試乗レポート

新型「ノート AUTECH クロスオーバー」試乗 25mmの車高アップで走りはどう変わった?

ノート AUTECH クロスオーバーがデビュー

 日産車をベースにカスタマイズしたコンプリートモデルには、NISMO(ニスモ)とAUTECH(オーテック)という2つのスポーティサブブランドがある。NISMOはSUPER GTなどでも活躍する日産のワークススポーツチームで、そこから生まれるコンプリートモデルはリアルモータースポーツをベースに開発されたピュアスポーツモデルという位置付けになる。

 これに対し、AUTECHは多品種少量生産による日産直系のファクトリーカスタムのパイオニアだ。つまりクラフトマンシップ、匠の技、創造力、プレミアムスポーティをモットーとする技術集団なのである。

 実は筆者、以前AUTECHモデルに試乗して感動したモデルがある。オーテックジャパン創立30周年記念モデルとして、2016年に30台限定発売された「マーチ」をベースにした「マーチ ボレロ A30」だ。あのマーチがここまでプレミアムカーになるのか!? 本当にこれはマーチなのか? と驚いてしまったことを今でも鮮明に記憶している。ほかにも最近「セレナ AUTECH」を借り出してプチ長期試乗。ベースモデルに比べてモーターパワーのレスポンスが大きくアップしていて、サスペンションもスポーティ。インテリアの質感も高く、乗り心地もまとまっていた。コンプリートモデルとしても完成度には疑いの余地がない。

マーチ ボレロ A30と筆者

 さて、今回はそのオーテックからリリースされた「ノート AUTECH クロスオーバー」を試乗してきた。試乗会場は追浜にある日産のテストコース・グランドライブだ。低・中・高速コーナーあり、コーナリングりしながらのアップダウンあり、アンギュレーションを施した路面、そして長い直線を持つというオールマイティなテストコースだ。

 ノート AUTECH クロスオーバーはいわゆる車高を高くしたSUV系モデルではあるが、ほとんどのオーナーは9割以上舗装路を走るはず。このようなテストコースでどのような走りをするのかが重要になる。

 まずエクステリアだが、フロントグリルに「AUTECH CROSSOVER」のエンブレムがあしらわれ、ワイドフェンダーのモールディングが前後に。さらに専用のサイドシルプロテクターとルーフモールディングが取り付けられる。また、すべてのAUTECHバージョンに取り付けられるメタル調フィニッシュのドアミラー、バンパー左右のブルー・イルミネーション・LEDランプ。インテリアではブルーのステッチが施されたステアリング、専用シート、ドアアームレスト、コンソールといったところがこのモデルにも与えられる。

今回試乗したのはノートをSUVスタイルに仕立てた「ノート AUTECH クロスオーバー」。2WD、4WDともにe-POWERモデルで、価格は前者が253万7700円、後者が279万6200円。ボディサイズは4045×1700×1545mm、ホイールベースは2580mm
ノート AUTECH クロスオーバーではベース車から車高を25mmアップさせるとともに、ワイドフェンダーのモールディング、サイドシルプロテクター、ルーフモールディング、大径タイヤ&タフさをイメージさせる専用16インチアルミホイールなどを装備。タイヤはブリヂストン「エコピア EP150」(195/60R16)
ノート AUTECH クロスオーバーのエンジン&モーターはベース車に順じ、直列3気筒DOHC 1.2リッター「HR12DE」型エンジンと「EM47」型モーターの組み合わせ。エンジンの最高出力は60kW(82PS)/6000rpm、最大トルクは103Nm(10.5kgfm)/4800rpm。モーターはフロント用の「EM47」型が最高出力85kW(116PS)/2900-10341rpm、最大トルク280Nm(28.6kgfm)/0-2900rpm、リア用(4WD)の「MM48」型が最高出力50kW(68PS)/4775-10024rpm、最大トルク100Nm(10.2kgfm)/0-4775rpm

 ステッチにも使われるこのブルーは、AUTECHのメインカラーでもあるAUTECHブルー、別名“湘南ブルー”と呼ばれるもの。これまでのAUTECHブランド販売で実に50%以上、中には60%以上が指定している超人気カラーで、茅ケ崎(神奈川県)の空の色をイメージしたものだそうだ。とはいうものの、ノート AUTECH クロスオーバーにはモノトーンで6色、ツートーンで2色のボディカラーがラインアップされている。

インテリアではブルーステッチ入りのレザーシート、レザーステアリングなどがノート AUTECH クロスオーバー専用装備となる

特に4WDがおすすめ

 ではその車両概要だが、メインとなるのがSUVらしい車高アップだ。オーテックではこれまでもSUV化バージョンを手掛けてきたが、車高アップというカスタムは行なっていない。その理由は車高ダウンよりもはるかにハードルが高いからで、車高ダウンも車高アップも、その車高幅以上にロールセンターが動いてしまうのだ。

 車高ダウンの場合はダウン幅以上にロールセンターが下がり、車高アップではアップ幅以上にロールセンターが上がってしまう。ロールセンターは車体重心との距離によってテコの原理でモーメントを発生する。下げた場合は距離が長くなるのでモーメントは大きくなるが、上げた場合は距離が縮まるのでモーメントが小さくなる。つまりロール剛性が上がり、スプリングを硬くしたのと同じような効果が出る。しかし車体重心そのものも上がっているのでフラつきやすく、そこにモーメントが小さくなっていることから不安定になりがちなのだ。

 ノート AUTECH クロスオーバーは、ベースのノートに対して実質25mmの車高アップを行なっている。この車高アップの内訳は、タイヤの大径化による+5mmとサスペンションの車高アップ+20mmの計25mmだ。これだけでも外見はSUVらしいワイルドさがにじみ出てカッコいい。

左がノート AUTECH、右がノート AUTECH クロスオーバー。車高が違うのは一目瞭然

 走行前にサスペンションを覗いてみた。気になっていたのは+20mmによるフロントサスペンション・ロアアームの角度だ。今回、車高を上げるためのアタッチメントなどは使わずそのまま上げたとのことなので、ハの字型に垂れ下がってはいないか心配になったのだ。

 覗いて驚いたのはロアアームは完全に平行だったこと。垂れ下がると突き上げのモーメントでハーシュが強くなるし、バンプ(縮む)に従ってトレッド変化も大きくなる。オンロードをメインにするならば、厳密にはロアアームはイニシャル(止まった状態)で平行が望ましい。つまり、ベース車両のノートは若干逆ハの字型であることが想像されるが、20mmというのはロアアームの角度ではそれほど大きなものではないらしい。

 そこでリヤは? というと、同じように+25mm上がっているのだが、フロントがストラット式なのに対してリアは左右輪が繋がったトーションビーム式。トーションビーム式の場合、ロールセンターは車高分しか変化しない。なのでノート AUTECH クロスオーバーの場合、前後のロールセンターを結んだロール軸が若干前上がりなのだ。つまりフロントのモーメントが少し少ない。

トーションビーム式のリアサスペンション

 まぁとりあえず走り出そう。直進性がしっかりとしている。さらにステアリングを切り始めてからのセルフアライニングトルク(ステアリングの重さ)がリニアに重くなる。EPS(電動パワステ)のプログラムをかなり煮詰めたという。

 そしてコーナリング。素早いステアリングワークでは少しだけタイヤが潰れる位相感を感じるが、普通に切る分にはまったく素直な応答。そして予想以上によく曲がり込む。ロール軸が若干前上がりになっていることからもっとアンダー系を予想していたが。切り足しでは逆によく曲がり込む。かといってリアは落ち着いているのに。

 実はフロントスプリングは10%剛性アップしているのに対して、リアは35%(4WDは40%)のアップ。さらにフロントダンパーにはリバウンドスプリングが内蔵されているのだ。つまり、よりフロントに荷重が載るようにして、車高アップによるリバウンドストローク(伸び側)の減少をカバーしている。

 詳しくいうと、コーナリングでフロント外側サスペンションがバンプした時に内側の伸びを抑制して接地グリップを確保しているのだ。だからフロントの舵がよく効く。車高を上げながらもこのハンドリングバランスが素晴らしい。また、4WDモデルはベースの4WDシステム(前後トルク配分コントロール)をそのまま継承しているので、完全なフルタイム電動4WD。スラロームなどではより積極的にハンドリングを楽しめる。乗り心地もかなりよく、特に4WDはおすすめだ。

 車高が上がったことで雪道などの轍も苦にならず、4WDは降雪地帯でかなり実用性も高い。が、都市部ではFFバージョンで十分だ。繊細に作り込まれたノート AUTECH クロスオーバー。個人的にはやはり湘南ブルーがよく似合う。

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーデットドライバー。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。現在66歳だが自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。高齢になっても運転を続けるための「安全運転寿命を延ばすレッスン」(小学館)の著書がある。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。BOSCH認定CDRアナリスト。僧侶

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Photo:安田 剛