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フォーミュラEのジェフ・ドッズCEOと共同創設者アルベルト・ロンゴ氏、フォーミュラE 東京大会における見どころを解説

2024年3月29日 開催

フォーミュラE 共同創設者 兼 チーフ・チャンピオンシップ・オフィサー アルベルト・ロンゴ氏(左)とフォーミュラE CEO ジェフ・ドッズ氏(右)

 BEV(バッテリ電気自動車)のフォーミュラマシンによる国際レース「フォーミュラE」を運営するFormula E Operations Ltd.は3月29日、週末の3月30日に迫った「ABB FIA フォーミュラE世界選手権 シーズン10 Round5 Tokyo E-Prix」の見どころや開催に向けた意気込みなどをCEOのジェフ・ドッズ氏、チーフ・チャンピオンシップ・オフィサーのアルベルト・ロンゴ氏が説明するメディアラウンドテーブルを開催した。

 グループインタビュー形式で実施された取材では、最初にドッズ氏とロンゴ氏からフォーミュラEのレースを東京で開催する意義、Tokyo E-Prix開催でなどが語られたあとにインタビューが行なわれた。

フォーミュラE CEO ジェフ・ドッズ氏

 ドッズ氏は「東京を含め、日本は私たちにとって非常に重要な場所だと考えています。そのため、共同創設者のアンジェロ氏は10年以上の期間を東京開催のために費やしてきました。まず、日本には非常に大きなファンベースがあり、東京でE-Prixを開催することはフォーミュラEというレースにとって大きな意義があります」。

「また、E-Prixを開催することは東京都にとっても大きな意味があります。東京都が掲げている『2050年までにCO2のネットゼロを目指す』『計画の半分を2030年までに実現する』という目標があり、われわれのE-Prixは初期段階からCO2のネットゼロを実現しています。レースという面でも、持続可能性という面でも同じビジョンを持つことができたことで、東京都の目標実現に貢献できると考えています」とコメント。

フォーミュラE 共同創設者 兼 チーフ・チャンピオンシップ・オフィサー アルベルト・ロンゴ氏

 また、ロンゴ氏は「私たちがFIA(国際自動車連盟)からレース開催のライセンスを取得したのは2012年8月のことでした。それから開催都市の選定が始まったのですが、東京にはその直後の9月の段階で訪れて、東京でE-Prixを開催できないかという交渉や調整が始まりました」。

「それから年間に2~3回というペースで日本にやってきて、東京に限らずいろいろな都市でのE-Prix開催について可能性を模索してきました。それから10年以上が経過して、ようやく東京での開催にこぎ着けたわけですが、これには東京都の小池都知事が粘り強くE-Prix開催を後押ししてくれたことが大きな力になりました。あらためて小池都知事にはお礼申し上げたいと思います。Tokyo E-Prix開催がこれからも10年、20年、30年と続いていくことを祈っています」と説明した。

取材はグループインタビュー形式で実施された

東京は120近く開催してきた中で一番やりやすい都市

ジェフ・ドッズ氏

――Tokyo E-Prixの開催が決まってから実際にコースが設営されるまで、一番大変だったのはどんなことですか?

ジェフ・ドッズ氏:これまでにわれわれは118のレースを開催してきましたが、東京は一番やりやすい都市でした。これはおそらく日本社会の体質のようなものが原因で、少し苦労したとすれば許認可関連ですね。しかし、とにかくスムーズに進みました。関係している人の働き方もあると思いますが、本当によいことばかりでした。そう、敢えて言うなら(朝から豪雨が続いている)天気に関して文句があるぐらいですね(笑)。

――Tokyo E-Prixのコースでは、当初発表された内容から直前になって一部にシケインが追加されましたが、これはどんな理由があったのですか?

ドッズ氏:コースレイアウトを決めてから、FIAに申請して許可を得る手順があるのですが、そこでターン16の先が下り坂になって抜けていく形状になっており、安全面で改修が必要だと判断されて、最後にシケインが用意されました。

――Tokyo E-Prixの会場になる東京ビッグサイト周辺は東京の中でも比較的新しく開発された地域です。皇居や浅草、秋葉原といった、外国の人にも分かりやすく“東京らしさ”や“日本らしさ”がある場所を会場にする予定はありませんか?

ドッズ氏:まず、東京のような大都市でレースを行なうためにクローズするのは極めて難しいことです。東京都はもちろん、警視庁とも連係が必要になります。この場所は一般的な観光名所とは離れていますが、東京ビッグサイトでは東京都のZEV(ゼロエミッション・ビークル)啓発イベントも開催されており、われわれが推進しているCO2ネットゼロという観点でも大きな意味を持っているのです。

もちろん、今後のレースについて別の可能性が出てくれば、それに対してはオープンな姿勢でいますが、例えば秋葉原のような場所で開催することに、警視庁が同意してくれるとはちょっと思えません。そういった、あまりにも人出が多い場所で公道をクローズすることは難しいことです。このあたりについては東京都の差配に従っている部分で、東京都がOKと言ってくれるなら、われわれも動くという感じです。

アルベルト・ロンゴ氏:これまで私が東京都と協議してきたことを考えると、やはりこの場所がレース開催に最適だと感じています。確かにここは東京の中心部分ではありませんが、例えば今回の来日で、私は皇居の近くに宿泊していますが、ここまでわずか12分で来ることができます。それぐらいの距離感で、ここも東京なのです。

また、レース開催で公道を封鎖することは周囲の人に迷惑をかけてしまうので、そのあたりに配慮することも大切だと思います。私も東京都から別の可能性について提案されたら、それにはもちろんオープンに向き合いたいと思いますが、現段階ではこの場所が最適だと思います。

アルベルト・ロンゴ氏

――近年ではF1でも市街地開催が増えていますが、それについてはどのように考えていますか? また、市街地コースはマシンの性能を発揮しきれず不満を口にするドライバーもいるようですが、フォーミュラEではいかがでしょうか?

ドッズ氏:フォーミュラEでは最初の段階から、オーディエンスを惹きつけるためには市街地開催が必要だと考えていました。F1も、フォーミュラEの状況を見て学んでいるのではないでしょうか。F1もファンベースを拡大して新しいオーディエンスを惹きつける使命を持っていて、そこで近年は市街地レースが増えているのだと思います。最近では米国・ラスベガスでF1が開催されましたね。

もう1つの部分では、私は近年のF1はマシン性能が後退していると感じます。マシンのハイブリッド化で車両重量が増加して、これが市街地レースに向いていると見ることができると思います。このあたりはどうでしょう、アンジェロ(アルベルト)さん。

ロンゴ氏:市街地でのレースは、ドライバーからすればむしろ難易度が高いと感じるのではないでしょうか。普通のサーキットなら、少しぐらいミスをしてもコースサイドで体勢を立て直すことも可能ですが、市街地コースはミスをした次の瞬間には壁に激突して終わりです。そういった意味で、ドライビングスキルの見せどころとして、市街地レースのほうが難易度が高く、チャレンジングでやりがいがあると言えるのではないでしょうか。フォーミュラEに参戦している22人のドライバーは本当に素晴らしい、チャンピオン経験などもある選手ばかりでうれしく思います。

ドッズ氏

――日本では、ほかのスポーツと比較してモータースポーツはそれほどポピュラーではありません。日本でもっとモータースポーツが盛り上がっていくためにはどうしたらいいとお考えですか?

ドッズ氏:私は以前、ホンダで仕事をしていた経験がありますが、そのときの経験として、日本のファンはレース知識が豊富でテクノロジーについても熟知しています。熱意を持ってレースを見ていて、フォーミュラEを開催する場所としてはうってつけだと感じます。これからファンベースを拡大していくためには、レースで戦うドライバーの知名度を高めていくことを考えるべきだと思います。また、フォーミュラEはスタートして9年と歴史が浅いので、われわれの知名度を上げていくこともこれからの課題になります。

また、ニック・キャシディやサッシャ・フェネストラズ、アンドレ・ロッテラーといった日本で知られているドライバー3人が活躍することで、フォーミュラEのプロフィールを上げていくことが重要です。

ロンゴ氏:そうですね、フォーミュラEはまだ10回目のシーズンを迎えている段階で歴史が浅いです。しかし、日本では日産がレース参戦していて、来シーズン以降はヤマハも参加することになっています。日本のチーム、日本人ドライバーにもっと参戦してもらいたいと考えています。かつては鈴木亜久里さんのチームが参戦して、佐藤琢磨選手や小林可夢偉選手がレースに出場したこともあります。(記者からブリヂストンもねと捕捉され)そう、ブリヂストン、いいタイヤだね!

ロンゴ氏

――近年はBEVに対する評価が変化して、走行に用いる電気をどのように発電するかについても問題視されるようになってきました。電気で走るフォーミュラEによる社会貢献という面でどのように考えていますか?

ドッズ氏:ICE(内燃機関エンジン)は1896年に生まれて130年もの歴史があります。それと比較してBEVはそれほど歴史がない若い技術ですが、一方で技術開発は加速度的に進化を遂げています。利用が増えて問題が露呈してきたところもありますが、まだ若くて進化の途上にあるのでもう少し長い目で見てほしいという気持ちを持っています。

政治的な側面では、世界のCO2排出では移動における部分が全体の15%となっています。CO2の排出量を下げていくために、世界各国でBEVに移行していくため開発を奨励しています。しかし、残念ながら取り組みの動きが遅かったり、変化への戸惑いから移行を躊躇することも感じられます。そのため、交通機関からのCO2排出量を実質的に下げるためにはICE車をBEVに置き換えて台数を減らすことが必要です。その点で、フォーミュラEはBEVに移行していく1つの象徴になると思います。これがCO2排出を削減して地球環境に貢献するコミットメントになると考えています。

ロンゴ氏:9年前に行なわれたE-Prixでは(1台のマシンに蓄えた電気では足りず)1回のレースで2台のマシンが必要でしたが、今では1台で済むように進化しています。これは車両に搭載するバッテリの軽量化と回生発電の改善で実現されています。このように速いスピードでテクノロジーのさまざまな面が進化していて、ICEとは比較できないほどのスピード感です。10年ほどで技術は大きく進化しており、かつスピードが衰えることなく進化を続けています。これからも5~6年に渡って同じように開発が進んでいくと考えれば、今あるテクノロジーで未来を作っていくと言えると思います。

ドッズ氏:例えば同じ800馬力を発生させるために、ICEなら150kgのパワートレーンが必要ですが、BEVなら16kgで済み、こういった点でも効率的だと言えるかと思います。