インプレッション
BMW「M2 クーペ」(公道試乗)
2017年1月18日 07:00
370PSの直6 3.0リッター直噴ターボ搭載
2016-2017 日本カー・オブ・ザ・イヤーにおいて、「コンパクトなFRスポーツモデルとして極めて完成度が高く、ドライビングが楽しい」とのことからエモーショナル部門賞を獲得したBMW「M2 クーペ」(以下「M2」)は、名実ともに同賞を受賞するに相応しいクルマに仕上がっていることを、あらかじめお伝えしておこう。
いつの間にか膨大なラインアップを誇るようになったBMWの中で、Mモデルについても「もっととっつきやすいクルマがあったらいいな」と思っていた人も少なくないことだろう。E46あたりのM3なら努力すれば手の届きそうな価格だったところ、今ではずいぶん高くなり、性能的にもいささかtoo muchになった感もなくはない。
そこに現れた、2シリーズをベースに370PSの直列6気筒DOHC 3.0リッター直噴ターボエンジンを搭載したM2のサイズ感はもちろん、十分に速いが過剰でないパワー、そしてなにより700万円台という車両価格を見るにつけ、待ってました!と感じている人は少なくないと思う。考えてみると、このクラスでこういうキャラクターのクルマというのはほかにちょっと思い当たらない。その点でもM2は注目すべき存在に違いない。
むろんMモデルになれば、エンジンだけでなく内外装デザインもスペシャルに仕立てられているのは言うまでもない。ダブルバーのMキドニーグリルに、大型エアインテークを備えたフロントエプロン、対向4ピストンのブレーキなどはMモデルならでは。大きく張り出したフェンダーや、独特の形状のリアバンパーから覗く4本の輝くテールパイプなど、リアからの眺めも印象深い。撮影車両のボディカラーは7万7000円高となるM2の訴求色「ロングビーチブルー」だ。
コクピットの雰囲気もスポーティかつ上質。ブラックのダコタレザーを用いたフロントのスポーツシートに収まると、カーボンファイバートリムや髄所に配されたブルーのステッチが目を引く。車両価格はそれなりに高くても、追加でオプションを選択しなくても概ね不満のない装備が標準で付いてくるのもありがたい。
絶品のエンジンフィール
エンジンは3.0リッターで直6というのは同じながら、「M3」や「M4」がツインターボ仕様の「S55B30A」であるのに対し、弟分となるM2はシングルターボのツインスクロール仕様の「N55B30A」となる。370PSで465Nm、オーバーブーストで500Nmまで高まるというエンジンスペックは、M3やM4に比べると控えめだが、とにかくフィーリングが素晴らしいのだ。
アクセルワークにダイレクトの呼応し、過給機付きであることを感じさせないほどレスポンスがよい一方で、中速域では過給機付きらしく盛り上がり感のある中間加速を披露し、レッドゾーンの7000rpmを超えて7500rpmまで一気に吹け切ってしまう。放つサウンドも、M3やM4があえて過剰演出気味に派手な音を出すのに対し、M2にはいわゆる往年の「シルキーシックス」の趣きがある。個人的にはM3やM4よりもこちらのほうが好み。この音と吹け上がりの絶品ぶりにはすっかり魅了されてしまった。COMFORTモードでも十分に刺激的だが、SPORTモード以上にすると瞬発力が増し、よりパワフルになる。
ありあまるパワーながら、ワイドトレッドとぶっといタイヤに加えて、ファイナルドライブを無段階でロックするというアクティブMデファレンシャルも効いてか、リアは落ち着いている。トランクション性能は非常に高く、コーナー立ち上がりでグイグイ前に進んでいく感覚がある。一方で、DSCをOFFにすると簡単にパワースライドし、ドリフト状態でのコントロール性が高いことも別の機会にサーキットでドライブした際に確認済みだ。
やや鼻先の重さを感じる部分があるものの、持ち前の俊敏で正確なハンドリングはシャープな中にも寛容さがあり、いたって乗りやすい。本格的に性能を追求したM3やM4がかなりスパルタンな乗り味であるのに対し、M2は普段乗りにも十分に使える柔軟性を身に着けているのも好印象だ。
引き締まっていながらもよく動くサスペンションは、路面の凹凸の影響をあまり受けることがなく、それでいて姿勢変化も小さく抑えられている。ドライビングパフォーマンスコントロールスイッチを操作してモードを変えると、サスペンションやステアリング、DSCの設定なども変わるが、ECOモードがないのはM2らしいところ。
試乗を終えて、まだずっと乗っていたい気持ちになった。単に性能が高いだけではこういう感情にはならない。M2は今、BMWが掲げる“駆けぬける歓び”をもっともよい形で表現しているモデルかもしれない。