インプレッション

ホンダ「フリード」(ガソリンモデル)

“ちょうどいい”ミニバン「フリード」がフルモデルチェンジ

「ちょうどいい」のキーワードのとおり、取り回しのよい手ごろなサイズの車体に必要十分なユーティリティを詰め込み、リーズナブルな価格設定で登場した初代フリードはまたたく間にヒットモデルとなった。登場から時間が経過しても安定して好調な販売を維持していた。

 一方で本稿執筆時点では、最大にして唯一の競合車であるトヨタ自動車「シエンタ」が非常に好調な販売を見せている。すなわち、こうしたコンパクトサイズの箱型3列シート車というのは“売れる”カテゴリーであることに違いない。選択肢は事実上2車種のみだが、その一角の本田技研工業「フリード」がモデルチェンジするとあって、大いに興味を持っている人も少なくないことだろう。

 今回はガソリンの最上級グレード「G Honda SENSING」の7人乗りを拝借し、短い時間ではあるが触れる機会を得たので、その印象をお伝えしたい。

9月16日に発売された新型コンパクトミニバン「フリード」。今回試乗したのは直列4気筒DOHC 1.5リッターガソリンエンジンを搭載する「G Honda SENSING」(7人乗り/2WD)で、価格は212万1600円。ボディサイズは4265×1695×1710mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2740mm。ボディカラーはモダンスティール・メタリック
エクステリアではフロントマスクにホンダのデザインアイデンティティである「ソリッド・ウイング・フェイス」を採用するとともに、リアまわりではLEDリアコンビネーションランプを横方向に大型化してテールゲートとの分割タイプとした。撮影車はオプション設定のLEDヘッドライトやLEDアクティブコーナリングライトなどを装着
足下は15インチスチールホイール(フルホイールキャップ)とダンロップ「エナセーブ EC300」(185/65 R15)の組み合わせ
テールゲート部については、開口部の高さが1110mm、最大幅が1080mmと縦にも横にも広く、開口部地上高480mmという低さも相まって荷物の積載性に優れる
すべてのドアを開けたところ。後席用のスライドドアは従来モデルから開口スペースを上下に40mm、前後に20mm拡大するとともに、ステップ地上高を15mm低い390mmとして乗降性を高めた

 試乗ステージとなった都内を流していても道行く人が振り返ることがあまりなかったのは、むしろこのクルマに与えられたキャラクターの表れといえそう。件のシエンタが驚くほどドラスティックに変身して、登場当初はけっこう目で追われたのに対し、フリードは保守的でありオーソドックス。これはわるい意味ではなく、それでいいのだと思う。実際、新鮮味はそれほど感じないものの、初代よりも微妙に大きくなったように見えるのはもとより、これまで以上に洗練されて上級移行したように目に映る。

 乗り込んでアップライトなシートに収まると、まず視界が非常に良好なことが印象的だ。低いところまで死角が小さく、見上げる側の視野も広がっている。また、室内確認用のミラーが固定式になり、後席の状況がずっと視野の片隅に置いておくことができるようになったのも歓迎だ。

 インパネのデザインは、かなり奇抜だった初代に比べると、ミニバンとして常識的なものになったように感じるし、全体的に質感が格段に上がっていることも明らかだ。インパネは形状も工夫されていて、シートの間隔も広いおかげで運転席と助手席間の横移動や、1列目~2列目間のウォークスルーをしやすいところもありがたい。

 収納スペースについても、インパネやドア内張りなど、あらゆる場所にくまなく設定されていることも驚いた。しかも1つひとつが使いやすさに配慮されていて、容量や形状に大いに配慮して設定されていることがうかがえる。実際にフリードを購入した人は、使うほどに便利さを実感することだろう。

インテリアカラーはモカ(ベージュ、ブラックも設定)。インパネに明るい木目調パネルを採用して開放感を高めている
撮影車は安全運転支援システム「Honda SENSING」(衝突軽減ブレーキ[CMBS]、歩行者事故低減ステアリング、ACC[アダプティブ・クルーズ・コントロール]、LKAS[車線維持支援システム]、路外逸脱抑制機能、誤発進抑制機能、先行車発進お知らせ機能、標識認識機能)を標準装備。ACCなどの操作はステアリングのスイッチで行なう
ガソリン車のトランスミッションはCVT。カーナビはディーラーオプションの7.0型スタンダードインターナビ「VXM-175VFi」(16万5240円)を装着するが、大型9.0型静電タッチパネルを採用するプレミアムインターナビ「VXM-175VFNi」(21万6000円)なども用意
フロントウィンドウの上側を広げてドライバーシートからの見上げ角を拡大し、広さ感を演出。それに従いサンバイザーも大型のものを採用している
「G Honda SENSING」では左右両側ともパワースライドドアを採用
ペダルレイアウト。パーキングブレーキは足踏み式
1列目と2列目シート。7人乗り仕様では2列目が3人掛けのベンチシートとなり、6:4分割式でスライドとリクライニングが可能
2列目シートをワンタッチで前側に折り畳むことで3列目に乗り込める
新型フリードではメーターパネルとヒーターコントロールパネルの照明色を6色から選択可能
インパネやドア内張りなどに豊富な収納スペースが用意される

 2列目のステップは低く、ワンステップで楽に乗り降りできるのはこれまでどおり。3列目へのアクセス性も上々で、遮るものもなく乗り降りしやすい。むろん兄貴分の「ステップワゴン」に比べると室内長はだいぶ短いものの、2列目の居住空間は申し分なく、感覚としてはあまり大きな差を感じない。

 3列目はさすがにひざ前のスペースやヒール段差が小さいのだが、子育てファミリー層が短距離の移動に使うのであれば十分だろう。ピップポイントが高めに設定されていながらも、筆者が座っても頭上にはまだ余裕があった。

2列目、3列目に座ってみたところ
シートアレンジ例。フラットモードにすることでリラックスした時間を過ごすことができる
シートの間隔が広いおかげで運転席と助手席間の横移動や、1列目~2列目間のウォークスルーがしやすい

 荷室は床面が驚くほど低くなったし、テールゲート開口形状も初代は下端が狭まっていたのに対し、使い勝手がよくなっている。3列目シートの格納方法は、左右跳ね上げ式を踏襲している。ステップワゴンが床下格納式を採用しているのに対し、それぞれを選ぶ理由となろう。シートアレンジのバリエーションはシンプルだが、これだけできれば十分。

 ただし、1列目・2列目と、2列目・3列目のアレンジモードとも、フラットにするときにシートとシートの合わせ目がかなりキツかった点が気になった。もう少し余裕があったほうがいいように感じた。

ラゲッジスペースのレイアウト例。3列目シートは左右を跳ね上げで格納させる方式

全席で快適な乗り心地

 取り回しのよさはもちろん受け継いでいるし、運転してもすべてにおいて進化を感じる。走り味はいたって軽快で、ステアリングフィールも軽い中にもしっかり感があり、従来型に比べるとクイックな味付けで一体感もある。姿勢変化は小さく、リアのスタビリティ感も増している。いたって乗りやすく、安心感がある。

 試乗した個体は走行1000kmにも満たないおろしたてだったせいか、乗り心地にはやや硬さを覚えたのだが、フラット感の高さが好印象。その印象は後席でも変わらずすこぶる快適で、横揺れが小さい。3列目も、広さはそれなりでも意外や乗り心地は2列目との差が思ったよりも小さかった。これには液封ブッシュの採用や、剛性を高めたリアサスなどが効いているのだろう。

 131PSの1.5リッターガソリンエンジンとCVTの組み合わせによる動力性能は、とりたてて大きな不満はないが、ストップ&ゴーの多い市街地ではモーターがアシストするハイブリッドのほうが優位性がありそう。とはいえ、踏み込んだときに上の回転域で伸びるのがガソリンの強み。ご参考まで、開発関係者によると中間加速ではおよばなくても、0-100km/h加速ではハイブリッドを上回るらしい。

直列4気筒DOHC 1.5リッター「L15B」エンジンは最高出力96kW(131PS)/6600rpm、最大トルク155Nm(15.8kgm)/4600rpmを発生。JC08モード燃費はガソリン車すべてで19.0km/Lをマークする

 車内での静粛性については、3000rpmあたりから低く響くパワートレーン系の透過音を感じるものの、ごく普通に流しているときはあまり気にならない。車内の会話明瞭度は高く、1列目~3列目間でも十分に話しやすかった。おそらくそれなりに手当をしたものと思われる。

 安全装備について、非常に機能が充実していて、ステアリング制御までも行なう「Honda SENSING」はぜひとも選びたいところ。あとは、使い方に合わせていろいろなオプションが用意されているので、どんなものがあるのか、ぜひカタログやホンダのWebサイトも見てほしい。

 とにかく、これぞまさしく正常進化。すべてにおいてよさを実感する仕上がりだった。フリードがここまでよくなってしまうと、そのぶんステップワゴンが売れなくなってしまうのではないかと思ったほどだ。子育てファミリー層が日常生活をともにするパートナーとして、まさしく「ちょうどいい」。フリードはそんなクルマである。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一