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ブリヂストンが挑む「水平リサイクル」とは? タイヤがタイヤに生まれ変わる完全循環社会へ向けた新たな事業活動

2022年10月17日 開催

ブリヂストンがタイヤのリサイクル事業に関するセミナーを開催した

10月20日は「ひとまわり(10)、ふたまわり(20)」でリサイクルの日

 ブリヂストンは10月20日の「リサイクルの日」を前に、資源循環(原材料枯渇防止)やカーボンニュートラルに向けて、使用済タイヤをタイヤ原材料に戻し、新たなタイヤとして生まれ変わらせる「水平リサイクル」など、リサイクル事業に関するプレス向けセミナーを開催した。

 現在、日本国内における使用済タイヤの回収率は約94%と非常に高く、その多くがさまざまな形で再利用されている。しかし、再利用の内容としてはCO2排出を伴うサーマルリカバリー(燃やして熱エネルギーを回収すること)による有効利用が多いほか、他のものへと生まれ変わらせるマテリアルリサイクル(資源再利用)においても、リサイクル後の再利用が確立されていないなどの課題が残されているという。

 そこで今回ブリヂストンは、リサイクル分野の第一人者である叡啓大学特任教授・神戸大学名誉教授である石川雅紀氏を招き、日本におけるリサイクルの現状・課題、循環型社会に向けた水平リサイクルの重要性を解説。

 さらに、ブリヂストンからもリサイクル事業準備室長 岸本一晃氏と、先端材料部門長 大月正珠氏を加え、企業コミットメントの実現に向けての新たな取り組みや、使用済タイヤをタイヤ原材料に戻し、新たなタイヤとして生まれ変わらせる水平リサイクルの必要性や技術的な課題などが語られた。

循環型社会のカギを握る「水平リサイクル」

叡啓大学特任教授・神戸大学名誉教授 石川雅紀氏。経済産業省 産業構造審議会 産業技術環境分科会廃棄物・リサイクル小委員会、レジ袋有料化検討ワーキンググループ委員、消費者庁 食品ロス削減推進会議 委員、環境省 食品ロス・食品リサイクルに関する検討会座長、CLOMA(Clean Ocean Material Alliance)分別回収横断テーマチームアドバイザー、経済産業省 プラスチック資源循環戦略ワーキンググループ委員、自動車リサイクル促進センター理事など幅広く活動

 リサイクル分野に長く携わっている石川氏によると、水平リサイクルという言葉は1970年代に飲料水のアルミ缶をアルミ缶へと再生させたのが発端だと振り返る。当時リサイクル自体がブームとなり、アルミ缶とスチール缶はリサイクル競争のような状況になり、当時40%ぐらいだった回収率が急激に上昇したという。

 そのほかにも、身近なものだとペットボトルもペットボトルへと生まれ変わる水平リサイクルが行なわれていて、石川氏は「日本のペットボトルのリサイクルシステムは、世界のトップクラスだと思う」と語る。また、詰め替え用も普及しているシャンプーやリンス、洗剤といった日用品に関しては、すでに製造メーカー同士が企業の垣根を超えて、共同で資源の回収から再利用までを事業化している例もあるという。

 石川氏は「2050年までにという目標を掲げているカーボンニュートラル社会を実現させるためには、この水平リサイクルという取り組みはとても有効で、現状では法規制がないにも関わらず多くの企業が水平リサイクルの研究や、実証に取り組んでいるのは素晴らしいと思う」と語る。

水平リサイクルの事例
ネットゼロ社会が今の社会と違う点
炭素歩留まりと大気放出率

 また、実際にカーボンニュートラルな社会になった場合、CO2を排出すると費用を支払う義務が発生するようになると考えられていて、プラスチックもゴムも1tあたり10万円~30万円、そのほかに廃棄物処理費用も地域によっては10倍くらいまで跳ね上がることが予想され、「燃やすという選択肢を簡単には選べない時代になる」と石川氏はいう。

 さらに、これまであまり注目されていなかった、製品(プラスチック)の中の炭素量に対して、リサイクルする際に発生する炭素量がどのくらいかを示す“炭素歩留まり”についても石川氏は「今後は製品をどれだけ回収できているかだけではなく、炭素歩留まりも重要な指針になる」と予見している。

 実際に今のリサイクルの流れだと、石油化学製品は消費したものから資源を回収しているものの、厳密にはリサイクルするところでもCO2が排出されていて、実質のCO2排出削減量は50%ほどしかないという。ここの削減比率をもっと上げていくことが重要となる。

リサイクルでCO2排出量が減る理由
3つのリサイクルの有効利用方法
石川氏の出した結論

 現在、廃棄物などから熱エネルギーを回収するサーマルリカバリーが主流なのは、経済性に優れていることが要因だが、今後熱処理的な方法はコストがかかるようになれば優位性はなくなるので、石川氏は自身の体験談から「マテリアルリサイクルはとても難しいのですが、日用品メーカーの花王さんが、詰め替え用のフィルム(袋)から同じフィルムを作る水平リサイクルに取り組んでいて、すでにフィルムの試作品まで完成していて非常に驚いた。やはり、リサイクルシステムにイノベーションを起こすためにも、これからは水平リサイクルの推進が重要である」と締めくくった。

よりよい地球環境を未来へ引き継ぐために

株式会社ブリヂストン 化工品・多角化事業管掌 リサイクル事業準備室長 岸本一晃氏。2006年入社。上海とシンガポールと海外拠点で生産財とマーケティングに務め、2020年資金・IR部課長。2021年に現職のリサイクル事業準備室 室長に就き、国内リサイクルプロジェクト発足、グリーンイノベーション基金採択、Global Sustainability Business Committee 発足、2022年より「EVERTIRE INITIATIVE」を始動させて共創を拡大中

 続いて、ブリヂストン リサイクル事業準備室長の岸本氏が登壇。人や物の移動と動きを支えるために世界中で事業を展開しているブリヂストンは、「最高の品質で社会に貢献」を使命に掲げ、2050年へ向けてサステナブルなソリューションカンパニーとして社会価値・顧客価値を持続的に提供できる会社になるべく「E8コミットメント」を制定。

 この“E8”は「エナジー(Energy)」「エコロジー(Ecology)」「エフィシェンシー(Efficiency)」「エクステンション(Extension)」「エコノミー(Economy)」「エモーション(Emotion)」「イーズ(Ease)」「エンパワーメント(Empowerment)」のEで始まる8つの価値を表しているという。

タイヤサーキュラービジネスモデル

 そのためには、タイヤを創って売るだけではなく、使う段階でも支えつつ、使用済みタイヤをタイヤに戻すリサイクル事業も構築させ、「創って売る」「使う」「戻す」の3つの事業を循環させることで、社会価値と顧客価値を最大化させながら、持続的に供給可能していくことを目指すとしている。

 その戻す=リサイクルの事業に関して岸本氏は、今年の4月に「EVERTIRE INITIATIVE(エバータイヤ イニシアチブ)」を始動させ、ブリヂストンがリサイクルを先導することで、将来世代によりよい地球環境を引き継いでいくことを目指し、この活動に共感してくれるパートナーと共に未来を築きたいという。

EVERTIRE INITIATIVEに込めた思い

タイヤの水平リサイクルの必要性と技術的な課題

 冒頭でも記したとおり、日本は使用済みタイヤの回収率が約94%と高水準な一方、セメント工場、製紙工場、電力会社など、使用済みタイヤを燃やして得られる熱エネルギーとして再利用するサーマルリカバリーが約70%、グラウンドやアスファルト、パッキンなどほかのゴム製品として再利用するマテリアルリサイクルが約20%となっている。

株式会社ブリヂストン 先端材料部門長 大月正珠氏。1994年入社。研究開発本部 開発第2部 電子機能性材料開発ユニットを経て、2011年に中央研究所 研究開発技術企画部 部長 兼 多角化事業品質保証部 主任部員に。ブリヂストンサイクル、ブリヂストンスポーツおよびブリヂストン化工品開発支援に従事。2015年に米国中央研究所へ行き、2017年同所長に就任。2021年より現職の先端材料部門 部門長に就任し、新素材やサステナブル材料を開発する部門を指揮

 ブリヂストン 先端材料部門長の大月氏は、日本のリサイクルの現状について「世界的に見るとサーマルリカバリーの割合が非常に多く、資源循環の観点で課題となっている。高い回収率を生かし、使用済みタイヤの循環経済を作っていく必要性を強く感じている」と説明する。

 そして、2050年に完全循環社会を実現するには、使用済みタイヤの状態(劣化や摩耗具合など)によって、タイヤとして再利用できるもの、タイヤとしては再利用できないが原材料のゴムとして別の製品にできるもの、細かく分解して別資源として再利用するものなどに分けて使い、サーマルリカバリーを一切なくすと同時に、石油など化石資源を新たに使用しないことを目指すという。

使用済みタイヤのリサイクルの現状。ELT=End of Life Tire。黄色はサーマルリカバリー、緑がマテリアルリサイクル
日米欧におけるタイヤリサイクルの現状
ブリヂストンが2050年に目指している完全循環社会に向けた取り組み

 そもそもタイヤは、ゴム・鋼材・補強繊維を最適に組み合わせることで、高いグリップ力や排水性、静粛性や乗り心地、燃費性能などを実現しているが、水平リサイクルを実現するための技術的な課題について大月氏は、「ただの黒い塊に見えるタイヤのゴムも、天然ゴム、合成ゴム、カーボンブラック、シリカ、配合剤などを、ナノレベルで制御して成形している複雑な構造物のため、これを再びナノレベルまで分解してしまうと、同じレベルの性能が得られず、タイヤとしてリサイクルすることは難しい」という。

 大月氏はこれをドライソーセージのサラミで例え、「サラミは肉と油と調味料をミックスしながら絶妙にバランスさせることで、素晴らしい美味しさを実現しているが、これを挽肉のようにミンチにすると舌ざわりも味覚も別物になってしまう。再びサラミを作るなら肉、油、調味料にきっちり分ける必要がある。タイヤのゴムもこれと同じようなもので、原材料レベルまで分解したものをきちんと用途別に分けて再利用できるようにすることが必要」と現状の課題を説明した。

タイヤの構造と原材料構成
タイヤの分解と再利用の難しさ
ブリヂストンが目指す完全循環社会

今後は共創パートナーシップが不可欠

 また、リサイクル事業準備室長の岸本氏は、「タイヤの水平リサイクル実現への課題は技術面だけではなく、ビジネス面でも課題はあり、使用済みタイヤの回収から原材料に戻すまでのエコシステム構築には、オープンイノベーションによる多くのサプライチェーンとの共創が必要不可欠である」と提言。

 すでに日本国内や米国で動き出している事例もあり、タイヤの原材料となるブタジエンや再生カーボンブラックの生成を目指す「精密熱分解」によるケミカルリサイクル。イソプレンや再生カーボンブラックの生成を目指す「低温分解解重合」による高収率リサイクル方法の確立などがある。

 米国でも、エタノールや将来的にはブタジエンなどの生成を目指す「炭素回収およびガス発酵技術」を用いたリサイクル方法の開発。すでに一部実用化している「熱分解」による再生カーボンブラックの生成など、さまざまなパートナーと連携しながら、生成物や市場性を踏まえた複数のリサイクルシステムの構築を推進しているという。

共創パートナーシップとの具体的な取り組み
日本国内で取り組んでいる「精密熱分解」によるケミカルリサイクル。2030年までに数万~10万t規模のプラント製造を計画している
日本国内で取り組んでいる「低温分解解重合」による高収率リサイクル法開発。2050年までに実用化を目指している

 こういった取り組みをさらに増やし、熱回収処理(サーマルリカバリー)を段階的にケミカル処理(マテリアルリサイクル)へと転換していければ、「2050年には国内の使用済みタイヤ計60万tをリサイクルできることになり、146万tのCO2排出量の削減になると試算している。60万tのうち半分くらいはタイヤへとリサイクルさせたい」と岸本氏は抱負を語った。

EVERTIRE INITIATIVEで目指す未来

 ブリヂストンのリサイクル事業の全容を聞いた石川氏は、「先に述べたとおり飲料用ペットボトルは年間60数万tほどあり、回収率は約96%と高水準でリサイクルされている。タイヤはまだこれからとはいえ、規模で見ればペットボトルと同等かそれ以上だと思われる。現状でペットボトルがリサイクルに成功しているのは、対象とリサイクルのイメージが消費者にしっかりと根付いている点。そういう観点で見ても、タイヤはペットボトルと同じく消費者が間違えようがない製品なので、高いポテンシャルを秘めていると思う。ただ、中間に入る販売店などが、そのビジネスモデルに加わりたくなるような仕組みがないと、なかなか広がらない。そこがクリアできればあっという間に広がるのではと思う。技術開発は大変だと思うが、タイヤからタイヤと用途目的がハッキリしているので、いずれ克服できると思いました。タイヤのリサイクルについては、とても高いポテンシャルを秘めていて、ワクワクしますね」と感想を述べていた。

花王 つめかえパック 水平リサイクル実験用プラント 紹介動画(1分27秒)