インプレッション
スバル「インプレッサ スポーツ」(プロトタイプ・サーキット試乗)
2016年9月14日 00:00
今年のお盆過ぎの話。スバル(富士重工業)のGD型(2代目)「インプレッサ」を長らく愛用している知人から、「まもなく車検なので買い替えを考えているのだが、モデル末期の現行GP型がかなり値引き販売されているのを見て、買うべきかどうか悩んでいる」という相談があった。
筆者としては、やはりもう少し待って新型を見てから決めたほうがいいと答えたのだが、それはまもなく実施されるモデルチェンジが、ただならぬ気がしていたからなおのこと。そしてその予感が的中したことをまずお伝えしておこう。
次期型(5代目)インプレッサは3月にスバルが大躍進中のアメリカで正式発表され、日本でも9月1日から先行予約を受け付けている。日本国内での正式な発売を前に、伊豆の修善寺にある日本サイクルスポーツセンターでプロトタイプ車両に試乗する機会に恵まれた。
1周約5kmの高低差のあるワインディングロードは、ところどころでわずかに路面が荒れている箇所はあるものの、おおむねフラット。試乗したのはすべて、新設計された2.0リッター直噴エンジンを搭載するハッチバックの「スポーツ」のAWD。17インチ仕様の「2.0i-L EyeSight」と、18インチ仕様の「2.0i-S EyeSight」が用意されていた。
筆者自身は、現行型のそつのない完成度を高く評価していて、今回も乗り比べるために現行型が用意されていた。あらためて乗って同じように感じたのだが、次期型のプロトタイプに乗ると、あらゆるところがレベルアップしていてその印象がかすんでしまった。モデルチェンジと聞いて一般的にイメージするよりもずっと高くジャンプアップしたように感じられたからだ。
プロトタイプは走り出してすぐに、これまでと違うもの感じさせる。まさしくこのクルマを開発陣が「次世代スバルの幕開け」と述べたのが、どういうものなのかうかがい知れた。
17インチ仕様と18インチ仕様のいずれにも共通して感じたのは、我々が知っているこれまでの“スバルの味”とは違う。上質なドライブフィールは、まるでもっと高価なクルマに乗っているかのよう。ステアリングのキックバックも小さく、13.0:1というクイックなステアリングレシオをすべてのグレードに採用しているのだが、それを見事に使いこなしている。ドライバーの操作に遅れなく反応するし、ステアリングを戻したときのリアの揺り返しも小さい。
しなやかさのなかにも引き締まった感覚のある足まわりにより、ロールなどの姿勢変化も現行型よりずっと小さい。現行型ではややリアのピッチングが気になったところ、サスペンションがよくストロークするようになり、振動が大幅に低減している。リアがしっかり接地しているおかげか、旋回ブレーキでの安定性も高い。従来比でおおむね倍増というボディ剛性も、この走りに寄与していることに違いない。
17インチ仕様から18インチ仕様に乗り替えると、これまた走り始めてすぐに小さくない違いを感じる。タイヤ銘柄は17インチ仕様がブリヂストンの「トゥランザ T001」、18インチ仕様がヨコハマタイヤの「アドバン スポーツ V105」になっているだけでなく、サスペンションや電動パワステのチューニングも差別化されている。さらに18インチ仕様はブレーキディスクのローター径が16インチ(ほかのモデルは15インチ)に大型化され、トルクベクタリング機構が付く。
18インチ仕様はただでさえクイックなハンドリングがさらに俊敏になったように感じられ、より応答遅れなくステアリング操作にクルマがついてくる感覚となる。むろん、同じペースでコーナーに入ってもタイヤからスキール音がまったく鳴らない。
乗り心地は、路面の荒れているところでやや当たりの強さを感じたが、このコースを走った限りでは大差はなかった。ただし、このコースは全体的に乗り心地には寛容なので、実際にリアルワールドを走ってどう感じるかはあらためてお伝えしたい。
ついに直噴化された新開発の2.0リッター「FB20」エンジンと、レシオカバレッジを拡大し、フリクションを低減して効率を高めたというリニアトロニックの組み合わせは、発進加速からして従来型よりもピックアップがよく、コーナー立ち上がりでもトルク感もある。また、リニアトロニックがデフォルトでステップ変速するようになったことも今回の変更点の1つだ。
パッと見の第一印象では、ずいぶんデザインも洗練されたように感じた。これまでのスバル車にない、抑揚のある表情の豊かさと上質さを感じる。正直、「レヴォーグ」や「レガシィ」を上まわった面もあるように思えるほどだ。
インテリアデザインについても、先々代の3代目では変化球を見せたがいまひとつ不評で、現行型は逆に整然とし過ぎていて事務的な印象な強かったところ、今回のプロトタイプを見るにつけ、「これは!」と感じた。これまでのスバル車にはなかったたたずまいだ。インターフェイス類も、より見やすく使いやすくなった。こうしたところも着実に進化している。
正直、予想をかなり超えるできばえだった。開発関係者がいつもにも増して自信に満ちあふれている様子だったのも納得である。
スバルが言う「愛でつくるクルマ」という言葉がどういうものなのか、最初に説明を受けたときにはイメージできなかったのだが、実車に触れてなんとなく分かった気がした。言葉で表現するのが難しいのだが、車種ラインアップ数の限られるスバルだからこそなおのこと、このクルマに全力投球したのだな、と。本当に心を込めてつくりこんだことがヒシヒシと伝わってきた。おそらく、発売されてから多くの人が使っても、同じことを感じるのではないかと思う。
価格についても「スバルのエントリーモデル」としての立ち位置は変わらないのだから、これまでから大きく変わることはないだろう。それでいて、手に入る価値は現行型から大きく上がるのは間違いない。