試乗レポート

スズキ「クロスビー」の安全装備がレベルアップ もっとアクティブに遠出したくなるクルマになった!

車内広々、充実装備でスズキならではのクロスオーバーモデル

 コンパクトSUVにワゴンという要素をプラスした、スズキらしい工夫いっぱいのクロスオーバーモデル「クロスビー」が登場したのは2017年12月。それまでのコンパクトSUVにありがちだった、「デザインや運転しやすさはいいけど、後席や荷室はちょっと狭い」という不満をクリアしつつ、5ナンバー規格いっぱいまで達しない小さめのボディサイズを実現。SUVではジムニーやエスクードという名車を生み出し、ワゴンではワゴンRをはじめスペーシアやソリオでノウハウを蓄積しているスズキだからこそ生まれたモデルだと言える。デザインにはハスラーを思わせるキャッチーな親しみやすさがあり、いろんな理由で軽自動車では物足りない人、軽自動車からステップアップしたい人が選びやすいモデルとなっているのがクロスビーだ。

 そんなクロスビーがマイナーチェンジを受け、ボディカラーの一新やグレード構成の見直し、時代に合わせた安全装備のレベルアップが図られた。全車速追従機能付きACCや夜間の歩行者も検知するデュアルカメラブレーキサポートが追加されたのは、今や新型軽自動車のワゴンRスマイルでも設定されているので驚かないが、注目はスズキ初となる車線維持支援機能が追加されたということ。思えばクロスビー登場時は、後退時のブレーキサポートをスズキの小型車として初搭載したり、全方位モニターに3Dビューを採用したり、運転に不慣れなビギナーの安心感や、街中での“うっかりミス”を防ぐような装備が充実していた印象だった。価格が手頃なため、当初は若い世代のユーザーを想定していたところ、思いのほか子離れ世代やダウンサイザーなど幅広い層からの需要があり、ACCをはじめとする高速道路での安全運転支援を求める声が高まっていたのではないかと考えられる。

 また外観では、ライオンのたてがみをイメージしたという「ラッシュイエローメタリック」など、もともと凝ったカラーが多いのが特徴だったが、今回さらに3トーン、2トーン、モノトーンと合わせて13タイプが揃い、新色も加わって選ぶのが悩ましいほどのラインアップとなった。インテリアはブラックがベースにはなるものの、インパネのカラーパネルやシートのアクセントカラーが変わるパターンもあり、上質感が増すブラックインテリアパッケージも用意。遊び心はあるけど実用性もしっかり備えるインテリア、といった印象だ。

クロスビー HYBRID MZ(4WD)。ボディカラーは「ラッシュイエローメタリック ホワイト2トーンルーフ」の2トーンルーフ仕様車で、価格は225万1700円。ボディサイズは3760×1670×1705mmで、ホイールベースは2435mm、最低地上高は180mmを確保
外観は特徴的な丸いヘッドライトや“蜂の巣”のようなハニカムデザインのフロントグリル、丸みを帯びたフォントで大きめなサイズのリアエンブレムなど、細かいところまで凝ったデザイン。足下は16インチのアルミホイールに175/60R16サイズのブリヂストン「ECOPIA EP150」を組み合わせる
車両前方のカメラやセンサーで安全運転を支援する「スズキ セーフティ サポート」は、スズキ初となる車線中央付近の走行維持をサポートする車線維持支援機能のほか、全車速追従機能付きアダプティブクルーズコントロール、夜間の歩行者も検知するデュアルカメラブレーキサポートなどを採用して安全性を向上
インパネ中央の“道具感”のあるシルバー加飾が目を引くインテリア。4WDモデルでは加飾部分にグリップコントロールやヒルディセントコントロール、スポーツ/スノーの走行モードを切り替えられるスイッチが配置される
右側のステアリングスポークには運転支援機能のスイッチを設定。車線維持支援機能のスイッチはスポークから独立した位置に。また、各種運転支援機能のON/OFFスイッチをステアリング右奥にまとめて配置する

 室内に入ってみると、あらためてその実力の高さを実感するのが、やはり後席。全長3760mm、全幅1670mm、全高1705mmのクロスビーを上まわるボディサイズとなる、ヤリスクロス、CX-30、C-HRやヴェゼルといった人気コンパクトSUVと比べても、その広さや快適性はクロスビーがNo.1ではないだろうか。後席に165mmのスライドとリクライニング機構があり、頭上も足下もゆったり広々。背もたれを倒してラクな姿勢が取れるので、眠る時にもリラックスできるのが嬉しい。

サイドにアイボリーのアクセントが入り、ハニカムデザインが施されているシート表皮は撥水加工がされている。おなじみの助手席シートアンダーボックスの下にはリチウムイオン電池を搭載
165mmのシートスライドやリクライニング機構を備え、足下にもゆったりとした広さを備える後席

 ただ、ガッカリした点もある。クロスビーは5人乗りで、後席は3名がけとなるにもかかわらず、ヘッドレストが2名分しか装備されない。これはデビュー当初から指摘していたことだが、改良されなかったのは残念なところ。また後席は5:5分割可倒式なので、大きな荷物を積むために片方を倒すと、6:4分割であれば2名まで乗車できるところを、クロスビーは1名しか乗車できないというのも弱点の1つだ。

 ラゲッジは、容量だけ見ると後席が最前端の状態で203L、床下のアンダーボックスが81L(2WD車の場合)で合計284Lと小さめ。一般的なコンパクトカーで300L以上はあるため、比べるとあまり荷物が積めないのかなと思われがちだが、荷室幅は1305mm、高さ800mm、奥行き525mm(後席使用時)のスペースがある。フロアボードを上げてアンダーボックスを使えば、ベビーカーが縦に積めるなど、容量よりも使いやすさを重視した印象だ。撥水加工のシートや防汚タイプのラゲッジフロアも用意されているので、濡れた荷物なども気にせず積めるのが便利。子育て中や愛犬とのドライブにもありがたい機能となっている。

HYBRID MZのラゲッジは後席背面とラフロアに汚れを拭き取りやすい素材を採用する防汚タイプとなる

数々の安全装備に加え、新たに追加された車線維持支援機能の使用感は?

 さて、パワートレーンに変更はなく、99PS/150Nmを発揮するガソリンの1.0リッター 3気筒直噴ターボ+ISG(モーター機能付き発電機)のマイルドハイブリッドと、6速ATの組み合わせ。市街地では発進加速も十分にパワフルで、アクセルペダルを踏み込む感覚とエンジン回転の上がり方、そして加速フィールにリニアな一体感があって爽快なのは、デビュー当初と変わらない。今回はなだらかな山道を軽快に走ったあと、安全運転支援装備を試すべく、早々に高速道路へと向かった。ICを入って大きなカーブを駆け抜けていく時には、前後スタビライザーや専用チューニングのサスペンションによる適度なしなやかさ、安定感を実感。手応えが自然に伝わってくるステアフィールも健在だ。

パワートレーンは最高出力73kW(99PS)/5500rpm、最大トルク150Nm(15.3kgm)/1700-4000rpmを発生する直列3気筒DOHC 1.0リッター直噴ターボエンジンに、最高出力2.3kW(3.1PS)/1000rpm、最大トルク50Nm(5.1kgm)/100rpmを発生するモーターを組み合わせる「マイルドハイブリッド」を採用。トランスミッションは6速AT

 そして本線に合流し、流れにのったところで全車速追従機能付きACCをON。すぐに前走車を検知して追従走行が始まった。車間距離をキープしながらのアクセルワークは、とくに不自然に感じることもなく、減速時にも不安に感じるようなことはまったくなかった。ただスズキ初搭載となった車線維持支援機能を体験してみると、挙動は急激なものではないものの、極端に言えばビリヤードの玉のように、白線内を右に左にと振られてなかなか安定しないのが気になってしまった。これは、たまたま走行した区間が東名高速道路の裾野IC~足柄SAという、路面のうねりやアップダウンが大きい区間だったこともあるかもしれない。たとえば西湘バイパスや東京湾アクアラインのように、直線が長く続く区間であればそうした違和感は少ない可能性もある。いずれにせよ、作動している間は何かの拍子によそ見をしてしまったり、挙動を乱したりした時でも飛び出す危険性は最小限に抑えられるという安心感が高まるのは、とてもありがたい。また、クロスビーの軽快で気持ちのいい走りは、高速道路でも健在。この車線維持支援機能が装備されたことで、これまでは市街地メインで走っていた人や、高速道路に不慣れな人でも、リラックスして高速域でのクルージングが楽しめるようになるのではないだろうか。そして「ACCがついていないから」と購入候補に挙がらなかった人たちにも、がぜん魅力的な候補となるはずだ。

 クロスビーはコンパクトカーとして街中のアシ的な一面と、荷物をたくさん積みたい人のワゴン的な一面、さらにSUVとして180mmの最低地上高を確保している頼もしい一面がバランスよく融合した、希少なクロスオーバーだ。普段は街乗りでの扱いやすさを享受しつつ、休日には海へ山へとアクティブに出かけたいカップルやディンクス。1人で気ままに車中泊をしながら旅したいシングル。遊び盛りの子供と出かけるママカーとしてもぴったりだし、もちろん4人家族までならファミリーカーとしても十分に使える実力の持ち主。そこにロングドライブの安心感が加わった新生クロスビーは、ライバルたちと真っ向勝負するコンパクトSUVとして、新たな土俵に上がったのだと実感したのだった。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Zなど。 現在は新型のスバル・レヴォーグとメルセデス・ベンツVクラス。

Photo:安田 剛