試乗インプレッション

マツダがEV市場に本格参入。「CX-30」のベールを被ったプロトタイプEVに乗った

ロータリーエンジンを使ったレンジエクステンダー、PHEVの計画も

マツダも2020年からEVを発売

 マツダがEV(電気自動車)市場へ本格的に参入する。各自動車メーカーがEVシフトを表明する裏には、世界動向がある。

 欧州ではCO2排出量目標値95g/kmを2020年1月より発行。中国では新エネルギー車(NEV)規制を2019年より開始。米国では一部の州でZEV(Zero Emission Vehicle)規制を導入するほか、規制見直しに向けた新たな動向がある。日本では2050年までに乗用車の温室効果ガス9割削減を目指す長期ビジョンが公表されている。

 このような状況から、マツダも2020年よりいよいよEVを発売する。そこでEV先進国のノルウェー(オスロ)で開催されたプロトタイプEVの海外試乗会に出席してきたのでレポートしよう。この試乗会は「MAZDA Global Tech Forum 2019」と呼ばれるものだ。

 まず、試乗会場となったノルウェーだが、電力のほとんどを水力発電でまかなう超環境国。日本では屋久島が水力ですべてまかなっているように、その環境が重要。起伏の激しい土地に発電に適した河川が多い。水力で得た電力をスウェーデンやデンマークなどに輸出しているほどなのだ。水力発電には流入式、貯水式、揚水式とある。余談になるが、とくに揚水式は電力が豊富にある夜間などに水を上方に汲み上げておき、必要な時に水を流して発電する方式。いわばバッテリーのように電力を貯めておくのと同じ効果がある。しかもほぼ原料要らずで、自然な立地環境を利用することもできる。

超環境国・ノルウェーで行なわれた「MAZDA Global Tech Forum 2019」。CX-30ベースのプロトタイプEVに試乗した

 では、EVに必要なバッテリーについて考えてみよう。クルマに揚水発電などできるはずもないので、バッテリーに電気を充電して走らなくてはならない。そのバッテリーを製造し、使い果たして廃棄するまでの、ライフサイクル全体でのCO2はどうなのか? つまり資源採掘から製造、そして廃棄までのプロセスだ。この中でマツダはバッテリー(リチウムイオン)の大きさについて、どれくらいの大きさがライフサイクルでのCO2排出量が少ないのかについて検討。バッテリー寿命を16万kmと試算した結果、小さいバッテリーにメリットがあると判断し、今回搭載される35.5kWhという容量を採用することとなった。いわゆる航続距離を延ばすために大きなバッテリーを採用することは、このライフサイクル面で環境負荷が大きいということなのだ。ということは、35.5kWhというこのバッテリーサイズでどれだけ航続距離を延ばせるかがキーとなる。

 では、プロトタイプEVのスペックを紹介しよう。駆動用バッテリーはリチウムイオン電池で角型セルを採用。総電圧は355Vでバッテリー容量は前記したように35.5kWh。1モーターで駆動と発電の両方を行ない、モーターの最高出力は105kW、最大トルクは265Nmだ。ボディは「CX-30」のものだが、プラットフォームは電動化を見据えた新開発。CX-30の外板はフェイクで、実車のデザインはまったく違ったものになるという。セダンなのかSUVなのか。それすらまだ内緒とのこと。

モーター、インバーター、DCDCコンバーターなどを一体化することで小型化に成功するとともに、バッテリーパックと車体を強固に結合して車体剛性を向上させたという
リチウムイオン電池の容量は35.5kWh。モーターの最高出力は105kW、最大トルクは265Nm。DC充電はCHAdeMO規格に対応

 なにやらとても秘密めいているEVだが、その新開発となるプラットフォームの骨格カットモデルが展示されていた。サスペンション形式は「MAZDA 3」やCX-30を踏襲しているそうだが、EV化によるセンタートンネルの廃止によって真っ直ぐなクロスメンバーを追加。また、バッテリーパックを床下に吊り下げ、そのものも剛性強化に貢献しているという。「多方向環状構造ボディ」と呼ばれるEV専用プラットフォームは、内燃機関車用のプラットフォームよりも頑丈そうな仕上がりだ。

実用範囲の心地よい加速感

 では試乗レポートだ。試乗コースはオスロ市街からクルマで30分ほどの郊外にある大きなGjersjoen湖を周遊し、その湖水が注がれるBunnefjorden湾を通るルート。湖の海抜は40mとそれほど高くないが、高低差が適度にあり、テクニカルなワインディングが続く。ルートには高速道路もあり、バラエティ豊かな走りが楽しめる。ワインディングの制限速度は80km/hだ。

今回試乗したCX-30のプロトタイプEVは前輪駆動モデル。サスペンション形式はフロント:マクファーソンストラット、リア:トーションビーム。タイヤサイズは215/55R18

 フェイクとはいえ、マットブラックに塗られたCX-30のプロトタイプEVはなかなかの存在感だ。シートもCX-30のモノなので、着座感もなかなかよい。Dレンジをセレクトしてアクセルを踏み込むと、とてもスムーズに走り出した。振動を伴わない出だしからのスムーズな加速感はさすがにEV。アクセル開度に応じて適度なトルクを発生させている。

 ある程度走行し、その加速フィールに慣れてきたところで急加速を試みる。しかし、その加速感はこれまでボクが経験してきたものとはかなり異なる。EVといえばアクセルを踏んだ瞬間から最大トルクを発生するように、頭部が背中ごと後ろに持っていかれるような瞬発系のパワーがどこかに隠れている。荒めのアクセル操作に反応してタイヤがキュッと音を立てたりするものだが、そういうことはない。50%以上のアクセル開度ではそれなりに加速は強まるが、エキセントリックではない。もちろん全開時はテンションが上がるが、あくまでも実用範囲。そこがもっとほしいという気持ちに駆られるが、あまりに加速感が人間的というかスッと体になじむ。遅く感じることもなく、とても心地のよい加速感なのだ。

 マツダによると「自らの筋肉のようにトルクをコントロールできる」とのことだが、まさにそんな感じでストレスがない。きっと必要以上にアクセルペダルに集中する必要がないからだろう。自らの足で歩いたり走ったりするように速度をコントロールできるのだ。今回のプロトタイプにはアクセルOFFでの回生ブレーキ(発電)はプログラムされているが、ブレーキを踏んだ時の協調回生は行なっていない。したがって、ブレーキはとても普通で感触がよかった。また、アクセルOFF時の回生ブレーキはそれほど強力ではなく、日産自動車の「ノート e-Power」や「リーフ」のようにワンペダルのような積極性はない。回生レベルについては、本田技研工業の「クラリティ PHEV」のようにドライバーが自らパドルで選択するようなシステムも検討中とのことだ。

 さて、自分の筋肉のようにトルクをコントロールできる加速感に酔いしれながら、それ以上に強烈な印象を残したのがサスペンション。ドイツ フランクフルトでの試乗でCX-30のハンドリング&サスペンションに感心したばかりだったが、今回のプロトタイプEVのそれはCX-30をはるかに凌駕している。新プラットフォームとはいえ、サスペンションのシステムはCX-30と同じ。

 なにがスゴイかというと、そのストローク感だ。高級セダンのようにスムーズに動き、しかもハンドリングも思い通りのラインに乗せることがいとも簡単というか、普通にできる。ND ロードスターの時にもこんな感覚を覚えたような気がするが、とにかくサスペンションのストローク初期がとてもスムーズで、ロールしても恐怖感がなく、ロールをあるところから強制的にバンプラバーなどで止める感がなく、いつのまにかロールを止めてコーナリングしているのだ。S字などの切り返しで遅れることもまったくない。さらにCX-30同様に室内静粛性が高い。

 また、重いバッテリーをフロア下に吊るしているのだが、フロアのセンタートンネルがないのでクロスメンバーをストレートに通すことができ、これが剛性に貢献しているようだ。さらに、バッテリーパックそのものを吊るす数か所の接合部はリジットで、これも剛性アップにひと役買っている。さらにバッテリー本体が振動を吸収する構造なので、これがボディ全体の2次振動を抑えるいわばマスダンパーのような効果を出しているのだそうだ。

 最後に、今回は試乗できなかったが、展示カットモデルにはレンジエクステンダー用のロータリーエンジンが搭載されていた。このロータリーは1ローターで、まったくの新開発とのこと。マツダではピュアEVと、このロータリーエンジンを使ったレンジエクステンダー、そして同じロータリーエンジンを使って発電機を大きくし、代わりにバッテリー容量を小さくしたPHEV(プラグインハイブリッド)も計画しているとのこと。

 最近、CO2削減でよく言われる「WELL TO WHEEL」(油井から車輪まで)だけに留まらず、バッテリーの資源採掘から廃棄までをも考慮した環境への思いやり。内燃機関の「SKYACTIV-X」だけでなく、一般的に環境適合車とみられるEVにまで深い環境コントロールを唱えるマツダのポリシーに共感する。

ロータリーエンジンを使ったレンジエクステンダーも計画中

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在64歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

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