワーサプライコネクターを使うことで、車外で家庭用100V電源と同様に使える。さらにラゲッジスペースにもCHAdeMO方式のDC給電口を備え、パワーエクスポーターなどを接続することでCLARITY同様に大容量の電力を利用可能となる。

 先行説明会では、開発責任者の生駒氏が自ら可搬型外部給電機の接続を行ない、家電を稼働させるデモンストレーションを実施した。

左側後部に配置されている水素給電ポート
左側前部には充電/給電ポートを完備
外部給電の状況はメーター内で確認できる
外部給電を行なう際は、水素残量をあらかじめ設定しておける
FCEV関連機能は細かく設定可能
CHAdeMO方式のDC給電口はラゲッジスペース右側に配置されている
可搬型外部給電機を接続することで、非常時や屋外イベントなどへ高出力の電力供給が可能となる。
使用例として炊飯器、ポット、冷蔵庫、ヒーターなどを同時に使用するデモンストレーションが行なわれた
幅広いシーンに対応する充給電インターフェース