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【2015 Honda ミーティング】西村直人のホンダ最先端技術リポート(前編)

先進安全運転支援と自動運転技術を体験

自動運転の実現に必要となる「目標ライントレース制御」の同乗走行体験が行われた

 栃木県にあるホンダR&Dセンターで開催された「2015 Honda ミーティング」では新型「NSX」の試乗以外にも、この先世界に向けて導入する技術についてのお披露目も行われた。本田技研工業は「技術で人の役に立ちたい」という創業以来の企業理念をもと独創性あふれる技術を開発し、次々に商品として育て上げてきた。

 なかでもホンダの原点である二輪車では、全世界における生産累計3億台(2014年9月現在)という偉業を達成。また、新興国では個々のモビリティに対する需要が年々高まりを見せているが、ベトナムでは「バイク」を総称する言葉として「ホンダ」が使われるなど、一企業の枠組みを超えた活動が根付いている。

 そうしたなか、「2015 Honda ミーティング」で紹介された新しい技術のうち、前編として「先進安全運転支援と自動運転技術」について紹介する。

先進安全運転支援と自動運転技術を体験

渋滞運転支援機能である「Traffic Jam Assist(TJA)」はドライバーとして試乗

 ホンダは日本市場向けとして2015年の「レジェンド」から安全運転支援システム「Honda SENSING(ホンダ センシング)」の搭載を始めた。この取り組みは将来的に全車への展開を想定した大がかりなもので、日本市場だけでなく北米市場では同様の安全運転支援システムを「Acura Watch」とネーミングし、各車への搭載をスタートさせた。

 Honda SENSINGは、単眼カメラとミリ波レーダーという特性だけでなく得手・不得手も異なる2種類のセンサーと、それらの情報を融合させるコントロールユニットで構成されたADAS(Advanced Driver Assistance Systems。http://www.honda.co.jp/hondasensing/)で、幅広い運転環境でドライバーの運転サポートを行うことを目的に開発された。

 ホンダは、このHonda SENSINGの先に自動運転技術があると考え、事故ゼロ社会の実現に向けた開発を行うが、今回はそのうち渋滞運転支援機能である「Traffic Jam Assist(TJA)」をドライバーとして試乗した。これは従来のACC(Adaptive Cruise Control。http://jaf-acc.jp/index.php)が自動的に行うアクセル/ブレーキ操作に加えて、ステアリングの制御を全車速で行うことで安全な運転をサポートするものだ。

 また、自動運転技術では自動運転時の正確な運転操作を実現するために必要不可欠な「目標ライントレース制御」技術を搭載した車両に同乗することができた。いずれの技術も単眼カメラとミリ波レーダーのフュージョン方式によって実現する、自律型のADASである。

Traffic Jam Assist(TJA)はレジェンドで体験

 Traffic Jam Assistは、いわゆるACCの延長線上にある技術で、ホンダではすでに複数の市販モデルに対して65km/h以上の速度域でのステアリング制御を行っている。これは「LKAS(車線維持支援システム)」と呼ばれており、単眼カメラで車線を検知して、車両が車線の中央を維持するようにステアリング操作を支援することで、高速道路などでの運転負荷の軽減を図るものだ。

 Traffic Jam Assistでは、ステアリング制御が行われる速度域をLKASが機能しなかった0~65km/hまで拡大しつつ、LKASが行っているステアリング制御時の操舵トルクを引き上げることで車線の中央を維持するサポート力を向上させている。ちなみに、メルセデス・ベンツではこうした低速域でのステアリング制御機能をすでに市販車に搭載しており、前走車をステレオマルチパーパスカメラとミリ波レーダーで捉えて「前走車に追従する」方式をとる。これに対してTraffic Jam Assistは、単眼カメラで車線を認識(白線や黄線で実線以外でも認識)し、ミリ波レーダーで前走車を検知して「車線の中央を維持する」点が大きく違う。つまり、メルセデス・ベンツタイプは前走車が車線を逸脱すれば、それに追従し走行する(車線逸脱しそうになった場合には別のADAS機能が働き逸脱は抑制される)のに対して、Traffic Jam Assistでは、仮に前走車が車線を逸脱してしまっても、自車は車線の中央を維持するように機能する。

 また、カーブ走行時は前走車によって白線や黄線などの車線が遮られ、単眼カメラでの車線認識が一時的にできなくなることが考えられるが、そうした場合にも、それまで認識していた車線検知データと、前走車の走行軌跡データを照らし合わせて車線の中央部分を特定しながら機能を継続する機能(特許出願中)も織り込まれている。

前走車を追従する途中、2台の間に左側の白いレジェンドが割り込んできた。このシチュエーションでも車線検知データと前走車の走行軌跡データを照らし合わせ、車線認識を継続
目標ライントレース制御機能を搭載するアコード ハイブリッド

 一方、同乗走行体験となった目標ライントレース制御は、自動運転時に突然、滑りやすい路面に遭遇するなど路面のμ変化によって走行ラインが乱れた際に、瞬時にそれを認識し安全な走行ラインに戻すことを目的とした技術(特許出願中)だ。

 この目標ライントレース制御には、ホンダが自動運転システムの実現に必要であると考えているセンサーのうち、高精度GPS/電子地図/車載ヨーレートセンサーを使うことで自車位置と自車の車両姿勢の推定を行っている。自動運転は、この推定値をもとにミリ秒単位で自車が走行すべき目標ラインの演算が常に行われ(目標車両位置の算出)、そこでアウトプットされた仮想車両を実際の自車が追いかけることで成立しているが、これまで路面のμ変化など外的要因に対するロバスト性は低かった。

 今回の目標ライントレース制御は、こうした路面のμ変化によって目標ラインから外れてしまった場合にリカバリーを行うための技術だ。たとえば、コーナーの途中で路面が濡れていたためアンダーステア状態になり、車両が目標ラインよりも外にふくらみ、同時にスリップアングルの増加が抵抗となり自車速度が落ちてしまったとする。従来の自動運転技術では、このように「外にふくらみ、自車速度が落ちたこと」を認識すると、それをリカバリーするためにさらにアクセルを踏み込み、ステアリングを切り込むなど、アンダーステアを助長してしまうことがあったのだ。

 目標ライントレース制御では、こうした場面で瞬時に目標車両位置を演算し直して、新たな目標車両位置にアジャスト(この場合は目標車両位置を手前に戻す)ことで、早期の目標ライン復帰を促している。同乗走行体験時には濡れた路面の代わりに、アンダーステアを誘発しやすいコース設定であったが、見事に事前に決められたコースをキレイにトレースした。開発担当者によると「実際には車両が走行ラインを外したことを同乗者(人間)が認識する前に制御を終えているので、アンダーステアを感じることはありません」という。

 今回は走行制御技術の1つを体験したが、そもそもホンダでは先進安全運転支援と自動運転技術に対し、「運転して楽しいクルマへ進化」「クルマ社会の課題解決」「社会的課題への貢献」という3つの大きな目標を立てて、その実現に向け取り組んでいる。なかでも「社会的課題への貢献」では、超高齢社会や移動困難者に対する技術としても有益であると捉え、足の不自由な方でも車両の運転ができる「テックマチックシステム」(http://www.honda.co.jp/welfare/for-drive/legs/)搭載車への自動運転技術の応用も開発段階から考慮するなど、より人間に寄り添う取り組みが行われていることが紹介された。自動運転技術は手段であり目的ではないということか。これからの開発に期待したい。

(Photo:高橋 学/西村直人:NAC)