インプレッション

日産「リーフ」(ジムカーナチャレンジ)

リーフでジムカーナを楽しんでみた

筆者(左)と日産自動車株式会社 車両実験部 河本晃一氏(右)。河本氏はリーフのテストドライバーを務める一方で、全日本ジムカーナのチャンピオン経験もある凄腕の持ち主

 いつまでクルマ遊びができるのか? 深夜にふとそんなことを考えた。きっかけは風呂上りにブッたるんだ己の身体を見て体力の限界を感じただけのことなのだが、思いを巡らせてみれば内燃機関で音や排ガスを垂れ流して遊んでいる場合じゃないって話も……。そういえば最近はゲリラ豪雨が頻発し、地球がヤバそうだっていうこともヒシヒシと伝わってくる。もはやいろいろ限界か? 深夜のマイナス思考は広がるばかりだ。

 こうして考えが落ちるだけ落ちたところで思い出したのが、日産自動車の電気自動車(EV)「リーフ」でやったジムカーナである。バッテリー容量が24kwhから30kwhへと拡大し、航続可能距離が280kmにまで伸びたという最新型のリーフで行なった媒体対抗イベント。あれこそがもしかしたら希望の光なのかも!

 フリーランスと媒体編集者を合わせ、のべ38人のドライバーによって行なわれたこのイベントは、某駐車場を貸し切りにした状態で行なわれた。会場はジムカーナだから当たり前だが、だだっ広い駐車場にパイロンが並べられているだけ。走れば1分以内でゴールできそうなコンパクトなコースである。

今回のジムカーナのコースマップ

 そこをまずは完熟走行ならぬ完熟歩行。ジムカーナをやっている人にとっては当たり前の工程らしいが、運動不足のオッサンからすればその時点で息が上がり疲れも……(汗)。けれどもコースを覚えようと必死になっているから、やや駆け足でパイロンを曲がってみたりと、ちょっとした運動会状態。勝負ごとになると完熟歩行とはいえ、いつしか疲れも忘れて真剣になっているから面白い。

完熟歩行から始まった今回のジムカーナチャレンジ。まずは河本氏からコースの攻略方法などをレクチャーいただいた
今回のジムカーナに使用したのは、2015年12月にマイナーチェンジしたリーフ(30kWhモデル)。航続距離280km(JC08モード)を実現するほか、耐久性を改善したことで「8年16万km」までの容量保証が付く。先進安全装備である自動ブレーキとLDW(車線逸脱警報)を標準装備しているのもトピックの1つ。タイヤは標準装備のダンロップ「エナセーブ EC300」を使用
ジムカーナで使用したリーフのインテリア。サイドブレーキが足踏み式のためサイドターンがしづらいのが難点?
会場にはドライバーの脳波を言語化して車両周辺に投影することができるリーフを展示。脳波とEVの運転感覚を表現した計33パターンの言語データを自動的にマッチングさせるシステムを搭載し、その運転感覚をマンガの吹き出しを模したイラストとして車両周辺に投影しながら走行できる
こちらはラリー仕様のリーフ

リーフのスタートダッシュ、コーナーリング性能に驚き

 その後は肩慣らしに「ノート」でコースを2回走ってくださいとのこと。とはいえ、タイム計測もするからみんな真剣である。まずはミスコースなきようにゆっくりめのペースで走り58秒11。2本目は真剣にアタックして54秒71を記録。この時点で暫定トップ!

 コースも覚えたし走り方も分かった。これならリーフでも行けそうだ。早速クルマを乗り換えてコースを走り出すと、ゼロ発進加速ではさっきとまるで違うスタートダッシュを展開! TV-CMでやっていた「180SX」との勝負でブッちぎるのも理解できる。さすがは0rpmから254Nmのトルクを発生させることが可能なEVだけのことはある。ちなみにスーパーチャージャーを搭載したノートは4400rpmで142Nmを発生。CVTで瞬間的に回転が上げられるとはいえ、最大トルクを発生するまでには時間もかかる。だからこそリーフのスタートダッシュが光って見えるのだ。

 ただし、リーフはそれだけトルクがシッカリとしているだけに、アクセルコントロールの難しさがあるのも事実。今回は競技ということもあってスタビリティコントロールをカットして走ったこともあり、アクセル操作にかなり気を遣う必要があった。ラフに右足を操作すればアッという間にホイールスピンを引き起こし、効率よくスタートすることは難しい一面もある。しかしながら、そこが面白さでもある。じゃじゃ馬を乗りこなすかのようなドライビングが求められるところもリーフの意外な一面だ。

 もう1つ意外だったのは、コーナーリングが得意だったこと。重量はノートの1090kgに対し、リーフは1480kgと、その差は390kgもあるというのに、スイスイとパイロンをクリアしてみせるのだ。バッテリー容量が拡大したにも関わらず、それを床下に敷き詰めたことで、低重心を生かしてバランスよくコーナーリングをこなしてくれる。ただし、コーナーからの脱出時は前述したトルクがありすぎるせいで、イン側のホイールが簡単にホイールスピンしてしまう。もう少しアシを引き締め、さらにLSDを入れてくれたら……。EVにも関わらず、あまりにもバランスよく走るだけに、もっと先が欲しくなったのも事実だ。

 結果は1本目に52秒67を記録。2本目は欲を出しすぎてアクセルを踏みすぎたせいで52秒86という結果だった。そう、ノートより390kgも重たいのにベストタイムで約2秒も速かったのだ。これぞEVであるリーフの実力である。

 ちなみにこのタイムは総合2番手(このイベントは3日間行なわれたが、走行当日はトップ!)。メタボなオッサン橋本も、まだまだやれるという証明?(笑)。そんなことが分かって気をよくしていたのだが、最後の最後でリーフ担当のテストドライバーである河本晃一氏が登場して、あっさりと僕のタイムを破ってしまった……。

1本目は52秒67、2本目は52秒86。ノートよりも約2秒も早いタイムを記録することができたのは、低重心かつアクセルを踏んだ瞬間から最大トルクを引き出すことができるEVならではの特性のおかげ
総合2番手という好成績を残すことができた

 聞けば河本氏は全日本ジムカーナに「フェアレディZ」で参戦し、チャンピオンを手にするほどの凄腕である。そのドライビングを見れば、やはりかなり丁寧でアクセルワークも繊細。こりゃマイッタ! 打ちのめされてもっと走りを極めたいと思えた。はじめはリーフでジムカーナとナメていたが、やればなかなか奥深かったというのが素直な感想だ。

 まさかリーフでここまで楽しめるとは驚きだ。コーナーリングの素直さと、シビアなアクセルコントロールが求められるという状況は、競技車両と同じ世界。それを駐車場にパイロンを置いただけの簡単なコース体験できたことは新たなる発見だ。リーフなら騒音問題もクリアしやすいだろうし、もちろん排ガスだって出さない。もっともっと身近な状況で、より多くの人々をモータースポーツに巻き込んでほしい。ウチらだけが楽しんでいるなんてもったいない。やっちゃえ、日産!

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。

Photo:高橋 学