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ヤマハとローラ、2025年からの供給開始に向けフォーミュラE規格の電動パワートレーン共同開発 フォーミュラEのドッズCEOも記者会見に参加
2024年3月28日 19:57
- 2024年3月28日 開催
ヤマハ発動機とレーシングカーコンストラクターの英Lola Cars Ltdは3月28日、電動技術獲得に向け、BEV(バッテリ電気自動車)のフォーミュラマシンによる国際レース「フォーミュラE」の参戦チームに供給する高性能電動パワートレーンの開発と供給に関するテクニカルパートナーシップ契約を締結したと発表。同日に都内で記者会見を行なった。
なお、ヤマハとローラが共同開発するフォーミュラE規格の電動パワートレーンはローラが手掛ける車体パッケージと組み合わせ、2025年からフォーミュラE参戦チームに向けて供給を開始する予定。
世界最高レベルのエネルギーマネジメントシステム開発を目指す
記者会見でヤマハ発動機 取締役 常務執行役員 丸山平二氏は、「ヤマハ発動機は2050年までのカーボンニュートラル達成を目指しています。その実現に向け、現在サステナビリティに寄与するさまざまな研究、技術開発を加速させています。私たちはフォーミュラEを通じてより高度なエネルギーマネジメント技術を獲得し、全社、全事業における電動技術の底上げに結びつけていきたいと考えております」。
「『ローラ』と聞いて心がときめくモータースポーツファンもたくさんいると思います。もちろん、私もその1人です。フォーミュラレースに情熱を注ぎ続ける伝統的な姿勢への敬意、そしてサステナブルモータースポーツという同社の新たな理念にも共感しています。こうしてパートナーシップを結び、志と行動を共にできることを、私たちは大変うれしく、光栄に感じています」。
「当社は1955年の富士登山レース以来、MotoGPをはじめとするさまざまなレースへの挑戦を通じ、技術や人材、経験と知見、そしてネットワークなどを広げ、磨き高めてまいりました。本プロジェクトでも、世界最高レベルのエネルギーマネジメントシステムの開発を目指し、情熱的にチャレンジしていきます」と語り、ローラとの提携でフォーミュラEの電動パワートレーン開発に取り組む意義と意気込みを述べた。
Lola Cars Ltd モータースポーツディレクター マーク・プレストン氏は、「本日は東京に来ることができ、またローラ復活の発表ができることをうれしく思います。日本でのローラブランドの歴史は長く、FEからF3000までいろいろなものがあります。ローラの成功に深く刻み込まれている国なのです。ですので、新たなパートナーシップでローラがモータースポーツの世界に帰ってくるという発表を、Tokyo E-Prixに合わせてできることは喜ばしいことなのです」。
「ローラの再生には3つの柱があります。『データ』『水素』、そして『持続可能な燃料と材料』です。データという柱を形作るのが、まさにヤマハとのパートナーシップです。これを実現するために電動モータースポーツの頂点であるフォーミュラEに挑むのです。350kWというパワートレーンと最先端のソフトウェア・ディファインド・ビークルを作り上げ、効率性を極めたマシンに仕上げていきます。チャンピオンシップには持続可能性に対してのフォーカスがあり、ローラにとってよい再スタートになると思います」。
「これまでもローラは、さまざまなコンストラクターと多彩なモータースポーツでパートナーシップを組んできました。同じようなパートナーシップをヤマハとも続けていきたいと考えています。ヤマハはモータースポーツにおける豊かなヘリテージを持っており、高いレベルにおけるモータースポーツの経験を積んで、複数のワールドチャンピオンシップを勝ち取ってきています。それだけに、データ、持続可能なモータースポーツの道を共に歩んでレースでの技術を展開していきたいと思います」とコメント。日本とローラの関係について説明し、ヤマハとパートナーシップを締結した理由について紹介した。
「ヤマハとローラのパートナーシップがBEVや電動の2輪車を効率化して、社会にも恩恵を与えていくことでしょう」とドッズCEO
また、記者会見にはフォーミュラEホールディングスのCEOであるジェフ・ドッズ氏、共同創設者 兼 チーフ・チャンピオンシップ・オフィサーのアルベルト・ロンゴ氏の2人も出席した。
ドッズ氏は「フォーミュラEというレースは誕生してから9年しか経っておらず、モータースポーツとしてはまだ赤ん坊のようなものです。設立当初、私たちは3つの原則を持っていました。それは『世界で最もエキサイティングで最も競争力のあるモータースポーツを作ること』『技術のイノベーションをレーストラックから実社会の公道に持ち込むこと』『サステナビリティを啓発するポートフォリオを作ること』の3つです」。
「本日のヤマハとローラの発表にあたり、この2つの組織はこれまでレースで非常に素晴らしい功績を残してきました。ちなみに、私のキャリアでは長年にわたってホンダと仕事をしてきました。その点でヤマハは私にとって重要な競争相手でした。レースに対して素晴らしい探究心を持っています。また、ローラはインディカーやF1で数多く勝利を収めています。そんなヤマハとローラが共同でマシン開発を行なうということはフォーミュラEにとって非常に素晴らしいことです」。
「また、2つめの原則でも、新たな技術開発を行なってレーストラックから公道に持ち込むという点で、ヤマハが素晴らしい伝統を作り上げています。これに加え、ローラがレースシーンに戻ってきたことにより、素晴らしい競争力を生み出すでしょう。レーストラックでの学びを私たち全員が恩恵として受け取ることができます。世界におけるCO2排出の15%ほどが道路交通に由来しており、移動や輸送という面で、まだまだ脱炭素化の余地があると言えます。そしてヤマハとローラのパートナーシップがBEVや電動の2輪車を効率化して、社会にも恩恵を与えていくことでしょう」。
「3つめの原則では、フォーミュラEではサステナビリティに対して各ブランドが同じ気持ちを持っていることが大変重要だと考えています。フォーミュラEはESG(環境・社会・ガバナンス)で世界一のブランドです。2021年からパートナーとサステナブルファンドを立ち上げ、15年で1億ドルを拠出する基金によってサステナビリティを支えていきます。そんな3つの原則は重要な部分で、ヤマハとローラのパートナーシップは完全に一致していると言えるでしょう」と延べ、両社によるパートナーシップ締結を歓迎した。
また、ロンゴ氏は「東京にフォーミュラEのレースを持ってくるまで、予想していたよりもずっと長い時間がかかってしまいました。日本はフォーミュラEのレースだけでなく、私たちのエコシステム全体にとって非常に重要な市場です。ドライバーやコンストラクターを含め、みんなが日本に来たいと長年思っていました。2012年のフォーミュラE設立以来、ずっと懸案事項になっていて、私個人としてもなんとかレースを実現しようと何回も来ています。そんな苦労がようやく実り、30日には初のTokyo E-Prixが開催されるということで、非常に誇らしく思います」。
「ローラとヤマハというモータースポーツで長いヘリテージを持ち、ローラはF1やル・マン、インディでも勝利して、ヤマハは世界で2万2000人ほどの従業員を抱え、これまでにたくさんの車両を世に送り出してきました。また、ヴァレンティーノ・ロッシ選手やホルヘ・ロレンソ選手などがヤマハと共にさまざまなチャンピオンシップを勝ち抜いてきました。そんな2社のミックスが起きることで、フォーミュラE向けに完璧なルートになることでしょう。彼らがフォーミュラEのファミリー入りすることを誇らしく、そしてうれしく思います」とコメントしている。
質疑応答
会見後半で行なわれた質疑応答では、フォーミュラE向けのパワートレーン開発で培った電動化技術を、ヤマハの2輪車向け以外にも4輪車メーカーなどに提供する予定があるのかと質問され、これに対して丸山氏が「われわれは内燃機関の時代から、さまざまな自動車メーカーの皆さまに対して、開発やエンジン供給などを行なってきました。電動化という流れでも、当然ながら同じように考えていて、われわれは電動化技術で技術力を高め、そこから生み出される優れた電動パワートレーンを、自動車メーカーさまに限らずいろいろな領域に提供していきたいと考えています」と回答した。
また、電動パワートレーンの共同開発で、ヤマハとローラの役割分担については「技術範囲の詳細はお答えできませんが、基本的な領域としてはモーター、インバーター、ソフトウェアといった競争領域について担当することになります」と丸山氏は述べている。