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トヨタ、「86(ハチロク)」一部改良説明会

ボルトフランジ厚の変更で剛性を向上、サスペンションも異なる特性に。従来の86へ流用可能

一部改良が行われたトヨタ「86」。外観の変更点はシャークフィンアンテナのみ
2014年4月9日開催

 トヨタ自動車は4月9日、小型スポーツカー「86(ハチロク)」の一部改良を発表した。発売は6月2日となり、これが86発売後初めての一部改良となる。価格など詳細は別記事を参照のこと。

●トヨタ、ショックアブソーバーのフリクション特性見直しなど「86」を一部改良
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140409_643537.html

一部改良された86の目印となるシャークフィンアンテナ。部品で注文することも可能
新たに用意されたBBS製の18インチ鍛造アルミホイール。ショーカーなどで装着されていたデザインで、ユーザーの要望が高いため純正用品としてラインアップした
一部改良された86のインテリア。GTとGT“Limited”はカーボン調のエリアが広がるとともに、カーボン調の柄もより立体的なものになった

 この一部改良発表にあわせ、86の開発者であるスポーツ車両統括部 多田哲哉氏より改良の詳細な説明会が開催された。

 86の一部改良の変更点は、大きく分けると「操縦安定性・乗り心地向上」「外観・内装変更」「純正用品追加」「スポーツドライブロガー」の4つの分野にわたる。いずれも小変更となっており、これまでに86を購入したユーザーも交換可能なパーツで構成されている。

トヨタ自動車 スポーツ車両統括部 多田哲哉氏

 86は2012年の4月6日に発売され、2周年を迎えたばかり。多田氏はこのタイミングで一部改良を行ったことについて、「86は毎年進化させると言ってきた。1年目で変更しなかったのは、納車待ちのお客様がたくさんいたため」「(一部改良は)需給のバランスが落ち着いたこのタイミングとなった。お客様に話をうかがっていると『一切変えてほしくない』という声もいただいている。いつかは変えたいという気持ちもあるが、『変えてほしくない』という声にどう応えるか考えた」と語り、従来のユーザーもアップデート可能な一部改良が行われた。

 操縦安定性・乗り心地向上に関しては、ボディー剛性を向上させ、それにあわせてショックアブソーバーの特性を変更することで実現している。「ボディー剛性向上となると通常はスポット打点の打ち増しなどの手段が考えられるが、それだと従来の86ユーザーにとって問題となる」(多田氏)とし、フロントサスペンションメンバーとリアアブソーバーの取り付けボルトのフランジを肉厚にすることで剛性を向上。ボルトの数もフロント4本、リア2本のため「部品として購入しても1000円ちょっと」(取り付け工賃別)とのことだ。

 ボルトの交換による剛性向上だが、これによりフロントはステアリング操作に対する手応えがしっかりし、応答性もよくなる。リアに関してもコーナリングのグリップ応答性が向上し、操舵時のしっかり感が上がるとした。

 この剛性向上とともに、ショックアブソーバーの特性を変更。主に低フリクション化を図ることで、操縦安定性と乗り心地を向上させている。

86の主な変更点
操縦安定性・乗り心地向上を目指した
ボディー剛性を上げることを目標とするが、従来の86ユーザーも利用できる方法を探した
取り付けボルトのフランジ厚の変更で剛性を向上
ボルトの変更で操縦安定性と乗り心地の両面で特性改善を行った
ボルトの変更位置
ボルトの変更は、計6本
フランジを厚くすることで、結合剛性を上げた
ボルト変更の効果。フロント
ボルト変更の効果。リア
展示されていたボルト。上がフロント用で、下がリア用。いずれも左が改良後のもの
フロント部のボルトのアップ。フランジ厚は、約4倍くらいか?
ボルトでボディー剛性を上げ、アブソーバーの特性を変更
アブソーバーの変更点
性能イメージ
アブソーバー特性の変更点
下の列が新しくなったショーワ製の純正アブソーバー

 外観・内装変更については、大きなところではボディーカラーを変更。サテンホワイトパールがクリスタルホワイトパールとなって白さが増したほか、スターリングシルバーメタリックがアイスシルバーメタリックとなり、やや明るめの色調となった。そのほかにボディーカラーの変更はない。

 また、ユーザーから要望の多かったルーフアンテナのシャークフィン化も実施。リアウインドー角度の問題から86はポールアンテナでラジオ受信を行っており、当初からシャークフィン化の要望があったという。しかしながら、トヨタの持つシャークフィンアンテナはラジオ受信性能がなく新たに開発。ポールアンテナ同等の受信感度を達成したため一部改良から導入された。

 インテリアでは、インストルメントパネルのデザインを一部変更。カーボン柄をより立体的にするとともに、カーボン柄の範囲を広げている。

 純正用品としては、BBS製アルミ鍛造18インチホイールを新たに設定。2011年の東京モーターショーで86がデビューしたときに装着されていたものと同様のデザインとなっており、ユーザーからの発売要望が高かったため製品化された。フロントは18×7Jで重量は9.1kg、リアは18×7.5Jで9.4kg。推奨タイヤサイズは、215/40 R18(前)、225/40 R18(後)となっている。

 純正用品にはザックス製のショックアブソーバーも設定された。ザックス製のショックアブソーバーは小さな入力にもよく反応し、大きな入力への対応力も高いことから、多田氏は「大きなタイヤをつけても乗り心地がよくて、サーキットでの大入力でも一発で収まる。大人でクルマがよく分かった方が普段乗りに使っても満足でき、サーキットに行っても思いどおりのハンドリングができる。標準装備のスプリングでベストなパフォーマンスがでるようにしている」と、その特徴を解説した。また、4月2日に発表したスポーツドライブロガーに関しては実物を展示し、簡単な動作デモを実施した。

ボディーカラーの一部変更
アンテナについて
新しく開発したシャークフィンアンテナ
インストルメントパネルのデザイン変更
新たに用意したBBS製18インチアルミ鍛造ホイール
前後で異なるサイズを用意
Y字スポークとU字スポークの組み合わせが美しい
2011年の東京モーターショーでデビューした86。ホイールデザインは、このショーカーを踏襲している
ザックス製アブソーバーを純正用品として用意
ザックス製アブソーバーの減衰特性
ザックス製アブソーバー。クラッチで知られるZFのロゴが付いているが、ザックスはZFのブランドとなる
製品発表後初展示されたスポーツドライブロガー
位置取得のためGPSアンテナを装備する
USBメモリ接続用のケーブル
「8」マークの入ったスイッチ
デンソー製となっていた
背面写真。左からGPSケーブル、USB・スイッチケーブルと並ぶ。一番右は、おそらく電源やCAN接続用のコネクターだろう

 なお、86はウインカー(方向指示器)位置の問題で法律を満たす形での大幅なローダウンが難しくなっている。これに関して「位置変更などは考えなかったのか?」という質問が出たが、多田氏は「トヨタのディーラーに入庫するクルマとして、ディーラーの縁石にぶつかるような(法律を満たすような形での)ローダウンができないようにデザインしたもの。すでにサードパーティから(位置を変更する)コンバージョンキットなどが発売されている。トヨタとしてそこを変更するつもりはない」と語った。86のテーマとして、“ドライバーと語り合い、ともに進化できるクルマ”というのがあり、多数のサードパーティ製のパーツもその一環として整備されてきた。基本的なカスタマイズなどは純正用品として用意するものの、より踏み込んだカスタマイズに関しては、“サードパーティにお任せします”との思いが込められているように見えた。

 今回の一部改良は、ボディーカラーを除き、従来の86ユーザーも部品を取り寄せることでアップデート可能なものに留まっている。これは86を長く愛されるクルマにしたいとの気持ちが表れており、これまで86を支えてくれたユーザーに強く配慮した結果と言える。

 フランジを厚くしたボルトは、2013年の10月から用意されており、フロントだけ、あるいはリアだけ剛性を変更するなどの使い方も可能だ。すでに86を所有している人であれば、ディーラーに相談してみるものよいだろう。

【お詫びと訂正】86で大幅なローダウンの妨げとなるものは方向指示器となります。これは、道路運送車両の保安基準の細目を定める告示【2012.03.12】別添52(http://www.mlit.go.jp/common/000206104.pdf)で定められている下縁の高さの規定によるものです。

(編集部:谷川 潔)