インプレッション
ホンダ「フリード」(ガソリンモデル)
2016年10月13日 13:58
“ちょうどいい”ミニバン「フリード」がフルモデルチェンジ
「ちょうどいい」のキーワードのとおり、取り回しのよい手ごろなサイズの車体に必要十分なユーティリティを詰め込み、リーズナブルな価格設定で登場した初代フリードはまたたく間にヒットモデルとなった。登場から時間が経過しても安定して好調な販売を維持していた。
一方で本稿執筆時点では、最大にして唯一の競合車であるトヨタ自動車「シエンタ」が非常に好調な販売を見せている。すなわち、こうしたコンパクトサイズの箱型3列シート車というのは“売れる”カテゴリーであることに違いない。選択肢は事実上2車種のみだが、その一角の本田技研工業「フリード」がモデルチェンジするとあって、大いに興味を持っている人も少なくないことだろう。
今回はガソリンの最上級グレード「G Honda SENSING」の7人乗りを拝借し、短い時間ではあるが触れる機会を得たので、その印象をお伝えしたい。
試乗ステージとなった都内を流していても道行く人が振り返ることがあまりなかったのは、むしろこのクルマに与えられたキャラクターの表れといえそう。件のシエンタが驚くほどドラスティックに変身して、登場当初はけっこう目で追われたのに対し、フリードは保守的でありオーソドックス。これはわるい意味ではなく、それでいいのだと思う。実際、新鮮味はそれほど感じないものの、初代よりも微妙に大きくなったように見えるのはもとより、これまで以上に洗練されて上級移行したように目に映る。
乗り込んでアップライトなシートに収まると、まず視界が非常に良好なことが印象的だ。低いところまで死角が小さく、見上げる側の視野も広がっている。また、室内確認用のミラーが固定式になり、後席の状況がずっと視野の片隅に置いておくことができるようになったのも歓迎だ。
インパネのデザインは、かなり奇抜だった初代に比べると、ミニバンとして常識的なものになったように感じるし、全体的に質感が格段に上がっていることも明らかだ。インパネは形状も工夫されていて、シートの間隔も広いおかげで運転席と助手席間の横移動や、1列目~2列目間のウォークスルーをしやすいところもありがたい。
収納スペースについても、インパネやドア内張りなど、あらゆる場所にくまなく設定されていることも驚いた。しかも1つひとつが使いやすさに配慮されていて、容量や形状に大いに配慮して設定されていることがうかがえる。実際にフリードを購入した人は、使うほどに便利さを実感することだろう。
2列目のステップは低く、ワンステップで楽に乗り降りできるのはこれまでどおり。3列目へのアクセス性も上々で、遮るものもなく乗り降りしやすい。むろん兄貴分の「ステップワゴン」に比べると室内長はだいぶ短いものの、2列目の居住空間は申し分なく、感覚としてはあまり大きな差を感じない。
3列目はさすがにひざ前のスペースやヒール段差が小さいのだが、子育てファミリー層が短距離の移動に使うのであれば十分だろう。ピップポイントが高めに設定されていながらも、筆者が座っても頭上にはまだ余裕があった。
荷室は床面が驚くほど低くなったし、テールゲート開口形状も初代は下端が狭まっていたのに対し、使い勝手がよくなっている。3列目シートの格納方法は、左右跳ね上げ式を踏襲している。ステップワゴンが床下格納式を採用しているのに対し、それぞれを選ぶ理由となろう。シートアレンジのバリエーションはシンプルだが、これだけできれば十分。
ただし、1列目・2列目と、2列目・3列目のアレンジモードとも、フラットにするときにシートとシートの合わせ目がかなりキツかった点が気になった。もう少し余裕があったほうがいいように感じた。
全席で快適な乗り心地
取り回しのよさはもちろん受け継いでいるし、運転してもすべてにおいて進化を感じる。走り味はいたって軽快で、ステアリングフィールも軽い中にもしっかり感があり、従来型に比べるとクイックな味付けで一体感もある。姿勢変化は小さく、リアのスタビリティ感も増している。いたって乗りやすく、安心感がある。
試乗した個体は走行1000kmにも満たないおろしたてだったせいか、乗り心地にはやや硬さを覚えたのだが、フラット感の高さが好印象。その印象は後席でも変わらずすこぶる快適で、横揺れが小さい。3列目も、広さはそれなりでも意外や乗り心地は2列目との差が思ったよりも小さかった。これには液封ブッシュの採用や、剛性を高めたリアサスなどが効いているのだろう。
131PSの1.5リッターガソリンエンジンとCVTの組み合わせによる動力性能は、とりたてて大きな不満はないが、ストップ&ゴーの多い市街地ではモーターがアシストするハイブリッドのほうが優位性がありそう。とはいえ、踏み込んだときに上の回転域で伸びるのがガソリンの強み。ご参考まで、開発関係者によると中間加速ではおよばなくても、0-100km/h加速ではハイブリッドを上回るらしい。
車内での静粛性については、3000rpmあたりから低く響くパワートレーン系の透過音を感じるものの、ごく普通に流しているときはあまり気にならない。車内の会話明瞭度は高く、1列目~3列目間でも十分に話しやすかった。おそらくそれなりに手当をしたものと思われる。
安全装備について、非常に機能が充実していて、ステアリング制御までも行なう「Honda SENSING」はぜひとも選びたいところ。あとは、使い方に合わせていろいろなオプションが用意されているので、どんなものがあるのか、ぜひカタログやホンダのWebサイトも見てほしい。
とにかく、これぞまさしく正常進化。すべてにおいてよさを実感する仕上がりだった。フリードがここまでよくなってしまうと、そのぶんステップワゴンが売れなくなってしまうのではないかと思ったほどだ。子育てファミリー層が日常生活をともにするパートナーとして、まさしく「ちょうどいい」。フリードはそんなクルマである。