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ヒョンデの高性能スポーツバッテリEV「アイオニック5N」をワインディングで試す 開発者の運転好きさと遊び心を感じた
2024年10月18日 00:00
世界3位の巨大メーカー、ヒョンデが提供する「IONIC(アイオニック)5」はバッテリEVのパッケージングの可能性を表現したクルマだと思う。大きなハッチバックは想定以上の室内空間に驚いた。特に前後長の広さは圧倒的で細部に織り込まれた斬新なアイデアはさらにアイオニック 5を特徴づけた。
そのアイオニック 5をベースにした「N」の登場も少なからず衝撃的だった。Nシリーズはヒョンデ・スポーツモデルの頂点に立つモデル。本国にはガソリン車のNもあるが、日本に導入されるのはバッテリEVのみとなっている。
Nはヒョンデの開発拠点がある韓国の“ナムヨン”と、足腰を鍛えた“ニュルブルクリンク”の頭文字からきている。ロゴの「N」が二重になっているのはそのためだ。
本当にクルマ好き、運転好きが作ったBEVスポーツモデルは、すでにサーキットで高いポテンシャルと面白さを体験したが、今回はさまざまな路面が混在する箱根で試乗した。
ホイールベース3000mm、最高出力448kW、最大トルク740NmはなじみあるPS表記にする607PSと強心臓で、強大なトルクで重量2t強の車体を4輪駆動で走らせる。タイヤはピレリP ZERO ELECTの275/35ZR21という電動車専用に太いスポーツタイヤを履く。
Nのボディはスポット溶接の打点を増やし、接着剤の使用範囲を広げて微細な振動を抑えると同時に剛性も大幅にアップし、強大なタイヤグリップに合わせてサスペンションの取り付け剛性も高められていた。
ダッシュボードは2つの大型ディスプレイが備わり、前後の駆動力配分、ショックアブソーバーの減衰力、出力特性、電動LSD、ステアリングの操舵力、ESCを自在に変更できる。
まずステアリングホイール左上にあるドライブモードのECOを選んで走り出す。出力は絞られて市街地で飛び出し感のないようにセットされている。他車から乗り換えると「え!」と思うほど穏やかで鈍く、スポーツカーの片鱗も見せない。アクセル開度が大きくなるとそれなりに加速するので実用上は不便に感じることはないがNの別の面を見たようだ。
続いて青いボタンを押してNORMALモードを選ぶ。元気を取り戻したアイオニック 5 Nは、アクセル開度に従順に反応して、これだけでも十分にスポーティだ。84kWhのリチウムイオン電池の出力を感じる。
連続した急勾配で知られる箱根ターンパイクも登りを感じさせず軽やかだ。しばらくNORMALモードでアイオニック 5 Nに慣れていく。全幅1940mmのワイドボディは市街地では路地に入るとさすがに大きいが、ここでは少しもサイズを感じない。全長も4715mmとホイールベースの割には短く走行中も長さを感じることはなかった。ドライビングの面白さは十分に伝わってくる。
手になじんだところでドライブモードをスポーツにする。出力特性がグンと変わり同じアクセル開度でもクルマが前に進もうとする。特に感じるのは電気ならではの途切れない加速だ。
では、とコントロールパネルから呼び出した各モードの車両設定を試してみる。これがなかなか面白い。ショックアブソーバーの減衰力をもっとも緩くすると突き上げ感が小さくなり市街地の荒れた路面での感触はよくなる。しかし、もともとアイオニック 5 Nの性格上バネは硬めに設定されているので、大きな凹凸ではピッチングの収束が落ちる。
また切り返しの多い山道ではロール収束も物足りなくなった。一方、もっともハードにすると収束が早い代わりにハンドリングの滑らかさも少なくなったので3段階あるうちの2番目が乗りやすく乗り心地も妥当と感じた。ハードはサーキットなどのハイスピードコースでマッチしそうだ。これらの設定はドライバーの好みでいかようにも変えられる。
さらにいろいろ試してみる。面白い。電動LSDは濡れた山道では3段階の2段目が使いやすかった。ハードにすると引っ張る力が強くなり、操舵初期にちょっと応答遅れのようなクセを感じたが、コーナーでのトラクションを好むドライバーは積極的に使えるに違いない。
駆動力配分もいじってみると2段目がオールマイティで走りやすかった。少しフロントの駆動輪にも仕事をしてもらえるようなイメージだろうか。
これらの設定は個人の嗜好によって左右される。カスタマーモードで2通りのセットを記憶させられるので、ドライバー、路面、コースなどによっても使い分け可能という柔軟性がある。
セットアップはもっと深掘りできそうだが、ユーザーの利便性を考えて可能範囲を簡略にしたと思われる。それでも十分に面白く、なおかつ挙動を大きく乱さない範囲にとどめられている。
ちなみにスポーツモード長押しで「スポーツ+」になるが、少しウェット気味のワインディングではその出番もない。安全で速い4WDだが、ベースにあるのは重量級でハイトルクのスポーツカーだ。このモードはサーキットで使うべきものだろう。
音はEVらしく無音から未来的な合成音、さらにチューニングされた内燃機のようなエキゾースト(?)ノートを鳴らす「N Active Sound+」も選択できる。また、右下のNボタンを押して「e-Shift」をONにすると、疑似的に設定された8速をパドルシフトで操作できる。
シフト時の変速音が真に迫っており、使うまでは懐疑的だったがリズムが取れて乗りやすい。右パドルでシフトアップ、左パドルでシフトダウンを繰り返し、山道を走っていると、速さだけでは味わえないリズミカルな楽しいドライブができた。
ついでにシフアップ時に過回転表示もあり、開発者に遊び心があり運転が好きなんだなぁと心から思った。
バッテリEVのよいところはレスポンスが精密で瞬発力のある加速力だが、アイオニック 5 Nはそれに見合ったストッピングパワーも備えており、剛性の高いボディもあって一体感のあるドライビングが可能だ。
シートのサポート性、クッション性も良好。約2時間にわたるドライブも爽快感はあれど疲れはゼロだった。日常の使い勝手のよさだけでなく、運転する楽しみを十分に味わうことができたのは新しい発見だ。
WLTCモードの航続距離は561km。もちろんサーキット走行では航続距離が俄然短くなるが、充電設備が整いつつある今、使い勝手は徐々に高くなっている。
アイオニック 5 Nが掲げる「Racetrack Capability」は、前回のサーキットドライブで、そして「Coner Rascal」「Everyday Sportscar」は、今回改めて体験できた。
手作り感覚のアイオニック 5 Nは供給台数が限られており、600PS級のスポーツカーとしては858万円という価格の割安感もあってマニアックなバッテリEVとして注目されている。