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クアルコム、Oryon CPU搭載のSDV向けSoC「Snapdragon Cockpit/Ride Elite」発表 NPU強化でAI推論性能12倍に

2024年10月22日(現地時間) 発表

Qualcommが発表したSDV向けSoCになるSnapdragon Cockpit EliteとSnapdragon Ride Elite

 半導体メーカーのQualcomm(クアルコム)は、10月21日~23日(現地時間)に年次イベント「Snapdragon Summit」を米国ハワイ州マウイ島において開催している。

 10月22日(現地時間)には自動車関連の各種発表、新製品説明会などが行なわれており、Qualcommは新しいデジタルコクピット向けのSoC「Snapdragon Cockpit Elite」およびADAS/自動運転向けのSoC「Snapdragon Ride Elite」の製品を発表。従来製品に比べてAI推論性能が12倍になることを明らかにした。

 Snapdragon Cockpit Elite、Snapdragon Ride Eliteは、2025年にサンプル出荷され、Qualcommが提供する各種ソフトウエア開発キットと組み合わせることで、強力なSDVを短期間で構築することが可能になる。Qualcommによれば、従来よりも短い開発機関を経て、2026年には搭載する自動車が市場に登場する見通しだ。

自動車向けでも存在感を増しているスマホ向けSoCメーカーのQualcomm

Qualcommは、自動車向けのSoCに取り組んでおり、今はSDV向けが注目されている

 Qualcommは、スマートフォン向けのSoC(System on a Chip:1つのチップでコンピュータの機能を構築できる半導体製品のこと)メーカーとして知られており、10月21日(現地時間)にはその最新製品として「Snapdragon 8 Elite」を発表している。また、2023年にQualcommは「Snapdragon X Elite」というPC向けのSoCを発表し、従来はIntelとAMDの2社しか参入できていなかったWindows PC向けのSoCに本格的に参入。現在は徐々に市場シェアを伸ばしている段階だ。

 そうしたQualcommは、自動車向けのSoCを提供しており、多くの自動車メーカーですでに採用されている。Qualcommの強みは、スマートフォン向けのSoCで高い性能を実現する技術と通信技術(5G通信を実現するチップなど)を持っていること。その技術をまずスマートフォンやPC向けに展開し、その後、自動車やIoT(Internet of Things:インターネットに接続する機能を持つ家電機器など)へ横展開するという戦略で、自動車向けの製品を展開している。

 現在自動車メーカーは、SDV(Software Defined Vehicle)と呼ばれる、ソフトウエアと汎用プロセッサを組み合わせて実現するより高度なIT機能を持つ自動車の開発に積極的に取り組んでおり、スマートフォンと同等の機能を持つようになっているIVI(車載情報システム:日本でのカーナビのこと)などで多くの採用例を持っている状況だ。

SDVのデジタルコクピット向けのSnapdragon Cockpit Eliteと、ADAS/自動運転向けのSnapdragon Ride Eliteが登場

Snapdragon Cockpit EliteとSnapdragon Ride Elite

 Qualcommが今回のSnapdragon Summitで発表した自動車向けSoCは、デジタルコクピット向けの「Snapdragon Cockpit Elite」、ADAS/自動運転向けの「Snapdragon Ride Elite」の2製品になる。これらの製品には、前日にQualcommが発表したスマートフォン向けの「Snapdragon 8 Elite」、2023年にPC向けとして発表された「Snapdragon X Elite」に採用されていた高性能CPU「Oryon CPU」が採用されている。

強力なOryon CPUが採用されたことで性能が3倍に

 このOryon CPUは、高性能と優れた電力効率を実現する設計になっており、最近ITの世界では大きく注目されているCPUになる。それが、自動車向けとして両製品に採用され、従来のQualcommの自動車向け製品に比べてAI処理性能が3倍にも達する大きな性能向上を実現している。

NPUが強化されAI推論性能が12倍に
Snapdragon Cockpit Eliteで実現されるデジタルコクピットのイメージ

 その他にも、GPU、NPUなど別の種類のプロセッサの性能も強化されており、グラフィックス処理を行なうGPUは前世代と比べて3倍に、AI推論処理を専用に行なうNPUの性能は前世代に比べて12倍と、こちらも大きく性能が向上している。こうしたスマートフォンやPC向け由来の技術を採用していることで、大きく性能が向上しているのが両製品の特徴だ。

16枚の4Kディスプレーを制御可能

 グラフィックス性能の強化に合わせて、ディスプレー出力も強化されており、4K解像度のディスプレーを最大で16枚まで出力して制御することが可能になる。SDVではディスプレーの数が増える傾向にあり、1つのSoCで多くのディスプレーを制御できることは自動車メーカーにとって見逃せないメリットとなる。

 もちろん自動車向けグレードとして、AECQ-100、ISO 26262 ASIL D、SAE 21434などの機能安全などにも対応しており、動作稼働温度など、自動車向けの半導体に必要な認証や稼働保証はきちんと提供される形になる。

SDVのソフトウエアを開発する開発環境をQualcommが提供

 また、自動車メーカーやティアワンの部品メーカーなどが、より容易に両製品を利用したSDV向けのソフトウエアを開発できるように、ソフトウエア開発キット、Android Automotive、Automotive Grade Linux、QNXなどの自動車向けOSにも対応。従来よりも自動車メーカーや部品メーカーがソフトウエアを開発する時間を短縮できるようにされていることも特徴だ。

まとめ

 Qualcommによれば、両製品はいずれも2025年にサンプル出荷を計画している。従来こうした自動車向け半導体製品は、サンプル出荷後に数年かけて量産車に採用されるというのが一般的だったが、SDV化の進展によりそうした出荷までのリードタイムは短くなっており、両製品はサンプル出荷の翌年となる2026年には量産車に採用される見通しだ。