ニュース

ホンダ、「“チーム Honda”でグローバル競争に挑む」八郷隆弘新社長が就任記者会見

次期「シビック タイプR」は日本市場でも今秋の発売予定

2015年7月6日開催

6月から新たに代表取締役社長 社長執行役員に就任した八郷隆弘(はちごうたかひろ)氏

 本田技研工業は7月6日、6月に開催された取締役会で新たに代表取締役社長 社長執行役員に選定された八郷隆弘氏による社長会見を実施した。

 八郷氏は会見で、自身が社長として導いていく「新しいHonda」について、「グローバル6極体制の進化」「Hondaらしいチャレンジングな商品の開発」という2つのテーマを掲げ、全体のキーワードが「チーム Honda」であると語っている。

 1982年にホンダに入社した八郷氏は、入社以来、車体設計を中心に4輪車の研究・開発に従事しており、そんな自身の経験から、ホンダの強みが「現場で働くアソシエイトたちが高い目標を共有して1つのチームになり、全員が高い志を持って動き出すときに発揮される」と紹介。国内だけでなく、さまざま海外市場に身を置いて培ってきたキャリアのなかで、現場を通じて常に感じてきたとコメント。

 その例として、1999年に担当した初代「USオデッセイ」のエピソードについて紹介。日本で開発してカナダの新工場で生産を行ったこのモデルでは、開発責任者代行としてアメリカ人、カナダ人、日本人をまとめる役割を務め、開発、生産、調達など、担当領域も国籍も異なるメンバーが、新しくできた工場で1からクルマ造りを行うという“初めてづくしのプロジェクト”となり、当初は苦労の連続だったものの、最終的にはチームが1つにまとまり、予想を大きく超える力を発揮。こうして誕生したUSオデッセイは、好評を受けるモデルになったほか、このカナダの工場では、パイロットやMDXなどの生産も行い、北米ビジネスの柱となるライトトラックモデル生産の礎となったと明かした。

 このほか、2011年の東日本大震災直後に鈴鹿製作所の所長となり、部品もなく、造るものもないといった状況下で被災した栃木研究所のメンバーを受け入れ、逆境のなかで全員が危機感を共有し、新しい軽事業の立ち上げプロジェクトがスタート。「SKI:スズカ・ケイ・イノベーション」と呼ばれるこのプロジェクトから、累計生産台数100万台を超えるNシリーズが成果に繋がったことも取りあげ、開発や生産、購買といった別々の部門が力を合わせる大切さを説き、自身が現場を束ねる仕事を手がけてきたと語っている。

 ホンダという会社は、1人1人の個がうまく重なり合いながら、高い志と目標を共有したチームが生まれたときに大きな力を発揮する会社であると解説。チームが結果を生み出していくために、1人1人が意見をぶつけ合い、時間をかけて徹底的に議論できる「もの作り」と「販売」の現場が必要で、そこで生まれた「気づき」や「アイディア」から、現場が主体的に動ける「ボトムアップの環境作り」が重要であるとコメント。ホンダらしい個性的なチームを次々と生み出し、生き生きと活動できる場を用意することが自分の役目だと述べた。

 また、そこから生まれたチャレンジングな商品を通じて、お客さまとも1つの絆で結ばれることが、「チーム Honda」の目指す姿であると紹介した。

八郷氏が掲げるキーワードは「チーム Honda」
ホンダ初の本格ミニバンとして1999年に発売された初代「USオデッセイ」は、ホンダの北米事業の大きなターニングポイントになったモデル
「パイロット」「MDX」などの北米向けモデルもカナダ工場で生産されている
ホンダの軽自動車事業躍進の原動力となったNシリーズ
欧州市場で誕生した5ドアのシビックをベースとした「シビック タイプR」は、日本市場で今秋の発売を予定
中国市場で販売する「VEZEL」と「XR-V」という2つのモデルは、ホンダと合弁する別々の中国企業で共通のプラットフォームを採用して生産されている
アジア市場で幅広く販売されているコンパクトカー「ブリオ」(左)と中国市場向けのミドルクラスセダン「クライダー」(右)
八郷氏はカナダ、日本、中国、英国にある向上で現場に携わってきた

「ホンダの人材を信じている、ホンダが持つ技術力・ポテンシャルを信じている」と八郷氏

4輪車事業で一部地域の生産能力が過剰になり、収益に影響を及ぼしたことに反省の弁を口にする八郷氏

 新体制での具体策として提示した2つのテーマについては、まず「グローバル6極体制の進化」について、これまで進めてきたグローバル6極体制では、各地域の生産体制が整い、販売だけでなく、開発、調達の体制も構築されたことを評価。しかし、4輪車事業では市場状況や経営環境の変化により、販売台数が思うように伸びなかった市場もあるなかで、各地域での生産拠点に対する積極的な投資が進められた結果、グローバルで見ると生産能力が過剰になって収益に影響したことに反省の弁を口にした。

 これを受け、次のステップとして各地域が主体となり、拡充した生産能力をグローバルで上手に活用することで「グローバル6極体制の進化」を目指し、そのためにグローバル本社のオペレーション機能を高め、地域間の相互補完を強力に推進するとしている。

取り組みのテーマは「グローバル6極体制の進化」「Hondaらしいチャレンジングな商品の開発」の2つ
ホンダでは世界市場を6つの地域に分割し、それぞれが自立した組織として事業運営を行うというユニークな「マトリックス経営体制」を採用している
地域間の相互補完の強化が新体制での取り組みの1つ
新しい5ドアのシビックはヨーロッパで生産され、他地域に供給される。供給先の矢印の1本は日本にも向いている
ナイジェリアにある2輪工場の一角に、この6月から4輪車の組み立てエリアを設定。タイから部品供給を受けるセミノックダウン方式でアコードの生産を開始。ホンダとして初めてアフリカで4輪車を生産することになる
次期CR-Vはカナダで生産された車両をヨーロッパにも輸出
グローバル6極体制を1つにまとめることも「チーム Honda」

 2つ目の「Hondaらしいチャレンジングな商品の開発」では、お客さまに感動や喜びを提供する商品は、チームが一丸となってとことん考え抜き、今までにないようなアイディアや技術を生み出すことで初めて提供できるという自身の考えを紹介。その好事例として、若いアソシエイトが中心となって開発し、4月に発売した「S660」、30年近く空への夢を追い続けて結実した「HondaJet」を取りあげた。

 今後の商品展開については、4輪では新しいプラットフォームとダウンサイジングターボエンジンを採用して今秋に北米市場から発売が開始される新型「シビック」を紹介。この新プラットフォームやダウンサイジングターボエンジンについては今後も適応を拡大していくと明言した。さらに次期モデルとなる「CR-V」「アコード」でもさらなる新技術や先進のデザイン、ライバルとの競争力を持った魅力的なモデルとして市場投入するとコメント。

 次世代エネルギー領域では、燃料電池車(FCV)の「クラリティ」の後継モデルを今年度中に日本市場で発売することを目指すとするほか、燃料電池車を頂点に、電動化技術を核にした商品を次世代モビリティとして展開していくという。

 具体例の紹介に続き、八郷氏は「私はホンダの人材を信じています。ホンダが持つ技術力・ポテンシャルを信じています。全世界20万人のホンダアソシエイトの1人1人が持つ、夢と発想、情熱を強いチームにして、そこから生まれたチャレンジングな力を、世界中のお客さまの夢に繋げていく。その体制を構築することが私の仕事です」と語った。

「Hondaらしい商品」の例として、「S660」「HondaJet」を紹介
新型「シビック」に投入する新プラットフォームやダウンサイジングターボエンジンなどのほか、次期「CR-V」「アコード」でもさらなる新技術を投入すると明言
2015年度中の燃料電池車発売というロードマップには変更なし
2輪では、ヨーロッパ市場で2015年中の発売を予定する大排気量デュアルパーパスモデル「CRF1000L アフリカツイン」を紹介
汎用製品では「歩行アシスト」の研究・開発を続けていることを挙げ、リハビリ用品、歩行訓練機器として、2015年度中に日本国内で事業化することを目指しているという
よりよい商品を生み出すためにはチームが現場で時間を費やすことが重要であると八郷氏は語り、そのための時間を確保できるようにすることが自分の仕事であり、これを通じてもの作りの現場を支えていきたいと意気込みを語った
実際に社長になった自身の心境について「社長という重責をひしひしと感じています。ただ、私はホンダが好きで、ホンダに育てられたと思っているので、今はこのホンダをさらに発展させたいという使命感でいっぱいです」とコメントする八郷氏

 会見後半に実施された質疑応答では、販売台数などの具体的な数値目標を設定するか、しない場合にどのような目標を立てるのかという質問に対し、八郷氏は「数というよりも、お客さまに夢を与えられるようなホンダらしい商品を造っていくことが最重点課題として進めていきたい」と回答。また、他社との提携や協業などについては「基本的には独自の技術、ビジネスをしていきたいと考えていますが、お客さまやホンダにとってメリットがある提携に関しては、メリットを考えながら判断していきたい」と述べた。

 また、F1については「大変厳しい状況にあって残念だと思っています。私としては一刻も早くF1で勝利したいと考えていますが、そこまでにはいろいろと課題もあり、着実に課題を潰していく必要があります。勝負の世界なので、早く勝利したいという気持ちは全チーム共通の願いだと思います。少し待ってからでもいいんじゃないかというご意見もあるかと思いますが、私は早くF1で1勝できるような体制作りをしてきたいと思っています」と語っている。

(編集部:佐久間 秀)