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日産追浜工場の車両生産終了をイヴァン・エスピノーサ社長が説明 「キャリアで最も苦渋の決断だが成長軌道に戻すためにやるしかない」

2025年7月15日 実施
日産グローバル本社にて緊急記者会見が行なわれ、日産自動車株式会社 取締役、代表執行役社長 兼 最高経営責任者のイヴァン・エスピノーサ氏が登壇

 日産自動車は7月15日、神奈川県にある追浜工場での車両生産を2027年度末に終了し、車両生産は日産自動車九州へ移管・統合すると発表。現在追浜工場で生産しているモデルや今後生産を開始するモデルは、日産自動車九州で生産する予定。

 あわせて、日産車体湘南工場に生産委託しており、2025年10月での生産終了が案内されている「AD」に続き、「NV200」の生産も2026年度に終了すると発表した。NV200の後継モデルは2027年度の導入予定としている。

 この発表について日産は急遽、グローバル本社で記者会見を実施。取締役、代表執行役社長 兼 最高経営責任者のイヴァン・エスピノーサ氏が登壇して説明を行なった。

コンパクトカーの生産を九州へ移管するのがベストと判断

 エスピノーサ社長によると、今回の決定は経営再建計画「Re:Nissan」で推進しているグローバル生産拠点の見直しの一環。中国を除いたグローバル生産能力を350万台から250万台へ削減し、工場稼働率100%維持を目標に掲げ、グローバル生産拠点を17拠点から10拠点へ統合する計画を検討しながら進めている。

 グローバルにおける生産工場の稼働率は70%程度、また日本国内の稼働率は60%にとどまっているとのこと。国内向けには「リーフ」「エルグランド」「新型軽自動車」でラインアップを強化しつつ、アメリカのトランプ関税など輸出領域は不透明な部分が多いため、効果的に対応するには生産体制の再構築が必須であると判断したとのこと。

 国内にもいくつか生産工場はあるが、コスト競争力、投資規模など包括的に検討した結果、国内では「ノート」「ノートオーラ」といったコンパクトカーの生産を現在の追浜工場から日産自動車九州へ移管するのが最適解であるとし、早急な生産体制の再構築を目指している。

 今回の追浜工場の移管・統合により、15%の改善が予想され稼働率は100%になると見込んでいるという。また、移管により影響を受けるサプライチェーンについては、業態によるので個別にしっかりとコミュニケーションを取り、移転のサポート、物流のサポートなど、さまざまな選択肢が出てくると思うが適切に対応していくと説明した。

 なお、経営再建計画「Re:Nissan」は現状、計画通りのスピードで進んでおり、日本国内における車両生産拠点の統合は、今回の発表内容ですべて完了したとしている。

追浜工場で生産されている「ノート」(左)と「ノートオーラ」(右)

自身のキャリアで一番の苦渋の決断だった

 日産の拠点の1つとなる追浜地区には、今回生産終了が発表された追浜工場のほかにも、総合研究所やテストコース「GRANDRIVE(グランドライブ)」、衝突試験場、追浜専用ふ頭などがあり、約4000人が勤めている。

 追浜工場は約2400人が働いており、エスピノーサ社長は「生産の終了は従業員にとっては痛みをともなう改革になるため、本当に苦渋の判断だった。しかし現在の厳しい状況から脱して、再び日産を成長軌道に戻すためにはやらなければならない改革でもある」と説明。

 また、「工場の移管作業自体がかなり大がかりなこと、従業員やディーラーに対して生産・販売の継続性を担保しながら移行させ、できるだけ影響を最小限に抑えるため、生産終了となる2027年度末まで約3年というリードタイムを設けている」とエスピノーサ社長は明かす。

 今後2027年まで雇用を継続しつつ、その後は各人とコミュニケーションをしっかり取り、枠組みを労働組合と合意形成したのちに、追浜工場以外は今後も事業を継続するので異動や転勤を含め、代替案など全力でサポートするとしている。ただし、日産車体湘南工場の従業員については、「日産車体が決断すべき内容。日産ファミリーの一員として公平性を持って対応する」と言及。続けて今回のタイミングでの発表については、「グローバルな事業で不安が広がっているので、速やかに発表することが従業員に対する責任であると判断した」と説明した。

生産終了は自身のキャリアの中でも最も苦渋の決断だったと語るエスピノーサ社長

工場跡地の使い道は白紙だが、2027年度末までは高品質なクルマを作り続ける

 現在、ノートとノートオーラを生産している追浜工場の敷地面積は54万7606m 2 で、今はまだ車両生産を中止することしか決定していないものの、すでに外部との接触はあるとのことで、「丸ごと敷地を買いたい人がいれば売るかもしれないし、新しい何かをするかもしれない。詳細は機密保持があり話せないが、さまざまなプランを検討している。現状では新たな合弁会社の設立や設備を貸し出した委託生産などの話はない。まずは資産の活用を考えている」とエスピノーサ社長は語る。

 ただし、「2027年度末に車両生産を終了するまで、ユーザーに満足いただける高品質なクルマを生産し続ける」とも補足した。

 生産の移管について日産自動車 執行役、チーフ モノづくり オフィサーの平田禎治氏は、「すでに日産式の生産工法が統一されているので、工場間のナレッジとスキルが途絶えることはないと考えている」とスムーズな移管を実現できると強調した。

日産自動車株式会社 執行役、チーフ モノづくり オフィサー 平田禎治氏

 最後にエスピノーサ社長は追浜地区と追浜工場について、「これまで60年以上にわたり1780万台以上の車両を生産し、日産のアイデンティティを築いてきた追浜工場と、そこで働く従業員や、働いてきた従業員、家族、関係者すべてに敬意を表します。ここで生産されたクルマは“技術の日産”の象徴であり、誇りであり、宝物です。支えてくださったすべての関係者に感謝を申し上げます。追浜地区は今後も歴史を刻み続け、イノベーションと地域社会に貢献していきます」と決意を語った。