インプレッション

ルノー「トゥインゴ」(RRレイアウト)

新型スマート・フォーフォーとの“一卵性兄弟”車

 1992年に披露された初代、2007年に発表された2代目に続き、2014年のモデルチェンジで3代目となった新型「トゥインゴ」が、ようやく日本に上陸した。この最新モデルは、歴代初の5ドア・ボディとなったことを筆頭に、「名前以外はすべてが新しい」という内容の持ち主。

 なるほど、まずはそのルックス……というよりも、プロポーションからして従来型とはまるで異なる。それもそのはず、何しろこの新型はエンジンをボディ最後端に置いて後輪を駆動する、今となっては何とも稀有な“RRレイアウト”を採用するのである。

 長い歴史と伝統ゆえ、今や「それを変えたくても変えようがない」歴代のポルシェ 911と、特異なミニマル・コミューターを目指した歴代のスマートくらいにしか採用例を見ることができないRRのレイアウト。ルノーが、トゥインゴに突如それを採用した理由――それは、今度のモデルが前出スマートとの共同開発によって完成されたものであるからだ。

 究極のコンパクト化を図った2シーターのスマート(フォーツー)は、これまでの歴代モデルが一貫してRRレイアウトを採用してきた。そして、3代目となった現行フォーツーをベースに、久々の4シーター・モデル(フォーフォー)を復活させている。そう、新型トゥインゴはそんな新しいスマート・フォーフォーとの“一卵性兄弟”車。ルノーにとってもスマートにとっても、基本構造を同一とすることで数量規模が増し、大きなスケールメリットを得られることを目論んでいるのだ。

9月15日に発売された新型トゥインゴ。直列3気筒DOHC 0.9リッターターボ「H4B」エンジンをリアに搭載するRRレイアウトを採用するのが特徴の1つ。最高出力は66kW(90PS)/5500rpm、最大トルクは135Nm(13.8kgm)/2500rpmを発生し、JC08モード燃費は21.7km/L

 もっとも、他に類似例を見ることのないスマート・フォーツーが、メルセデス・ベンツ各車の生みの親であるダイムラー独自の作品であるのに対し、4シーター・モデルの開発ではルノーが主導権を握った部分も少なくなさそう。例えば、どのくらいの全長にするのか? あるいはホイールベースはいくつにするのか? といったパッケージングの基本設計は、すべてルノーの手によって行なわれたというのだ。

 かくして、基本ディメンションを共有する新型のトゥインゴとスマート・フォーフォー。当然そのサイズ感などは同様であるものの、見た目の雰囲気は両者が大きく異なる独自性を放っている。

 “ダイムラー謹製のRRパッケージ”を譲り受けたルノーでは、その一方でエクステリア・デザインには可能な限り「歴史的ルノー車のアイコン」を表現することに腐心したという。例えばヘッドライトは、歴代トゥインゴの流れを汲んだ愛らしくも強い目ぢからを備える造形。フロントグリルと前後ウィンドウの傾斜角は、かつてフランスの街を席巻した「5(サンク)」のそれをそれぞれ復元させた値だという。

 また、コンビネーションランプが嵌め込まれたリアフェンダー部分の張り出しも、モータースポーツ用ホモロゲーション獲得のために開発された、かつてのミッドシップ・モデル「5 ターボ」の独特の形状に対するオマージュだと言うのだから徹底している。

 そんなこんなで言われてみれば、新型トゥインゴのエクステリア・デザインにはさまざまな部分に見事な“ルノー車らしさ”が秘められている。なるほどこれは、そのスタイリングだけで見る人に「買いたい!」と思わせてしまうという、そんな典型的モデルという印象だ。

撮影車はトゥインゴの上級グレード「インテンス キャンバストップ」。ボディサイズは3620×1650×1545mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2490mm。車両重量は1030kg
フロントでは4灯のLEDポジションランプとハロゲンヘッドライト(ハイトコントロール機能付き)を組み合わせる
15インチアルミホイールを標準装備(タイヤサイズ:165/65 R15)
リアウィンドウは電動開閉機構が省かれ上げ下げできないが、空気の循環を行なうことはできる。ドアノブをサッシュに隠すことでスタイリッシュに仕上げた
リアまわりではスポイラーを標準装備

 ひと目で「ほしい!」と思わせる能力では、インテリアも負けていない。さすがに高級感は伴わないし、樹脂パーツの中にはむしろちょっとチープな素材感を放つものが混ざっていたりもする。しかし、細部まで丁寧にデザインされたという印象が漂うところは、これもまた新型トゥインゴの魅力を引き上げる大きな要因なのだ。

 ただし1点、新型トゥインゴで留意するべきポイントは、それが明確な“前席優先”の思想で構築されているということ。大人がリラックスした姿勢をとるには後席は狭く、「角度調整が可能」と謳われるリアのシートバックは、そもそもデフォルトの状態でも垂直に近い。リアドアを備えるゆえ乗降性には優れるものの、そんなドアのウィンドウも、前側を支点にわずかに外側に開くのみという設計だ。

 すなわち、後席に大人が乗り込む頻度が高いユーザーには、残念ながら推奨しかねるのが現実。この点では“4ドアの2+2”とでも表現すべきなのが、このモデルのパッケージングでありそうだ。

大きなフロントウィンドウで開放感のあるインテリア。カラーは「ブラン」で、このほか「ブルー」「ルージュ」も設定される
下部を水平にカットした本革巻きステアリング
200km/hまで刻まれるスピードメーター。タコメーターは配置されない
効果的に白いアクセントを入れてポップに仕上げた
トランスミッションは6速EDC(エフィシエント デュアル クラッチ)
ラジオ(AM・FMラジオ/USB/Bluetooth)を標準装備
クルマの形が描かれるフロアマット
撮影車は開放感の高いキャンバストップ仕様となる
リアドアまわりのデザイン
ファブリックシート
ラゲッジスペース下にエンジンを搭載する
5:5分割可倒式リアシートのレイアウト。助手席のシートバックを前に倒すことで長尺物も積める

お値打ち感の光るブランニューモデル!

 日本導入モデルに搭載されるパワーパックは、0.9リッターのターボ付き3気筒エンジン+6速DCTの組み合わせ。スマート・フォーフォーにも設定される心臓は、すでにルーテシアにも搭載されているものと同様の最高90PSを発するルノー製のユニットだ。そんなエンジンは高さを抑えるため、49度後傾させて搭載。しかし、それでもFFモデルに比べるとラゲッジスペースのフロアが高いことは否めない。

 ただし床面積はそれなりに広いので、持ち上げるのは大変ながら後席使用時でも大型スーツケース1つは平積みができそう。前述のように、前席優先のパッケージングの持ち主ゆえ、リアシートを専用のドア付き荷物スペースとして用いるのが正しい使い方と言えそうだ。

 ちなみに、フロントのパッセンジャー側はシートバックが水平位置まで前倒しできるので、意外にも長尺物収納は得意な科目。もちろん、リアシートのアレンジも可能だから、人によって大きく評価が分かれそうなのが新型トゥインゴのユーティリティ性なのだ。

 日本には右ハンドル仕様が導入されるが、基本的なドライビング・ホジションに違和感はない。ただし、欲を言うと「あればよいのに……」と思えるのがフットレストとシフトパドル。もちろん、特にスポーティさが売り物のモデルではないものの、ルノー車ゆえクルマ好きに買われる可能性が高いとなると、現状ではオプションでも設定のないタコメーターを「何とかして付けたい」という声も上がるかも知れない。

 視界のよさは全方向に文句なし。ドアミラー背後の死角も、その上側の抜けのよさからほとんど気にならない。ただし、ドアミラーには鏡面角度の電動調整機能は付くものの、日本車ではもはや当たり前の電動格納は採用されていない。同様に、日本車の常識と比べてしまうと、ダッシュボード上面のハザードランプ・スイッチも「遠い」と感じてしまうはず。もっとも、本来の用途を外れてハザードランプを“万能”に多頻度で用いるのは日本だけ。そもそも、合流時などの挨拶は、軽く手を挙げて合図する方が遥かにスマートで気持ちよいというものだ。

 実は1t超と見た目ほど軽くないボディに、900ccに満たない排気量のエンジン――いかにターボチャージャーを装着しているとはいえ、そんな組み合わせゆえ静止状態からのスタートシーンでは、やはり多少の非力感を意識させられるのが現実だ。

 もちろん、スタート後はターボブーストがただちに高まり、タイヤが数回転もするうちには前述の排気量を忘れさせる力強さが得られる。だが、1人乗り状態でも“蹴り出し力”は弱めだから、これがより多人数での状態、もしくはきつい上り坂であったりすれば、最初の一瞬だけは非力感がさらに強まることになりそうだ。

 実は「ルノーとしてはシングルクラッチ式でもOKだったものの、ダイムラーに『どうしても』と言われてダブルクラッチ式に決定した」というトランスミッションは、確かにシームレスな変速で、オーソドックスなATに近い印象を提供してくれる。とはいえ、それは特にスポーティなセッティングではなく、駆動力の伝達感もDCTとしてはダイレクトさにやや欠けるもの。先に「欲しい」と報告したシフトパドルも、スポーティに走りたいからというよりは、「必要なエンジンブレーキ力を得るのに便利だから」と、その程度の理由からだ。

 基本的な乗り味は路面凹凸に対する当たり感がソフトで、なるほど“フランス車的”と言えばそう解釈できるもの。望外だったのは静粛性の高さで、物理的な距離が遠いからか、少なくともドライバーにとってはエンジン音が思いのほか小さく感じられた。

「フロントにパワーパックがない分、前輪の切れ角を大きく採れた」と、そう説明される結果の最小回転半径は4.3mと確かに特筆のレベル。実際、その小回り性の高さは想像以上だが、小さなクルマにも関わらずその分“内輪差”は大きめ。細かな路地では迂闊にもボディの内側サイドを擦ったりしないよう、配慮が必要となりそうだ。

 こうして日本にやって来た新型トゥインゴで、ぜひとも褒め称えたいのはその魅力的な価格設定。189万円と、200万円を大きく下回ったプライスは“同じエンジン”を搭載しつつ250万円超に設定されたスマート・フォーフォーの顔色を失わせるに十分だ。しかも、わずかに10万円を上乗せすれば、スイッチ1つでオープンエアが楽しめるキャンバストップ仕様も選択できてしまう。

 日本のすべての輸入車ラインアップを見渡しても、お値打ち感の光るブランニューモデルの登場だ!

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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Photo:中野英幸