「SUBARU BRZ R&D SPORT」SUPER GT参戦リポート
SUPER GTデビューから第2戦までを振り返る


デビュー2戦目にして初ポイントを獲得したSUBARU BRZ R&D SPORT

 世界各地のモーターショーで注目を浴びてきたスバル「BRZ」が、その発売とほぼ同時にSUPER GTに参戦。シェイクダウンから岡山での第1戦、そしてゴールデンウイークのまっただ中に行われた富士スピードウェイでの第2戦を戦い終えた今、あらためてその戦いを振り返って見た。

SUPER GT第1戦「OKAYAMA GT 300km RACE」
 車両のレギュレーション変更に伴いFIA-GT3(以下GT3)が大挙参加してきた今年のSUPER GT GT300クラス。昨年の覇者BMW Z4 GT3をはじめ、フェラーリ458 GT3、ポルシェ911 GT3R、4台ものアウディR8 LMS、2台のランボルギーニガヤルドLP600+GT3、メルセデス・ベンツSLS AMG GT3などの欧州勢に日産GT-Rやコルベットも加わり、GT3マシンが席巻しそうな勢いの中、数少ないJAF GTカテゴリーの最新鋭マシンの1台がスバルBRZをベースとするSUBARU BRZ R&D SPORTだ。

 大排気量でハイパワーなエンジンを搭載するGT3勢の優位が予想される中、予選が開始される。BRZ R&D SPORTは刻々と天候の変わる難しい状況の中Q3までコマを進め、デビューレースで何と8番手と好位置を得た。決勝レースでも快調に周回を重ねたが、デビュー戦だけにトラブルが発生。デフの故障により45周でレースを終えた。

 レース終了後、チーム監督であるR&Dスポーツの本島伸次氏、STI(スバルテクニカインターナショナル)の辰己英治氏、ともに大排気量GT3勢のストレートスピードの速さに2リッターターボで対抗するのは難しく、当面はコーナーリングスピードを上げるセッティングで対応せざるを得ないと語っている。

予選8番手を得て好位置からのスタート今シーズンはFIA-GT3勢との争いになる快調な滑り出しだったが45周でリタイアに終わる

SUPER GT第2戦「FUJI GT 500km RACE」
 第2戦富士の予選は雨。コーナリングスピードでライバルと差を付けたいBRZ R&D SPORTにとっては恨めしい展開で、予選結果は12番手。

 翌日の決勝はドライでのレースが予想されていたが、スタート直前に雨が落ちてきた。各チームとも難しいタイヤ選択を迫られたが大半のチーム同様レインタイヤを選択。スタートドライバーである佐々木孝太選手がレース前半のこの難しい局面をこなし山野哲也選手へ交代。その後雨は上がったものの、データのあまりない富士でのドライコンディション+スリックでの走行となりながらも、順位を9位まで上げた。

 しかしながら、レース後半には再び雨が降ってきて、BRZ R&D SPORTはタイヤを交換。山野選手からドライバー交代を済ませ佐々木選手は手堅く順位をキープしながら9位でゴールし、デビュー2戦目にして初ポイントを獲得した。

 トップとのラップタイムの差は大きいものの、第1戦と比べマシンのセットアップは確実に進んでいる模様だ。富士でのレース終了後、山野、佐々木、両選手ともに進化の手応えを感じていたようだ。

予選は激しい雨の中で行われたファンからWRブルーの千羽鶴をもらってテント内は大盛上がりそんな中、予選日に実は深刻なトラブルに見舞われていた
決勝レース前には青く染まったスタンドまで足を運びファンへ抱負を語った
決勝もスタート直前までメカニックとの入念なやりとりが前日に抱えていたトラブルをメカニックが克服し決勝当日は快調な走り

SUPER GT第1戦岡山、第2戦富士を終えて
 SUPER GT第2戦富士終了後に、山野哲也選手、佐々木孝太選手それぞれに、これまでの戦いを振り返ってもらった。

山野哲也選手
 「マシンの素性のよさはシェイクダウンの時から感じていたが、同時にまだまだやるべきことも多いと感じていて、そのよさを引き出すためのセッテイングを模索していたが、岡山ではまだBZRが持つポテンシャルを発揮できなかった」と第1戦を振り返る。「第2戦の前にジオメトリーを大きく変更し、また風洞試験を行い空力も見直した。富士の予選段階ではジオメトリーの変更がいい方向に改善されていた。今回のようにウエットでの改善が見られるのはセッティングができている証でもある」とマシンがよい方向へ向かっていると語る。

 また「現在マシンのポテンシャルを引き出している最中で、日に日によい方向に向かっているが、第3戦セパンあたりでその変化はなだらかになるだろう。耐久力もここで付けられるとも思う。第4戦の菅生あたりで表彰台を狙える所まで仕上がるのではないか」と今後の展開を語った。

 BRZの一番得意なサーキットは菅生、その次にオートポリス、そして鈴鹿とのこと。


佐々木孝太選手
 「岡山での予選はハーフウエット等の悪条件の中なりにあの時点でのポテンシャルは引き出せたとは思っている」「決勝でのデフトラブルはロングディスタンスの走行未経験で出た。新型車特有のもので経験やデータの積み重ねにより問題は解決するが、それだけに岡山は完走することで長い距離のデータが欲しかった」と第1戦を振り返った(注:岡山では交代直後にトラブルの為リタイアしたので佐々木選手は決勝レースを殆ど走っていない)。

 「富士ではマシンが大きく進化している。短い時間ながら実戦を経験したその走行データがしっかり生きていることと、風洞試験による空力データが随所に取り入れられていることで、まだまだ(トップとの)差は大きいものの確実に差は詰まっていると感じている」と、予選後に語ってくれた。決勝レースでは、「完走することで500kmもの走行データが得られたのは大きいが、(他のJAF GT車両の成績を考えると)もっと上に行けたのでは?」と悔しさをにじませた。

 BRZについては、「今まで乗ってきたレガシィは時間をかけセッティングによって自分好みの方向に仕上げてきたが、現状での完成度はともかく、最初から進入スピードが上げられコーナーにズバッと飛び込めるタイプのBRZは自分好みのマシンだ」と語った。

 なお、山野、佐々木選手のベテランコンビは、レガシィはもとよりそれ以前のGD型インプレッサでも優勝を獲得している。SUPER GTにおけるスバル車勝利の請負人と言えよう。


R&D SPORT 本島伸次監督
 「今シーズンはいかにGT3勢と戦うかを模索してきたが、今回のレースでは(GT3マシンではない)紫電、ガライヤ、プリウスに前に行かれてしまった。悔しいと同時に、これからのマシン作りをはじめ多くの部分で見なおさなければならない部分が出てくるであろう」と語り、次戦への意気込みを見せた。

チームこそ違えどインプレッサ(GD)、そして現在のチームでのレガシィB4、ともに初優勝は山野選手と佐々木選手の2人によってもたらされている

BRZ GT300 これまでの変更点

東京モーターショーからシェイクダウンまではカナードなし(写真左)、写真中央は3月の合同テスト時のもの。第1戦の時に形状が変わっているが(右)、風洞実験後の第2戦では合同テスト時(写真中央)のものに戻されていた
リアフェンダー部のダクトはモーターショーの時にはなかったが(写真左)シェクダウン時にはすでに設置され(写真中央)、第2戦前の風洞実験後形状が変更されている(写真右)
フロントフェンダー上部、STIエンブレムの上に、第2戦富士よりフィンが追加された(写真右)同じく第2戦富士からは、段差の大きかったライトまわりがフラッシュサーフェス化されている

 そのほか、リアウイングの高さなど風洞実験後の変更点が多い。またジオメトリーは大幅に変更され、岡山ではアンダーステアが強かったハンドリングが富士ではオーバーステア気味となり、そのセッティングはグリッドに付いてからもまだ迷っていたとのこと(山野氏)。またタービンも今回から変更されている。


BRZ GT300参戦とスバル
 スバルは、WRCの撤退を発表した翌年の夏、同年フルモデルチェンジしたばかりのレガシィB4で、経験豊富なR&DスポーツよりSUPER GTに参戦した。トラブルにより決勝レースを走らずして終えた鈴鹿での苦いデビュー戦からちょうど1年後の鈴鹿で初勝利。2011年には鈴鹿、オートポリスを制し、年間2勝を挙げた。2012年より話題のBRZでの参戦に至るのは、ご存知のとおりだ。

 このBRZのGT300マシンが一般に公開されたのは、2011年秋の東京モーターショー。STIのスケジュールでは、このショーにBRZ GT300マシンを登場させるのが至上命題だったという。派手なスタイリングのこのマシンは発売間近の新型車BRZの話題性と相まって大いに注目を浴びた。

 年が明けて2012年。スバルによる2012年モータースポーツの参戦発表の場を東京オートサロンに選び、ここで正式にBRZ GT300の参戦発表と2人のドライバーが発表された。

 世界が注目する日本の誇る最新マシン「SUBARU BRZ R&D SPORT」。これから中盤戦に向けその話題性のみならず、その走りは注目の1台となるだろう。

初披露は2011年の東京モーターショー参戦の正式発表とドライバーの発表は東京オートサロン2012ちなみにレースクイーンは「SUBARU BRZギャルズ」と言います

 最後に、STIの総監督である辰己英治氏のコメントを掲載しておく。

STI 辰己英治総監督

 「STIにとってBRZ GT300を東京モーターショーにデビューさせることが至上命題でした。そしてその目標は達成したと思ってましたが、同時に戦うレーシングカーとして足りないことが沢山あるとも感じていました。それはモーターショーに間に合わせるための時間的制約と同時にSTIという組織が持つレースの実戦ノウハウの足りなさでした」

 「SUPER GTというレースは、日本一を争うレースというよりも今や世界一のスポーツカーが競い合う場になったと感じています。現時点でもすでにレガシィB4よりも速いBRZですが、ポルシェやメルセデス・ベンツ、BMW、アウディ等のGT3マシンと競い合うにはたった2戦の経験ではまだまだ難しく、さらなる改良が必要です。小さくて軽量なエンジンと低い重量配分を最大限に生かしながら大排気量のGT3勢に対抗していきたいと思っています。これからもR&Dスポーツのレース運営能力とノウハウによって勝利を目指し走り続けますので、応援よろしくお願いします」


(高橋 学)
2012年 5月 17日