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カメラ技術でより安全なクルマを実現する日立オートモティブシステムズ

十勝テストコースで安全技術説明会

プレビューG-Vectoring Control+ACCを搭載したクルマ

 日立オートモティブシステムズは、同社の十勝テストコースにおいて報道陣向けの安全技術説明会を開催した。

 日立オートモティブシステムズは日立製作所の100%子会社で、主に自動車用部品を設計・製造している。エンジンをコントロールするECU、EV(電気自動車)用のパワートレーン、サスペンションやステアリングなどの走行制御システムが代表的な事業分野になる。カーナビやカーオーディオで知られるクラリオンも日立製作所の関連会社となっており、同じ日立グループとして地図情報などを活かした自動車制御にも取り組んでいる。

 近年のトピックとしては、スバル(富士重工業)と共同開発した先進運転支援システム「EyeSight(アイサイト)」のカメラユニットなどハードウェア部分は同社が製造しているほか、2014年から鈴鹿サーキット 国際レーシングコースのネーミングライツスポンサーとなり、シケインの名称が日立オートモティブシステムズシケインとなったことがよく知られている部分かと思う。

 十勝テストコースで行われた安全技術説明会では、4つのデモプログラムを用意。そのうち3つがカメラ機能による安全技術で、日立オートモティブシステムズの注力している部分が分かるものとなっていた。

日立オートモティブシステムズ 取締役 CTO兼技術開発本部長 川端敦氏。4つのデモに関する説明を行った
日立オートモティブシステムズの十勝テストコース
自動駐車システムの搭載技術
ADAS搭載車
プレビューG-Vectoring Control+ACC搭載車
EV

SurroundEyeを用いた自動駐車

SurroundEyeを搭載し自動駐車機能を持つクルマ。市販車との関連性はなく、日立オートモティブシステムズのテスト車両

 最初のデモはクラリオンのSurroundEye(サラウンド アイ)を用いた自動駐車システム。サラウンド アイはすでにクラリオンによって商品化されている、広角カメラ4台を用いた周辺監視システム。4台のカメラからの映像をキャリブレーション・合成して、クルマの周囲の環境を1つの映像としてリアルタイムに表示するものだ。

フロントグリル、左右ドアミラー下、リアナンバープレート近辺と4つのカメラを搭載する

 日立オートモティブシステムズの自動駐車システムでは、サラウンド アイから得られた映像をもとに周辺の環境を認識。それにより、クルマの自動制御を行っている。主な認識内容は、駐車枠線や駐車空間、静止物体や移動物体で、非常に高速な処理が行われているという。

 実際に自動駐車のデモを見たが、クルマを素早く駐車しているのが印象的。2014年1月に開催された「2014 International CES」で、アウディをはじめとする各社の自動駐車を見てきたが、およそ2倍以上のスピードでクルマがコントロールされているように見えた。

●アウディ、CESで「zFAS」モジュール搭載車による自動運転駐車デモを実施
http://car.watch.impress.co.jp/docs/event_repo/CES2014/20140109_630162.html

 今回のデモでは動画撮影が禁止されていたためその速度感をお伝えできないが、車庫入れ動作に関しては“とてもうまい人”レベルといってよいもの。また、車庫入れの最後にすーっと速度を落としていたが、これは輪止めにぶつからないようにするため。担当者は「この辺りの制御が日本人的ですかね」と語っていた。

自動駐車の動きを写真で紹介。非常に高速な制御が行われていた
輪止めとの間隔が、細やかな制御を象徴している

 一方、縦列駐車のデモでは、後進中にクルマの陰から人(人形)が飛び出し、それを認識して駐車を中断。人が過ぎ去ると、再度駐車を再開するというシナリオで自動駐車が行われた。これについても見事に認識、無事駐車が行われたが、「子供や犬はどうなのか?」「人が直線的に動かない場合はどうなのか?」「もっと近い距離で飛び出したらどうなのか?」など興味はつきないデモだった。

自動で縦列駐車をして、その後出ていくまで。後進中に歩行者を認識したため、一旦縦列駐車を中断し、歩行者が通り過ぎると再開した

ADAS

ADAS搭載車

 次のデモはADAS(先進運転支援システム)搭載車。ハイブリッド車である「フーガ」に、日立オートモティブシステムズの数々のユニットを組み込んだもので、ACC(Adaptive Cruise Control、先行車追従)、AEB(Automatic Emergency Braking、自動緊急ブレーキ)、LDW(Lane Departure Warning、車線逸脱警報)、プレビュー回生(外界認識情報による回生制御)、スマートコクピットによるエコ運転支援機能などを持つ。

基線長200mmのステレオカメラ。やや縦方向が長いように見えた。基線長350mmのEyeSightよりもコンパクトにできる可能性を秘めている

 日立オートモティブシステムズはスバルとEyeSightを共同開発しており、基線長350mmのステレオカメラユニットを生産しているが、このクルマに搭載されているのは基線長200mmのステレオカメラユニット。それに、4台のカメラによるサラウンド アイ、エンジン制御、ステアリング制御、ブレーキ制御などのコントロールユニットが組み込まれている。

 基線長200mmのステレオカメラユニットによるプリクラッシュ制御を体験することもできたが、このクルマのポイントはステレオカメラを利用したプレビュー回生になる。このプレビュー回生は、前方の交通状況を認識して回生制御を行うもので、たとえば前方の信号が赤になると、やや強めに回生制御を行うことで速度を減速し、効率よくエネルギーを回収していく。また、この機能を活かしたエコ運転支援機能も持っており、前述のように加速の必要がなくなった場面では、アクセルペダルのOFFを促す表示が出るサブディスプレイを装備する。ステレオカメラが環境認識をすることで、ベテランドライバーが行っている操作をアドバイスしてくれるわけだ。

プレビューG-Vectoring Control+ACC

先行車を追随して走るプレビューG-Vectoring Control+ACC搭載車

 プレビューG-Vectoring Control+ACC(オートクルーズコントロール)は、ACC作動時のドライバーの不便さを解消しようとしたものだ。一般にACC動作時は先行車に追従してクルマは速度を調節しつつ走り、先行車がコーナーに入っていった場合は、そのままステアリングを切ってACC任せで走るか、ブレーキを踏んでコーナリングの姿勢を作るかの決断を迫られる。後者の場合はブレーキを踏んでいるためACCは一旦解除されるが、クルマの姿勢を作るためには必要な動作のため、コーナーの曲率にもよるが運転に慣れた人はおそらく後者を選んでいるだろう。

 プレビューG-Vectoring Control+ACCは、このようなブレーキ動作をすることなく(つまりACCを継続しつつ)姿勢作りしてコーナリングするためのシステムになる。

 プレビューG-Vectoring Control+ACC体験は、ステレオカメラを搭載したレガシィを用いて同乗走行した。このレガシィに搭載されているステレオカメラは基線長350mmのもので、EyeSight ver.2と同一のもの。ただし、ハードウェアは同じだがそこで動作するプログラムが異なっており、日立オートモティブシステムズが独自開発した制御プログラムが動いている。担当者はそれをアプリと呼んでおり、同じスマートフォンでも動作するアプリが異なれば違う処理ができるように、制御プログラムが変われば、異なるクルマとして動作する。

プレビューG-Vectoring Control+ACC搭載車はEyeSightを搭載したレガシィ。ソフトウェアを載せ替えることで新たなクルマのコントロールを実現していた
EyeSightユニット。日立オートモティブシステムズが製造している

 デモの1つ目はACCで先行車を追従し、約70km/h~80km/hの速度でコーナーに入っていくというもの。ここではプレビュー機能のないアプリ1のG-Vectoring Controlを使い、ステアリング切れ角に応じた個々のタイヤのコントロールを行う。現代のクルマはVDCを搭載している関係で、各種の加速度センサーや個々の車輪にブレーキをかける機能を持っている。G-Vectoring Controlは、ステアリング切れ角に応じた個々の車輪のコントロールを、横加速度をみながら実施。ステアリングに応じたコーナリングフォースが立ち上がるようコントロールしている。G-Vectoring Controlがない場合だと、コーナーに入る時点でいきなりステアリングを切ってもすぐに曲がっていこうとしないのに対し、G-Vectoring ControlアプリをONにすると、曲がっていこうとする力が働いているのが分かった。

 次にデモの2つ目であるプレビュー機能のあるアプリ2 プレビューG-Vectoring Control+ACCに切り替えると、GPSと地図情報を使い、さらにアクティブにクルマをコントロールしはじめる。ACCで先行車を追従しつつ、コーナリング開始時にフロント荷重を高める動作が加わる。これにより、ステアリングの効きがよくなり、アプリ1に比べさらにスムーズにコーナリングフォースが立ち上がっていく。

 運転のうまい方なら、コーナーの直前で少しだけアクセルを緩め(曲率によってはブレーキを使い)、加速度変化を発生させることで前輪荷重を増やす動作は自然に行っていることだろう。簡単に書くとG-Vectoring Controlは、運転のうまいドライバーがステアリング操作に加え、アクセル操作とブレーキ操作で行っているクルマの荷重変化を、ドライバーのステアリング操作だけでG-Vectoring Controlが加減速を行い再現するものだ。プレビュー機能のないアプリ1ではステアリング操作だけでその加速度変化を発生させるためやや遅れを感じるが、GPSと位置情報も使うアプリ2では予測操作ができるため、よりスムーズな動作を実現していた。

 このプレビューG-Vectoring Control+ACCのよいところは、ハードウェアとしてはステレオカメラ以外に特別なものをまったく用いていないところ。すでに現代のクルマに搭載されている機器をコントロールするプログラムを書き換えれば容易に実現できる技術となっていた。

EV

EV改造された「デミオ」

 EV(電気自動車)のデモ走行に用いられていた車両はマツダの先代「デミオ」。外観はデミオだが、中身は日立オートモティブシステムズの手によってEV化されており、エンジンルームにはモーターやインバーターなどEVにとって必要なものが収まっていた。バッテリーは日立ビークルエナジー製のリチウムイオンを用いており、容量は8.3kWh。モーターは90kW/180Nmの1モーターでフロントタイヤを駆動している。

 資料によると0-100km/h加速は7.8秒、最高速は140km/hのことだが、同乗走行の主眼はそこではなく、モーターならではのレスポンスによるTCS(トラクションコントロールシステム)を体感すること。ウェット路面や、凍結路面と同等の0.1程度の摩擦係数を持つ低μ路を走行することで、制御の入った状態と、入らない状態を経験した。

 制御システムは複数入っており、先述したモーターによるTCSのほか、ブレーキLSD(片輪をブレーキすることで、左右輪の駆動トルクを制御する)、回生協調ブレーキ、パドルシフト回生ブレーキ、モーターABS、油圧ABS、操舵応答TCS、ESCなどだ。

EV改造デミオのインパネ
セレクトレバーはリーフのものが流用されていた
ボンネット内には日立オートモティブシステムズ製のインバーターやモーターがパワーユニットとして納められている
片輪(写真では左側)を低μ路に入れながら走るデミオ。モーターならではの制御レスポンスが実現のポイント

 実際にそれらの制御をON状態とOFF状態で体感したが、OFF状態だとスラロームや発進加速に苦労する状態なのに対し、ON状態では何気ない普段どおりの操作ができているように見える。とくに片輪を低μ路に落とした状態の発進加速が分かりやすく、OFF状態では片輪がスリップしてトルクが抜けるのに対し、ON状態ではブレーキLSDやモーターTCSによる恩恵のためタイヤがグリップをなんとか確保しながら走行していた。これは、途中から片輪が低μ路に入るような状態でも同様で、モーターならではのレスポンスでクルマがコントロールされていた。具体的な数値は語ってくれなかったものの、エンジン(内燃機関)とモーターでは反応速度が一桁異なるとのことだ。

OFFにするとフロントタイヤが空回り(写真左)。ONにするとグリップを確保しつつスタートする(写真右)

 今回の4つの同乗走行デモでは、主にカメラシステムを使ったデモが目立っているように見えた。日立オートモティブシステムズ 取締役 CTO兼技術開発部長の川端敦氏は、この安全技術デモに関してはステレオカメラや複数のシングルカメラを使ったサラウンドビュー技術を追求してみたものだという。その結果、先進安全技術の構築に関してかなりの部分までカメラ(映像)のみでいけそうとのことだ。

 環境認識する手段としては、カメラ(光)以外に、ソナー(音)やレーダー(電波)が使われている。日立オートモティブシステムズではそれらとの融合技術ももちろん研究しているが、カメラのよさは「人間が見にくいような状況ではやはり見にくい。人間の感覚にあった制御ができる」ことにあるという。

 また、この安全技術説明会には日立グループのクラリオンも参加。操作インターフェースの設計や地図情報をもとにしたプレビュー制御にはクラリオンのノウハウが活かされている。

日立オートモティブシステムズの川端氏は、同社の強みとして日立グループとしての総合力があるという
クラリオン 代表取締役会長兼CEO 泉龍彦氏。カーナビやカーオーディオなどコンシューマビジネスで培ったインターフェース設計、地図情報などを日立グループとして提供。とくに地図関連は、クルマの自働運転には欠かせない技術となる

 この安全技術の先には、Googleなども取り組んでいるクルマの自働運転があるが、日立オートモティブシステムズがそれらIT企業と異なるのは、自動車作りに携わってきた経験にあるとのこと。自動車メーカーには自動車メーカーならではの情報の捉え方があり、日立オートモティブシステムズはそこに関して自動車メーカーと培ったものがあるという。また、情報通信に関しても日立のリソースを使え、日立のクラウドサーバーを使った企業レベルのサービスを提供可能とのことだ。

 今回4つのデモを体験したが、いずれもクルマの制御レベルが高いものだった。SurroundEyeを用いた自動駐車では、その駐車速度がこれまで見てきたどの会社のものより速かった。それだけ高速に情報が処理されているとともに的確な信号が出ているのだろう。また、プレビューG-Vectoring Control+ACCは、すでにステレオカメラが付いているクルマであればソフトウェアだけで実現できるのに感心した。本来クルマのコーナリング時における荷重移動はドライバーが身に着けているべきスキルだと思うが、免許取得時にそのようなカリキュラムはなく、そういった意味で世の中に望まれている技術だと思われる。どこまでの自動化がクルマとして正しいのかは難しいところだが、年間の交通事故死者数を考えると、クルマがもっともっと安全になることを社会から望まれているのは間違いない。

(編集部:谷川 潔)