インタビュー
【SUPER GTタイヤメーカーインタビュー】資源循環型カーボンブラック採用タイヤを初投入したレースでいきなり優勝したダンロップの狙いを聞く
2025年9月16日 12:50
日本で最も人気があるレースシリーズSUPER GTは、1994年にスタートした全日本GT選手権をルーツに、30年以上にわたって日本の複数のサーキット、そして本年はマレーシア・セパンでの海外戦を含めて全8戦で開催されている。
そのSUPER GTにダンロップ(DUNLOP)ブランドで参戦しているのが住友ゴム工業だ。今年の1月8日に欧米・オセアニアでのダンロップ商標を取得した住友ゴム工業は、長年日本でダンロップブランドのタイヤを開発して販売してきたほか、ダンロップブランドによるモータースポーツ活動にも力を入れており、SUPER GTへの参戦はその代表的な活動と言える。
今回はダンロップのモータースポーツ活動に従事する竹内二郎氏、大小瀬求氏、佐藤洋平氏ら3人に、SUPER GTへのタイヤ供給や活動についてお話しを伺った。
ダンロップブランドをグローバル展開できるようになった住友ゴム工業にとってSUPER GTはモータースポーツ活動で中核の取り組み
2025年は住友ゴム工業および、そのメインブランドであるダンロップにとっても大きな転機の年となっている。その最大の要因は、先述した通り2025年1月に、欧米やオセアニアは米グッドイヤーの所有となっていたダンロップブランドが、住友ゴムに譲渡されることが明らかになったからだ。
さまざまな歴史的経緯から、欧米やオセアニアなどではグッドイヤーが展開するダンロップタイヤが販売され、日本やアジア地域などでは住友ゴムが展開するダンロップタイヤという状況になっていたが、今後それが解消されていき、ほぼ全世界で住友ゴム工業がダンロップブランドを利用してタイヤを販売していく。
日本では、これまでも、そしてこれからもダンロップブランドが住友ゴム工業のメインブランドである状況に変化はない。住友ゴム工業はダンロップブランドを利用して日本のモータースポーツの黎明期から熱心に取り組んでおり、関西大震災が発生するまで全日本F2や全日本F3000などのトップフォーミュラに参戦してチャンピオンを獲得してきたという歴史を持っている。またSUPER GTに関しても、初期から参戦しており、GT300などで何度もチャンピオンを獲得している。この熱心なモータースポーツに取り組みと、同時に結果も残してきたのがダンロップのモータースポーツの歴史だろう。
2025年はダンロップのSUPER GTでの活動は、GT500に1台、GT300に6台にタイヤ供給を行なっている。
SUPER GTでのDULOP装着車両 活動(ドライバーはGTA発表の年間エントリーリストによる)
| クラス | No. | 車両名 | ドライバー |
|---|---|---|---|
| GT500 | 64 | Modulo CIVIC TYPE R-GT | 伊沢拓也/大草りき |
| GT300 | 11 | GAINER TANAX Z | 富田竜一郎/大木一輝 |
| GT300 | 45 | PONOS FERRARI 296 | ケイ・コッツォリーノ/篠原拓朗 |
| GT300 | 60 | Syntium LMcorsa LC500 GT | 吉本大樹/河野駿佑/伊東黎明 |
| GT300 | 61 | SUBARU BRZ R&D SPORT | 井口卓人/山内英輝 |
| GT300 | 96 | K-tunes RC F GT3 | 新田守男/高木真一 |
| GT300 | 777 | D'station Vantage GT3 | 藤井誠暢/チャーリー・ファグ |
GT500では、不動のパートナーともいえるナカジマレーシングの64号車 Modulo CIVIC TYPE R-GT(伊沢拓也選手/大草りき選手組)への供給。ダンロップとナカジマレーシングのパートナーは、すでに20年以上にわたっており、ダンロップのSUPER GTの活動と64号車のコラボレーションは、ファンにとってはおなじみの組み合わせだ。
GT300は、6台のマシンへ供給。直近では2021年に61号車 SUBARU BRZ R&D SPORT(井口卓人選手/山内英輝選手)がシリーズチャンピオンを獲得するなどの結果を残しており、昨シーズンでは777号車 D'station Vantage GT3(藤井誠暢選手/チャーリー・ファグ選手)が1勝してシリーズ4位になるなどの結果を出している。
GT300に資源循環型カーボンブラック採用タイヤを導入、性能低下はなく競争力があるレーシングタイヤに
──今シーズンのSUPER GTにおける活動を振り返ってほしい
竹内氏:GT500では、ロングランを改善することをターゲットにして、配合(ゴムの配合)と構造の改良に努めてきており、予選でもレースペースでも速く走れるタイヤを目指している。その効果が出始めたのが第3戦セパンで、予選3番手を獲得することができた。
GT300も予選の一発に加えて、ロングライフを改善しようと、去年のものをベースにしてレベルアップさせた仕様を作って持ち込んでいる。そのためには、さまざまな開発アイテムを試して、投入して性能が改善されるものを選んで投入している。その時にはチームと一緒にデータを取りながらやっているが、テストなどで必要なデータなどは取れてきている。
その結果として、GT300ではそれなりに優勝に絡めており、第2戦富士では、最終ラップの残り1/3まではトップを走っており、最後の最後にトラブルがなければ勝てたレースだった(筆者注:第2戦富士では、61号車 SUBARU BRZ R&D SPORTが最終ラップまでトップを走っていたが、車両側のトラブルとみられる理由で最後止まってしまい、最終的には完走扱いで8位になった)。
──そうしたものはテストで実際に走らせて投入するのか?
竹内氏:今年もシーズン前のセパンテストで、さまざまなことをテストした。その前にラボにあるテストマシンである程度のことは試せるのだが、実際に実車で試してみたら壊れてしまうのではチームに迷惑をかけてしまう。そこである程度シーズン前のテストで試してから、投入している。セパンテストは近年では非常によいできだったと思っており、その成果が今出始めている。
大小瀬氏:GT300に関しては、昨年もある程度の成績は残せていた中で、今シーズンは正常進化で、性能や安定性を求めてロングライフ化している。そのために、タイヤの接地面をうまく使い切ることに注力し、ロスなくエネルギーを伝えるための努力に加えて、さらに構造面でもゴムが減っていった時にもパフォーマンスが出せるような改良を加えている。
──GT300向けにはこのレースから「資源循環型カーボンブラック採用タイヤ」を投入することが明かされているが、これはどういうタイヤになるのだろうか?
佐藤氏:住友ゴム工業では、タイヤ事業における循環型ビジネス(サーキュラーエコノミー)構想「TOWANOWA(トワノワ)」に取り組んでおり、今回の資源循環型カーボンブラック採用タイヤは、タイヤの製造工程で発生するゴム片および使用済みタイヤの粉砕処理品(再生材料)を、パートナー企業(筆者注:三菱ケミカル)へ供給して、パートナー企業がそれをカーボンブラックに再生し、それを利用してタイヤを製造するという取り組みになる。
従来の製造工程ではただ廃棄され燃やして熱と灰になっていた。しかし、今回の取り組みでは、それがもう一度カーボンブラックに戻せるようになり、それをレーシングタイヤの一部として利用するというものだ。
竹内氏:今回の取り組みで重要な事は、こうした再生素材の活用を、競争があるシリーズで行なっている事だ。これまでも再生素材を使ったレーシングタイヤというのはいくつかの事例があると思うが、それが競争があるシリーズに持ち込まれた例というのはほとんどないと考えている。今回われわれがそれをしたのは、それだけ技術に自信があるから。
──この資源循環型カーボンブラックというのは、性能に与えるインパクトはないのか?あるいは、チーム側からこのタイヤを持ち込むにあたって反応はどうだったか?
佐藤氏:性能へのインパクトはないことを確認しており、もちろんテストでもそれを確認している。チームに話をしたときには、むしろ技術的な背景や、それがタイヤにどういう影響があるのかという技術的な質問を多くいただき、チーム側にも納得いただいて投入することになった。
──この技術は市販タイヤにも採用されるのだろうか?
竹内氏:その予定で現在進めていると聞いているが、詳細は今後追って発表することになると思う。
──SUPER GT以外のモータースポーツ活動を教えてほしい
竹内氏:SUPER GTのサポートレースでもあるFIA F4、さらにフォーミュラ・リージョナル・ジャパンにワンメイク供給している。ワンメイク供給では、ユーザーの皆さまにご迷惑をかけることがないように、共有体制、サポート体制を充実させていきたいと考えている。
また、住友ゴム工業のもう1つのブランドである「ファルケン」を利用した取り組みとしては、ニュルブルクリンクの耐久レースへ参戦している。24時間耐久レースは途中まで2位を走っていたが、不運なクラッシュがありリタイアに終わったが、24時間レース以外のシリーズ戦では今季は3勝するなど結果を残している。
──今シーズンのSUPER GT活動の目標を
竹内氏:GT500はまずは1勝を実現し、さらにシリーズ上位を目指していきたい。GT300もまず1勝して、シリーズランキングで昨年を上まわり、可能であればチャンピオン獲得を目指していく。ダンロップタイヤを履いている車両同士がチャンピオンを争って、その中で一番になったチームがチャンピオンになる、そうしたシリーズを目指していきたい。
資源循環型カーボンブラック採用タイヤ投入初戦で優勝したGT300、目指すはチャンピオン
このインタビューの後に行なわれた第4戦富士の土日それぞれに行なわれたスプリントレースで、777号車 D'station Vantage GT3(藤井誠暢選手/チャーリー・ファグ選手)が、土曜日はチャーリー・ファグ選手、日曜日は藤井誠暢選手がそれぞれ優勝した。今回の第4戦はシリーズ戦としては初めてのスプリントレースで、かつシリーズの中盤戦であるのにサクセスウエイトなしというレースになったため、素の実力がわかるレースになったが、777号車 D'station Vantage GT3とダンロップの組み合わせが高いパフォーマンスを発揮することを証明したレースになった。また、同時に住友ゴムの佐藤氏が述べたように、資源循環型カーボンブラック採用タイヤが、レーシングタイヤとしての性能に影響を及ぼさないことを結果で証明してみせたと言える。
住友ゴム工業にとっては、目標となる1勝を実現するためには、後半戦となる第6戦スポーツランドSUGOが鍵になる。この第6戦は、GT500の上位勢に最大のサクセスウエイトが重くのしかかるレースとなり(第7戦は半分に、最終戦はサクセスウエイトなし)、ここまで思うようにポイントを稼げていない64号車 Modulo CIVIC TYPE R-GTにとって大きなチャンス到来のレースになる可能性がある。第5戦鈴鹿では結果こそ7位だったが、レース後半しっかり上位勢に食らいついていけるレースを見せていただけに、次の第6戦の結果に期待したいところだ。














