ニュース

5月17日~18日開催の「フォーミュラE」東京大会に向けて来日したERT フィリッピCTOがサーキュラーエコノミーをテーマにパネルディスカッション

2025年5月14日 開催
環境啓発イベント「RACE AGAINST CLIMATE CHANGE TOKYO」で展示されたセバスチャン・ブエミ選手のレーシングスーツとヘルメット

 帝人は5月14日、2020年から協賛しているレーシングチーム「ERT(Envision Racing Formula E Team)」のマネージングダイレクター兼CTOであるシルヴァン・フィリッピ氏なども参加するサーキュラーエコノミーをテーマとした環境啓発イベント「RACE AGAINST CLIMATE CHANGE TOKYO」を開催した。

 5月17日~18日に開催されるBEV(バッテリ電気自動車)の世界最高峰レース「フォーミュラE世界選手権」のシーズン第8戦&第9戦として開催される東京大会「Tokyo E-Prix」に参戦するERTは、2013年に「VIRGIN RACING FORMULA E TEAM」として設立され、2022年~2023年シーズンにはニック・キャシディ選手&セバスチャン・ブエミ選手が活躍してシリーズチャンピオンを獲得した実績も持つチーム。

 帝人による協賛では、高い耐熱性や優れた難燃性と同時に軽量化や高い染色性なども併せ持つ帝人のメタ系アラミド繊維「コーネックス ネオ」を提供。参戦ドライバーが着用するレーシングスーツに使用され、ドライバーたちの安全性を高めると同時に、高い集中力を維持するための快適性、マーケティングツールとしても重要度の高いレーシングスーツのスタイリッシュさ向上などに貢献している。

ブエミ選手のスーツとヘルメットはERTのフォーミュラEマシンと並んで会場後方に展示されていた
ウエストベルトに「S.BUEMI」の文字
右肩部分には「TEIJIN」のロゴマークが入っている
マシンもブエミ選手が担当する16号車が展示されていた

パネルディスカッション「From Race to Reality~Formula EがもたらしたEVの技術革新とサーキュラーな取り組み~」

Envision Racing Formula E Team マネージングダイレクター兼CTO シルヴァン・フィリッピ氏

 最初に行なわれたパネルディスカッション「From Race to Reality~Formula EがもたらしたEVの技術革新とサーキュラーな取り組み~」では、ERTのフィリッピCTOに加えて、BEVやESS(定置用蓄電システム)向け高性能バッテリの開発・生産を行なっているAESCでCEOを務める松本昌一氏がパネリストとして参加。両氏に対してフォーミュラEのTVレポーターを務め、プレゼンター、プロデューサー、サステナビリティ推進者という肩書きも持つソーンダース・カーマイケル=ブラウン氏が質問していく形式で進められた。

ソーンダース・カーマイケル=ブラウン氏:さっそくですがシルヴァンさん、フォーミュラEというレースでは、イノベーションのためのテストベッドとして「レース トゥ ロード」という言葉がよく使われますが、モータースポーツから将来に向けてどのようなイノベーションが起きているのか教えてください。

シルヴァン・フィリッピ氏:フォーミュラEというレースは2つの目的を持って始まりました。1つは技術を進化させてイノベーションを起こしていくこと、電動パワートレーンに関連するテクノロジーを革新していくということです。もう1つは共通するプラットフォームを採用することです。モータースポーツは多くの人を興奮させ、技術に対して興味を持ってもらうために最適だからです。

 まず、フォーミュラEは非常にエキサイティングなモータースポーツです。2年に1度、まったく新しいテクノロジーが生み出され、バッテリはより多くの電力を蓄えることができるようになり、モーター、インバーター、ギヤボックス、ソフトウェアなども世代を経るごとに効率が向上していきます。パワートレーン全体で高効率化が進み、これがマシンにとって究極的に重要な部分になります。

 フォーミュラEのマシンは表面的には同じように見えると思いますが、私たち参戦各チームは開発のリソースやエネルギーをBEVとしてのテクノロジーにすべて注ぎ込んでおり、中身の部分はまったく違うものになっています。ソフトウェア開発やエネルギーマネジメントもイノベーションの大きな要素で高効率に寄与しています。

 また、フォーミュラEでのエコシステムに参加していることに加え、私自身もBEVのドライバーでもあるので、逆に「ロード トゥ レース」という技術があることも目にして感心しています。

ブラウン氏:では、フォーミュラEにおいて「サーキュラリティ」はどのような役割を果たしているのでしょうか?

フィリッピ氏:私たちはレースをするからといって無駄遣いしてよいとは考えていません。例えば東京ではこの週末に2つのレースを行なうため、レース本番に加えて各予選とプラクティスのセッションを3回実施しますが、使用できるタイヤは2セットに限定されています。このため、使う資源、資材は最小限にとどめています。

 また、バッテリはシーズン終了後に捨てたりせず、毎年リファービッシュして再使用しています。いずれはリサイクルすることになりますが、基本的には毎年同じバッテリを今年、来年と使い続けています。フォーミュラEのマシンが走るすさまじい速度を考えれば、これは非常にすばらしいことです。

 さらにボディワークでもリサイクル資材を利用していて、タイヤにもリサイクルファイバーを採用しています。このためにパフォーマンスを犠牲にする場合もありますが、サステナビリティに向けて非常に大きな達成項目になると考えています。レースとしてもこのトピックをヘリテージとして受け継いでいくことが非常に重要だと考えています。

株式会社AESCグループ CEO 松本昌一氏

ブラウン氏:シルヴァンさんの回答に関連して松本さんに質問させていただきます。AESCはバッテリイノベーションの最先端を行く会社ですが、バッテリのリサイクルやセカンドライフについて詳しく教えてください。

松本昌一氏:AESCはBEVやESS向けのバッテリ開発に加えてバッテリをリユース、リサイクルする技術も提供する会社です。3つの事業領域に取り組んでおり、1つめはBEVに搭載されて使用済みになったバッテリの残性能を正確に診断するテクノロジーの開発で、BEVの使用済みバッテリを回収すると同時にデータ収集を行なっており、膨大なデータを蓄積してきています。例えばバッテリの電圧やアンペア、バッテリの健全性に関するデータなどですね。

 このデータを使うことで、BEVで使用済みとなったバッテリをBEVにリユースできるか、ESSに転用するかを判断できます。仮に使用済みバッテリに80%程度の健全性があればBEVやESSにリユースしますし、70%よりも下まわっている場合はリサイクルを行ないます。このような診断が私たちが手がけている活動の鍵になっています。

 2つめは、バッテリからリチウムやニッケル、コバルトといった純度の高い原料を取り出すリサイクル技術の開発です。すでに日本や中国、米国、欧州でこの技術を使ったリサイクルを始めて、各地域のリサイクル業者との協力を進めています。まずはプラントのスクラップを活用するところからスタートして、将来的に使用済みバッテリにも使っていこうと考えています。

 3つめの領域はリサイクルのコスト削減。現時点では市場に流通しているコバルトやニッケルなどと比較するとリサイクル原料は少し高くなっていますが、毎年少しずつコスト削減を実現しており、将来的にはリサイクル品の方が低価格になる環境を実現したいと考えています。これらの取り組みにより、リユース、リサイクルを促進していきたいと考えています。

ブラウン氏:ありがとうございます。リサイクルやリユースについてコスト面などについても将来の見通しが明るいことがよく分かりました。

 さてシルヴァンさん、フォーミュラEのマシンは現在第3世代の進化版となるGEN3 Evoに沿ったマシンがホモロゲーションになりますが、ERTでは設計や製造、使用後の車両をどうするかといった面などで、BEVのレースマシンにどのようなサーキュラリティを取り込んでいるのでしょうか。

フィリッピ氏:私たちはレーシングチームとして、各世代でユニークな手法をとって多くのことを先に進めています。いくつか統計的な数字としては、新たなGEN3 Evoは数か月前に開幕した2024/2025シーズンから導入されて私たちもレースで使っていますが、このマシンは350kWのパワーを持ち、効率性ではグリッド・トゥ・ホイールで約96%というすばらしい数字を持っています。パワーと観点からすると、フォーミュラEがスタートしたばかりの10年前は150kWだったので、この期間にパワーは2倍になっています。

 来年末に登場する予定となっている次世代のGEN4についても研究開発を始めており、これから数か月かけて検証を行なっていくことになります。パワーについては現在の2倍近い600kWとなり、すばらしいパワートレーンとブリヂストンのタイヤによって信じられないほどの速さを持つことになり、F1のパフォーマンスにさらに近づくということで、個人的にも胸躍る気分を抑えきれません。

 このGEN4は大きなステップになります。開発にあたっては各世代で大きなエネルギーが必要となり、注力すべき点にしっかりと焦点を絞っていくことが大切です。バッテリは重いデューティサイクルが課されることに加え、フルスロットルでは瞬間的な加速が求められ、同時にフルブレーキ時には回生発電の電力を受け止めることも可能としなければなりません。この性能を備えつつ、1シーズン以上にわたる使用でバッテリコンポーネントが確実に耐えられるような設計が必要です。

 こうした耐久性はフォーミュラE独自のもので、ほかのレース選手権では考えられないことです。通常であればマシンのコンポーネントはシーズン中に変えていくことが定石で、フォーミュラEはF1に近づこうとしているにもかかわらず、廃棄物をできるだけ出さず、リソースもあまり使わないようにすることを同時に実現しなければならないのです。

 したがって、どこを落とし所にするか見つけることが非常に難しく、パフォーマンスは最大限上げながら、一方で果たすべき責任をどのようにするか、この2つのバランスが難しいのです。開発サイクルではシャシーやボディワークについて、4年サイクルではなく2年サイクルで取り組んでいます。パワートレーンやバッテリについても同様に2年サイクルなので、モーターやインバーター、電気系のソフトウェアなども含めてすばらしいイノベーションが進んでいきます。

 1つの世代のマシンを走らせるとすぐ次の世代のマシン開発がスタートして、このサイクルが止まることはありません。プロセスは常に走り続けていますが、一方ですべてを責任あるやり方で作業を進め、適切なバランスをとらなければならないのです。

ソーンダース・カーマイケル=ブラウン氏

ブラウン氏:サーキュラリティという観点では関連するステークホルダーや顧客、サプライヤーなどをどのように取り込んでいくのかが重要になるかと思いますが、AESCではどのような協力関係を築いているのでしょうか。

松本氏:私たちにも非常に重要なサプライヤーとの協力関係があります。そこには2つの局面があると思いますが、1つはリユースとリサイクルです。先ほども紹介したように、バッテリからレアメタルを抽出することは重要ですが、それ以上にアルミニウムや銅、そのほかの素材を対象としてリユースすることもとても大切なことで、そのためにはサプライヤーとの協力が不可欠になります。

 もう1つはカーボンニュートラリティです。私たちのバッテリ工場では再生可能エネルギーをできるだけ利用するようにしていて、例えば茨城工場ではソーラーパネルを屋根に設置して使っており、近隣にはタービンも設置しています。

 サプライヤーさんで発生するCO2についても協力を始めており、製造工程でどれぐらいCO2が発生しているかどれだけ検知できているか、それをどのように削減していくのかを、2年後目標、3年後目標を策定して提供してもらえるようサプライヤーさんにお願いして、このような活動を協力して加速させていかなければならないと考えています。

ブラウン氏:もう1点、気候変動の問題は科学的な面に加えて「コミュニケーションの問題」だとも言われています。私たちがどのような課題に直面しているのかについて、一般に広く理解してもらうことが重要であり、同時に難しい部分です。業界としてどのような取り組みが必要になると松本さんは考えますか?

松本氏:そうですね、BEV市場として見ると、2~3年前にあったような動きが最近は減速しています。これに対してフォーミュラEのレース開催や取り組みは非常によい効果を発揮すると思います。BEVによるレースが行なわれることでBEV販売も加速することでしょう。

 しかし、日本市場でのBEV普及はまだまだだと感じています。この会場で「BEVを所有しているぞ」という人は手を挙げていただきたいのですが……、このように少ししかいません。これが実情です。これからさらにBEVが持つたくさんのメリットを知ってもらって、魅力を伝えていくことが必要です。

 そのためにはバッテリテクノロジーが1つの鍵になると思います。コストを削減し、1回の充電でより長距離を走れるようにする。また、より速く充電できるようにするという部分では、現在は急速充電のSOC(充電状態)で0~80%に30~40分が必要になっていますが、近い将来にはこれが10分かからないようになると思っています。この実現によってBEV市場を加速させていきたいと考えています。

フィリッピ氏:松本さんにプレッシャーをかけるわけではありませんが、本当にそこがキーになると思います。充電が簡単になれば、ライフサイクルを5年として考えてもBEVの方が安上がりになり、環境にもよいとなればガソリンエンジン車よりも有利になることでしょう。

 また、私は再生可能エネルギーについても情熱を持ってプッシュしていきたいですね。この先で送電や輸送について2倍、3倍と効率を高めることができればコストを2分の1、3分の1に下げることができます。私はイングランドに住んでいますが、BEVの充電する場合、電力網で再生可能エネルギーの発電量が余剰になっているタイミングでは、むしろBEVに充電することで電力会社からお金が支払われることもあります。このほかにもバッテリの電力密度を高めることも重要な要素でしょう。

 フォーミュラEで週末に行なわれるレースに関連して、充電という観点で私は少しナーバスになっているところがあります。それはマシンの充電について新しいテクノロジーを使うことになるからです。レース中にピットストップを行ないマシンに充電するのですが、5年前なら誰も信じなかったことに、このピットストップは30秒で完了します。このわずか30秒でSOCの10%を回復させることができるすばらしい技術になります。新たな600kWという急速充電は現在あるベストなシステムの2倍程度になり、これはほぼ問題なく機能することが確認されています。

 BEVが搭載するバッテリの性能がアップして10分~20分程度で充電が完了するようになれば、旅行などで遠くまで走ることになっても購入の妨げにはならず、日常的には普通充電で走り、ロングドライブでも10分ほどの充電でより長い距離を運転できるようになればガソリン車よりもメリットがあると思います。このような技術が実現されれば本当にエキサイティングですし、BEV購入のバリアがなくなっていくと考えています。

ブラウン氏:非常に興味深い考察ですね。再生可能エネルギーとBEVの組み合わせはクリーンさを加速させる技術です。さらにBEVと電力網を接続するV2G、BEVと住宅やインフラを接続するV2Hも重要な点だと思います。再生可能エネルギーで電力を地産地消して、電気代をほんの少ししか支払わずにすむような世界が来てほしいと思います。

 最後にサステナビリティについて、シルヴァンさんはどのように考えていますか?

フィリッピ氏:幅広く一般的に考えると、これからは低品質な使い捨ての製品に明るい未来はないと思っています。カーボンインパクトを最小化して長持ちする製品を作っていくことがますます重要になっていくことでしょう。すべては消費者から始まっていくと思いますし、私自身は楽観的なので、世界は変わりつつあると思っています。すぐ使い捨てになるような製品を人々は受け入れなくなっていて、長持ちする、リサイクルできる製品が主流になっていくのではないでしょうか。

 モータースポーツの世界でも、コンポーネントをより長持ちするようにする。ピークパフォーマンスにとらわれすぎず、毎年よりよいバッテリを作っていくことが強く求められています。フォーミュラEはほかのレースとは少し違っていて、この週末に行なわれるレースに来ていただければ皆さんにも見ていただけるはずです。非常に速いレーシングカーによる本当にエキサイティングなレースを、ほかのレースとは違うやり方で繰り広げているのです。

 より大きな課題も一方であるとは思いますが、最終製品から始める、最終製品をよりよいものにしていくことが必要で、そのためにはこれまでとは違ったやり方が必要です。消費者の視点から問題になるのはおそらく利便性だと思いますが、批判に対してそれが正しい手法であり、正しい方向性だと示していくことが求められるでしょう。さらに製品が寿命を迎えたときにはサステナビリティ性を持ち、2次使用についても考えていく必要があるでしょう。しかし、私は将来について楽観視してよいという感情を持っています。

ブラウン氏:ここまで聞いていただいた会場の皆さんも同じように感じているのではないかと思います。シルヴァンさん、松本さんありがとうございました。

パネルディスカッション「Innovating for a Circular Economy~産業界が思い描くサーキュラーな世界とその実現に向けた挑戦~」

パネルディスカッション「Innovating for a Circular Economy~産業界が思い描くサーキュラーな世界とその実現に向けた挑戦~」は4人の登壇者によって行なわれた

 続いて行なわれたパネルディスカッション「Innovating for a Circular Economy~産業界が思い描くサーキュラーな世界とその実現に向けた挑戦~」では、サーキュラーエコノミーの実現に取り組んでいる4社の担当者が登壇して自分たちの取り組みや考え方などを語った。

 このなかで、モデレーターを務めたesa COO 米久保秀明氏から「各社にとって在りたいサーキュラーエコノミーの社会像やビジョンはどのようなものでしょうか」という質問が登壇した3人に投げかけられた。まず、ローンなどの一般的な金融サービスを利用できない人でもクルマを買えるようにするモビリティサービスプラットフォームを運営するGlobal Mobility Service 代表取締役社長 CEOの中島徳至氏は「私たちはモビリティ分野におけるサービスプレーヤーです。ですので、ものについてのサーキュラーではなく、サーブスという分野でのサーキュラーになります。ものを循環させていくのはこれからは当然として、私たちのビジネスではローンやリースが使えない人を対象にファイナンスを提供しています。そこで支払いが滞るとクルマを回収することになりますが、私たちは回収したクルマを次に待っているドライバーに速やかに再提供します。なにより私たちがサービスプレーヤーとして重要だと考えているのは『人の再挑戦をサポートする』ということです」。

「1回落ちこぼれた人はなかなか再挑戦できなくなってしまいますが、そういった人を救い上げるといった文脈で考えると、ものだけではなく『人のサーキュラー』という部分が非常に重要だと僕は考えています。救い上げるにはその人に信用を付加する必要があって、私たちはクルマを常にセンシングしてデータを取っています。そこで、その人が真面目に働いているのか適当にやっているのか全部分かります。そのデータを分析して価値化して、その人が新たに学校に通ったり、次のファイナンスを利用できるようにする、家が買える、就職できるといったことで、人の挑戦と信用の再構築を行なっているところをビジョンとして意識しています」と回答。

Global Mobility Service株式会社 代表取締役社長 CEO 中島徳至氏

 また、パーソナルモビリティの開発・販売などを行なっているWHILL 共同創業者/最高開発責任者の内藤淳平氏は「サーキュラーというのはサステナブルの上位概念として『常に回り続ける』ということだと思います。逆に『回れない』というのはどういう状態か考えると、諦めてしまってドロップするとサーキュラーじゃないということで、やりたい気持ちを諦めず次に続けていく、私たちの会社で考えると諦めず行きたいところに行く。例えば自動運転とか、空港はたくさん歩かなくちゃいけないから旅行に出るのがしんどいといったところにモビリティを提供していく、乗りたいと思えるものを買っていただくとか、ワクワクするような気持ちを付加することで、諦めず回り続けられる社会というものがサーキュラーなのかなと思います」。

「一般的な用語としての環境負荷という部分も当然ありますが、きっと人はワクワクして動く活動によって諦めることなく動き続けられることで、サーキュラーというものが自然と実現できるのではないかと思ったりします」と答えた。

WHILL株式会社 共同創業者/最高開発責任者 内藤淳平氏

 続いて帝人 コーポレート新事業本部 環境ソリューション部門長 八木穣氏は
「われわれがサーキュラーと言うと、やはり資材を循環させていくという素材メーカーなりの形があって、リサイクルというイメージを強く持たれると思います。リサイクルをどんどんやって素材をまわしていくことも当然大事で、さらに素材そのものでいかに環境負荷を下げるかということで、環境によい材料としていくところは素材メーカーとして取り組んでいかなければならない部分です」。

「ただ、自分の考えるサーキュラーにはほかにもいくつかの切り口があると思っていて、例えばわれわれが出している非常に軽くて強い材料。これで使う資源を減らすという面もサーキュラーにつながって、作るためのエネルギーも減って、置いておく場所も小さくできるというところもサーキュラーの考え方としてあってもいいんじゃないかと考えています。さらにわれわれの作っている材料はとても長持ちして、耐久性が非常に高い、サビないといったところで、極力長く使っていただくところもサーキュラーだと思います」。

「どうしてもサーキュラーではリサイクルが最初に出てくると思いますし、素材メーカーとしてそこも粛々とやりつつ、いろいろな形でサーキュラーの実現にアイデアを出していける。それに加えて、先ほどのお話でもあったデータを使うといったことも始まっているので、データを使うことでリユースがもっと進められるんじゃないか、リサイクルの効率も高められるんじゃないか。また、ワクワクというキーワードも出ていましたが、やはり持っていて楽しいものは誰でも大事に使うと思います。そんなワクワク感とサーキュラーはすごく大事なんじゃないかという気付きをこの場でいただきました」と語った。

帝人株式会社 コーポレート新事業本部 環境ソリューション部門長 八木穣氏

 最後にモデレーターを務めた米久保氏は、自身が再生プラスチックペレットなどを手がけるesaで働くようになったきっかけとして、前職の素材メーカーで仕事をしていくなかで「バージン原材料は高い」「リサイクルなんてやって何になるのか」といったネガティブな言葉を耳にする機会が多く、そんな状況を変えたいと考えて転職したと説明。今回のパネルディスカッションで3人から話を聞いて、今後に向けたアイデアになったと語り、同じような思いを持っている他社とも協力して日本発の新しい世界を作っていきたいと締めくくった。

株式会社esa COO 米久保秀明氏

帝人とERTの理念が合致してサポートを実施

帝人株式会社 代表取締役社長執行役員 CEO 内川哲茂氏

 このほか、イベントの冒頭では帝人 代表取締役社長執行役員 CEO 内川哲茂氏があいさつを実施。

「帝人グループは“Pioneering solutions together for a healthy planet”という言葉を使い、美しい地球とそこに住む人々の健やかな健康を守るソリューションの2を提供することを会社のパーパスに定めてがんばっている会社です。一方で、エンビジョンレーシングチームは“RACE AGAINST CLIMATE CHANGE”ということで、自動車レースであるにもかかわらず、環境を壊さないことをコンセプトとしているチームです。フォーミュラEから『最もグリーンなチーム』として表彰され、カーボンニュートラル認証も受けています。そんな彼らのチームコンセプトと当社の理念が合っているということで、エンビジョンレーシングチームを応援する活動を行なってきました」。

「本日はサーキュラーエコノミーをテーマにさまざまなパネルディスカッションが行なわれますが、エンビジョンレーシングチームはレースだけでなく、こういったサーキュラーエコノミーを社会実装していく啓蒙活動についても一生懸命に取り組んでいて、われわれも今日のイベント開催でお手伝いさせていただいています。登壇いただく皆さまは、それぞれの分野で大きく活躍されている人ばかりなので、セッションを楽しんでいただき、その後のネットワーキングの場もお楽しみいただければと思います」とコメントした。

「RACE AGAINST CLIMATE CHANGE TOKYO」の登壇者によるフォトセッション