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ブリヂストン、精密熱分解による再生カーボンブラック配合レーシングタイヤをS耐岡山で初公開

使用済みタイヤを再びタイヤにする「水平リサイクル」への挑戦

2026年10月24日 発表
ブリヂストンが再生カーボンブラック配合レーシングタイヤをスーパー耐久第6戦岡山で公開した

 ブリヂストンは10月24日、岡山国際サーキットで開催されている「ENEOS スーパー耐久シリーズ 2026 Empowered by BRIDGESTONE 第6戦 スーパー耐久レース in 岡山(以下、S耐岡山)」にて、使用済みタイヤのケミカルリサイクル技術によって得られた「再生カーボンブラック」を配合したレーシングタイヤを初公開した。

 また、公開に合わせて説明会を実施。リサイクル事業準備室 室長 加藤貞治氏、リサイクル事業開発推進部 部長 北野秀樹氏、モータースポーツタイヤ開発第2部 MSタイヤ設計第3課 澤井冴氏、モータースポーツタイヤ・技術開発統括部門 上席主幹 横倉宏行氏、モータースポーツオペレーション部 部長 鈴木栄一氏らが登壇して各分野の説明を行なった。

左から株式会社ブリヂストン モータースポーツオペレーション部 部長 鈴木栄一氏、モータースポーツタイヤ・技術開発統括部門 上席主幹 横倉宏行氏、モータースポーツタイヤ開発第2部 MSタイヤ設計第3課 澤井冴氏、リサイクル事業準備室 室長 加藤貞治氏、リサイクル事業開発推進部 部長 北野秀樹氏

 なおこのレーシングタイヤは、S耐岡山で自動車メーカーの開発車両が参戦する、ST-Qクラスの32号車「ORC ROOKIE GR86 Future FR concept」および、12号車「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER CNF concept」に供給され、実戦の過酷な環境下で耐久性やグリップ性能の検証も行なわれた。

32号車「ORC ROOKIE GR86 Future FR concept」
12号車「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER CNF concept」

 説明会の冒頭、モータースポーツ広報部の石黒氏は、「ブリヂストンはタイヤを設計・製造するだけでなく、その根幹となる『素材そのものを作り出す力』にも創業以来徹底して力を注いできました」とあいさつ。

 ブリヂストンは世界各地にタイヤ製造工場を構えるだけでなく、天然ゴムのパラゴムノキ農園や加工施設、合成ゴム工場、カーボンブラックの製造工場、さらにはタイヤ骨格を支えるスチールコードや繊維補強材の工場に至るまで自社グループで保有。石黒氏は、「自前で原材料を開発・生産できる知見と設備をもち、同時に各素材の専門メーカーと深く共創しながら研究開発を推進できることこそが、ブリヂストンのゴム開発力の最大の強みとなっています。今回の取り組みは、単にレース用タイヤの性能を競うだけでなく、そうした素材開発力をベースに、未来へ向けたサステナブルマテリアルと循環型社会の実現に挑戦するものです」と説明した。

ブリヂストンは原材料工場も多く保有している

タイヤを資源として循環させる「EVERTIRE INITIATIVE」

 続いて、リサイクル事業準備室 室長の加藤貞治氏が登壇し、ブリヂストンが掲げるサステナビリティ戦略「EVERTIRE INITIATIVE(エバータイヤイニシアチブ)」の理念と、ブリヂストンが描く循環型ビジネスモデルの全体像について言及。

 加藤氏はまず、現代社会におけるモビリティの拡大と環境課題の関連性について、「2050年の社会を見すえた際、世界的な人口増加に伴って自動車の保有台数も飛躍的に増加し続けると推計されています。これは移動の自由や経済発展をもたらす一方で、自動車部品メーカーにとっては原材料の安定供給を維持する責任がより一層重くなることを意味しています」と、資源枯渇リスクや環境負荷低減の現状を説明。

2050年の社会:人口動態と経済活動

 こうした背景のもと、ブリヂストンでは2022年に「タイヤが循環し続ける社会、タイヤの価値が循環し続ける社会を作る」という決意を込め、EVERTIRE INITIATIVEを立ち上げている。加藤氏は、「永遠なるタイヤ、循環のコアとなるタイヤを、業界のリーディングカンパニーとして先頭に立って牽引していきたい。今回のレーシングタイヤに施した鮮やかなグラデーションにも、サーキュラーエコノミーに向けて社会のマインドそのものが段階的に変革していく様子を表現しています」と紹介した。

EVERTIRE INITIATIVEの思いを紹介する株式会社ブリヂストン リサイクル事業準備室 室長 加藤貞治氏

 EVERTIRE INITIATIVE思想では、「使い終わったタイヤはゴミではなく、貴重な資源としてとらえ、世間一般では長年『廃タイヤ』と呼ばれてきたが、ブリヂストンではこれを明確に『使用済みタイヤ(ELT:End-of-Life Tires)』と呼ぶように変更。まずは自分たちの認識を改め、ステークホルダーやユーザーの意識も変えていく。タイヤを使い捨ての消費財から持続可能な資源へと再定義することが、すべての挑戦の原点となります」と加藤氏。

EVERTIRE INITIATIVEの思い
タイヤ水平リサイクルを表現したコンセプトタイヤ

 ブリヂストンの使用済タイヤを「資源」としてゴムや原材料に「戻す」リサイクル事業の共創を呼びかける活動は3つの柱で構成されていて、新車用・市販用タイヤを「作って売る」コア事業、リトレッド(更生タイヤ)技術やタイヤモニタリングシステムなどによってタイヤを長く安全に「使う」ソリューション事業(成長事業)、さらに使い終わったタイヤを資源として社会や製品へ「戻す」リサイクル事業となる。この3つの事業を有機的に循環させることで、資源消費を最小化しながら顧客価値を最大化する構想を描いている。

ブリヂストンの使用済タイヤを「資源」としてゴムや原材料に「戻す」リサイクル事業の共創を呼びかける活動の概要

 しかし、その「戻す」リサイクルの現状について加藤氏は、「日本のタイヤリサイクルにおける有効利用率は99%を超えていて、統計上の数字だけを見れば世界最高水準に見えます。しかし、その内訳を精査すると約83%は製紙工場や化学工場などでボイラーの熱源として燃やされる『サーマルリカバリー(熱利用)』に依存しているのが実情です。もちろんエネルギー源としての活用も重要ですが、燃焼させれば必然的にCO2(二酸化炭素)などの温室効果ガスを大気中へ排出してしまいます。真の意味で持続可能な脱炭素社会を実現するためには、燃やすのではなく、タイヤから再び新品のタイヤを作り出す『タイヤ to タイヤ』の高度な水平リサイクルへと産業構造をシフトさせなければなりません」と強調。

日欧米におけるタイヤリサイクルの現状

 続けて、「ペットボトルを再びペットボトルへと再生する『ボトル to ボトル』が普及しつつあるように、タイヤの世界でも完全な水平循環を達成するには、タイヤメーカー単独の技術力だけでは完結できません。素材メーカー、エネルギー企業、自動車メーカー、そしてモータースポーツを愛するファンやドライバーの皆さまと思いを1つにし、知恵と技術を掛け合わせることで、未来へ向けた大きな挑戦を形にしていきたい」と語り、業種を超えたオープンイノベーションの重要性を説いた。

タイヤをタイヤへ戻す「水平リサイクル」とは

お好み焼きから小麦粉を取り出すような難しさに「精密熱分解」の挑戦

 タイヤはゴム、スチールコード、繊維、カーボンブラックなどが複雑に加硫接合された複合材料。加藤氏はリサイクルの難しさを「一度焼き上がったお好み焼きから、再び小麦粉や卵、キャベツを取り出すようなもの」と難しさを例えた。

タイヤ資源循環の必要性

 この課題を打破するコア技術が「精密熱分解」となる。技術開発を担当するリサイクル事業開発推進部 部長の北野秀樹氏の解説によると、回収された使用済みタイヤは、中間処理業者によって数センチ四方の「タイヤチップ」へと細かく破砕・粉砕される。続いて磁石を用いてタイヤ骨格を形成しているスチールコード(鉄)を回収。もちろん鉄も製鉄原料としてマテリアルリサイクルへと回される。残ったゴムとコード繊維、配合剤からなるタイヤチップが、ブリヂストンの精密熱分解工程へと投入される。

ブリヂストンが挑む精密熱分解による使用済みタイヤのケミカルリサイクル全体像

 タイヤチップは、空気(酸素)が存在する通常の環境下で加熱すると、単に燃焼してCO2を放出し、灰になってしまう。しかし、炉内を完全に無酸素状態に保ちながら外側から精密に熱を加えていくと、加硫結合していたゴムの高分子鎖が熱によって解離・分解させられる。

タイヤを断裁して作られるタイヤチップ
真空状態で加熱すると熱分解が可能となる

 一度気化してガス状になったゴム成分は、冷却されると液体状の「分解油」として取り出せる。また、タイヤの約20~30%を占めるカーボンブラックは、熱分解の残渣として固体の『再生カーボンブラック』として取り出される。原理そのものは中学校の理科で習う「乾留(かんりゅう)」と同一だが、「タイヤの原料として再利用できるクオリティに仕上げるためには、極めて高度な熱工学と化学制御が要求される」と北野氏。

回収された再生カーボンブラック

 この精密熱分解から得られた生成物は、それぞれ国内のパートナー企業によって新たなタイヤ材料へと生まれ変わる。回収された分解油はENEOSへと運ばれ、原油と同等レベルのナフサなどの化学原料へと精製・軽質化処理が行なわれる。そこから再びブタジエンゴムやスチレンブタジエンゴムといった高機能な「合成ゴム」が製造され、新品タイヤのトレッドやサイドウォール用の原材料として戻される。

 一方、固形物として回収される再生カーボンブラックも、そのままタイヤへ投入できる訳ではなく、北野氏は「取り出したままの粗製カーボンブラックでは、新品のバージンカーボンブラックに比べてゴムに対する補強性能がどうしても劣ってしまいます。そこでブリヂストンでは東海カーボンと協業し、再生カーボンの表面改質や補強性を向上させる高度な二次処理技術を開発しました。さらに、タイヤの分解油そのものを原料油(オイル)として用い、そこから新品同様のカーボンブラックを作り出す技術開発も進めています」と常に技術を進化させていると紹介。

精密熱分解について解説する株式会社ブリヂストン リサイクル事業開発推進部 部長の北野秀樹氏

 この「分解油から作った合成ゴム」「再生カーボンブラック」「東海カーボンでの二次処理カーボン」「分解油を原料にして新たに作ったカーボンブラック」という4つの循環ルートを開拓。従来は100%石油由来に依存していたタイヤの主原料を、使用済みタイヤから高精度に再生・置換していく技術基盤を確立させた。

 北野氏は、開発拠点である東京都小平市の技術センターにも触れ、「現在はこの小平にある小型実証機を用いて日夜プロセス条件の最適化を重ねていますが、2027年9月には岐阜県関市に本格的なパイロット実証プラントの稼働を予定しています。レースフィールドでの過酷な実証データと、プラントでの大規模スケールアップの両輪で、実用化への階段を一気に駆け上がりたい」とアピールした。

リサイクル事業とモータースポーツに関する取り組みの流れ。2027年には岐阜県関市に本格的なパイロット実証プラントの稼働を予定している

実験サンプルで体感したカーボンブラックの「補強性」の違い

 説明会では2つのゴム片サンプルが配布され、手で引っ張って強度を比べる体験も実施。2つとも再生カーボンブラックを配合しているが、1番は炉内の無酸素状態や加熱温度、滞留時間を精密にコントロールしたことで、カーボンブラック本来の活性表面がきれいに露出した状態を実現。ゴムポリマー(高分子鎖)がカーボンの微細な表面構造と分子レベルで強固かつ均一に網目結合を形成することで、外力に対しても応力を全体へ分散でき、バージン材と同等の引っ張り強度と耐引き裂き性を得ていた。

「2番」は力を込めて引っ張ったら簡単にブチッと千切れたのに対し、「1番」は力いっぱい引き伸ばしてもぜんぜん千切れる気配がなかった

 2番は、あえて熱分解条件が最適化されていない状態を作り、カーボンの表面に分解しきれなかったゴムの炭化物(残渣)が付着していたり、粗大粒子が残留。これらがゴムポリマーとの健全な結合を物理的に阻害するだけでなく、ゴムを引っ張った際に内部で力が一点に集中する「破壊の起点(応力集中点)」となってしまうため、わずかな引張力でもそこから亀裂が瞬時に伝播し、容易に千切れてしまった。

再生カーボンブラック特性コントロールの概要
再生カーボンブラック特性コントロールの概念図

 北野氏は、「生ゴムだけではすぐに千切れますが、微細なカーボン粒子が結合して強度が生まれます。2番は熱分解が不十分で残渣が破壊起点となり千切れますが、1番は精密な熱分解制御で活性表面が露出し、ゴムと強固に結合しています。この高品質な再生カーボンを取り出せるようになったことこそが、技術的ブレークスルーになります」と紹介した。

ソーラーカーからスーパー耐久へ、過酷さを増すレース環境での技術実証

今回のレーシングタイヤの開発に携わっている株式会社ブリヂストン モータースポーツタイヤ開発第2部 MSタイヤ設計第3課 澤井冴氏

 ブリヂストンはモータースポーツを単なる競技の場ではなく、極限領域で先進技術を鍛え上げる「走る実験室」と位置づけていて、モータースポーツタイヤ開発第2部 MSタイヤ設計第3課の澤井冴氏は、「ブリヂストンはさまざまなレースカテゴリーを通じて、サステナブルマテリアルの実証を進めてきました。2023年にはオーストラリア大陸を北から南へ約3000km縦断する過酷なソーラーカーレース『ワールドソーラーチャレンジ(BWSC)』にて、再生カーボンブラックを初めて採用したタイヤを投入し、無事に走破を果たしました」と実績を振り返った。

タイヤ精密熱分解から得られる再生カーボンブラックをレースで実証
タイヤ熱分解から得られた再生カーボンブラックや再生スチールを使用しているワールドソーラーチャレンジ投入タイヤ(展示タイヤは2025年度大会で使用したもの)

 しかし、今回のスーパー耐久への挑戦は、ソーラーカーの実証とは求められる技術的ハードルが全く異なると澤井氏は強調。「ソーラーカーは限られた太陽光エネルギーで長距離を走り切るため、転がり抵抗の極小化が最優先されます。そのためタイヤは細身で、転がり抵抗を減らすために乗用車よりもはるかに高い空気圧を充填し、主に直線を一定速度で巡航する使われ方をします。それに対して、今回のスーパー耐久は市販車をベースにした本格的なツーリングカーレースで、岡山国際サーキットのように激しいアップダウンと大小さまざまなコーナーが連続するテクニカルコースで争われます」と過酷さを提示。

レースにおけるタイヤ使用環境の違い

 データ比較では、タイヤ1本にかかる最大荷重は、下り坂のブレーキングや高Gのコーナリング時で、静止時の約6.5倍となる650kgに達するほか、最高速度もソーラーカーより100km/h以上高い220km/hにおよぶ。さらにサーキット走行ではタイヤのグリップ面積を稼ぐために、乗用車の規定圧よりも大幅に低い空気圧で運用されるという。

 低内圧かつ高荷重で高速旋回する際、タイヤには激しい横Gが襲いかかり、トレッド面だけでなくサイドウォールやビード部が大きく撓んで断面が極端に変形する。澤井氏は、「高荷重・高速・低内圧、そして激しい変形という四重苦のストレスがタイヤ内部に連続して加わる。もし再生カーボンブラックの品質にわずかでもムラがあったり、ゴムとの結合が不十分だったりすれば、その応力集中によって内部から瞬時に破壊や剥離が始まってしまう。だからこそ、市販車では絶対に到達しない過酷なサーキット環境でテストすることに決定的な意味があります」とサーキット実証の重要性を言及。

レース期間中は岡山国際サーキットに常設されるブリヂストンテント内では、毎日大量のタイヤ交換を行なっている
32号車「ORC ROOKIE GR86 Future FR concept」

 今回のS耐岡山では、ST-Qクラスに参戦する32号車「ORC ROOKIE GR86 Future FR concept」および12号車「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER CNF concept」の協力を得て、23日にテスト走行を実施。澤井氏は、「各ドライバーからは『従来の標準レーシングタイヤと比べてもグリップ力や剛性感に遜色はなく、ステアリングを切り込んだ際の過渡特性も含めて通常のマシンセッティングの範囲内で完璧に対応できる』と、非常に前向きなフィードバックをいただけています」と手応えを語った。

12号車「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER CNF concept」

 なお、今回のS耐岡山ではドライ用のスリックタイヤに絞って開発・投入。ウェット用タイヤの有無について問われた澤井氏は、「技術的には再生カーボンブラックを用いてウェットタイヤを製造することは十分に可能ですが、今回は最も高負荷がかかり限界性能をシビアに試せるドライのスリックタイヤに照準を絞って準備を進めてきました」と説明した。

32号車「ORC ROOKIE GR86 Future FR concept」

 さらに同社が2026年12月開幕のシーズンよりタイヤワンメイク供給を開始するFIA フォーミュラE世界選手権向けタイヤにも触れ、「フォーミュラE用の最新タイヤでは再生可能資源・再生資源比率65%を達成しています。モータースポーツの頂点からスーパー耐久まで、あらゆるカテゴリーで得られた知見を統合し、市販タイヤのサステナブル化を加速させていきたいです」と開発にかける情熱を語った。

再生資源・再生可能資源適用モータースポーツタイヤのロードマップ

水素燃料電池トラックによる輸送など、サプライチェーン全体の脱炭素化へ挑戦

 技術説明会の最後は、モータースポーツオペレーション部 部長の鈴木栄一氏が登壇。タイヤそのものの環境性能にとどまらず、製造から輸送、サーキット現場での運用に至るバリューチェーン全体を見すえた低炭素化の取り組みについて説明を行なった。

株式会社ブリヂストン モータースポーツオペレーション部 部長の鈴木栄一氏

 鈴木氏は、「ブリヂストンは環境に優しいサステナブルなタイヤの開発を加速させていますが、それらを実際のレース現場へ送り届けるオペレーションそのものも、環境負荷を低減させたクリーンな形へと進化させていかなければならりません」と問題意識を語る。

持続可能なモータースポーツオペレーションに向けた取り組み

 すでに海外で開催されているFIA フォーミュラE世界選手権や、オーストラリアのワールドソーラーチャレンジでは、グローバル規模の輸送サプライヤーと連携し、低炭素輸送の体制が整えられつつあるが、日本国内の物流網ではインフラや車両の制約もあり、同様のグリーン輸送を一挙に構築することは容易ではないという。そこで「まずは国内の現場でできる第一歩を踏み出そう」と企画されたのが、トヨタの燃料電池(FCEV)トラックを活用したタイヤ輸送の実証実験。

S耐岡山の事例

 そこで今回、ST-Qクラスに供給された再生カーボンブラック配合のレーシングタイヤを、東京・武蔵村山にあるブリヂストンの物流拠点から、岡山国際サーキットまでFCEVトラックに載せて長距離輸送する試運送が行なわれた。

 鈴木氏は、実際にFCEVトラックを長距離運行させて得られた現場のリアルな知見としては、「現在導入されているFCEVトラックの実用航続距離は約260kmにとどまります。従来のディーゼル大型トラックであれば、東京の倉庫から岡山サーキットまでの約650kmを無給油の一発で走破できますが、今回のFCEVトラックではルート上の水素ステーションで複数回にわたって水素を充填しながら慎重に運ぶ形となりました。近距離なら大丈夫ですが、長距離の幹線輸送を水素トラックだけで担うには、車両の航続距離性能や高速道路沿いの水素充填インフラなど、まだまだクリアすべき課題が多いことを身をもって実感できました」とコメント。

トヨタから借りて岡山国際サーキットへタイヤを運び込んだFCEVトラック
今回の再生カーボンブラック配合レーシングタイヤはこのFCEVトラックで運送している

 しかし鈴木氏は、「実際に現場で走らせてみたからこそ、直面しているインフラの限界や具体的なボトルネックが明確になりました。一方で、モータースポーツの現場では、近隣の拠点間を結ぶピストン輸送やサーキット敷地内での機材運搬など、短距離の輸送ニーズも数多く存在します。そうした比較的走行距離の短いルートから段階的にFCEVトラックを実戦投入していくなど、モータースポーツの活動そのものを通じて水素の利活用を広げていくことは十分に可能だと思います」と今後の方向性を示唆した。

 続けて、「モータースポーツは、ブリヂストンにとっての『パッションの原点』です。レースの世界で勝敗を競うだけでなく、そこで培った新素材や低炭素オペレーションの知見を、一般社会の持続可能な物流やモビリティへと還元していくことがブリヂストンの使命だと考えています。今シーズンも残すところ、タイヤ開発競争の集大成となるスーパーGT最終戦や、12月にサウジアラビア・ジェッダでいよいよ開幕を迎えるフォーミュラEへのワンメイク供給など、重要局面が続きます。極限の現場で磨き上げた技術とオペレーションで、未来のモビリティ社会を力強くリードしていきます」と説明会を締めくくった。

今年もスーパー耐久のほかにも、スーパーGTやフォーミュラEなど、ブリヂストンの携わるレースが実施される
Formula E 新たな挑戦篇(60秒)