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ブリヂストン×SUPER GTインタビュー、60周年を迎えたモータースポーツ活動「今シーズンの目標はGT500の8連覇」とMSオペレーション鈴木栄一氏

株式会社ブリヂストン モータースポーツオペレーション課長 鈴木栄一氏

60周年を迎えたブリヂストンのモータースポーツ活動、その歴史は「王者の歴史」

 ブリヂストンは1931年に福岡県久留米市で創業したが、その前身となる企業(日本足袋タイヤ部)にて、1930年に乗用車用タイヤ第1号を製造するなど、90年を超える歴史を誇る伝統あるタイヤメーカーだ。その後大きく成長したブリヂストンは、仏ミシュラン、米グッドイヤーと並んで世界の3大タイヤメーカーの一角を占めるまでになっている。

 また、2023年はブリヂストンにとって「モータースポーツ活動60周年」の記念の年を迎えている。1963年に鈴鹿サーキットで行なわれた「第1回日本グランプリ自動車レース」にタイヤを供給してから、本年で60年になる節目の年なのだ。

 ブリヂストンのモータースポーツ活動の歴史は、タイトル獲得の歴史と言い換えても過言ではない。例えば「F1世界選手権」には1997年からフル参戦し、参戦1年目は下位チームにしか供給できなかったが、それでも表彰台を獲得する活躍を見せた。また、トップチームと契約できた翌1998年には見事参戦2年目にしてチャンピオンを獲得している。

 国内最高峰の自動車レース「SUPER GT」に関しても、前身となる「全日本GT選手権」がスタートした1994年からトップカテゴリーになるGT500クラスにタイヤ供給を行なっており、これまで4度を除き、GT500のチャンピオン車両に対してタイヤを供給し続けていることから、「王者の歴史」と言い換えられる理由だ。

2022年シーズンにGT500クラスチャンピオンを獲得した1号車 MARELLI IMPUL Z(平峰一貴/ベルトラン・バゲット組)

 また、ブリヂストンのモータースポーツへの貢献は、何もタイトル獲得だけが証明しているわけではない。GT500へのタイヤ供給は、他のタイヤメーカーが1台~2台への供給という体制の中、今シーズンでいえば15台中10台がブリヂストンタイヤを履いて参戦している。そのほかにも、米国のインディカーシリーズへは、米国子会社となるファイヤストンのブランドでワンメイク供給しており、日本の佐藤琢磨選手をはじめとしたスタードライバーの足下を支えている。さらに近年は、ロードコースのレースだけでなく、ソーラーカーレースのような新しい形のモータースポーツにも取り組むなど、多彩な活動を行なっている。

 今年のSUPER GTでは先述したとおり、昨年GT500のチャンピオンを獲得した1号車 MARELLI IMPUL Zを筆頭に10台、GT300クラスは4台、合計14台にタイヤを供給している。そこでブリヂストン モータースポーツオペレーション課長 鈴木栄一氏にお話しをうかがってみた。

GT500クラス供給マシン

1号車 MARELLI IMPUL Z(平峰一貴/ベルトラン・バゲット組)
8号車 ARTA MUGEN NSX-GT(野尻智紀/大湯都史樹組)
14号車 ENEOS X PRIME GR Supra(大嶋和也/山下健太組)
16号車 ARTA MUGEN NSX-GT(福住仁嶺/大津弘樹組)
17号車 Astemo NSX-GT(塚越広大/松下信治組)
36号車 au TOM'S GR Supra(坪井翔/宮田莉朋組)
37号車 Deloitte TOM'S GR Supra(笹原右京/ジュリアーノ・アレジ組)
38号車 ZENT CERUMO GR Supra(立川祐路/石浦宏明組)
39号車 DENSO KOBELCO SARD GR Supra(関口雄飛/中山雄一組)
100号車 STANLEY NSX-GT(山本尚貴/牧野任祐組)

GT300クラス供給マシン

2号車 muta Racing GR86 GT(堤優威/平良響組)
31号車 apr LC500h GT(嵯峨宏紀/小高一斗組)
52号車 埼玉トヨペットGB GR Supra GT(吉田広樹/川合孝汰組)
65号車 LEON PYRAMID AMG(蒲生尚弥/篠原拓朗組)

今後サステナブル素材を採用したタイヤもGTを含むレース向けに投入していきたい

──昨シーズンに関して自己採点をお願いしたい。

鈴木氏:GT500に関しては60点。昨シーズンはチャンピオンも獲得でき、GT500で7連覇を達成できたが、目標だった全戦優勝を達成することはできなかった。その中でも、一昨年から課題として挙げていた第5戦の鈴鹿で優勝でき、安定したロングランペースを示せたのはよかった。IMPULの劇的な大逆転を足下から支えることができたという点からも、昨シーズンのハイライトに値するレースだったと感じている。一方で他社対比の中で鈴鹿の競争力としてはまだまだ同じ土俵に上がれただけという状況で十分ではなく、ウエットタイヤの性能に関しても特に水量が少ないコンディションでのタイムダウンが大きくその改善も課題として浮上してきた。

GT500クラスに参戦している36号車 au TOM'S GR Supra(坪井翔/宮田莉朋組)

 GT300クラスに関しても60点。残念ながら目標としていたランキングトップ3には届かない結果となった。いくつかのレースではロングランが得意なわれわれのメリットを示せたが、トラブルやレース展開に恵まれなかったことで結果につなげられなかった。GT300は全体的にレベルが上がっており、タイヤの性能差が結果に大きな影響を与えている。特に鈴鹿では他社比での課題があったため、GT500の知見を生かした開発というスタンスは変わらないが、GT300の特性にアジャストした開発を進めている。

──今シーズンの開幕戦から第2戦までの振り返りと評価を教えてほしい。

鈴木氏:GT500の開幕戦に関しては、昨年からの課題である水量が少ないコンディションにおけるウエットタイヤのペースダウンが引き続き再確認することになり、とても悔しいレースになった。第2戦に関してはベストタイム・ロングランペースの両立で昨年から正常進化したことを確認でき、それにより表彰台独占という結果を残せた。GT300に関しては昨年から何かを大きく変えたというわけではなく、細かな開発の積み重ねやスペックの投入精度の向上により、好調な結果につながっている。

──ブリヂストンがSUPER GTに参戦している意義を教えてほしい

鈴木氏:このSUPER GTに参戦することは、競争の中で技術や人を磨けることを大きな意義として捉えている。もちろん日本でもっとも人気があるレースであり、自動車メーカーが威信を賭けて戦っているレースでもある。そうした中で弊社のブランドをアピールする場として有益だと評価している。

 また、SUPER GTが現在取り組んでいる、カーボンニュートラルやレース距離を伸ばすがタイヤの持ち込みセットは減らしていくというサステナブルなモータースポーツを実現する取り組みに、その理念に賛同している。弊社としてはそうした環境下であっても、しっかりとした競争力を示していきたいと考えている。今後当社ではSUPER GTに限らず、再生可能資源を使ってレースタイヤを開発し、サステナブルな技術を投入することで、カーボンニュートラルやサステナブルなモータースポーツ活動を実現できたらと考えている。それは弊社1社だけでできることではなく、他のタイヤメーカーさま、そして他のパートナーの皆さまと一緒にやっていきたいと考えている。

株式会社ブリヂストン モータースポーツオペレーション課長 鈴木栄一氏

──今シーズンのSUPER GTのタイヤ開発の方針に関して教えてほしい。

鈴木氏:開発の大前提として、サステナブルなモータースポーツタイヤの開発を目指している。今のSUPER GTのタイヤ開発では、「ワイドレンジ・ロングライフ」を達成し、より数少ないタイヤ種/数でレースを戦えるようになることを目指している。この方向は、GTA坂東代表が目指しているサステナブルなモータースポーツ、そのためにタイヤセットの数に制限をという理念と合致しているため、弊社も大いに賛同しているところだ。そのため、無駄なタイヤはできるだけ作らず、スクラップも増やさないという、現時点でも実行可能な環境に配慮した取り組みを推進している。

 今シーズンは持ち込みタイヤ数が1セット減り、来シーズンはさらに1セット減る。そうなると実質的には1種類しかタイヤを持ち込めない状況になるが、それでも十分な戦闘力を示せることを目指す。今シーズンに向けても「ワイドレンジ・ロングライフ」を目指し、これまでより力を入れて開発を進めてきた。セット数減によって、450kmレースでは3スティントを同種のスペックで走れないケースが出てきているが、その状況でも強さを見せられることを目指し、開発を進めていく。

 昨年からの課題であるウエットタイヤの改善にも取り組んでいる。他社と差がついてしまっている水量が少ないコンディションでのペースダウンを補うための一手として、このオフシーズンに従来とは異なるパターンを準備しテストをした。水量が少ないコンディションでは、狙い通りの効果が得られたものの、想定していた以上に雨量が多い時のグリップが損なわれる結果だった。そのパターンで3月の富士GTAテストで雨量の多いコンディションを走ったが、その時には従来パターンの方が走れていた。その結果から「タイヤは生命を乗せている、安全は全てに優先」とのマインドに立ち返り、水量が少なくても多くてもしっかり走れる完全なタイヤを開発することが当社のやるべきことだと考え、ウエットタイヤの開発を継続発展させていきたい。

GT500に参戦中の100号車 STANLEY NSX-GT(山本尚貴/牧野任祐組)の装着タイヤ。ポイントは「ワイドレンジ・ロングライフ」だという

──カーボンニュートラル燃料の導入やタイヤのロングライフ化が必要となるレース距離の延長など、SUPER GTはサステナブルなモータースポーツの実現に向けてさまざまな取り組みを行なっている。ブリヂストンのサステナブルなモータースポーツ実現への取り組みを教えてほしい。

鈴木氏:今後はレーシングタイヤへのサステナブル素材の活用も必須だと考えている。3月10日に行なわれた「ブリヂストンモータースポーツ60周年記念発表会」でも紹介したとおり、サステナブルモータースポーツタイヤの基礎開発も、われわれの「極限への挑戦」として進めており、SUPER GTへの適用も適宜行なえるよう準備を進めている。

 そうしたサステナブル素材を採用する取り組みもブリヂストンとして推進していくが、それと同時に単なる素材の採用というだけでなく、レースタイヤの設計、製造、そして活用も含めてトータルでサステナブルにしていくことをしっかりと考えていくことが大事だ。スマートファクトリーの導入、シミュレーションの導入などさまざまな技術を活用してCO2削減を実現していく。これまでもモータースポーツで磨き上げた技術を市販タイヤに落とし込んできたが、サステナビリティの実現に関しても同様で、サステナブルなモータースポーツを実現し、そこで磨いたサステナブルな技術を市販タイヤに落とし込んでいくことが重要だ。

──今シーズンの目標を教えてほしい。

鈴木氏:GT500の目標は、チャンピオンを獲得し8連覇を達成することだ。ここまでの連覇を途切れさせるわけにはいかないし、多くのチームにブリヂストンタイヤを使っていただけているのは、性能を含めた信頼の証。引き続きしっかり応えていきたい。

 GT300は、チャンピオンシップトップ3に入ることと、各チームに1回は勝っていただけることを目標とし、こちらもGT500同様しっかりサポートをしていく。

GT300クラスに参戦中の65号車 LEON PYRAMID AMG(蒲生尚弥/篠原拓朗組)

スーパー耐久へのタイヤ供給前倒しなどモータースポーツの取り組みを拡大するブリヂストン

 今シーズンのSUPER GTにおけるブリヂストンは、第1戦こそ宿命のライバルといえるミシュラン勢に1-2を許したものの、ドライとなった第2戦富士では36号車 au TOM'S GR Supraが優勝し、表彰台どころか4位までをブリヂストン装着車が上位独占するという結果を残し、第3戦鈴鹿では赤旗中断という特異な状況の中で36号車 au TOM'S GR Supraが2位、1号車 MARELLI IMPUL Zが3位という結果を残した。その結果36号車 au TOM'S GR Supraが第3戦終了時点でポイントリーダーになっているというのが、今シーズンのこれまでの状況だ。

 GT300に関しては開幕戦では65号車 LEON PYRAMID AMGが2位、第2戦と第3戦では2号車 muta Racing GR86 GTが連続2位、52号車 埼玉トヨペットGB GR Supra GTが連続3位となっており、必ず表彰台にブリヂストン勢が入るという安定した結果を残している。この結果、2号車がトップと同ポイントでランキング2位になっており、52号車もランキング3位につけている状況だ。65号車もランキング5位といずれもチャンピオンを狙える位置で第4戦以降に臨むことになる。

 ブリヂストンのモータースポーツ活動に関してもう1つ触れておくことがある。というのも、ブリヂストンは実に異例なことだが、シーズン途中からスーパー耐久のタイヤ供給も開始している。もともと2024年からスーパー耐久にタイヤを供給する予定になっていたが、今シーズンのタイヤを供給しているサプライヤーの母国工場が火災になった影響などでレーシングタイヤの供給が難しい状況になったことで、第2戦「NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レース」から急きょブリヂストンがタイヤ供給を前倒しで開始することになったのだ。

2号車 muta Racing GR86 GT(堤優威/平良響組)の装着タイヤ

 こうした対応についてブリヂストンの鈴木氏は「参加型のモータースポーツであるスーパー耐久を2024年からサポートする計画だったが、急きょ第2戦、しかもシリーズでもっとも過酷な24時間レースからタイヤを供給することになった。生産の問題などもあり、ST4やST5に関しては溝ありの市販タイヤで対応するなど、生産の観点からも極限への挑戦となった。なんとしてもシリーズを継続してもらおうと、モータースポーツ部門だけでなく、販売部門など、ブリヂストンの多くの部門に協力してもらって調整を進め、オペレーション、品質、安全面を確認した上で、ギリギリの中なんとか実現できた」とのとおりで、ブリヂストンとしても前例のない前倒しの供給ということで、さまざまな課題があったそうだが、現在自動車メーカーも試験的に参戦するカテゴリーとして盛り上がっているスーパー耐久をなんとか継続しようと努力を続けた結果、なんとか供給体制を確立できたのだと説明した。

 ブリヂストンは本年、モータースポーツ活動60周年を迎え、新しいチャレンジも開始するなど、さらにモータースポーツへの取り組みを拡大しているように見える。その意味で、GT500の8連覇がかかる今シーズンの残りのレースは見どころ満載といえ、ライバルとの激しい競争は大きな注目点になるだろう。