世界記録達成の「ミラEV」に試乗
日本EVクラブ、次は1000kmに挑戦

浮世絵が受け入れられているフランスにミラEVを持っていきたいと語る舘内代表

2010年2月22日開催



 日本EVクラブは2月22日、2009年11月16日に実施したギネス記録への挑戦「東京~大阪途中無充電ミラEVの旅 そんなに走ってどうするの」で使用した、電気自動車「ミラEV」の試乗会を開催した。

ミラEVのベース車両はダイハツ「ミラバン」。これに三洋電機のリチウムイオンバッテリー8320本を搭載する

 ギネス記録へのチャレンジでは、ミラEVで東京・日本橋から大阪・日本橋まで途中で1度も充電することなく走り抜き、途中無充電航続距離555.6kmを記録。2009年10月27日に米Tesla Motorsが打ち立てた501kmを抜く世界新記録で、ギネス申請中だ。

 舘内端氏が代表を務める日本EVクラブは、自動車のさまざまな問題を自分たち市民の問題として捉え、次世代のモータリゼーションやモータースポーツの創造を目指す市民団体。

 ギネス記録へのチャレンジは、「電気自動車の航続距離はどの程度が適切なのか?」を議論するひとつの材料にするために行われたもの。「電気自動車の航続距離は短い」というイメージを払拭するとともに、「そんなに走ってどうするの」の副題が示すように航続距離を延ばすため多量のバッテリーを搭載することは、車重や車両価格の上昇を招くものであると指摘するためでもある。

 いわば、逆説的な意味も込めて世界記録にチャレンジしたのだが、その意義に関して舘内氏は、自動車レースなどと同じ「クルマに対する夢」の部分であると、前向きな姿勢をみせている。舘内氏は次なる計画として、筑波市にあるオートレース選手養成所のオーバルコースを使用した25時間連続走行による、無充電航続距離1000kmへチャレンジすることを明らかにしている。

 昨年のチャレンジで使用した日本EVクラブ製作のミラEVは、ベース車両のダイハツ「ミラバン」に、三洋電機のリチウムイオンバッテリー8320本を搭載。タイヤには転がり抵抗の少ないトーヨータイヤ「エコウォーカー」を装着する。

 チャレンジ終了後も車両のアップデートが行われており、今回披露された車両は、シートはレカロ製、ステアリング、シフトノブ、ペダルはモモ製、ダンパーはビルシュタイン製を採用し、レーシーな仕上がりを見せていた。これについて舘内氏は「あくまで趣味の世界です」とコメント、楽しみながらエコロジーを目指す舘内氏らしい取り組みと言える。

 さて、実際に試乗してみた感想は、電気モーターとマニュアルシフトの組み合わせや、車内のレーシーな仕上がりも手伝って、昔ながらの価値観を持つ自動車好きにとっても楽しいものだった。

 ただし、他の軽量なEVと比較した場合、航続距離を伸ばすため多量のバッテリーを搭載した車両は軽快とは言えず、とくにブレーキは容量不足を感じた。ブレーキに関しては舘内氏も気にしているようで、ブレンボのブレーキを付けようとしたがサイズが合わなかったため、ホンダ「シビック タイプR」のものを流用しようと計画中だ。

 舘内氏によれば、実際の生活で必要となるバッテリーの量は「10分の1で十分」と言う。そうなれば車両の軽量化とともに価格も下がることになるので、使用者のニーズにあわせてバッテリー容量を変えて販売する仕組みも必要になってくるだろう。

駆動方式はFF、モーターにマニュアルトランスミッションを組み合わせている、タイヤはトーヨータイヤ「ECO WALKER(エコ・ウォーカー)」を装備
三洋電機のリチウムイオンバッテリーを床下に8320本搭載、車両重量増に対応しダンパーもビルシュタイン製に変更している
青いランプの点灯で走行が可能。パワーステアリングのON/OFFスイッチも装備
充電、放電時の電圧(V)を表示。システム全体の電圧は267V充電、放電時の電流(A)を表示。バッテリー消費時にマイナス、回生による充電時にはプラスと表示されるバッテリーからの消費量。充電量を電流容量(Amp-Hr)で表示
現状の消費状態での使用可能時間、停止状態のため255時間と表示されるタイヤの空気圧モニター。タイヤにセンサーを取り付け通信により空気圧を表示している。4つ表示されていないのは通信間隔の違いのため
ステアリング、シフトノブ、ペダルはモモ製
オーディオやカーナビ、ETCも装着される

EVの課題は「ヒーター」
 11月16日という肌寒い中で行われたチャレンジでの経験を反映して、今回のアップデートはヒーターに対する取り組みを中心に行われている。

 通常、ガソリン車ではエンジンが発生する熱を利用して車内を暖めているのだが、EVではヒーターに電力を使用するため効率が低下し、航続距離を短くさせる原因となる。現在、ガソリン車に使われるクーラーの効率はそれほどわるくないので、ヒーター使用時の効率改善が重要だと舘内氏は指摘する。

 今回アップデートされたレカロシートにはシートヒーターが装備されていた。通常のシートヒーターは一定の時間が経過すると電源がOFFになると言うが、このシートは常時電源が入るようになっていた。

 舘内氏によると、車内全体を暖めなくても体の近いところを暖めるだけでも、人間は暖かいと感じることができると言う。ただし、このシート、長時間使用していると蒸れてくるので「シートに換気機能が必要だ」(舘内氏)と課題もあるようだ。

レカロのバケットシートには常時電源が入るシートヒーターを装備する
三洋電機「エネループ」の膝掛けを常備
市販のヒーターを足下に設置
トーヨータイヤジャパン商品開発担当の藤原則人氏

空気圧の管理は重要
 また、試乗会場では、チャレンジに使用したタイヤについてトーヨータイヤジャパン商品開発担当の藤原則人氏より説明があった。使用した「ECO WALKER(エコ・ウォーカー)」は、転がり抵抗20%低減と軽量化により、3.2%の燃費向上に貢献するとともに、タイヤの交換サイクルにも配慮し、ロングライフを実現したと言う。

 藤原氏によると、タイヤの燃費に対する影響は転がり抵抗だけでなく、タイヤが収縮する際にもエネルギーロスが発生していると言い、そのためECO WALKERでは軽量化に伴うタイヤの剛性低下を防ぐため「超高硬度ビードフィラー」「高硬度プライトッピング」を採用してタイヤの剛性を確保した。

 3.2%という燃費向上幅ではあるが、100kmで3km、1000kmで30kmとなることを考えると、無視できない部分である。また、タイヤの収縮がエネルギーロスを生んでいると言うのだから、燃費に関してはタイヤの空気圧管理がやはり重要になると言えるだろう。

タイヤ軽量化の効果を体験できる模型。軽いボールのほうが長い距離転がることを説明トーヨータイヤ「ECO WALKER(エコ・ウォーカー)

(椿山和雄)
2010年 3月 5日