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K4GPに挑む「ミライースターボ」が進化、D-SPORT Racing Teamのモータースポーツを起点にした車両開発の今

8月9日~10日にかけて富士スピードウェイで開催されたK4GPにダイハツ工業とSPKがコラボレーションするD-SPORT Racing Teamがミライースターボでエントリー

 ダイハツ車用のカスタムパーツを手掛けるD-SPORT(SPK)は、ダイハツ工業と協力体制を築き「モータースポーツを起点としたモノづくり・コトづくり」を目的に「D-SPORT Racing Team」を設立。WRCや全日本ラリーなど公式競技のほか、富士スピードウェイで開催されている軽自動車による耐久レース「K4GP」にも参戦している。

 K4GPで使用する車両はダイハツのエコカーである「ミライース」で、選んだ理由は「多くの人にモータースポーツを楽しんでもらいたい」という考えからとのこと。ダイハツにはもっとスポーティな「コペン」があるが、ミライースは車重がもっとも軽いだけでなく、新車価格がなんと約86万円。コペンの半分以下なのだ。

2024年3月には三河湾ラリーにも参戦している

 NAのためパワーは弱く、トランスミッションはCVTのみとなるが、燃費のよさを追求したエコカーであるミライースは、車重が軽くて空力についても抵抗を受けにくいように作られているので、スポーツ走行の素材としてはわるくないという。

 そんなミライースで参戦した2023年のK4GPは、サスペンションやブレーキ強化など、サーキットを走行するために必要な改造を施した以外、ほぼノーマルの状態で走行。

2023年8月のK4GP 10時間耐久レースでは、ダンロップのセンシングコア技術を初搭載して新たな挑戦も開始
2023年1月のK4GP 7時間耐久レースにはトヨタの佐藤恒治社長も激励にかけつけた

 ドライバーにはダイハツ工業の殿村氏、相原氏に加えて近畿地区のTV番組内で地域の情報などを伝えるアナウンサーとして活躍する上原あずみさん、そしてモータースポーツイベントでのMCのほか全日本ラリーにコ・ドライバーとして参加している槻島ももさんが務め、見事完走を果たしていて、ドライバーからも十分レースを楽しめたというコメントがあった。

 2024年もK4GP 10時間耐久レースへ出走。ドライバーの布陣は前年度メンバーに加え、ゲストドライバーとしてモータージャーナリストの国沢光宏氏が参加する体制が発表された。

今年はゲストドライバーとしてモータージャーナリストの国沢光宏氏が参加

 実はこのミライースターボは、2024年3月に開催された全日本ラリー選手権第1戦「ラリー三河湾2024」にてデビューしていて、今回は後部席が外されたり、ボディ補強されたりなど、さらなるリファインが行なわれた。これらのすべては、より楽しく、より走りのいい車両を開発するための一環で、レースは結果(順位)を最優先とはしていない。

 本稿では、リファインされたミライースターボの変更ポイントなどをお伝えする。

エンジン&トランスミッション

 エンジンはLA400K型のコペンに搭載されている直列3気筒0.66リッターDOHCターボエンジン「KF-VET型」へ換装。トランスミッションもCVTからコペンの5速MTに乗せ換えている。なお、エンジン制御はミライースのECUのデータ変更で対応していて、ハーネス類もミライースのものを使用。

ミライースにコペンのエンジンと5速MTを載せたミライースターボ
サイドビュー
リアビュー
LA400コペン用のKF-VETを換装する
ミライースにはタコメーターがないので、ピボット製のタコメーターを追加で装備。8000rpmのあたりにレブリミットのマークが付いていた
水温や油温、ブーストなどは高輝度2.5インチフルカラーTFTを搭載したDefi製デジタルメーター「Defi-Link Meter ADVANCE FD」に集中表示
LA400コペン用の5速MTを換装
バルクヘッドに穴を開け、コペンのクラッチペダルを流用。ブレーキペダルは変更なし

実戦の場で検証し、課題の改善して効果を出す

 同型エンジンの載せ換えと言えど、大がかりな仕様変更だけに製作後の走行ではいくつかの課題が出たという。主なものだとターボ化による発熱増大への対応。そしてパワーアップの効果を速さにつなげるためのボディ補強だ。それらを全日本ラリーやラリーチャレンジなど実戦の場で検証と改善を進めて克服し、今回のK4GPへ挑んでいるという。

 熱の問題は、全日本ラリーの丹後半島ラリーに出走した際、油温の上昇によるいわゆる熱ダレに悩まされてペースが上げられない状況になったことが対策のきっかけになった。

 ミライースターボにはエアコンが残してあるのでフロントバンパーの後ろにはコンデンサーがあり、ラジエターはその裏側にある。つまりクルマ正面からの走行風はコンデンサーを通ってから(コンデンサーの熱を吸収してから)ラジエターにあたるので、過剰な発熱に対してラジエターの効率はよくないという状況。

相原氏が指を差しているのが新設したダクト。撮影時はグリルも付いて整えられているが、元は実戦の現場で簡易的に開けられたそうだ

 しかし、ラジエターを大型化しているミライースターボではラジエターの上部がコンデンサーの全高より高いので、コアの一部がコンデンサーより飛び出ている部分があった。そこでD-SPORT Racing Teamは、競技中の整備や修理を行なうための短い時間を利用して、飛び出ているコアに風があたる位置に穴開けして即席のダクトを作ったところ水温が安定し同時に油温も安定。その後のステージでのペースアップにつながったという。

 また、その後の走行においてエンジンルームと空間がつながるフロントフェンダーの後端部にも排熱用ダクトを追加したところ、エンジンルーム内の温度をさらに下げられたという。

 このように現場での課題に対して対策を考え、そして改善して効果を出すという流れは、D-SPORT Racing Teamが求める「もっといいクルマ作り」にしっかり沿うものである。

ベースがスポーツカーではないため、フロントの開口部面積は少ない
ラジエターをD-SPORT製アルミ素材の大容量タイプに交換している
純正ボンネットに穴開け加工をしている。後端にある2つのダクトは排熱用。効果的に熱が抜ける部分を探して設けた。現在も検証中のためダクト部分には温度を測るためのセンサーが付けられる。そして前方のダクトがエアクリーナーボックスとつながるもの
純正エアクリーナーボックスのインテークパイプの取り回しを変更。本来の配管ではなく、ボックスに新たに穴を開けてそこにボンネットダクトとつながるダクトを設けてある
コンデンサーやラジエターからの熱い空気を拾わず、車体前面からの風をインタークーラーへ風を導入するダクトも追加されている
エンジンルーム内の排熱は、ボンネットとフロントフェンダーの後端上部にエンジンルーム内の熱気を抜くためのダクトが設けた。「GP-3F」のステッカーの上にあるのがそれ。大きな効果があったという
日置電機のメモリハイロガー「LR8450」を搭載。各部にセンサーを設け、走行ごとにデータを回収。そのデータを元に問題点を改善している
助手席の後ろにも計測用の機材が積まれる。ダンロップのセンシングコア用データなど、タイヤメーカーと協力している領域もある。まさに走る実験室

サスペンション&ブレーキ

 軽量ボディのミライースは、その軽さを生かして軽快に走れるクルマだが、全日本ラリーのペースで山道を走るとなるとボディの剛性アップの必要性を感じたという。そこで、フロア下に3本の補強ブレースを追加したほか、ステアリング操作に対するレスポンスを高めるために試作のタワーバーとストラットタワーを縦方向で支えるブレースも追加している。

 これらはD-SPORT Racing Teamが走らせているラリージャパン用のコペンに、ラリーチャレンジに参戦しながらDNGAを鍛えているロッキーなどの開発で得たノウハウを用いたものとなる。

 車両の解説を行なった相原氏は「もともとエコカーとして作られたミライースはホワイトボディの状態での重量が軽く作られています。そこに必要な部位に補強を加えると軽いままで剛性感のあるボディにできるのです。そして補強の入れ方は軽自動車やコンパクトカーを作るダイハツゆえ、他の車種で学んだことを違う車種にも生かせるのです」と説明する。

フロア下にはフロント部、センター部などにブレースを追加。ここへのブレース追加はラリージャパン参戦のコペンやラリーチャレンジのロッキーの開発で有効性が確認できた部位だ
画面中央に丸パイプを途中からプレスした形状のバーが見える。これが追加したブレース。ハンドリング向上に効果があった
タワーバーの形状も変更。こちら側はヒューズボックスがあるのでそれを避ける形状でブレースが追加されている
ロールケージは全日本ラリー用。安全性や剛性は高いが、K4GPのレギュレーションのものより太くて重いのでウエイト的には不利
安全性を考慮してサイドバーも入れている
2名乗車に構造変更しているのでロールケージも前席をカバーする範囲に収める。同時にボディ剛性を高める形状としている

 サスペンションはD-SPORTの試作品が装着されているが、なんと仕様はラリーを走ったときと同じもので、減衰力の変更のみでラリーとサーキットの両方に対応できるよう開発中とのことだ。

 ブレーキはD-SPORT製の6ピストンキャリパーキットを装着。これは全日本ラリーを走っていたコペンに付いていたものを使用している。なお、キャリパーサイズが大型化しているがマスターバックはノーマルでも踏みごたえ、容量などに問題はないそうだ。

サスペンションキットはD-SPORTの試作品。コーナリングの安定感を重視して伸び側の減衰力を強めにしているという
リアショックも全長調整式。タイヤハウス上部に見える黒い板はロールケージ取り付け部のあて板
リアはシューのみ交換。ホイールとタイヤはフロントと同じ
フロントブレーキはD-SPORTのコペン用6ポットキャリパーキットを装着。ホイールはレイズのTE37、タイヤはダンロップ ディレッツアZII。サイズは165/50R15

 ミライースはスポーツカーではないため、スポーティに走るのに適した着座位置の低くなるフルバケットシートに交換すると、ドライバーの身長によってはステアリングとの位置関係が不自然になり、運転しにくいポジションになってしまう。

 そこでミライースターボでは、社外品のステアリングボスを使ってステアリング位置をドライバー側へ延長。フルバケットシートを付けた状態でもステアリング操作のしやすさが得られるようにしている。

ドライバー交代があるK4GPでは、身長差が40cmほどあるドライバーが乗る。コペンと比べてミライースはシートスライド量が多いので、ステアリングの位置を修正することで身長差に対応させたという
延長ボスとディープコーンタイプのステアリングでステアリング位置をドライバー側へ寄せている

ターボ&5速MT化はユーザーの声を反映

座談会ではミライースターボの作りについてや、ドライビングの特性、そして発売があるかなどの質問が出た

 さて、気になるのは「ミライースターボの発売があるか?」という点だが、相原氏はハッキリと、「発売の予定はない」と明言。ただし、「とはいえ皆さんからの反響が大きくなれば会社のとらえ方が変わってくることがあるかもしれません。だからこそ、なによりも皆さんの声が大事なのです」と付け加えた。

 そもそもこのミライースターボを作るきっかけは、D-SPORTが開催している「Dスポーツ&ダイハツチャレンジカップ」の会場にて、多くの参加者から「以前のミラターボのような4人乗りでスポーツ走行も楽しめるクルマを出してほしい」という声があったためでもある。

 このように常にユーザーのことを意識して活動しているD-SPORT Racing Teamだけに、ダイハツではなくてD-SPORTのカスタマイズ車として登場する可能性も期待してしまう。とはいえD-SPORTだけでの実現するのは、現実的に難しいのもまた事実だ。

2BOXタイプの軽自動車でスポーツ走行をすると、車体サイズや重心位置の関係からコーナリング時にイン側のタイヤが浮き上がることの心配もあるが、D-SPORTのサスペンションはそういう挙動になりにくいとのこと。こうした面もスポーツ走行向きだ
ダイハツ工業の殿村氏は現在、スポーツ走行に向いたクルマのサイズが大きくなり価格も高くなっていることに触れた。それだけに小さくて買いやすい価格帯のスポーツカーを作ることは「ダイハツが担うべきところだと思っています」と語った

 ただ、「やっぱり無理か……」と思うのはちょっと待ったかもしれない。この日チームスタッフとして富士スピードウェイに来ていたダイハツ工業の井出氏は、「D-SPORT Racing Teamでは、ダイハツだけではできないこと、SPKだけではできないことを協力し合うことで実現しています。そしてわれわれはモータースポーツが日本でもっと盛り上がるよう活動しています。世界を見るとF1をはじめとしたトップカテゴリーのレースも人気ですが、規模は小さくても地域のカルチャーとして根付いているものも多くあり、われわれが期待しているのはそういった文化が日本にも根付くことです。それにより日本の基幹産業であるクルマ産業が活性かするでしょうし、日本も元気になる。モータースポーツ活動はその一端を担う役目があるのではないかと考えています。われわれのモータースポーツへの参戦はそういった思いも込められたものです」というコメントがあった。

 ミライースターボに関しては一切言及していないが、ミライースターボが作られた背景と、井出氏のコメントにはつながりがあるだけに、いつかはきっとと期待したい。

今回のレースではダイハツ工業 GRC推進部の井出慶太部長もレース前日の練習走行から、他のメンバーと一緒にピットに詰めていた