試乗レポート

キャデラック、新型セダン「CT5」新しいプラットフォームの出来栄えは

この価格帯でここまでやるか

 21世紀に入る頃からキャデラックはブランドの再構築を図り、業績面でもV字以上の回復を果たすなど大きな成功を収めてきた。その原動力の1つとなった「CTS」の後継となるラグジュアリーセダンの「CT5」は、キャデラックブランドの伝統とドライバーズカーを作るためのノウハウを結集して開発された気鋭のニューモデルだ。

 グレードは2つで「プラチナム」が560万円、今回試乗した「スポーツ」が620万円という価格がとてもリーズナブルに感じられることが、以下でお伝えする内容からもご理解いただけるかと思う。

 エッジの効いた彫刻的なフォルムをはじめ、メッシュグリルや四隅に配されたLEDバーティカルライトなどが、遠目にもすぐにキャデラックとわかる存在感をアピールしている。「CTS」時代と比べてサイドビューの稜線がワンモーションに近づいたせいか、より流麗さと伸びやかさを増したように目に映る。

試乗車のボディカラーは「セーブルブラック」、このほかに「クリスタルホワイトトゥリコート」「ウェーブメタリック」「シャドーメタリック」「インフラレッドティントコート」の全5色が設定されている
ボディサイズは4925×1895×1445mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2935mm、車両重量は「スポーツ」グレードが1760kg(「プラチナム」グレードは1680kg)。先代モデルとなる「CTS」のボディサイズは4970×1840×1465mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2910mmなので、若干サイズアップしている

 キャデラックらしいクラフトマンシップを感じさせるインテリアには、これまたキャデラックの側面の1つであるハイテク装備が満載されている。10インチのタッチスクリーンにロータリーコントローラーやハードボタンを組み合わせたインターフェースは、誰でもより直感的かつスムーズに操作できるよう配慮されていることもうかがえる。

 前後席のレッグルームの広さは同セグメントでトップクラスを誇るだけでなく、シートにはベンチレーションやヒーターに加えてマッサージ機能まで付いている。エアコンには空気清浄機能を備え、音源の制御とアクティブノイズキャンセレーション技術により静粛性と心地よいサウンドを実現するなど、この価格帯でここまでやるかと思わずにいられないほどの快適装備の充実ぶりにも驚かされる。

内装はウィスパーベージュ/ジェットブラックアクセントにレッドステッチが施される。パネル類はブラック&グレイウィーブカーボンファイバーとなっている
スポーツグレードではリムの太い専用スポーツステアリングホイールとマグネシウム合金製パドルスイッチが装備される
ステアリングの奥には12インチのデジタルメーターディスプレイを搭載。さまざまな数値が映し出される。さらに、カラーヘッドアップディスプレイも標準装備している
ダッシュボード中央には10インチの高精細大型タッチディスプレイを搭載。直接タッチして操作ができるほか、ステアリングにあるホイールスイッチや、センターコンソールのロータリーコントローラーでも操作できる
15スピーカーのBose Performance Seriesサラウンドサウンドシステムも標準装備する
運転席には、警告灯とともにシートクッションに内蔵されたバイブレーターの振動でドライバーに危険を伝えるキャデラックが特許を持つ機構「セーフティアラートシート」を搭載
リアシートバックレストは60:40の分割可倒式で、ラゲージスペースとつなげることで長い荷物も搭載できる

走りに関わるものも凝っている

搭載する直列4気筒 2.0リッターエンジンは最高出力177kW(240PS)/5000rpm、最大トルク350Nm/1500-4000rpmを発生。

 デザインや装備ともども走りに関わる諸々もなかなか凝っていて興味深い。基本骨格はさらなる軽量化と剛性向上を図った最新の「アルファアーキテクチャー」と呼ぶプラットフォームに、「350T」というモデル名のとおり350Nmの最大トルクを発生する新設計の 2.0リッター直列4気筒ターボエンジンを搭載し、10速ATを組み合わせる。

 ターボチャージャーにも高性能モデルでは一般的ながら量販モデルではなかなかない“ツインスクロール”を採用している点にも驚いた。その甲斐もあって低回転域でターボラグのない俊敏なスロットルレスポンスを実現している上、リッター当たり120PSを誇るだけあって中間加速もかなり力強く、トップエンドまで伸びやかに吹け上がる。

 この動力性能を現状で世にある量販車で最多段となる10速に刻まれたATがシームレスにつないで巧みに引き出してくれる。10速に入ることは日本の交通事情下ではなかなかないが、80km/h台半ばから任意で入れることができる。

 アクティブノイズキャンセレーションによりラグジュアリーカーらしく車内の静粛性が高く保たれているのも美点。低負荷時に2気筒を休止するシステムも、メーター上の表示を確認しなければ、いつ切り替わったのかまったく分からないほどスムーズだ。

現代的なドライブフィール

 試乗したスポーツグレードはインテリジェントAWDを搭載し、245/40R19サイズのランフラットタイヤを履く。足まわりはキャデラックお得意のマグネティックライドは装備していないが、不快な挙動を抑えながらもよく動くZF MVSパッシブダンパーがしなやかに路面の凹凸を吸収し、振動を瞬時に収束させる。俊敏な回頭性を誇るハンドリングの一体感も心地よく、ドライブフィールはいたって現代的だ。

試乗した「スポーツ」グレードは245/40R19サイズのタイヤを履くが、プラチナムグレードは245/45R18となる
自分の好みに味付けができる「Myモード」では、ステアリングの応答性、ブレーキフィーリング、エンジン音などを調整できる

 ドライブモードは、「ツアー」「スポーツ」「スノー/アイス」「Myモード」の選択が可能で、シフトスケジュール、ステアリング&ブレーキフィール、前後トルク配分、エキゾーストサウンドのカスタマイズが可能。コルベットとともにMyモードが設定されたのがCT5の特徴で、ブレーキペダルを踏むトルクとスピードでアクチュエーターの反応速度を変えることにより、ブレーキフィールまでも感度の強弱を変更できる点もユニークなポイントだ。

ツアーモードでは前後40:60、スポーツモードでは前後20:80、アイス&スノーモードでは前後50:50の割合で駆動力が配分されるようになっている

 さらには先進運転支援系の装備についても、まぎれもなく世界最先端を行くブランドの1つに数えられるほど充実しており、基本的な機能はもちろん、サイドブラインドゾーンアラートやリア歩行者検知なども含め20以上もの機能を搭載している。シートを振動させて危険が迫っていることを伝える独自の機構も分かりやすくてよい。

 数年前にデトロイトや上海に行ったときには、キャデラックが非常に多く走っていることが印象的だった。左ハンドルのみの設定であることは日本ではハンデになることだろうが、クルマ自体は非常に見どころ満載だ。しかもお伝えしたとおりコストパフォーマンスにも優れる。このクラスの魅力的なセダンを探している人に、ぜひ目を向けてほしい1台である。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一