イベントレポート
ブリヂストン、タイヤを再生して作る「水平リサイクルタイヤ」をモビショーで初公開 仲間との共創により実現
第3世代「Airfree」や第2世代「月面探査車用タイヤ」も展示
2025年10月31日 11:05
- 2025年10月30日 実施
ブリヂストンは10月30日、「ジャパンモビリティショー2025(一般公開:10月31日~11月9日)」の会場である東京ビッグサイトにて、使い終わったタイヤを新しいタイヤに生まれ変わらせる「EVERTIRE INITIATIVE(エバータイヤ イニシアチブ)」の取り組みを紹介すると同時に、その技術で誕生した「タイヤ水平リサイクル コンセプトタイヤ」をアンベールした。
登壇したエバータイヤ イニシアチブに携わる材料開発統括部門長の大月正珠氏によると、2050年に世界の人口は96億人に達し、自動車保有台数も現在の1.5倍の22億台まで増加。また人および物の移動量は現在の2倍~2.5倍に拡大すると懸念され、自動車産業のみならず部品業界のサステナブル化も、大きな課題になっていると説明。
また、タイヤのリサイクルの現状について、「非常にリサイクル率は高いといわれているが、その中心はサーマルリサイクル(他製品への再生)で、エネルギーリカバリーでは貢献しているもののCO2を排出すること自体を課題ととらえ、ブリヂストンではより高度な“タイヤ to タイヤ”の水平リサイクルに取り組んでいます」と紹介した。
続けて、タイヤの原材料の約半分が化石資源由来であることに触れ、リサイクルのみならずカーボンニュートラルにも同時に取り組む必要があるため、ブリヂストンでは独自のサステナビリティビジネスモデル構築を目指していると言及した。
そのサステナビリティビジネスモデルとは、「従来よりも丈夫で長持ちする“革新材料”を搭載した環境プレミアムなタイヤを世の中に提供するほか、タイヤを使用する過程でメンテナンスやリトレッドなど、長く使えるソリューションを提供しつつ、最終的に製品の価値を使い切った後にリサイクルするシステムを用意し、再びタイヤへ戻す循環モデルである」と説明。
当然リサイクルで材料が100%元に戻る訳ではないので、「足りない材料を極力減らしたうえで、必要な材料は“循環材料”もしくは“再生可能資源”で補うことが、ブリヂストンの描くサステナビリティビジネスモデル」という。また、「製品のみならずソリューションやリサイクル、それぞれで最高の品質を世の中に届けるのがブリヂストンの使命」と思いを語った。
そして今回は、ENEOS(エネオス)や東海カーボンなど、パートナーとの共創により、使い終わったタイヤを精密熱分解(油化)し、合成ゴムとカーボンブラックに戻し、その材料を再利用して、新しいタイヤに生まれ変わらせることに成功したと発表。同時にその材料を適用した「タイヤ水平リサイクル コンセプトタイヤ」のアンベールを行なった。
具体的には、使い終わったタイヤを粉砕して得られたゴムチップをブリヂストンで精密に熱分解し、そこで得られたタイヤ熱分解油をENEOSが精密精製し、化学品へと変換。そこに使用済みタイヤ由来のブタジエンなどを加えて合成ゴムを製造。この技術は2022年2月に採択された、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のGI(グリーンイノベーション)基金プロジェクトの1つの大きな成果だという。
また、このプロセスで得られた再生カーボンブラックや、東海カーボンとの共創で得られたより品質の高い再生カーボンブラックなど、使い終わったタイヤから作られた原材料で製造したのが、今回発表したコンセプトタイヤとなる。
パターンデザインには、タイヤの価値や常に循環する“エバーなタイヤ”という思いと、仲間に共創を呼びかけ伝搬させて巻き込む様子、そしてブリヂストンが業界のリーディングカンパニーとして社会をリードしていくという思い、“イニシアチブ”を込めた曲率円形で表現したという。
最後に大月氏は、10月21日に関工場(岐阜県関市)の敷地内で、使用済みタイヤの精密熱分解パイロット実証プラントの起工式を実施したことに触れ、「今後もタイヤの水平リサイクルの実装を目指し、本気で技術開発と実証に取り組みます」と誓った。
「AirFree」最大のポイントはサステナブルな点
Airfreeは空気の要らないタイヤのため、ついつい「パンクしない」というメリットに目がいきがちだが、ブリヂストン 探索事業AirFree開発推進部 AirFree製品開発課 谷口剛寛氏によると、すでに「ランフラットタイヤ」という“パンクしないタイヤ”は存在していて、それよりもAirfreeの最大のポイントはサステナブルなタイヤであることだという。
技術開発がスタートしたのは2008年で、当時の第1世代から「安心安全に荷重を支えること」「リサイクル可能であること」を目指して設計。第2世代では、デジタル技術の投入により「乗り心地」も追及した。
そして今の第3世代は、より高度なシミュレーション技術や新たな素材を配合することで、これまでよりもしなやかでありながら強度のある樹脂の開発に成功。従来の硬かった樹脂と同じ耐荷重を保ちつつ、乗り心地のしなやかなAirfreeへと進化できたという。
乗り心地については、空気を入れるゴムタイヤとほぼ同じレベルにまで仕上がっていて、同じサイズであれば、ちょっと扁平率の低いタイヤに履き替えたかなと感じる程度の違いだそう。
また、開発目標としては「10年、10万km」が目標とのことで、トレッド面は今すでにある「リトレッド(貼り替え)技術」を使うことで長く利用でき、青い樹脂部分やホイールが劣化してしまった場合は、鉄とプラスチックなので比較的簡単にリサイクルが可能。現在の一般的なタイヤと比べても、少ない資源で製造できるので、とてもサステナブルなタイヤといえる。
空気の要らないエアレスタイヤに関しては、もちろんブリヂストン以外のタイヤメーカーも独自技術で開発を進めているし、市販化するには安全基準の設定やルールなどの法整備も必要となる。なので一般人がタイヤ屋さんにいって購入できるようになるのは、まだまだ先の話。現状では自治体や企業などに有償で貸し出して、交換と回収(=リサイクル)も含めてブリヂストンが管理する運用を想定しているとのことだ。
Airfree技術を取り込んで第2世代へと進化した「月面探査車用タイヤ」
月面はほぼ真空状態のため、空気を入れるタイヤは使えない。また、月面には大気の層がないため温度も120℃~マイナス170℃と寒暖差が激しいうえ、砂地やクレーターなど厳しい路面環境が多い。そこでブリヂストンは、2019年より月面探査車用タイヤの研究開発に取り組んでいて、空気の要らない、金属製のタイヤを考案。
ブリヂストン 上席主幹 BSJP直需タイヤ戦略企画/新モビリティ事業部門の片山昌宏氏によると、第1世代はワイヤースプリングを採用していたが、どうしても金属同士が擦れるため、1万km走らせようとしたら、ものすごく太いワイヤーが必要になってしまう。また月面ではオイルやグリスのような摺動させる物質も使えないため、金属が擦れれば熱を発生してしまうなど、とても厳しい環境になる。
そこでブリヂストンは、他部門が開発していた「Airfree」の技術に着目。Airfreeの構造は摺動がないので、第1世代は骨格とトレッドが同じ材質だったので性能を切り分けられなかったが、Airfreeの構造なら骨格とトレッド表面を別々に作れるため、課題をクリアできたという。
実は第2世代の月面探査車用タイヤは2023年から開発に着手していて、2024年に米国最大の宇宙関連シンポジウム「第39回 Space Symposium」に出展して発表している。第2世代はAirfreeのような構造としつつ、薄い金属製スポークを採用。トレッド部は回転方向に分割することで、岩や砂に覆われ、真空状態で激しい温度変化や放射線にさらされる極限の月面環境下においても、走破性と耐久性の高次元での両立させている。
また、耐久性についてもうまく設計すればゴム製タイヤよりも長持ちさせられるという。すでに鳥取砂丘でテスト走行を実施済みで、勾配も20度くらいは軽々と登れるとのこと。ブリヂストンは月の南側にある人類未踏の南極地域への到達を目標に掲げている。




























