インプレッション

ホンダ「ステップワゴン Modulo X」(雪上試乗)

ステップワゴン Modulo Xを雪道でチェック

 Car Watchでも紹介してきた「ステップワゴン Modulo X」だが、今回はあえてスタッドレスタイヤを装着した降雪地帯でのロードインプレッションをお伝えしたい。その前に改めてModulo Xの紹介から。

「N-ONE」「N-BOX」に続くModulo Xシリーズの第3弾となるステップワゴンは、スポーティグレードのSPADAがベースだ。これまでのシリーズと同様に、生産工場内で各種専用パーツを装着したメーカー純正のコンプリートカーである。搭載エンジンはベースと同スペックの1.5 リッターのVTECターボ(150PS/20.7kgm)で、トランスミッションはCVT(7速マニュアルシフトモード/パドルシフター付き)。駆動方式は2WD(FF)のみの設定で4輪駆動のリアルタイムAWDの用意はない。

 ステップワゴン Modulo Xは走行性能に特段のこだわりをもって開発された。足下では、約15mmの専用ローダウンサスペンション(Modulo X専用設定)と専用デザインの17インチアルミホイールを装着。これにより、標準モデルのしなやかさと、ベースモデルであるSPADAが持つ正確なハンドリング性能をさらに昇華させたという。ちなみに履いていたスタッドレスタイヤはブリヂストン「ブリザック VRX」(205/55 R17)で、おろし立てから数百kmを走行し、ちょうど皮むきが終わった段階だった。

 外観ではそれぞれに専用のデザインが施された、フロントグリル/フロントビームライト/LEDフォグライト/リアエンブレムを装着しているものの、これまでのModulo Xシリーズ同様に、“いかにも装着しました”感たっぷりのリプレイスパーツではなく、本来のボディラインを活かしつつ押し出しの強さを狙った「地味派手」さをセールスポイントにする。ボディカラーは取材した「ホワイトオーキッド・パール」のほか、「プレミアムスパークルブラック・パール」と「プレミアムスパイスパープル・パール」の全3色をとりそろえた。

2016年10月に発売されたコンプリートモデル「ステップワゴン Modulo X」。その性能を雪上で試してみた。ボディサイズは4760×1695×1825mm(全長×全幅×全高)。価格は366万5000円
パワートレーンは直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴ターボエンジンにCVT(パドルシフト付き)の組み合わせ。最高出力110kW(150PS)/5500rpm、最大トルク203Nm(20.7kgm)/1600-5000rpmを発生する
試乗車に装着されていたのはブリヂストン「ブリザック VRX」(205/55 R17)
ステップワゴン Modulo Xでは専用のフロントエアロバンパーや大開口グリル、エンジンアンダーカバー、リアディフューザーなどを装備して空力性能を高めるとともに、専用サスペンションによって操縦性も高めるなど、コンプリートカーならではの装備が与えられる

 今回は敢えてコンプリートカーで雪道を求めたのだが、これには理由がある。筆者はミニバンやステーションワゴン好きの1人であり、現にステーションワゴンのオーナーでもあるが、こうした最低地上高を下げるローダウンサスペンションは、多人数乗車による極端で偏った荷重変化を発生させる要因があり、また長距離走行を行なう機会の多いミニバン/ステーションワゴンに装着することには少なからず抵抗があったからだ。また、これは単なるイメージから来るものではなく、古くは編集部員時代から現在に至るまで、ミニバン/ステーションワゴンのローダウンサスペンションについて各方面に取材を行なっており、時に開発陣と一緒にダンパーのオリフィスやバルブ違いによる乗り味の検証なども経験してきた。

 そうしたことから、ローダウンとひとくちに言っても走行性能と快適性能を両立させるには高い技術力が必要であると筆者なりに理解しているつもりだ。加えて、ご存じのようにスプリング(バネ)にしても、押しバネや引きバネの自由長やバネ定数、線径の太さなど開発テストを行なわなければならない項目は多い。いずれにしろ、開発には多大なる時間とコストが掛かる。

 確かに、ローダウンサスペンションによって重心点が下がるため、とくに初期ロールが抑えられる(厳密には突っ張った感覚が強まる)ことから一定の速度域までは安定したコーナリング特性が得られることがある。また、何よりもグッと低く構えた姿勢は理屈を抜きにカッコイイ。加えてステップワゴン Modulo Xに至っては地味派手な専用パーツを纏っていることもあって、ベースモデルとはひと味違う所有欲がそそられる。これは魅力だ。しかし、単にローダウン化しただけでは弊害も出る。分かりやすく表現すれば、スプリングのみのローダウン化(自由長の短縮)だけではコーナリング特性を決めるもう1つの要素である「車体のロールセンター」もローダウンしたなりに下がってしまい、結果、初期のロールが大きくなってしまうことがある。

 ステップワゴン Modulo Xでは、専用のサスペンション(ダンパーは純正形状のまま)を装着している。つまり、短くなったスプリング長に合わせてダンパーの減衰特性もしっかりと見直しがなされているのだ。こう書くと思わず「いやいや、市販されている純正形状のローダウンサスキットはすべてそうした見直しがされているでしょ!」とツッコミを入れたくなるのではないかと思う。市販のローダウンサスキットは、スプリング長を短縮し、それに合わせてバネレートを高めつつダンパーの減衰特性を調整しているが、前述したミニバンやステーションワゴンなど極端に荷重が変化する車両でのセッティングはかなり難易度が高い。

 故に走行シーンを特定したり、目指した特性を大きく明示したりするローダウンサスキットが多いのは、開発プロセスの短縮やセッティングのピンポイント化がその大きな理由だ。その点、ステップワゴン Modulo Xでは多岐にわたる開発テストをメーカーのテストコースで、メーカーのテストドライバーが純正基準と同じ目線でしっかりと行なっている。つまり、ミニバンの使用想定シーンではすべてにおいて走行テストを行ない、その結果をセッティングに活かしているわけで、今回のように降雪地帯でも当然、走行テストを行なっている。

 筆者が行なった走行テストはすべてスタッドレスタイヤでの走行であったので、こうした重心点とロールセンターの低下を考慮した専用サスペンションとベースモデルの違いについて、標準タイヤ(サマータイヤ)を履かせた上での同一条件での比較はできなかったが、少なくとも過去に試乗したステップワゴンの標準モデルやSPADA(17インチタイヤ×SPADA専用サスペンション装着車)との3車比較では、40~50km/h程度までの市街地で多用する速度域では初期のわりと大きなロールが抑えられていることを体感することができた。過去のレポートにもあるように、ベースモデルで筆者が課題としていた一定速度以上でのステアリング操作、つまり気持ち早目のステアリング操作に対する急激なロールの発生が大きく抑えられていた点は大いに評価したい。言い換えれば、タイヤのグリップ力をじんわり引き出せる特性への進化といえよう。

 ただし、スタッドレスタイヤとのマッチングでは条件がつく。スタッドレスタイヤは性格上、一般的にサイドウォールはサマータイヤよりもやわらかい傾向にあり、その意味ではステップワゴン Modulo Xの専用サスペンションの特性を活かすには、速度レンジが高くてサイドウォールやトレッド面の剛性が高められたスタッドレスタイヤがオススメだ。装着していたブリザック VRXは腰砕け感を抑えた走行特性を謳うものの、速度記号Qレンジ(160km/hまで許容)にとどまっていることから、たとえば190km/hまでを許容するTレンジのコンチネンタル「コンチ・バイキング・コンタクト6」などを装着(筆者は前モデルの「コンチ・バイキング・コンタクト5」と、Qレンジの「ブリザック REVO GZ」をそれぞれ購入し愛用)すれば、初期ロールがグッと抑えられ、その後もじんわりとしたロールにとどまる専用サスペンションとの相性は高いのではとの想像がつく。

ドライバーも後席に座る人も安心感の高さを感じられる

 肝心の雪道ではどうかというと、これが予想以上によかった。路面コンディションにも恵まれ、粉雪が踏み固められた圧雪路が主体であったこともあり、“じんわり、ゆっくり”の雪道ドライブにおける基本的な運転操作をしている限り気持ちのよいスノードライブが楽しめた。ひときわ安心感が高かったのは下り勾配路で、鋭角なカーブが続く山岳路では、車体のピッチングが抑えられていることが功を奏し、大げさになることなく必要とされる分だけの荷重移動を無意識に行なうことができたからだ。

 また、カーブに差し掛かった際も、重心点の低下とロールセンターの適正化によって一気にロールが始まる印象が薄らいでいるため(ベースモデルは前輪が後輪よりもロールしやすいようなロールセンター高に設定)、路面の状態(例:摩擦係数)を探りながらステアリング操作量を増やしていくなど雪道ならではの運転スタイルに合わせやすい。ちなみに、こうした安心感は3列目シートに座っていても実感できた。加減速のたびに前や後に身体が大きくもっていかれたり、ステアリングの操作ごとに左右方向へとグラッっとフラついたりすることがないので、クルマ酔いしやすいお子さんを座らせる際も気負うことがない。この点は、現行のステップワゴンユーザーであれば、その違いはディーラーで試乗を行なっただけでも実感いただけると思う。

 そうしたなか、唯一残念だったのがシート地だ。全座席におごられたコンビシート(プライムスムース×ソフトウィーブ/Modulo Xロゴ入り)は、見た目にシックで手触りは上質と、まさに言うことなしなのだが、いかんせんシート地が滑りやすく身体のホールド性がわるい。前後方向へは適正な乗車姿勢を保ったままであっても、ちょっとした加減速(0.1~0.15G前後/市街地で多用する加減速度)でお尻が前へとズレてしまう。

 これにより、運転席では長時間運転しているとアクセルペダルを踏む右足の踵位置が定まらず、右足の腸骨と大腿骨を接合する大腿骨頭付近の筋肉にストレスが掛かり、1時間を過ぎるころには大殿筋あたりが痛くなってきてしまった。しかしこれは、シート形状がわるさをしているというよりも、単にシート地の摩擦係数が極端に低いことに起因することのようだから、ちょっとした変更で対処可能だろう。

インテリアでは専用のブラックコンビシート(プライムスムース×ソフトウィーブ)をはじめ、ディンプルレザーとスムースレザーを組み合わせたステアリング、オープニング画面に「Modulo X」の文字が表示される9インチプレミアムインターナビなどが与えられる

 価格は366万5000円と、ベースのSPADAから67万5000万円ほど高くなる。がしかし、紹介した専用サスペンションに加え、エクステリアやインテリアの専用アイテム、さらには9インチプレミアムインターナビ(Gathers製)、ドライブレコーダー(ナビ連動タイプ。ナビ画面上で各種操作や映像確認ができる!)、ETC2.0車載器(ナビ連動タイプ)など本来であればメーカーオプションやディーラーオプションとなる便利で快適な装備が標準装備となるため、これらの装備を後から望むよりは割安だ。さらにメーカーのコンプリートカーとあって新車保証も充実しているのでその点もありがたい。もちろん、先進安全技術である「Honda SENSING」も標準で装備する。

 さて、スタッドレスタイヤを装着したステップワゴン Modulo Xの走行テストと、一風変わったレポートであったが、地道な開発テストの繰り返しによって完成した成熟した足まわりや、Modulo Xシリーズが目指したファッション性、さらにはベースモデルと変わらない高い実用性の融合点が発見できるなど収穫の多い取材となった。

 ないものねだりだが、4WDの設定があればさらにいい。優秀なトラクションコントロール機能と車両挙動を安定させる「VSA」、さらには最新のスタッドレスタイヤの組み合わせは雪道でも心強いが、筆者のようなスキーを趣味にするドライバーには、意図しない登坂路での停止&発進のことを考慮して保険の意味で4WDが欲しくなる。もっとも、これは贅沢な悩みだが……。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員

Photo:高橋 学