インタビュー

【SUPER GTタイヤメーカーインタビュー】GT500&GT300ランキングトップのブリヂストン、その強さをF1帰りの今井弘常務役員に聞く

株式会社ブリヂストン 常務役員 グローバルモータースポーツ管掌 今井弘氏

 日本で最も人気があるレースシリーズとなるSUPER GTは、1994年にスタートした全日本GT選手権をルーツに、30年以上にわたって日本の複数のサーキット、そして2025年は12年ぶりに実施されたマレーシア・セパンでの海外戦を含めて全8戦で開催している。

 そんなSUPER GTの上位カテゴリーになるGT500クラスの絶対王者として参戦しているのがブリヂストンだ。ブリヂストンは1994年の全日本GT選手権の時代から参戦し、毎年のようにGT500クラスのシリーズチャンピオン車両を生み出している。ちなみに2016年~2024年まで、9年連続でGT500のチャンピオンとなったのはブリヂストン装着車となっている。

 そのブリヂストンのモータースポーツを率いるのが、今シーズンからブリヂストンに復帰した、ブリヂストン 常務役員 グローバルモータースポーツ管掌 今井弘氏だ。

ブリヂストンからF1(マクラーレン)へ転進、再びブリヂストンへ復帰した今井氏

 F1に詳しい読者であれば、昨年までマクラーレンF1のピットに今井氏の姿があったことをご存じだろう。かつてブリヂストンのF1活動からマクラーレンに転進した今井氏は、今シーズンからグローバルモータースポーツの責任者としてブリヂストンに復帰し、ブリヂストンのモータースポーツ活動のかじ取りを担っている。

SUPER GTの王者として君臨しているブリヂストン、GT500は9年連続で王者車両に供給

 ブリヂストンは1931年創業のタイヤメーカーで、乗用車用、トラック・バス用タイヤ、鉱山・建設用タイヤから航空機用のタイヤまで、多種多様なタイヤを製造し、提供している。仏ミシュラン、米グッドイヤーと並び、グローバルシェアは常にトップ3に入るトップメーカーの1つだ。ブリヂストンは、POTENZA、REGNO、Playz、ECOPIA、BLIZZAKといった複数のブランドを市販しており、いずれのブランドも本誌の読者にはおなじみのタイヤブランドと言えるだろう。

現在GT500のポイントリーダーとなっている1号車 au TOM'S GR Supra(坪井翔選手/山下健太選手)

 そのブリヂストンは、1963年に行なわれた第1回日本グランプリ(当時はF1ではなく、日本の国内レースにグランプリの名称が付けられていた)にタイヤを供給して以来、さまざまなカテゴリーにタイヤを供給しており、全日本F2や全日本F3000、その後のフォーミュラニッポン、スーパーフォーミュラにいたる2015年まで日本のトップフォーミュラの足下を支え続けた。また、1996年からはF1に参戦し、2010年にワンメイク供給を終えるまで参戦している。

 SUPER GTには、シリーズが全日本GT選手権として始まった当初から参戦しており、特に上位クラスのGT500で何度もチャンピオン車両にタイヤを供給している。ブリヂストンを装着した車両がチャンピオンを獲れなかった年を数えた方が早いぐらいだ。

クラスNo.車両名ドライバー
GT5001au TOM'S GR Supra坪井翔/山下健太
GT5003Niterra MOTUL Z佐々木大樹/三宅淳詞
GT5008ARTA MUGEN CIVIC TYPE R-GT野尻智紀/松下信治
GT50012TRS IMPUL with SDG Z平峰一貴/ベルトラン・バゲット
GT50014ENEOS X PRIME GR Supra大嶋和也/福住仁嶺
GT50016ARTA MUGEN CIVIC TYPE R-GT大津弘樹/佐藤蓮
GT50017Astemo CIVIC TYPE R-GT塚越広大/小出峻
GT50023MOTUL AUTECH Z千代勝正/高星明誠
GT50037Deloitte TOM'S GR Supra笹原右京/ジュリアーノ・アレジ
GT50038KeePer CERUMO GR Supra石浦宏明/大湯都史樹
GT50039DENSO KOBELCO SARD GR Supra関口雄飛/サッシャ・フェネストラズ
GT500100STANLEY CIVIC TYPE R-GT山本尚貴/牧野任祐
GT3002HYPER WATER INGING GR86 GT堤優威/平良響/ト部和久
GT30031apr LC500h GTオリバー・ラスムッセン/小山美姫/根本悠生
GT30052Green Brave GR Supra GT吉田広樹/野中誠太
GT30065LEON PYRAMID AMG蒲生尚弥/菅波冬悟

 2025年シーズンは、GT500では15台中、12台がブリヂストン装着車で、GT500はブリヂストンなくしてカテゴリーとして成立しえない状況だ。また今シーズンは開幕戦から第5戦鈴鹿まで全戦でブリヂストン装着車が優勝しており、絶対王者として君臨している。現在、開幕戦で優勝した1号車 au TOM'S GR Supra(坪井翔選手/山下健太選手)がポイントリーダーとしてシリーズを牽引。

 GT300は、4台に供給しており、こちらも開幕戦で優勝した65号車 LEON PYRAMID AMG(蒲生尚弥選手/菅波冬悟選手)がポイントリーダーとしてシリーズをリードしている。

GT300のポイントリーダー65号車 LEON PYRAMID AMG(蒲生尚弥選手/菅波冬悟選手)

ゴムを極める、接地を極める、モノづくりを極めるという3つの柱で開発しているGT500タイヤ

──今シーズンのSUPER GTでの活動について、今シーズンのこれまで(このインタビューは第4戦富士が終わった時点で行なわれている)の自己評価は?

今井氏:GT500は雨交じりの難しい開幕戦も表彰台を独占でき、第2戦富士も他メーカーの車両と激しい戦いになったが上位を独占できた。第3戦セパンにも同様に難しい戦いだったが最終的に表彰台を独占できている。GT500での競合他社も、ここまで高い性能を出してきていると感じており、ブリヂストンとしてはもっと頑張らないといけないと感じている。12台のGT500車両が予選でも決勝でも上位を独占してこそ、皆さんに言っていただける強いブリヂストンという結果だと考えており、しっかり取り組んでいきたい。

 GT300は、さまざまな車両が走っている中で4チームに供給しており、開幕戦で優勝していただいて、現在ポイントリーダーでもある65号車 LEON PYRAMID AMG(蒲生尚弥選手/菅波冬悟選手)を始めとしたユーザーチームの皆さまに健闘していただいており、他の3メーカーも含めて強力な競争の中でがっぷり四つという結果になっている。

SUPER GTは自動車メーカーだけでなく、タイヤメーカーの競争の場でもある

──ブリヂストンにとってSUPER GTに参戦する意味は?

今井氏:現在タイヤ競争が許されているカテゴリーは、世界的に見ても少ない。それに対してSUPER GTでは競争が許されており、毎戦、毎戦新しいスペックを投入するなど開発を進めており、その結果として技術力を磨き、性能の高いタイヤを供給できることが最大の魅力。当社がF1に参戦していた時代(ワンメイク時代)には、皆さんが安定して性能を出せるタイヤを開発するという別のチャレンジがあったが、他社と競争していた時代には技術開発が進み、それこそ毎戦新しい技術を投入していて、新しいタイヤを投入すると0.3~0.4秒速くなるという世界だった。今のSUPER GTではピークを高く取り、同時に長時間使えるようなタイヤが求められており、技術者にとってチャレンジしがいのあるカテゴリーだと思う。

SUPER GTでは毎戦新しいスペックのタイヤを投入していると言う

──今シーズンのSUPER GTのタイヤ開発について教えてほしい。

今井氏:タイヤは、ゴムを極める、接地を極める、モノづくりを極めるという3つの柱で開発している。ゴムは新しい材料を投入しており、いくつか進化しているものがある。接地を極めるためには構造は形状を極めることが重要で、FEMを利用して開発したものを、当社のアルティメット アイという接地面の現象を可視化するための計測技術を用いて、構造の配分をどのように変えるとより性能が出せて、減りが少なくなるのかなどを詳細に研究している。

 ウェットタイヤは、2024年に投入した新しいトレッドパターン(ウェットタイヤの溝のこと)をベースに改良を加えることで、性能を高めて、同時に性能低下を防ぐという開発を進めている。

第3戦富士のスターティンググリッドでは、ゲリラ豪雨に備えてか、ウェットタイヤを用意しているチームも見られた

──モータースポーツに限らず持続可能なタイヤ産業を維持するためにサステナブルな技術を導入することが求められている。ブリヂストンのサステナブルに向けた取り組みを教えてほしい。

今井氏:当社としては、サステナブルなプレミアムブランドになっていきたいと考えており、市販向け、モータースポーツ向けなどにおいて、さまざまな取り組みを行なっている。モータースポーツも例外ではなく、モータースポーツの場でサステナブルということはどういうことなのか? ということをいろいろな関係者と調整しながら取り組んでいる。

 例えばその取り組みの一環として、オーストラリアで行なわれたブリヂストンワールドソーラーチャレンジなど、当社のタイヤを多く採用していただいている事例もある。当社としては、タイヤそのものだけでなく、バリューチェーンやサプライチェーン全体など、産業全体でサステナブルを実現していくことが重要で、そうした取り組みを行なっている。

 ワンメイクのカテゴリーでは、再生資源・再生可能資源を使ったタイヤを、ステークホルダーの皆さんと一緒に検討していくことが試しやすいことは間違いないと思います。そこで得られた知見や技術を、SUPER GTのような競争があるカテゴリーでも採用していくことにチャレンジしていく。

サステナブルは自社だけでなく、業界全体で取り組むことが重要と語る

──SUPER GT以外のモータースポーツ活動を教えてほしい。

今井氏:日本ではスーパー耐久、KYOJO CUP、ロードスター・パーティレースなどのワンメイクシリーズ、さらにはGR86/BRZ CUPなどに供給している。特にスーパー耐久は60台近くという非常に多くの車両が参戦しており、参加者の皆さまが使いやすい安定しているタイヤを供給することに取り組んでいる。

 海外ではファイヤストンブランドを利用して、インディカー、インディネクストなどにタイヤを供給しているほか、先日行なわれた鈴鹿8時間耐久レースを始めとしたEWC(Endurance World Championship:世界二輪耐久レース)へもタイヤを供給しており、チャンピオンシップを争う上位を占めている。その他、ニュルブルクリンク24時間レースでは、TGRのヤリスにタイヤを供給しています。

 また、2026年に始まるFormula Eのシーズン13からワンメイク供給を行なうことをすでに発表しており、現在タイヤを開発しているところだ。シーズン13では車両も新しくなり、性能の向上幅が大きいので、そこに合わせたタイヤを開発することは大きなチャレンジになる。

──SUPER GT活動における今シーズンの目標は?

今井氏:大前提として、レースが興行として成功し、観戦に来ていただいたお客さんやテレビでレースを楽しんでいる皆さんに喜んでもらい、満足してもらえることが一番。我々ブリヂストンとして、GT500でもGT300でも、結果だけでなく、チームの皆さんに「ブリヂストンを使ってよかった」と言われるようにしていきたい。そうすることで、レースが終わった後にお客さまにも、「よいイベントだったね」と言っていただけるようにしていきたい。

 GT300は競争が激しいので、結果ももちろんだが、チームの皆さまに「ブリヂストンを使ってよかった」と言われるようにしていきたい。

チームから「ブリヂストンを使ってよかった」と言ってもらえるのが目標

現在GT500でも、GT300でもランキングトップ、どちらも第6戦の結果がハイライトになる可能性

 今シーズンのブリヂストンのSUPER GTの状況は、GT500は第1戦~第5戦まですべてのレースで表彰台を独占。特に第2戦富士は、今井氏の言うトップ12をブリヂストン装着車が独占という結果で、絶対王者と呼んで何も問題がない結果を残している。シリーズランキング(第5戦終了時)も、1号車 au TOM'S GR Supra(坪井翔選手/山下健太選手)のポイントリーダーを筆頭に、ランキング11位までがブリヂストン装着車で、今後も簡単には揺るがないだろう。その意味で、第6戦スポーツランドSUGOは、ランキング上位を占めるブリヂストン装着車のサクセスウェイトが一番重いレースになるため、今のところサクセスウェイトがほとんど載っていない他メーカー装着車に勝てるかが焦点になるだろう。

 GT300は、開幕戦で優勝した65号車 LEON PYRAMID AMGがポイントリーダーで、ランキング3位に2号車 HYPER WATER INGING GR86 GT(堤優威選手/平良響選手)が追う展開で、いずれの車両にも第6戦スポーツランドSUGOの展開次第で、シリーズチャンピオンの可能性がある状況だ。